不動産取引マナー(司法書士向け)


私は、24歳で司法書士になりました(現在44歳ですので業界歴20年以上です。)。

当時の私は若く、頼りなく見られて、沢山の方に、沢山のお叱りを受けてきました。お叱りを受けるたびに、そういう考え方もあるのだなと、立ち会い方法を改善させてきました。

 

最近、売主と買主を別々の司法書士が担当する「わかれ」の取引が多くなり、わかれの先生のお仕事ぶりを拝見していて

「そんな事してたらリスクあるのに」

「怒られる・・・。あーほらー」

という場面に出くわすことが増えました。

 


そこで、次のような趣旨でこのコラムを書いていきます。

  1. 同業者である司法書士が、依頼者に叱られるのを見たくない。
  2. 司法書士によって不動産取引立会いの方法が異なるのは問題である。
  3. 出来ていないのは、法人事務所の新人や、登記官から認可を受けた司法書士に多いので、各事務所の立ち会いマニュアルの更新に役立てて欲しい。

なお、コラム内では便宜上、

売主側を担当する司法書士を売主担当、

買主側を担当する司法書士を買主担当

と記載しています。

売主買主担当に共通


決済は、正確さとスピードが命!

●雑談は実行をかけてからにしましょう。

●登記手続依頼書などという必要のない書類を融資実行前に長々説明するのは止めましょう。

皆の時間を無駄にしています。

印鑑証明書との照合は、委任状で!

●印鑑証明書との照合は、印鑑証明書の添付を要求されている申請の委任状で行なって下さい。

それ以外の書類で行なわない。全くの無駄だから。

 

●照合は、次の二つの趣旨で行なっています。

①依頼者が押印したのは、本当に実印か?

②印鑑が綺麗に押せていて、登記官の審査を通るか?

よって、同じ依頼者の印鑑が押された複数の委任状がある場合には②の趣旨で全て照合する必要があります。

また、依頼者の面前でキッチリ照合するのに抵抗があるときには、②の趣旨をお伝えになれば納得してもらえます。

依頼者が選んだのは「あなた」です。

空き時間があったとしても、その場で、相手方の司法書士に法律相談をするのは、やめましょう。

お客様にアレレ?と思われてしまうほか、あなたを紹介した仲介不動産会社の顔を潰してしまいます。

依頼者が選んだのは「わたし」です。

その場で、相手方司法書士の依頼者に営業するのは、やめましょう。

私か依頼者がすぐ止めるでしょうけれど。

本職が不動産取引に立ち会いましょう。

Q.決済日前に司法書士が売却意思・本人確認を完了している場合、売主担当司法書士は不動産取引に立ち会わないで良いのでしょうか?

A.上記のような場合でも立ち会う必要があります。売主担当は「事前に本人確認・意思確認が終わっていたとしても」実行をかける時点において、売主本人に契約意思がある旨(もっと言うと売主が死亡していない旨)を、買主(側司法書士)に対して、保証する必要があるからです。

忙しくて本職が立ち会いできない場合には、復代理人司法書士を選任すれば大丈夫です。なお、双方代理が認められている不動産登記申請においては、売主担当が買主担当に、買主担当が売主担当に、依頼することも可能だと思料します。

売主担当のとき


●買主担当が作成した登記申請書に押印するときは、良く見てから押しましょう。

∵別の物件、別の当事者の書類に押印するリスクがあります。

  

●抹消書類全部を買主担当に渡すのは、着金確認後にしましょう。

 

●売主様の印鑑証明書は、原本つけきりでお願いします。

∵法人の印鑑証明書は添付省略することが出来るようになりました。しかし、印鑑証明書を取得した後に改印がなされていた場合には、移転登記が実行できなくなります。

印鑑証明書の添付省略を認める司法書士の言い分は「印鑑証明書の原本を登記完了まで預かったうえ、万一改印されていた場合には、手元に置いていた印鑑証明書を添付すれば、登記は通る筈」というものです。

しかし、登記官の中には「印鑑証明書取得後に改印された場合には、司法書士が手元にある印鑑証明書を追完したとしても、改印した経緯や売主法人の真意を確認する可能性がある。」と言う方もいます。それに対して、売主法人が「真正な登記申請意思が無かったため、旧の実印を押印した」旨の陳述を行なった場合にも、本当に登記は完了するのでしょうか?

単なる登記事務処理上の問題と、取引の安全性の問題は全く別問題です。このような疑義が生じた時点で、取引の安全性が損なわれているのです。不動産登記法が改正されて法人の印鑑証明書を添付省略できるようになったとしても、取引の安全を守るのは司法書士です。司法書士は、取引の安全を可能な限り100%に近づけなければなりません。

また、イレギュラーな対応をするためには想定外の事態を全て予測できないといけません。しかし「事実は小説よりも奇なり」という言葉もあるとおり、想定外の事態は起こるものです。したがって、できるだけイレギュラーな対応は避けるのが、司法書士として正しい考え方です。

さらに、司法書士であるということ以外に何も知らない別の司法書士と連帯して責任取らされる(訴えられる)なんてことは、まっぴら御免です。

 

 

●書類は全部揃ってからまとめて全部を買主担当に渡すのではなく、権利書が揃ったら権利書、委任状に押印が終われば委任状と印鑑証明書など一枚ずつでも良いのでドンドン渡しましょう。

全部揃ってから渡すよりも、買主担当のチェック時間が減り決済自体が早く終わります。

 

●管轄法務局が近くにあるのに、わざわざ遠方の事務所まで帰って物件を打ち込むのはやめましょう。タイムラグを出来るだけ無くすという司法書士の仕事の意味をわかっていますか?

 

●登記識別情報があるときには、売主担当が封筒を用意しましょう。

買主担当のとき


●銀行に融資の実行をかけるときには、『自店発信&大至急扱いで』と声をかけましょう。

 

●実行後、机上に書類を放置して、室外で長電話するのはやめましょう。

書類無くなりますよ。

もっと細かいこと


印鑑

●お客様の印鑑は大切に扱いましょう。

 

●印鑑を朱肉の縁にあててカチャカチャ音を鳴らすなど、印鑑で音をたてるのは論外です。

 

●印鑑を机や朱肉の蓋に立てて置くのはやめましょう。

 

●印鑑を拭くときは、依頼者に『判子拭かせていただきますね』と声をかけてから。

ご本人確認書類

●裏を向けて机上に置きましょう。

登記費用

●依頼者からいただいた登記費用は、机上の見えるところでカウントしましょう。

見えないところで数えた場合には足らなくても、隠したと思われるとトラブルになります。

 

●もし足りないときにも依頼者の責任とは限りません。

出金した銀行がミスをしていることもありますので、やんわりとお伝えください。