自己株式取得(特定株主から買取)の手続と注意点


会社がその株主から自社株を買い取ることを自己株式取得といいます。

 

その方法は、大きく分けて2通りあります。すなわち「総株主を対象に広く呼び掛ける方法」と「特定の株主をターゲットにして呼び掛ける(他の株主にも売渡す機会は与える)方法」です。

 

この記事では、「特定の株主をターゲットにして呼び掛ける(他の株主にも売渡す機会は与える)方法」について、ご説明します。

もくじ
  1. 「総株主から買取」と「特定株主から買取」との違い
  2. 手続の流れ(特定株主から取得する場合)
  3. 人気の関連ページ

「総株主から買取」と「特定株主から買取」との違い


 

総株主から買取

(ミニ公開買付)

特定の株主から買取

条文

会社法第156~159条

会社法第160条

会社法施行規則第28条、第29条

株主への売主追加請求権の通知 不要 必要(会160Ⅱ)
株主総会の承認 普通決議(会156、309Ⅱ②)

特別決議(会156、309Ⅱ②)

特定株主には議決権なし(会160Ⅳ)

株主への取締役会決定事項の通知 総株主に対して必要(会158) 特定株主にのみ必要(会160Ⅴ)

手続の流れ(特定の株主から取得する場合)


「総株主から取得する場合」と比べて、相当複雑です。

ご相談

最寄りの当グループ各事務所にご相談ください。

貴社であれば、どのような方法で自己株式を取得すれば良いかアドバイスいたします。

取締役会

自己株式取得計画(株主総会に提出する議案)や株主総会招集などについて決議いただきます。

(会社→株主)売主追加請求の通知

売主となっていない株主に対して「売主に自己を加えたものを株主総会の議案にすることを請求できる」旨を通知します(会160Ⅱ)。

  売主追加請求の通知
原則 必要
上場企業が市場価格以下で取得する場合(会161) 不要
相続人その他一般承継人から取得する場合(会162) 不要(ただし更なる例外あり)
定款に「売主追加請求権がない」旨の定めがある場合(会163) 不要
子会社から取得する場合(会164) 不要

いつ通知すれば良いか、そのタイミングは次のとおりです(会規28)。

  通知すべき時(タイミング)
原則 株主総会の2週間前
株主総会招集通知の発送時期が総会の1~2週間前であるとき 株主総会招集通知を発送すべき時
株主総会招集通知の発送時期が総会の1週間未満前であるとき 株主総会の1週間前
株主全員の同意で招集手続なく開催する(会300)とき 株主総会の1週間前

株主総会招集通知

(売主となっていない株主→会社)売主追加請求

売主となっていない株主は、会社に対して「売主に自己を加えたものを株主総会の議案にすること」を請求できます(会160Ⅲ)。

いつまでに請求すれば良いか、そのタイミングは次のとおりです(会規29)。

  請求すべき時(タイミング)
原則 株主総会の5日前
定款で5日前より下回る期間を定めた場合 定款で定めた日前
株主総会招集通知の発送時期が総会の1~2週間前であるとき 株主総会の3日前(ただし、定款で5日前より下回る期間を定めた場合には、定款で定めた日前)
株主総会招集通知の発送時期が総会の1週間未満前であるとき
株主全員の同意で招集手続なく開催する(会300)とき

定款に「売主追加請求権を与えない」旨の規定があれば、通知は不要です(会164)。

株主総会(特別決議)

株主総会で、下記事項の承認を得ます(会160Ⅰ→156Ⅰ)。

  1. 取得する株式の数
  2. 株式取得と引換えに株主に交付する金銭等の内容及びその総額【1】
  3. 株式を取得できる期間(1年以内)
  4. 通知をする株主(特定株主)

特定株主は、この株主総会において議決権を行使することができません(会160Ⅳ)。

また、特定株主が子会社である(子会社からの取得の)場合には、この株主総会承認決議は不要です(会163)

 

【1】自己株式取得には財源規制があります。詳細はこちら「自己株式取得の財源規制(会社が株主から自社株を買い取るときの規制)」をご参照ください。

 

株主総会決議を経ずに自己株式を取得した場合の効果

  • 自己株式の取得は私法上無効(最判昭和43.9.5判時536.77)。
  • 株主全員の同意で有効になることもある(大阪高判H25.9.20判時2219.126)。
  • 関与取締役等には5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課されます(会963Ⅴ①:会社財産を危うくする罪)。

取締役会

取得の都度、次の事項を決定します(会157)。

  1. 取得する株式数
  2. 株式1株取得と引換えに株主に交付する金銭等の内容、数又は算定方法
  3. 株式取得と引換えに株主に交付する金銭等の総額
  4. 株式譲渡しの申込期日【1】

【1】申込期日には次の二つの意味があります。

  • 株主が会社に対して、株式譲渡の申込をする期限です。
  • 株主が会社に対して自己株式の譲渡の申込をしたときに株式譲渡が成立する日(会159Ⅱ)

会社から特定株主に対する通知・公告

会社から特定株主に対して、取締役会決議内容を通知します(会158Ⅰ、160Ⅴ)。

公開会社の場合には、通知の代わりに公告でも良いです(会158Ⅱ)。

株主から会社に対する株式譲渡の申込

会社への自己株式の譲渡を希望する特定株主は、株式会社に対して「譲渡する株式の種類及び数」を通知して申し込みします(会159Ⅰ)。

会社から株主に対する株式譲渡の承諾

会社は、株主から申込を受けた(自己)株式の譲り受けを承諾したものとみなされます(会159Ⅱ)。

株主からの譲渡申込が募集した株式数を超過する場合には(定款に排除規定がない限り)按分して買い受けることになります(会159Ⅱ)

会社から株主に対する株式代金の支払い

(株券発行会社であれば)株主から会社に株券の交付、会社が株券を廃棄処分

株主名簿の名義書換

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