生命保険の相続手続・税金・遺言執行


このページは、当司法書士事務所グループに就職した新人向けに作成した説明書を、一般に公開したものです。

生命保険は、とてもややこしいです。一般の方はここまで知らなくても大丈夫ですが、できるだけ分りやすく説明します。

もくじ
  1. 生命保険の用語
  2. 生命保険に関する判例の考え方
  3. 生命保険の相続手続が必要な場合
    1. 被保険者が死亡した場合ー遺言執行との関係
    2. 保険契約者が死亡した場合
    3. 受取人が死亡した場合
    4. 受取人が死亡し、受取人変更前に、被保険者も死亡した場合

1.生命保険の用語


用語 意味
保険契約者 生命保険会社と契約した個人・法人のこと

 

保険料負担者

      

保険契約を結んだ人が保険料を負担するのが通常ですが、場合によっては、保険契約者以外の人が保険料を負担していることもあります。
被保険者 保険を掛けられている人。被保険者が死亡すると死亡保険金が支払われる。
受取人 死亡保険金を受け取る権利がある人のこと。
保険者 生命保険会社のこと。
保険金 保険事故が発生したときに(生命保険であれば、被保険者が死亡したときに)、保険会社から支払われるお金のこと。
保険料 保険会社へ支払うお金のこと。

2.生命保険に関する判例の考え方


⑴ 生命保険金は、被相続人の遺した相続財産ではなく、受取人の固有財産である。

大審院判決昭和6年2月20日

保険契約により保険金額受取人として指定された者の有する権利は、同人固有の権利であってこれに基づき保険者より受領した金銭は同人固有の財産である。

生命保険金が受取人の固有財産ならば、被相続人が全財産を生命保険にしていた場合、一円も貰えなかった相続人は、受取人に遺留分減殺請求出来ないのではないか?という問題

遺留分は、相続人に最低限保障された相続財産に対する「取り分」の割合で、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子、直系尊属)であれば認められます。詳しくはこちら「遺留分侵害額請求」をご参照ください。

⑵ 相続財産に占める生命保険金の割合が大きすぎるときは、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

最判平成16年10月29日

被相続人を保険契約者及び被保険者とし、共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は、民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが、保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率、保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して、保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、特別受益に準じて持戻しの対象となる。

3.生命保険について相続手続が必要な場合


次の3通りです。

⑴ 被保険者の死亡

⑵ 保険契約者の死亡

⑶ 受取人の死亡

以下、パターンに分けて詳しく解説します。 

4.被保険者が死亡した場合


保険金が支払われます。

保険契約者

保険料負担者

被保険者 保険金受取人

被保険者が死亡した場合

遺産分割協議要否

遺言執行

可否

対象となる税金
保険金請求権はいったん被相続人に帰属し、相続財産として相続人に承継される(通説)

可?

「みなし相続財産」【1】として相続税の対象
保険金請求権はいったん被相続人に帰属し、相続財産として相続人に承継される(通説) 可? 「みなし相続財産」【1】として相続税の対象
遺産分割の対象とならない(大判S11.5.13) 不可 「みなし相続財産」【1】として相続税の対象
抽象的に「相続人」と指定

遺産分割の対象とならない(最判S40.2.2【2】、最決H16.10.29)

相続分割合に従って帰属する(最判H6.7.18【3】)

不可 「みなし相続財産」【1】として相続税の対象

指定なし

保険約款に「指定ないときは、被保険者の相続人に支払う」規定あり

相続人を受取人に指定したこととなる(最判S48.6.29)

上と同様

不可 「みなし相続財産」【1】として相続税の対象

指定なし

保険約款に規定なし

受取人を相続人とする説(多数説)→

VS

受取人を被相続人と解釈する説→

不可

 

「みなし相続財産」【1】として相続税の対象

  不可 所得税(払込保険料は経費)
  不可 贈与税
法人 従業員 従業員の遺族   不可 所得税

【1】受取人が受け取った生命保険金は、受取人の固有財産であって、相続財産ではないので、本来であれば相続税の対象外である筈ですが、かような生命保険金を「相続財産みなし」て相続税を課税する旨の税法上の規定があります。

【2】最高裁昭和40年2月2日判決(以下の要旨はWestlawJapan)

◆養老保険契約において被保険者死亡の場合の保険金受取人が単に「被保険者死亡の場合はその相続人」と指定されたときは、特段の事情のないかぎり、右契約は、被保険者死亡の時における相続人たるべき者を受取人として特に指定したいわゆる「他人のための保険契約」と解するのが相当である。

◆前項の場合には、当該保険金請求権は、保険契約の効力発生と同時に、右相続人たるべき者の固有財産となり、被保険者の遺産より離脱しているものと解すべきである。

【3】最高裁判決平成6年7月18日

保険契約において保険契約者が死亡保険金の受取人を被保険者の「相続人」と指定した場合は、特段の事情がない限り、右指定には相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれ、各保険金受取人の有する権利の割合は相続分の割合になる。

遺言執行との関係

生命保険は相続財産ではありませんので、遺言執行者が選任されている場合であっても、遺言執行者が生命保険手続を行うことはありません。

遺言書で受取人が変更されている場合には、その変更手続は遺言執行者の業務になることがあり得ます。

5.保険契約者が死亡した場合


上記のうち、保険契約者≠被保険者で、「保険契約者」が死亡した場合

被相続人が他の人に掛けていた生命保険=保険金が支払われる保険事故ではない。

いわゆる「生命保険契約に関する権利」として、相続税の課税対象財産となります。

生命保険契約に関する権利の相続は、実際に保険金が支払われるわけではなく保険契約の名義が変わるだけです。

⑴ 保険契約者と保険料負担者が同じとき

保険契約者

保険料負担者

被保険者 保険金受取人

保険契約者が死亡した場合

遺産分割協議要否

遺言執行の可否 対象となる税金
甲      乙  被保険者が死亡したわけではないので、契約者の相続人全員の共有財産として保険契約は継続します。 可   

相続税法上は、解約返戻金相当額が相続財産として評価されます。死亡保険金のような相続税法上の非課税制度の適用はありません。

相続人が生命保険契約を相続したうえで、継続するか、解約することを決めます。

 

⑵ 保険契約者と保険料負担者が異なるとき

  死亡した方=被相続人 税法上 民法上
保険料負担者=保険契約者 保険料負担者=保険契約者 (本来の)相続財産

・死亡日時点の解約返戻金相当額で評価する。

・死亡保険金に対する相続税の非課税枠を使えない【1】

・本来の相続財産なので、誰が相続するかは遺言や遺産分割協議で決定する。
保険料負担者≠保険契約者【いわゆる名義保険】 保険料負担者 みなし相続財産

・死亡日時点の解約返戻金相当額で評価する。

・死亡保険金に対する相続税の非課税枠を使えない【1】

・保険契約者の固有財産

・遺産分割協議の対象外

・保険料負担は、保険契約者に戻る【2】

保険契約者 本来の相続財産

課税関係は生じない【3】

・(保険料負担者は別なので、只の契約者の地位は)本来の相続財産なので、誰が相続するかは遺言や遺産分割協議で決定する。

【1】死亡保険金に対する相続税の「500万円×相続人の数」の非課税枠は、保険会社から死亡保険金が支払われた場合に使うことができるものです。

よって、生命保険契約に関する権利を相続しても、その金額に対して「500万円×相続人の数」の非課税枠を使うことはできません。

【2】国税庁HP(契約者が取得したものとみなされた生命保険契約に関する権利)3-35 

法第3条第1項第3号の規定により、保険契約者が相続又は遺贈によって取得したものとみなされた部分の生命保険契約に関する権利は、そのみなされた時以後は当該契約者が自ら保険料を負担したものと同様に取り扱うものとする。

【3】国税庁HP(被保険者でない保険契約者が死亡した場合)3-36 

被保険者でない保険契約者が死亡した場合における生命保険契約に関する権利についての取扱いは、次に掲げるところによるものとする(昭57直資2-177改正)

(1) その者が当該契約(一定期間内に保険事故が発生しなかった場合においては、返還金その他これに準ずるものの支払がない生命保険契約を除く。以下(2)において同じ。)による保険料を負担している場合(法第3条第1項第3号の規定により、相続又は遺贈によって保険契約に関する権利を取得したものとみなされる場合を含む。)には、当該契約に関する権利は、相続人その他の者が相続又は遺贈により取得する財産となること。

(2) その者が保険料を負担していない場合(法第3条第1項第3号の規定により、相続又は遺贈によって保険契約に関する権利を取得したものとみなされる場合を除く。)には、課税しないものとする。

6.受取人が死亡した場合


被保険者が死亡する前(保険事故が発生する前)に、受取人が死亡した場合は次のとおりです。

 

⑴ 相続手続は必要ない。

生命保険は、

被保険者の死亡によって、受取人が保険金を取得するものであって、

被保険者が死亡するまでは、保険契約者の財産です。

よって、受取人が死亡しても、権利関係にはなんら変更ありません。

⑵ 課税関係は生じない。

権利関係には何等変更ありませんので、当然課税されません。

●国税庁HP(保険金受取人が死亡した場合の課税関係)3-34 

保険金受取人が死亡した時において、まだ保険事故が発生していない生命保険契約で当該保険金受取人が保険契約者でなく、かつ、保険料の負担者でないものについては、当該保険金受取人の死亡した時においては課税関係は生じないものとする。(昭46直審(資)6、昭57直資2 -177改正)

⑶ 保険契約者は、受取人の変更手続を要する。

契約者は、保険事故が発生するまで(被保険者が死亡するまで)は、保険者に対する意思表示により、受取人を変更できる(保険法43)

ただし、死亡保険契約の受取人変更は、被保険者の同意がなければ効力が生じない(保険法45)

保険法施行日(平成22年4月1日)以降に契約した保険契約の契約者は、受取人の変更を遺言ですることも可能です(保険法44Ⅰ)。 

平成22年4月1日(保険法施行日)以降に契約した保険

契約者が、遺言書で受取人変更することができる(保険法44Ⅰ)。

平成22年4月1日(保険法施行日)以前に契約した保険

契約者が、遺言書で受取人変更できない。

∵保険法の適用について定めた保険法付則2条は、保険法が「施行日以後に締結された保険契約に適用」される旨定めている。

∵付則4条(例外的に遡及適用する保険法の条項)は保険法44条は遡及適用されない旨を定めている。

 

保険法施行前は、遺言で受取人を変更できるかについて学説上の争いがありました。

もし、保険会社が保険法施行日以前の保険契約について遺言による受取人変更を認めてくれるとしたら、それは保険会社の好意だと思った方が良いかもしれません。

遺言の効力発生と同時に変更の効力は生ずるが、通知が保険会社への対抗要件。(保険法44Ⅱ)

遺言執行者は保険金の受取人の変更通知を保険会社にし、通知が保険者に到達したときは、発したときに遡って効力発生する(保険法43Ⅲ)

元の受取人が、遺言で変更された受取人よりも先に生命保険を受け取ってしまうと、遺言で変更された受取人は保険金を受け取ることができません。∵保険会社は、遺言の存在を知りません。

保険金受取人の変更は、遺言でなさるのではなく、終活の一環として、あなたご自身がご存命中にお手続きされることをお勧めいたします。

7.受取人が死亡し、受取人変更手続前に、被保険者も死亡した場合


⑴ 誰が受け取ることができるか?

受取人が死亡し、受取人の変更をする前に、被保険者も死亡した場合、受取人の相続人のうち生きている人が受け取ります。

保険法第46条(保険金受取人の死亡)

保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる。

⑵ 受け取る割合

受取人の相続人は、均等の割合で分けることになります。各保険金受取人の権利の割合は、民法427条の規定の適用により、平等の割合によるものと解すべきである(最判H5.9.7)。相続ですが、法定相続分でないことに注意が必要です。

民法427条(分割債権)

数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

司法書士の報酬・費用


業務の種類 司法書士の報酬 実費
保険契約の相続、変更手続きの代行 55,000円(税込)/契約 郵送費

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