医療法人を設立する際、正式名称に「社団」「財団」は必要なのか?!


医療法人の登記を手掛けていると、医療法人の名称には次の二つのパターンがあることに気づきます。

  1. 「医療法人『社団』〇〇会」などと「社団」「財団」の別も登記されているパターン
  2. 「医療法人□□会」などと「社団」「財団」の別が登記されておらず、一見「社団」なのか「財団」なのか、わからないパターン

どちらが正しいのでしょうか?!

  • 設立時期によって、名称に違いが生じているのか?!
  • 現在でも、「社団」「財団」の別を名称に入れても、又は名称に入れなくても医療法人の設立登記は受理されるのか?!

ふと疑問に思ったので、徹底的に調べてみました。

医療法人の名称に関する規制


病院名に関する規制

医療法第3条

 

疾病の治療(助産を含む。)をなす場所であつて、病院又は診療所でないものは、これに病院、病院分院、産院、療養所、診療所、診察所、医院その他病院又は診療所に紛らわしい名称を附けてはならない。
2  診療所は、これに病院、病院分院、産院その他病院に紛らわしい名称を附けてはならない。
助産所でないものは、これに助産所その他助産師がその業務を行う場所に紛らわしい名称を付けてはならない。
医療法第4条
地域医療支援病院でないものは、これに地域医療支援病院又はこれに紛らわしい名称を付けてはならない。
医療法第4条の2
特定機能病院でないものは、これに特定機能病院又はこれに紛らわしい名称を付けてはならない。
医療法4条の3
臨床研究中核病院でないものは、これに臨床研究中核病院又はこれに紛らわしい名称を称してはならない。

法人名に関する規制

医療法第39条

 

病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2  前項の規定による法人は、医療法人と称する。
医療法第40条
  医療法人でない者は、その名称中に、医療法人という文字を用いてはならない。
医療法第94条
  第40条(略)の規定に違反した者は、これを10万円以下の過料に処する。

医療法施行令、医療法施行規則にも、これら以外に名称に関する規制はない。

医療法人にも適用される組合等登記令にも規制はない。

「医療法人には、その名称中に医療法人という文字を用いなければならない。」という規制すらないことがわかります。

医療法人以外の法人に対する名称使用の規制を見てみましょう。

他の法律との比較

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第5条

 

一般社団法人又は一般財団法人は、その種類に従い、その名称中に一般社団法人又は一般財団法人という文字を用いなければならない。
2  一般社団法人は、その名称中に、一般財団法人であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
3  一般財団法人は、その名称中に、一般社団法人であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第6条
  一般社団法人又は一般財団法人でない者は、その名称又は商号中に、一般社団法人又は一般財団法人であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第344条
第5条第2項の規定に違反して、一般財団法人であると誤認されるおそれのある文字をその名称中に用いた者
第5条第3項の規定に違反して、一般社団法人であると誤認されるおそれのある文字をその名称中に用いた者
第6条の規定に違反して、一般社団法人又は一般財団法人であると誤認されるおそれのある文字をその名称又は商号中に用いた者

一般社団法人・一般財団法人では、「一般社団法人」「一般財団法人」という区別も含め、法人の種類を名乗るよう規制されています。

反対に、こういった規制のない医療法人は「医療法人」と名乗ることすら強制されていないことが分かります。

結論(その1)

  1. 医療法人でないものが「医療法人」を名乗ってはいけない以外、法律上特段の規制はない。
  2. 医療法人が「医療法人」を名乗る必要も法律上はない。
  3. 法務局は「医療法人」との文字がなくとも、単に「医療法人」でも、「医療法人社団」や「医療法人財団」でも、行政の認可があれば、登記せざるをえない。

では「医療法人」と名乗らなくて良いのか?!


  • 名称中に「医療法人」という法人種別を付ける義務がないことから、単に「〇〇会」といった名称のみでは、医療法人であることが分かりにくいため「社団医療法人〇〇会」「財団医療法人〇〇会」というように、医療法人の種別を付けている法人が多く見受けられます(Q&A法人登記の実務医療法人(第2版)/山中正登著/日本加除出版/82頁)。
  • さらに言えば「医療法人」という名称を用いなくてもいいのです。通常は「医療法人」という名称は用い、各自治体の方でもそのように指導しています(医療法人設立なるほどQ&A第3版/東日本税理士法人編/中央経済社/21頁)。

各自治体の指導

医療法人の設立には、行政の認可が必要です。

どうやら各行政によって指導内容が異なり、それに従って「医療法人『社団』〇〇会」になるか、単に「医療法人〇〇会」になるかが決まっているようです。

  • 社団や財団まで明記するように求める自治体(東京都・兵庫県など)
  • 社団・財団を表記しない自治体(大阪府など)
東京都「医療法人設立の手引き」(令和元年6月版)
 

4 医療法人の名称

(1) 「医療法人社団」「医療法人財団」は必ず表記してください。

(2) 誇大な名称は避けてください。

(例)○○クラブ、○○研究会、○○グループ、セントラル、○○センター、第一○○、優良○○

(3) 国名、都道府県名、区名及び市町村名を用いないでください。

(4) 既存の医療法人(都内、他県の隣接地域にあるものを含む。)の名称と、同一又は紛らわしい表記は避けてください。

 

大阪府「医療法人設立認可申請Q&A」
 

Q)医療法人の名称について、制約はありますか。

A)特に制限はありませんが、厚生労働省の定款例では「医療法人○○会」と例示されています。

公の機関と誤解を招いたり、営利法人と紛らわしい、公序良俗に反している等の名称は望ましくありません。

また、同一市区町村内で同一名称の法人名は原則認められません。

大阪府「医療法人設立認可申請提出書類」中の「定款(社団医療法人)作成例」

 

「原則作成例通りご作成ください」と注記の上

(名 称)

第1条 本社団は、医療法人大阪会と称する。

兵庫県「医療法人設立認可申請手引(一人医師医療法人)」令和2年4月改訂版
 

本手引添付の定款例により作成ください。

定款例より変更する箇所がある場合は、理由書を添付してください。

(定款例)

第1条 本社団は、医療法人社団 神戸内科医院 と称する。

認可された以上、登記も受理されます。

結論(その2)

  • どの自治体でも「医療法人」という文字を使うように指導される。
  • 「社団」「財団」までを登記するかは、各自治体の指導に任せれば問題ない。

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