任意後見の流れ(任意後見契約締結~任意後見監督人選任申し立て~任意後見終了)


❶任意後見契約の締結~任意後見監督人選任(任意後見の開始)~任意後見終了までの流れ

❷各時点における注意点

について、法律に詳しくない一般の方でも、分かりやすいようにご説明します。

もくじ
  1. 信頼関係を作りましょう。 
  2. 任意後見契約
  3. 公証人が職権で法務局に登記申請
  4. (任意後見契約解除〔監督人選任前〕)
  5. (法定後見申立)
  6. (見守り契約による見守り)
  7. (財産管理契約による財産管理)
  8. 認知症などによる判断能力の低下
  9. 任意後見監督人選任申立
  10. 家庭裁判所による調査
  11. 任意後見監督人の選任審判
  12. 任意後見契約の発効
  13. 任意後見登記の変更登記
  14. 任意後見人は、一定期間ごとに任意後見監督人に報告します。
  15. (任意後見監督人の選任〔監督人不存在、監督人追加選任〕)
  16. (任意後見人の解任〔監督人選任後〕)
  17. (任意後見契約の解除〔監督人選任後〕)
  18. (法定後見開始の申立て)
  19. 任意後見の終了
  20. 管理の計算

()書き部分(番号でいうと、4~7、15~18です。)は、必ずしも必要ではない手続です。

信頼関係を作りましょう。


任意後見は、「見守り契約」から始まり「財産管理契約」を経て「任意後見契約の効力発生」まで、長い時間を一緒に過ごしていただくことになります。

長い時間を一緒に過ごすために必要なものは、ご本人と私たち司法書士との間の信頼関係です。

ですから・・・何度かお会いして、少し時間をかけてお話しして信頼関係を築きましょう。

ご面談では次のような情報をゆっくり・じっくりと教えていただきます。

  1. ご本人の契約締結能力の有無【1】
  2. 私たちと任意後見契約を締結する真意があるか否か【2】
  3. ご本人の財産の種類・額
  4. ご本人の今後の希望
  5. ご本人のご家族関係
  6. ご本人の社会資源(受けているサービス、人脈など)

ご本人の判断能力低下により、聞き取りが困難になりますので、最初にしっかりお伺いします。


【1】ご本人の判断能力は、大変重要です。後日、判断能力がないことを理由に任意後見契約の効力が否定されると、既にその時点では新たに任意後見契約を締結することは不可能でしょうから、ご本人にとっても大変な不利益となります。

【2】次のような事項について、ご説明しご理解いただきます。

  1. 判断能力が低下して初めて任意後見契約の効力が生じること
  2. 任意後見契約の効力が発生するためには、家庭裁判所への申し立てが必要であること
  3. 任意後見人とは別に任意後見監督人が選任され、別途任意後見監督人の報酬が発生すること。
  4. 任意後見人にできること・できないこと
    1. 任意後見人自身が介護や買い物をするわけではないこと
    2. 任意後見人自身が保証人・身元保証人にはなれないこと
    3. 任意後見人の権限は代理権目録に記載されたものに限定されること
    4. 任意後見人には代理権はあるが、ご本人の行為を取り消す権限がなく、消費者被害などに遭う場合には法定後見利用が必要であること。
    5. 任意後見人には医療同意権がないこと。

任意後見契約


どんな内容を司法書士にご依頼なさりたいのか、じっくりお話しをして契約書を作っていきます。

まだ元気だけれど、見守って欲しいという場合には『見守り契約』【3】を追加します。

足が不自由なので、今から銀行入出金をして欲しい場合には『財産管理契約』を追加します。

契約の内容が決まれば、公証役場で公正証書で契約を締結します。

 

〔任意後見契約の3つの形態〕

  • 移行型:「見守り契約+任意代理→判断能力の低下→任意後見契約発効」と移行する型
  • 即効型:直ちに「任意後見契約」を発効させる型
  • 将来型:「見守り契約→判断能力の低下→任意後見契約発効」と移行する型

 

〔任意後見契約を結ぶ当日の必要書類〕

  • ご本人:戸籍謄本、住民票、印鑑証明書、実印、不動産あるとき登記簿謄本(登記情報)【4】、公証人費用、司法書士費用
  • 司法書士:印鑑証明書、住民票、実印

【3】ご本人がご家族と暮らしている場合にも、最低限「見守り契約」をお願いしています。判断能力の低下が認められるにもかかわらず、任意後見監督人選任の申立をしないことによって、ご本人の財産が散逸した場合、任意後見契約受任者もその責任を追及される可能性があるからです。

【4】任意後見契約の内容によって必要になります。

公証人が職権で法務局に登記申請


公証人が登記申請を行ないます(「登記を嘱託する」といいますが、私たち個人や司法書士ではなく役所などが職権で登記してくれることを嘱託登記と言います。)。

登記される事項は次のとおりです(後見登記等に関する法律5条)。

  1. 任意後見契約の表示(公証人氏名・証書番号・作成年月日・登記年月日・登記番号)
  2. 任意後見契約の本人(氏名・生年月日・住所・本籍)
  3. 任意後見受任者(氏名・住所・代理権の範囲)
  4. 数人の任意後見人が共同して代理権を行使すべきことを定めたときは、その定め
また、登記と言っても、登記事項証明書を誰でも取られるわけではありません。

(任意後見契約の変更〔監督人選任前〕)


任意後見法には、任意後見契約の変更については規定がない。

後見登記法にも、ご本人・任意後見受任者の住所・氏名・本籍以外は、変更登記方法の記載がない(後見登記法7ⅠⅡ)

⇒ 既存の任意後見契約を解除したうえ、新たな任意後見契約を締結する。

(任意後見契約の解除〔監督人選任前〕)


本人又は任意後見受任者は、いつでも、公証人の認証を受けた書面によって、任意後見契約を解除することができる(任意後見契約法9Ⅰ)。

(法定後見申立)


法定後見開始申立てをして法定後見が開始したとしても、任意後見契約が締結されており、任意後見監督人が選任された場合には法定後見は終了します(任意後見契約に関する法律4条2項)

(見守り契約による見守り)


判断能力が低下していないことを確認するため定期的な電話連絡と訪問を確認させていただきます。

(財産管理契約による財産管理)


認知症などによる判断能力の低下


任意後見監督人選任申立て


管轄裁判所

ご本人の住民票上の住所を管轄する家庭裁判所です。

申立人

申し立てを出来る方には制限があり、本人・配偶者・4親等内の親族・任意後見受任者のみが申し立てできます(任意後見契約法4)。

ご本人以外が申立人となるとき 原則 ご本人の同意が必要(任意後見契約法4Ⅲ)
例外 ご本人が意思表示できないとき

申立書関係

次のような書類を作成します。

  1. 申立書
  2. 財産目録
  3. 収支予定表
  4. 本人に関する照会書
  5. 親族関係図

必要書類(申立書に添付する書類)

ご本人に関する書類

  1. 財産資料(不動産登記事項証明書、通帳、保険証券など)
  2. 本人情報シート
  3. 後見診断書(家事事件手続法219)
  4. 鑑定についてのお尋ね(診断書を作成した医師が作成)
  5. 任意後見契約公正証書写し
  6. 戸籍謄本
  7. 住民票
  8. 任意後見登記事項証明書
  9. 法定後見登記をされていないことの証明書
  10. ご本人のご家族の同意書

申立人に関する書類

  1. 戸籍謄本
  2. ×住民票は不要です。
  3. ×身分証明書は不要です。

任意後見受任者に関する書類

  1. ご本人に関する照会書
  2. 陳述書(任意後見受任者が欠格事由に該当していないことを誓約する。)

任意後見監督人候補者に関する書類

  1. 候補者を挙げても、通らないことも多いので、添付書類は付けても良いが、必須ではない。

申立取下げの制限

任意後見契約の効力を発生させるための任意後見監督人の選任及び任意後見監督人が欠けた場合における任意後見監督人の選任の申立ては、審判がされる前であっても、家庭裁判所の許可を得なければ、取り下げることができません(家事事件手続法221)。

家裁による調査


ご本人に対する調査

❶ ご本人が未成年のときには、任意後見監督人は選任されません(任意後見は開始しません)。(任意後見契約法4Ⅰ①)

❷ ご本人に法定後見が開始している場合で、法定後見の継続がご本人の利益のために特に必要であると認めるときには、任意後見監督人は選任されません(任意後見は開始しません)。(任意後見契約法4Ⅰ②)

❸ 申立てに関するご本人の意思確認(任意後見開始に対する同意)を行ないます(任意後見契約法4Ⅲ、家事事件手続法220Ⅰ①)。

原則:ご本人が家裁に出頭します。

例外:入院などにより外出困難なときは、家裁調査官が入院先を訪問してくれます。

任意後見契約受任者に対する調査

❶任意後見人としての適格性を調査します(家事事件手続法220Ⅲ)。

❷任意後見人が家裁に出頭します。

❸任意後見受任者が次に該当する場合には、任意後見は開始しません(任意後見契約法4Ⅰ③)

  1. 未成年者
  2. 家裁で免ぜられた法定代理人・保佐人・補助人
  3. 破産者
  4. 行方不明者
  5. 本人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
  6. 不正な行為、著しい不行跡その他任意後見人の任務に適しない事由がある者

ご本人のご家族に対する調査

申立のときに「ご本人のご家族の同意書」を添付していないときには、家裁が主に書面で調査を行ないます。

先行する法定後見がある場合の法定後見との調整

原則

任意後見監督人を選任し、法定後見を取り消す(任意後見契約法4Ⅱ)

∵任意後見優先の原則

例外

法定後見の継続が本人の利益のため特に必要であると認めるとき

☛任意後見監督人を選任せず、法定後見が継続します(任意後見契約法4Ⅰ②)

申立から平均2~3か月

任意後見監督人の選任審判


任意後見監督人を選任する審判

任意後見監督人に特別送達される(家事事件手続法74Ⅰ:同条では「相当と認める方法」と規定されているが効力発生日を明確にするため特別送達されるのが実務です。)。

本人・申立人・任意後見契約受任者には普通郵便で送付される(家事事件手続法222①、74Ⅰ)。

即時抗告はできず(家事事件手続法85.223)、任意後見監督人に対する送達により「任意後見監督人の選任」と「任意後見契約」が発効する(家事事件手続法74Ⅱ)。

任意後見監督人選任を却下する審判

申立人に送達される(家事事件手続法74Ⅲ)。

申立人は送達を受けてから2週間以内に即時抗告できる(家事事件手続法223①)。

即時抗告も棄却する決定は、告知と同時に確定する。

任意後見契約の発効


任意後見登記の変更登記


裁判所書記官が登記を嘱託します(家事事件手続法116①、別表第一111、家事事件手続規則77)。

登記される事項は次のとおりです(後見登記等に関する法律5条)。

  1. 任意後見契約の表示(公証人氏名・証書番号・作成年月日・登記年月日・登記番号)
  2. 任意後見契約の本人(氏名・生年月日・住所・本籍)
  3. 任意後見受任者(氏名・住所・代理権の範囲)
  4. 数人の任意後見人が共同して代理権を行使すべきことを定めたときは、その定め
  5. 任意後見監督人(氏名・住所・選任審判確定日)
  6. 数人の任意後見監督人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことが定められたときは、その定め

なお、任意後見が開始したときでも、戸籍には記載されません(家事事件手続法116①。家事事件手続規則76)

任意後見人は、一定期間ごとに任意後見監督人に報告します


法律上、報告時期についての定めはありません。

もっとも日本公証人連合会の任意後見契約書の書式では、任意後見人は、任意後見監督人に対して「3か月ごと」に書面で報告するので参考にして、報告時期を決めます。

(任意後見監督人の選任〔監督人不存在、監督人追加選任〕)


(任意後見人の解任〔監督人選任後〕)


任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他その任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の請求により、任意後見人を解任することができる(任意後見契約法8)。

「不正な行為」とは

違法な行為または社会的に非難されるべき行為を意味します。

ご本人の財産を私的に流用するなどの財産管理に関する不正がこれに当たるとされています。

「著しい不行跡」とは

品行が著しく悪い事を意味します。直接職務に関係しない行状の問題でも、それが著しく不適切であれば、任意後見人の適格性を欠くとされているのです。

「その他その任務に適しない事由があるとき」とは

権限濫用、管理失当(財産管理が不適切)、任務怠慢を指すとされています。

(上記3つの具体例は、弁護士井上元・同那須良太・同飛岡恵美子著「Q&A任意後見入門」民事法研究会・H25・98-99pを参照した)

(任意後見契約の解除〔監督人選任後〕)


本人又は任意後見人は、正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除することができます(任意後見契約法9Ⅱ)。

「正当事由」の例

  1. 任意後見人が疾病などにより事務を行なうことが事実上困難
  2. 本人又はその親族と任意後見人との間の信頼関係が損なわれた
  3. 任意後見人が職務を果たさないなどの債務不履行
  4. 本人の意思能力や真意を確認した上で、当事者双方の真意に基づく合意解除

など(具体例は、弁護士井上元・同那須良太・同飛岡恵美子著「Q&A任意後見入門」民事法研究会・H25・95-96pから抜粋)

(法定後見開始申立て)


任意後見が継続している場合でも、法定後見開始申立てをすることができます。

任意後見優先の原則

原則

任意後見は法定後見に優先する 

∵任意後見はご本人が自分で決めて契約したのだからご本人の意思を尊重する必要がある。

例外 本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる(任意後見契約法10Ⅰ)。

「本人の利益のため特に必要がある」の具体例

  1. 任意後見契約に基づく代理権が狭すぎて不都合がある。
  2. 詐欺被害などにあって同意権、取消権による保護が必要。
  3. 合意された任意後見人の報酬があまりに高額
  4. 任意後見人が不適任

など(具体例は、弁護士井上元・同那須良太・同飛岡恵美子著「Q&A任意後見入門」民事法研究会・H25・101pから抜粋した。)

法定後見開始の申立人

  1. 本人・配偶者・4親等内の親族・未成年後見人・未成年後見監督人・保佐人・保佐監督人・補助人・補助監督人・検察官・(一定の要件を満たした場合)市長
  2. 任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人(任意後見契約法10Ⅱ)

法定後見開始の効果

任意後見契約は終了する(任意後見契約法10Ⅲ)

任意後見の終了


終了の理由

  1. 任意後見人が解任されたとき(任意後見契約法8)
  2. 任意後見契約が解除されたとき(任意後見契約法9)※ご本人が財産の管理能力を取り戻したとき
  3. 法定後見が開始したとき(任意後見契約法10Ⅲ)
  4. ご本人の死亡、任意後見人の死亡(民法653Ⅰ)
  5. ご本人の破産、任意後見人の破産(民法653Ⅱ)※法定後見では「本人の破産」は終了事由とはされていません。
  6. 任意後見人が後見開始の審判を受けたこと(民法653Ⅲ)

× 「管理すべき財産が無くなった」ことは終了事由ではありません。

終了の効果

任意後見が終了した場合、家庭裁判所が新たな任意後見人を選任することはありません。

任意後見は、あくまで本人の希望で後見人を選ぶ制度だからです。

よって、任意後見終了後も後見が必要なご本人の場合には、法定後見の開始申立てが必要です。

管理の計算


司法書士の報酬・費用


業務の種類  司法書士の手数料 実費

任意後見契約の公正証書原案作成

110,000円(税込)~ 

5万円ほど

(公証人手数料など)

任意後見契約【2】

+見守り契約【3】の公正証書原案作成

132,000円(税込)~

5万円ほど

(公証人手数料など)

任意後見契約【2】

+財産管理等委任契約【4】の公正証書原案作成

165,000円(税込)~

5万円ほど

(公証人手数料など)

任意後見契約【2】

+見守り契約【3】

+財産管理等委任契約【4】の公正証書原案作成

187,000円(税込)~

5万円ほど

(公証人手数料など)

任意後見監督人選任申立

(任意後見契約の効力発生)

110,000円(税込)~

 

任意後見契約効力発生後の

任意後見人報酬

33,000円(税込)~/月

 

【1】 実費は、①印紙代等5,000円、②添付戸籍など5,000円、③(裁判所の指示があるときの)精神鑑定費用5~10万円です。

【2】 任意後見契約:ご本人の判断能力が十分なうちに、将来判断能力が衰えた場合に備えて、あらかじめ財産管理を任せる人と内容を決めておく契約。

【3】 見守り契約:任意後見が始まるまでの間、ご本人と定期的に連絡をとり、任意後見を始める時期を判断するための契約。

【4】 財産管理契約:ご本人の判断能力は十分だけれど、身体的な問題で、金銭管理を第三者に委ねる契約。

人気の関連ページ