顧客の権利書・登記識別情報を紛失した専門家の方へ


Twitterに投稿したこの疑問に対する現役司法書士の回答が面白かったので、まとめてみました。

万一の事故が発生した場合や、その重要性をわからず廃棄してしまった他士業の先生方のリカバリーのヒントになるかもしれません。

 

ちなみに、当事務所では、権利証や登記識別情報を破棄もシュレッダーもしたことはありませんので、ご安心ください。

前提知識


  1. 権利証・登記識別情報は、所有者が所有権を取得したときに管轄法務局において発行されます(抵当権者が抵当権を取得したときなどにも発行されます。)。
  2. 「権利証」は、登記申請人が登記申請時に提出した紙(通常は、売主が買主に差し出した「売渡証書」)に、法務局が受付年月日及び番号を押印した書類です。
  3. 「登記識別情報」は、登記申請もインターネットによって行なうこととなった際に、従来の権利証ではインターネットに載せることができないため、パスワード形式に改良されたものです。
  4. 権利証も登記識別情報は、その書類を持っている人間が権利者であることを証明するとともに、それを法務局に提出することで権利について何等かの処分を行なう意思があることを証明します。
  5. 権利証も登記識別情報も再発行することはできません。
  6. 権利証や登記識別情報を提出することができないときには、司法書士が通常よりもより厳格な本人確認を行ない、その調書を本人確認情報として提出することで登記が行なわれます。
  7. 権利証・登記識別情報自体には、金銭的な価値は一切ありません。

解決方法の検討と提案


(土地権利書であれば)分筆&合筆登記をしてもらう

分筆登記をしようとすると通常は数十万円の土地家屋調査士報酬が発生します。

分筆のための測量の結果、地積が増大し、固定資産税が増額されて再度お叱りを受ける可能性があります。

合筆登記には、権利証又は登記識別情報が必要ですが、権利証などがない場合でも、土地家屋調査士がその代わりになる書類を作成して提出したり、事前通知という方法で合筆登記が可能です。

司法書士名義に移転登記して、再度、顧客名義に移転登記する

実体がないのに、虚偽の実体をでっち上げて登記をすることはできません。

例えば「売買」として登記する場合には、金銭の授受が行なわれることが必要で、この授受がないにも関わらず「売買」として登記をすると、公正証書等原本不実記載罪という犯罪が成立します。

司法書士には真正な登記の実現に寄与するという使命と義務がありますので、司法書士が権利証などの再発行のために、上のような登記を申請すると懲戒される可能性があります。

何か、再発行のために適切な登記原因が何かあれば良いのですが・・・

 

また、実体に適合した登記原因があったとしても、顧客には税金が発生する可能性があります。

司法書士賠償責任保険を請求する

司法書士が権利証・登記識別情報を破棄・シュレッダーした場合には、司法書士の過失となりますので、司法書士賠償責任保険に請求することで、保険金が支払われる可能性が高いです。

本人確認情報の永久無料作成券を発行する

前提知識6で申し上げたとおり、司法書士には権利証がないときに、権利証のかわりに本人確認情報を作成提出する権限があります。

司法書士にもよりますが、1通作成するのに、5~数十万円を報酬としていただきます。

この「本人確認情報を無料で作成する」ことを約束した証書を、権利証を紛失してしまった当事者に交付するのも一つの方法かと思います。

再発行を認める制度を創設する

コレはあくまで政策論ですね。

これまで再発行を無しとすることで、権利者であることの強い証明になってきました。また、司法書士は、時代時代の権利証印、登記識別情報の形式を覚えることによって、偽造権利証によって不動産取引が行なわれることをを防止してきました。

そういう歴史からすると、再発行制度は認められないでしょう。