遺言が無効になる場合と、無効主張の方法を解説したページです。

このページを読むだけで、初めての方でも、遺言無効について理解できます。

  1. 遺言が無効になった事例を3パターンに分類し、解説
  2. 遺言が無効であると主張するための証拠
  3. 遺言無効主張の具体的な流れ

自分が知らない間に遺言が作られていたが・・・

  • 認知症の被相続人にこんなに複雑な遺言が書ける筈がない。
  • 「あなたの相続分は無し」とされている。

そんなときには、遺言の無効を検討すべきです。

もくじ
  1. 形式的不備による無効
    1. 自筆証書遺言の方式違反
    2. 公正証書遺言の方式違反
  2. 遺言能力欠如による無効
    1. 形式的に遺言能力がない場合
    2. 実質的に遺言能力がない場合
  3. 公序良俗違反による無効
  4. 遺言無効の証拠収集
  5. 遺言無効主張の手続
  6. 人気の関連ページ  

遺言が無効になる3パターン


遺言が無効になるのは、次の4パターンのいずれかに該当したときです。

  1. 形式的不備による無効
  2. 遺言能力欠如による無効
  3. 公序良俗違反による無効
  4. その他の理由による無効

以下、一つずつ詳しく解説します。

形式的不備による無効


遺言は、民法に定める方式を守って作成しなければなりません(要式行為)ので、方式を欠いた遺言は無効となります。

1.自筆証書遺言の方式違反(民968)

  • 「自筆証書遺言の無効確認を求める訴訟においては,当該遺言証書の成立要件すなわちそれが民法968条の定める方式に則って作成されたものであることを,遺言が有効であると主張する側において主張・立証する責任があると解するのが相当である(最判昭和62年10月8日民集41巻7号1471頁)」。
  • 「遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の効力の全てを失わせる意思の表れとみるのが相当である(最判平成27年11月20日民集69巻7号2021頁)」として、民法1024条前段に該当し、遺言の撤回があったとした(判例の要約は、現代民事判例研究会 編『民事判例13 2016年前期』日本評論社/2016年/46頁)。
  • 「①遺言者の氏名が遺言者の筆跡と同一であるとする鑑定書もあるが、これを否定する鑑定書もあり、遺言者が氏名を自署したと認めることはできないこと、②遺言書の印影と同一の印影がある書証は提出されておらず、遺言書の印影を顕出する印章が遺言者の印章と認めるに足る証拠もないから、遺言者が押印したと認めることもできないこと、さらに加えて、③本件自筆証書遺言の内容は、先行して作成された公正証書遺言の考え方とあまりにかけ離れたものであるが、遺言者の考え方が変化したと認めるに足りる証拠もないこと等を指摘し、本件自筆証書遺言は遺言者の意思に基づくものと認められない(東京地判平成27年10月22日金法2041号80頁)」とした(裁判例の要約は、現代民事判例研究会 編『民事判例13 2016年前期』日本評論社/2016年/46頁)。

2.公正証書遺言の方式違反

⑴ 遺言の口授がない:「遺言者による口授→公証人筆記→公証人読み聞かせ→署名押印」という方式(民969)を実践していない場合です。

 

⑵ 不適格な証人を立ち会わせた(民974)

  • 東京地判令和3年6月3日「受遺者とされた者の母が公正証書遺言の証人となった事案について、補充遺贈の受遺者は民法974条2号の「受遺者」に該当し、その母が立ち会ってされた公正証書遺言は、補充遺贈の部分のみならず、遺言全体が無効となる」
  • 最判平13年3月27日判時1745号92頁:欠格者以外に2人の適格者が証人として立ち会っていたときには、欠格者が同席していたとしても「この者によって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりするなど特段の事情のない限り、当該遺言公正証書の作成手続を違法ということはできず、同遺言が無効となるものではない」とする。

3.危急時遺言の方式違反

法律で定められている「口授」がなかったとして無効とされた事例(東京高判平成30年7月18日)

 

遺言能力欠如による無効


1.形式的に遺言能力がない場合

⑴ 15歳未満の者による遺言(民961)

⑵ 成年被後見人による遺言で、医師2名以上の立ち会いがなかった(民973)

⑶ 成年被後見人による遺言で、後見人の利益となるべき遺言をした(民966)

2.実質的に遺言能力がない場合

認知症であったとしても、その方は「成年被後見人(精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある)」とは限りません。

同様に、認知症であったとしても、その方が「遺言能力なし」とは限りません。

 認知症である ≠ 通常の形式の遺言能力なし(=成年被後見人である)

 

民法973条1項は、成年後見人の遺言に関する条文ですが、

成年被後見人が『事理を弁識する能力』を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。

と定めていて、遺言は、『事理弁識能力』があれば有効であることを間接的に定めています。

 

『事理弁識能力』とは、裁判例によれば、

「遺言の内容及び当該遺言に基づく法的結果を弁識、判断するに足りる能力」をいいます。

つまり

「この人は、この時点では一切遺言は書けない」という風に考えるのではなくって

「この人でも、この程度の簡単な遺言であれば書くことが出来る」という風に考えるのです。

複雑な遺言 弁識・判断能力は高度なものが要求される。
簡単な遺言  弁識・判断能力はそれ程高度なものが要求されない。

 

遺言能力がないことを理由に遺言を無効とした裁判例は下記のとおり

  • 東京高判昭和52年10月13日東高民時報28・10・259
  • 東京高判昭和57年5月31日判時1049号41頁
  • 大阪地判昭和61年4月24日判時1250号81頁
  • 東京高決平成3年11月20日家月44・5・49
  • 東京地判平成4年6月19日家月45・4・119
  • 東京地判平成5年2月25日家月46・5・50
  • 宮崎地日南支部判平成5年3月30日家月46・5・60
  • 名古屋高判平成5年6月29日判時1473号62頁
  • 東京地判平成6年2月28日金商979・35
  • 東京地判平成9年10月24日判タ979号202頁
  • 東京地判平成10年6月29日判時1669号90頁
  • 東京地判平成11年11月26日判時1720号157頁
  • 東京高判平成12年3月15日判時1715号34頁
  • 東京地判平成16年7月7日判タ1185号291頁
  • 東京地判平成18年7月25日判時1958号109頁
  • 東京高判平成21年8月6日判タ1320号228頁
  • 東京高判平成22年7月15日判決判タ1336号241頁「公正証書作成当時は、少なくとも平成17年3月及び5月時点より認知症の症状は進行していたものと認められる。認知症の程度として・・・症状は、金銭管理が困難であること、被害妄想的であること等であり、・・・被控訴人らから虐待を受けている、被控訴人らには絶対財産をやらない、財産を控訴人にあげたいと盛んに述べたということ自体、被害妄想の1つの表れとみることができる。・・・そして、本件公正証書による遺言の内容は、長年亡春子と同居して介護に当たり、養子縁組もしている被控訴人らに一切の財産を相続させず、控訴人に遺贈するという内容であり、特に亡春子の財産に属する本件不動産には被控訴人らが居住していることも合わせ考えると、このような認知症の症状下にある亡春子には、上記のような遺言事項の意味内容や当該遺言をすることの意義を理解して遺言意思を形成する能力があったものということはできない。」
  • 高知地判平成24年3月29日判タ1385号225頁
  • 東京高判平成25年3月6日判時2193号12頁
  • 東京地判平成28年8月25日判時2328号62頁
  • 東京地判平成29年3月29日判例集未登載
  • 東京地判令和3年3月31日判時2512号38頁

これらの裁判例については、下記に解説があります。

  • 中川善之助 (元東北大学名誉教授)・加藤永一 (東北大学名誉教授)/編集『新版注釈民法(28)相続⑶遺言・遺留分-960条~1044条補訂版【復刊版】』有斐閣/2010年/60頁
  • 現代民事判例研究会 編『民事判例13 2016年前期』日本評論社/2016年/46頁
  • 藤井伸介・志和謙祐・尾﨑由香・山田和哉・岡村峰子/著『ストーリーと裁判例から知る 遺言無効主張の相談を受けたときの留意点』日本加除出版/2020年/139頁
  • 梶村太市 編著『家事事件研究アラカルト2 高齢者法を中心として』恒春閣/2024年/67頁及び80頁

 

公序良俗違反による無効


不貞相手や内縁の妻に対する包括遺贈を公序良俗違反による無効とした裁判例として、東京地判昭和58年7月20日判タ509・162、東京地判昭和63年11月14日判時1318号78頁などがあります。

東京地判昭和58年7月20日判タ509号162頁、ウエストロージャパン
 

◆全財産を遺贈する旨の遺言が、遺贈者と受贈者との間の情交関係の維持継続をはかるためにされたものであることなどにより、公序良俗に反し無効であるとされた事例

◆不倫な関係の維持継続を図るためにされた全財産についての包括遺贈が公序良俗に反し無効とされた事例

(要旨は、ウエストロージャパン)

その他の理由による無効


  • 遺贈の対象となる財産が、遺言の効力発生前に滅失したり、処分されたりしていた場合(客観的不能)。
  • 遺贈に不能な停止条件が付されていた場合。

遺言無効の証拠収集


次のように証拠を入手していきます。

入院先がわからないとき

  • 国保・後期高齢者広域連合へ照会▶通院先病院がわかる▶病院に照会状・診療録などの開示請求

入通院先がわかっているとき

  • 入通院先病院に照会状・診療録などの開示請求

入通所していた介護施設がわからないとき

  • 介護保険へ照会▶入居施設がわかる▶施設に照会状・アセスメントなどの開示請求

入通所介護施設がわかっているとき

  • 入通所していた介護施設に照会状を送り、アセスメントなどの開示請求

家族関係者から

  • 事情を聴取
  • 故人の写真・日記などの提供を求めます。

自筆証書遺言の場合

  • 筆跡鑑定を行います。

遺言無効主張の手続


内容証明郵便

遺言が無効であるので、遺言執行を停止するよう通知します。

予備的に遺留分侵害額請求も行うこともあります。

提訴予告通知

遺言無効確認訴訟などは、印紙代が高額になることが考えられます。

そこで、訴状に匹敵する請求原因事実を記載し、証拠を添付した提訴予告通知(民訴132の1以下)を送付し、相手方の対応を確認します。

遺言執行者解任審判申立・遺言執行者職務執行停止申立て

地裁に対して、民事保全法に基づく仮の地位を定める仮処分を申立てることも可能ですが、担保の額が相当高額になりますので、遺言執行者解任審判(を本案として)の申立と同時に、遺言執行者職務執行停止の仮処分を申立てます。

(遺言無効確認調停)

調停前置(家事事件手続法257)

遺言無効確認請求訴訟

調停での合意の成立が見込めない場合には、その旨を記載して、いきなり地裁・簡裁に提訴します(家事事件手続法257Ⅱ)。

遺言執行者がいる場合には、その者を被告として提訴します。

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