役員を迎えるときの注意事項【一覧】


企業は「人」で成り立っています。企業は、人を強化するために、従業員を役員にしたり、外部から役員を招いたりします。ところが、残念なことに、強化のために役員にした方が企業にとって「毒」であることもありえます。

役員になってもらうに当たり「薬か毒か」を見分け、万一「毒」を見分けられなかったときでも企業が負うダメージを最小限にするためにはどうすれば良いのか?注意事項をピックアップしましたので、ご参照ください。

もくじ
  1. 全体の流れ
  2. 就任打診前
    1. 新役員の属性調査
    2. コンプライアンスに「より」注意
    3. 新役員には、重要書類を全て見せるつもりで
    4. 企業秘密の管理状況は適切になされているか
    5. 取締役会での議決権割合は大丈夫か
    6. 取締役の任期は長すぎないか
    7. 取締役人数が定款所定の上限人数を超えないか
  3. 就任内諾後
    1. 役員委任契約書の作成(競業避止義務、秘密保持義務)
  4. 司法書士の報酬・費用
  5. 人気の関連ページ

全体の流れ


役員を迎えるときの全体の流れは、次のとおりです(★印が本記事のテーマです。)。

就任打診前の調査★

就任打診

就任内諾

就任内諾後の調査★

株主総会

新役員候補者にも出席を求め、役員選任議案と、必要に応じて定款変更議案の承認を行ないます。

就任承諾

登記申請

就任打診前の調査


新役員の属性調査

急成長を遂げる企業にありがちですが、新しく入社した方を、いきなり役員にしてしまうことには注意が必要です。

貴社事業が許認可事業の場合には、新役員の属性(暴行歴など)によって許認可が取消しされることのないように、本人からの聞き取りのほか、本人の日頃の言動を確認し、場合によっては調査を実施します。

「子会社の取締役」と「親会社の監査役」は兼任できないなど法律上の規制もあります。

こちらの記事「役員欠格事由」もご参照ください。

コンプライアンスに「より」ご注意を

取締役会・株主総会の法令どおりに開催するほか、法令遵守などをこれまで以上にキッチリと行ないます。重要情報にアクセスできる役員に内部告発されてしまうと、目も当てられないからです。

新役員には、重要書類を全部見せるつもりで

取締役であれば、決算書、計算書類、会計帳簿、株主名簿、定款、従業員名簿など会社の重要書類全てにアクセスすることが可能です。

次の二つの視点からよく検討します。

  1. 書類に「後ろめたいところ」はないか
  2. 新役員候補は全ての書類を見せても大丈夫な人物なのか

企業秘密の管理状況は適切か

企業秘密のことを法律用語では「営業秘密」と言います。

 

1.営業秘密として保護されるための仕組みの構築

「営業秘密」として保護されるためには、一定の要件を満たす【1】必要があります。会社が単に「これは当社の『営業秘密』です」と相手方に告知するだけでは、営業秘密として保護されません。

 

【1】秘密が「営業秘密」として保護されるための三要件(全て充足必要)

1 秘密管理性 秘密として管理されていること
  • 書類には㊙と記載
  • 鍵付キャビネットへの収納
有用性  有用な技術上又は営業上の情報であること  
3 非公地性 公に知られていないこと  

 

2.営業秘密を侵害された会社は次のような措置を講じることが可能です。

  1. 営業秘密侵害罪による刑事告訴(不正競争防止法21)
  2. 営業秘密の不正使用の差し止め請求(不正競争防止法3.15)
  3. 被害回復のための損害賠償請求(不正競争防止法4-9)
  4. 信用を回復するための必要な措置の請求(不正競争防止法14)

取締役会(取締役決定)での議決権割合は大丈夫か?

取締役会(取締役決定)での議決は、過半数出席の過半数賛成で行なわれ、社長の持株数は関係ありません。議題ごとの議決機関は、こちらの記事「議案の種類と決議機関。この議案は、株主総会決議が必要なのか?取締役会決議でよいのか?/各種決議の定足数と決議要件」をご参照ください。

社長意見に追従して賛成しかしない取締役(会)は不要ですが、社長の意見が常に否決されるようでは会社が建ち行かなくなります。

取締役の任期は長すぎないか

役員の任期は、定款に記載されています。株式会社では役員の任期が10年になっていることもあります。10年の任期は、初めて入ってもらう役員には長すぎるかもしれません。1~2年に短縮する定款変更をご検討ください。

こちらの記事「役員解任リスクとその回避方法」をご参照ください。

こちらの記事「有限会社の役員への任期規定導入」もご参照ください。

取締役人数が定款所定の上限人数を超えないか

超える場合には、株主総会特別決議で承認したうえ、定款を変更する必要があります。

就任内諾後の調査・調整


就任前に「役員委任契約書」を必ず作成する

作成すべき理由は次のとおりです。

1.取締役の会社に対する競業避止義務は役員在任中しかない。

競業避止義務とは、取締役は、会社と同じ業務を行なってはいけないという義務です(会社法356Ⅰ①)。 

ところが、この競業避止義務は、取締役である間しか義務を負いません。

役員としてノウハウを獲得した後で、経営トップとの関係が悪くなったとき、「こんな会社やめて自分でやってみたい」と思ってしまう方もいらっしゃいます。

取締役が退任する段階になってから競業避止義務に関する契約を締結させることは大変困難です。

よって、最初に就任するときに、締結しておく必要があります。

もっとも、例えば「万一、取締役を退任した後は一生貴社と同じ業界で働きません」旨の合意書を締結しても、職業選択の自由を侵害するものとして無効になります。貴社の権利をできるだけ大きく守りながら、無効にはならない合意書を作成する必要があります。

 

2.貴社の従業員・役員に対する引き抜き行為の禁止も入れておく。

 

3.秘密保持契約も退社時には押印をもらいにくい。

会社在任中に、どの情報が会社の「営業秘密」に該当するのかを明確にして、秘密保持義務を課しておきます。秘密保持契約書も退職が決まってからでは、押印をもらいにくい書類だからです。

 

4.責任限定契約を入れておくと押印してもらいやすいかも

新役員が、業務を執行しない役員である場合には、役員の責任を限定する契約(会社法427)を締結することも可能です。なお、定款の定めが必要です。

司法書士の報酬・費用


顧問先企業様の場合には、割引きがあります。

業務内容 司法書士の報酬・費用
新役員を迎える企業に対するアドバイス 22,000円/時間
役員委任契約書の作成 110,000円

役員変更登記の報酬・費用については、こちらの記事「司法書士費用・会社登記の全て」をご覧ください。

人気の関連ページ