任意後見人の仕事(任意後見人に就任された方へ)


ご高齢者から「息子(又は娘)を任意後見人とする任意後見契約をしたい」というご依頼を受けることが増えてきました。

 

任意後見契約は、司法書士がお手伝いするので問題なく結べると思います。しかし、いざ任意後見契約が始まってみると、任意後見人になったご家族の中には、任意後見人の仕事内容がよく分からないという方もいらっしゃいます。そんな任意後見人のために「任意後見人のお仕事」をご紹介します。

「あなたが、任意後見人になって困っている」なら、この記事がお役に立つと思います。

もくじ
  1. 任意後見の三段階の仕事
  2. 「財産管理等」のお仕事
    1. 日常的な財産管理のお手伝い
    2. 身上監護
    3. 定期的なご報告
    4. 住所・本籍・氏名が変わったとき
    5. 辞めたいとき
    6. 亡くなったとき
    7. その他疑問や不明点があるとき、判断に迷ったとき
  3. 「ご本人の判断能力が低下したとき」のお仕事
    1. ご本人が認知症を発症したりして、判断能力が衰えたとき
    2. 申立書の作成方法が分からないとき
  4. 「任意後見契約の発効後」のお仕事
    1. 日常的な財産管理
    2. 身上監護
    3. 定期的なご報告
    4. 住所・本籍・氏名が変わったとき
    5. 辞めたいとき
    6. 亡くなったとき
    7. その他疑問や不明点があるとき、判断に迷ったとき
  5. 是非「覚えておいていただきたい」こと
  6. 人気の関連ページ

〔凡例〕 この記事では、次のように略記します。

  • ご本人:任意後見契約を依頼したお父様・お母様のことです。
  • 受任者:ご本人から財産管理の依頼を受けた方(あなた)のことです。
  • 任意後見契約受任者:ご本人から任意後見人になるよう依頼を受けた方(あなた)のことです。
  • 任意後見人:任意後見契約の効力発生後の任意後見契約受任者(あなた)のことです。

任意後見の三段階の仕事


任意後見の仕事は次の三段階に分かれます。

括弧書きで書きました(ご本人の判断能力低下)は段階ではありませんが、その右欄にあるように「任意後見監督人選任の申立」という重要な仕事がありますので、別の段落にして表現しています。

  あなたの肩書き あなたの仕事
❶見守り契約
  • 任意後見契約受任者
  • ご本人と定期的に連絡をとり、見守る。
❷財産管理等委任契約
  • 受任者
  • 任意後見契約受任者
  • ご本人の補助として財産管理を手伝う。
  • 通帳等を預かったときは定期的にご本人に報告する。
(ご本人の判断能力低下)  
  • 任意後見監督人選任を申立する。

任意後見監督人の選任により❷財産管理等委任契約は終了し、❸任意後見契約が発効します。

❸任意後見契約
  • 任意後見人
  • ご本人の代理人として財産管理する。
  • 定期的に任意後見監督人に報告する。

ご本人の家族である「あなた」が任意後見人になっている場合には、❶見守り契約は結んでいないことも多いかと思います。家族の様子は心配で(契約書に盛り込まなくても)定期的に連絡をとっていることが多いためです。

以下では、❶見守り契約の説明を飛ばして、それぞれの段階でのお仕事を詳しく見ていきます。

「財産管理等」のお仕事


日常的な財産管理のお手伝い

任意後見契約を結ぶ時点で、ご本人の判断能力が十分にある場合には、任意後見契約とは別に「財産管理等委任契約」を結んでいることも多いと思います。

財産管理等契約の時点では、ご本人の判断能力が十分ですので、基本的に通帳などは「ご本人が持ったまま」です。そして、ご本人が身体の不自由などで銀行などへ行けない場合に、あなた(受任者)が代わりに銀行などへ行って入出金します。

  • 通帳等を常時預かる場合には、預り証を作成してご本人にお渡しください。
  • 現金を常時預かる場合には、出納帳を作成する必要があります。例えば、次のようなものをExcelなどで作成すると便利です。データは消えてしまわないように、時々バックアップや印刷しておきましょう。預かり金が10万円を超える場合には、専用の口座を作って保管することをオススメします。
小口現金出納帳
摘要 入金額 出金額 残高
R5 3 20 三菱UFJ銀行・六甲道支店より出金 100,000   100,000
  3 20 ○○薬局にて医薬品購入   3,980 96,020
  3 20 ○○手続用に住民票・印鑑証明書取得   600 95,420
             
             
      (一つの行動ごとに一行使うのがコツです。)      

身上監護

身上監護とは、介護や生活面のバックアップのことです。入院するときの医療機関との契約、介護などに関する契約、自宅の売却・購入・賃借などの契約をご本人に代わって行います。

「財産管理等委任契約」の中に含まれている「等」の文字は、身上監護のことを指します。

定期的なご報告

任意後見契約で定められた報告の頻度は最低限度です。

通帳や現金を預かる場合には、出納帳を作成し、ご本人との信頼関係を損なわないように、定期的に面談し、報告をしてご本人を安心させてください。

住所・本籍・氏名が変わったとき

ご本人や受任者(あなた)の住所・本籍地・氏名が変わったときには、その旨を登記申請しなければなりません。

登記申請書の作り方、登記申請書の提出のやり方が分からないときには、司法書士にご依頼することも可能です。

受任者や任意後見契約受任者を辞めたいとき

ご本人との関係性が悪化したなどの場合には、辞任することができます。

ただし、ご本人が将来の任意後見契約を解消するデメリットを本当に分かっているのかを確認するために公証人の関与が必要です。詳しくは「任意後見契約の効力発生前の解除」をご参照ください。

また、辞任したあとには、任意後見契約の登記の抹消登記申請が必要です。

登記申請書の作り方、登記所への提出方法が分からないときには、司法書士にご依頼することが可能です。

亡くなったとき

ご本人や受任者が死亡したときには、任意後見登記の終了の登記を申請しなければなりません。

その他疑問や不明点があるとき、判断に迷ったとき

迷わずに司法書士の法律相談にお越しください。ご本人のための相談であれば、ご本人の費用負担で法律相談を受けることが可能です。

また、受任者(あなた)ご自身が財産管理契約に定められた事務を行うこともできますが、難しい場合には司法書士等にご依頼(一部を外注)することも可能ですので、何なりとお申し付けください。

「ご本人の判断能力が低下したとき」のお仕事


ご本人が認知症を発症したりして、判断能力が衰えたとき

ご本人の判断能力が低下したときには、「任意後見監督人の選任」を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

適切な時期に行わないと、ご本人に相続開始後、他の相続人から「この時期には認知症になっていた筈である。誰にも報告することなく、欲しいままに本人の財産を消費した」などと訴えられるリスクもありますので、必ず忘れずに申し立てる必要がございます。

申立書の作成方法が分からないとき

「任意後見監督人の選任申立書」の作り方、裁判所への提出方法が分からないときは、司法書士に作成をご依頼することもできます。

「任意後見契約の発効後」のお仕事


日常的な財産管理

ご本人から通帳など重要書類の引渡しを受け、任意後見契約による財産管理がスタートします。

具体的にどういう帳簿を作成すれば良いのか分からないときには、司法書士にご相談いただくことができます。

身上監護

入院するときの医療機関との契約、介護などに関する契約、自宅の売却・購入・賃借などの契約などをご本人に代わって行います。

定期的なご報告

任意後見契約発効後には、報告をご本人のほか任意後見監督人に対しても行ないます。

住所・本籍・氏名が変わったとき

ご本人、任意後見人又は任意後見監督人について住所・本籍地・氏名などが変わったときには、その旨を登記しなければなりません。

任意後見人を辞めたいとき

任意後見契約の効力発生後は、簡単には辞めることができません。この段階で簡単に辞めることを認めると、判断能力が不十分なご本人がそのまま放置されるからです。

どうしても辞めざるを得ない事情がある場合には、任意後見監督人と十分にご相談ください。任意後見に代替するご本人を守るための制度(例えば法定後見制度)の利用を検討準備してから、家庭裁判所に辞任の意向を伝え、辞任の許可を申請するようにしましょう。

辞任の許可が出た後、辞任登記は裁判所からの嘱託なのか、任意後見人から申請を要するのか、家庭裁判所と打合せすることも必要です【1】。

【1】任意後見監督人選任後の任意後見契約の解除には、家庭裁判所の許可を要するため、辞任がなされたか否かは、家庭裁判所も知るところです。従って、裁判所書記官が登記を嘱託すべき場合とされています(家事事件手続規則77Ⅰ④)が、本人・任意後見人又は任意後見監督人も申請義務を負っています(後見登記法8Ⅱ)。

亡くなったとき

ご本人や任意後見人が死亡したときには、任意後見登記の終了の登記を申請しなければなりません。

その他疑問や不明点があるとき、判断に迷ったとき

多くの方の後見人に就任している司法書士であっても、疑問や不明なことが出てきます。

あなたは、専門家ではないのですから、疑問や不明なことが出てきたときには、迷わずに司法書士の法律相談にお越しください。ご本人のための相談であれば、ご本人の費用負担で法律相談を受けることが可能です。

また、任意後見人ご自身が任意後見契約に定められた事務を行うこともできますが、難しい場合には司法書士等にご依頼(一部を外注)することも可能ですので、何なりとお申し付けください。

是非「覚えておいていただきたい」こと


人が生活していると、様々なトラブルや悩みが発生します。ご本人の任意後見人になるということは、あなたご自身のトラブルや悩みに加えて、ご本人のトラブルや悩みも抱えることになります。

 

でも、気軽に考えていただきたいと思います。

あなたご自身のトラブルや悩みが発生したときには、どうなさいますか?

専門家に相談しますよね。

 

ご本人にトラブルや悩みが発生したとき、ご本人はご自身で判断する能力を失っているかもしれません。そんなときには、あなたが代わりに専門家に相談すれば良いだけです。

どうか、お一人で抱え込まないで、気軽に専門家にご相談ください。

 

私たち「あなたのまちの司法書士事務所グループ」では、所属する司法書士自身が多くの後見人をつとめると同時に、皆さんの日常生活のトラブルや悩みを解決しております。

また、多くの優秀な専門家(弁護士、税理士など)とも連携しておりますので、案件に応じて適切な専門家をご紹介することも可能です。

 

お気軽に、そして、お早い目にご相談いただければ幸いです。

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