遺留分侵害額請求

(2019.7.1以降開始相続)


2019(令和元)年7月1日以降に開始した相続に関する遺留分侵害額請求は、それ以前の遺留分減殺請求から大幅に変更がありました。

 

内容を見やすく表にまとめました。

2019年7月1日以前に開始した相続に関する遺留分減殺請求はコチラをご覧ください。

従前の遺留分減殺請求権との違い


  遺留分減殺請求 遺留分侵害額請求
適用

2019.6.30までに開始した相続【1】

2019.7.1以降に開始した相続【1】

請求の

効果 

形成権

物権的効果【2】

(=減殺請求を受けると遺留分に応じて財産が共有になる【3】)

形成権

債権的効果(=お金しか請求できない。)

受遺者・受贈者への期限の許与(新民1047Ⅴ) 

遺留分

算定基礎財産 

過去の全ての特別受益を加算する。

過去10年分の特別受益に限り加算する。

請求権の消滅時効

相続開始と遺留分侵害贈与・遺贈を知った時から1年で時効消滅

相続開始から10年(除斥期間)

 

相続開始と遺留分侵害贈与・遺贈を知った時から1年で時効消滅

相続開始から10年(除斥期間)

※ 変更なし

請求後の消滅時効

物権的効果なので、消滅時効を心配する必要なし。 債権的効果なので、請求をした時から5年で消滅する(改正民法166Ⅰ①)

遺産に不動産があるとき

  • 遺留分減殺を原因とする持分移転登記請求が可能
  • 処分禁止の仮処分が可能。
  • 遺留分減殺を原因とする持分移転登記請求はできない。
  • 処分禁止の仮処分は不可。
  • 遺留分侵害額請求権を被保全債権とする仮差押が可能。

遺産に収益不動産があるとき

遺留分減殺請求をすると、法定果実(賃料収入)を取得できた。

∵物権的効果で所有権の一部が減殺請求権者のものになった。

遺留分侵害額請求をしても、法定果実(賃料収入)を取得できない。

∵物権的効果を生まないため。

【1】遺言書作成日や遺留分減殺請求をした日は関係ありません。

改正民法(H30.7.13法律第72号)附則2条

この法律の施行の日(以下「施行日」という。)前に開始した相続については、この附則に特別の定めがある場合を除き、なお従前の例による。 

令和元年6月27日付法務省民二第68号「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(通達)」

改正により、従前の遺留分減殺を登記原因とする所有権の移転の登記の申請は、受理することができないこととなる。

この改正後の規定は、改正法の施⾏の⽇(令和元年7⽉1⽇)以後に開始した相続について適⽤され、同⽇前に開始した相続については、なお従前の例によるとされた(改正法附則第2条)。 

つまり・・・

相続開始の日 登記原因
2019.6.30以前 登記原因「遺留分減殺」による持分移転登記可能
2019.7.1以降 登記原因「遺留分減殺」による持分移転登記不可

【2】最判S41.7.14。最判S51.8.30参照

【3】従来の遺留分減殺請求のデメリット

  • 不動産の場合に、受遺者が価額弁償(お金で解決:旧法1041条)を選択しない場合に、共有となった持分の移転登記を求める所有権移転登記請求になる。
  • 共有登記となったときに、これを解消しようとすれば、共有物分割請求を行なう必要があるところ、共有物分割請求は簡裁・地裁の管轄である(遺産分割調停は家裁管轄なので、同時に進行できない面倒があった。)。

計算のしかた


⑴ 遺留分算定基礎財産を計算する

次のとおり計算します(民1043Ⅰ)。

贈与を足すのは、死亡直前に、全ての財産を贈与することによって遺留分制度を回避されるのを予防するためです。

相続開始時のプラスの財産の額【2】

 

贈与された財産の額【3】 

 

相続する負債の額

【4】 


【1】寄与分(特別の寄与)は考慮されない。

【2】条件付権利、存続期間の不確定な権利も含まれる(民法1043Ⅱ)

【3-1】組み込まれる贈与は次のとおり

① 次の贈与(民1044)

 

受贈者が相続人以外であるとき(民1044Ⅰ)

☞「全ての贈与」

受贈者が相続人であるとき(民1044Ⅲ)

☞「特別受益に該当する贈与」に限定

善意

悪意(=遺留分侵害認識あり)

善意 悪意(=遺留分侵害認識あり)

相続開始前1年内の贈与 相続開始前1年内の贈与 相続開始前10年内の贈与 相続開始前10年内の贈与

相続開始前1年内の贈与 贈与時期を問わない 相続開始前10年内の贈与 贈与時期を問わない

② 当事者双方が悪意の不相当対価の有償行為(民法1045Ⅱ)は、時期を問わない。

【3-2】生前贈与の場合には「贈与時点」ではなく、「相続開始時」を基準に評価する。

金銭は物価指数に従って相続開始時の貨幣価値に換算する。

【4-1】未払の税金や罰金を含む。

【4-2】保証債務は主債務者が無資力である場合などにのみ減算する(東京高判H8.11.7)

⑵ 相続人全員の遺留分額(遺留分率をかける)

遺留分権利者全体に残されるべき遺留分は、次の遺留分率を掛けて算出します(民1042Ⅰ)。

 

配偶者

 

直系卑属

(子孫)

直系尊属

(父母)

兄弟姉妹

 

単独相続のとき 1/2 1/2 1/3 なし
配偶者とともに相続したとき 1/2 1/2 配偶者のみ1/2

⑶ 個々の法定相続人の遺留分額(法定相続分の割合をかける)

相続人が複数人である場合、遺留分権利者それぞれに残されるべき遺留分の額は、法定相続分の割合を掛けて算出します(民1042Ⅱ→民900.901)。

⑷ 遺留分侵害額

侵害された遺留分額(減殺請求できる額)は、遺留分額から貰ったものを全て引いて計算します(民1046Ⅱ)。

 

 

遺留分額

(民1042)

 

 

 

 

遺留分権利者が遺贈を受けた額

(民1046Ⅱ①)

遺留分権利者の特別受益の額

(民1046Ⅱ①)

遺留分権利者が相続で得たプラス財産額(民1046Ⅱ②)

 

 

遺留分権利者が相続で承継するマイナス財産額

(民1046Ⅱ③)


侵害額を負担する順序


遺留分侵害額請求を受けた受贈者・受益相続人がどういう順序で遺留分侵害額を遺留分権者に渡せばよいか順序が決められています(民1047)。

もっとも遺留分権者としては受贈者・受益相続人全員に対して、一斉に遺留分侵害額請求(通常は内容証明郵便で行ないます。)すれば結構です。

  1. 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する(民1047Ⅰ①)。
  2. 受遺者複数又は受贈者複数ある場合でその贈与が同時になされたときは、目的の価額の割合に応じて負担する。遺言者が遺言で別段の意思表示をしたときはその意思に従う(民1047Ⅰ②)。
  3. 死因贈与は、遺贈に次いで、生前贈与よりも先に減殺される(東京高裁H12.3.8)
  4. 遺贈・死因贈与を減殺しても、遺留分に満たないときは、相続開始時に近い贈与から順に減殺される(民1047Ⅰ③)。

「特別受益の持戻し免除」と「遺留分」の関係


遺留分が優先されます。

つまり、持戻し免除がなされたとしても、遺留分算定にあたっては、特別受益は遺留分算定の基礎となる財産額に参入され、また、遺留分減殺の対象になります(最高裁平成24.1.26決定)。

 

また、遺留分減殺の算定に入れる特別受益の範囲は、過去10年内になされたものに限定されることとなりました(改正民法1044Ⅲ)

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