合同会社の社員が死亡したときに必要な相続手続と会社法手続


合同会社の社員(業務執行社員、代表社員)が死亡したとき、その相続手続は、株式会社よりも相当複雑です。

株式会社では経営と所有が完全に分離されており(経営は取締役、所有は株式)、なおかつ、取締役の地位は相続の対象にならないため、単に株式について相続手続を行えばすみます。

ところが、合同会社においては、経営と所有が分離されていない「社員という地位」の相続手続になるため、複雑になっているのです。

この記事ではフローチャートを掲載することで、皆様の理解を深めたいと思います。フローチャートⅠから始め、あとは文中の指示に従ってください。

 

ちなみに「合同会社の社員」とは、従業員という意味ではなく、合同会社に出資したり経営に参加している社員のことをいい、社員が誰であるかは定款に記載されています。

もくじ
  1. フローチャートⅠ
    手順1■定款規定をチェック
  2. フローチャートⅡ(定款に持分承継規定があるとき)
    手順2■相続人の確定
    手順3■相続人間で遺産分割協議
    手順4■(他の社員がいる場合には)当該社員との協議
  3. フローチャートⅢ(定款に持分承継規定がないとき)
    手順5■合同会社への参加に向けた手続
    手順6■持分の払戻を受ける手続
    手順7■法人の清算へ向けた手続⑴ー法人を清算するしかない
    手順8■法人の清算へ向けた手続⑵ー誰が清算人になるのか
  4. 参考文献

フローチャートⅠ


手順1■定款規定をチェック

まずは定款規定のチェックからです。

合同会社の定款に次のいずれかの規定はありますか?!

  • 「社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合においては、当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継するものとする。」
  • 「社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合においては、当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継することができるものとする。」
ある
亡くなった社員の持分を承継して、持分を有する社員になります(会608ⅠⅡ)。

フローチャートⅡへ

ない

死亡は法定退社事由です(会607Ⅰ③) 。

相続人は社員になることはできず、退社に基づく持分払戻請求権を承継します(会611

)。 

フローチャートⅢへ

不明

合同会社への開示請求または

法務局への閲覧請求【1】 


 

【1】合同会社の定款が見つからないときは・・・

  • 合同会社の定款は、公証役場の定款認証を受けていませんので、公証役場への閲覧請求は無意味です。
  • 法務局に対して「登記簿の附属書類」すなわち「申請書とその添付書類」の閲覧請求を行います。閲覧請求には、社員が死亡した旨を証明する戸籍、貴方様がその相続人であることを証明する戸籍などが必要になります。コピーはさせてもらえませんので、カメラを持っていきます。

フローチャートⅡ(定款に持分承継規定がある)


手順2■相続人の確定

お亡くなりになった社員(以下「被相続人」といいます。)の相続人を確定します。

相続人を確定するためには、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍を取得します。

相続人は何人いらっしゃいましたか?

1名だけ

その1名の相続人が社員になります。したがって、その1名の相続人が社員として事業承継し、解散することも可能になります。

手順4へ進みます。

複数名いる

いったん相続人全員が社員となります。

家庭裁判所へ相続放棄申述をした相続人は社員にはなりません。

手順3へ進みます。


手順3■相続人間で遺産分割協議

遺産分割協議の効力は、相続開始時に遡及するのが原則です(民法909条)が、合同会社の「社員の地位」に関する遺産分割協議の効力が相続開始時に遡及するか否かについては、見解が分かれています。

理解の前提として、次の通達先例を頭に入れておく必要があります。

昭和34年1月14日民事甲2723回答
  定款に、無限責任社員が死亡したときはその相続人において当然入社する旨の規定のある合資会社の無限責任社員が死亡し、共同相続人間の遺産分割契約により相続人の1人が出資金の全部を取得し、その者のみの入社登記の申請があった場合は、却下する。

上記先例は、無限責任社員の地位は権利だけでなく義務を包含しているものである【1】から、いったん相続人全員を無限責任社員として登記することを要求しています。

【1】債権が遺産分割協議の対象になる一方、債務の遺産分割協議は債権者の承諾を得なければ効力を生じないことを思い出してください。

 

昭和38年5月14日民事甲第1357号回答
  有限責任社員の死亡による共同相続人中一部の者の入社による登記は受理しないのが相当である。

上記先例は、有限責任社員の地位であっても、無限責任社員の地位と同様であることを明らかにしています。

 

これらの先例を前提に次のとおり見解が分かれています。

  遡及しないとする説 遡及するとする説
各説
  • 株式と相違して合同会社の持分には、当該合同会社の所有者たる地位だけでなく、当該合同会社の業務執行者たる地位も含まれ、その業務執行済の効果は遺産分割の遡及効に馴染みませんし(遺産分割には期限もありません)、社員相互の人的結合が重視され社員の死亡を法定退社事由とする持分会社の中で合同会社だけ相続人の協議によって社員資格の承継者を決定することができるとするには無理があるといえないでしょうか。(金子登志男・監修/立花宏・著/商業登記実務から見た合同会社の運営と理論/中央経済社/2021年/45-47頁)
  • 上記の先例は、会社法の下でも、合名会社及び合資会社についてはなお妥当するであろう(中略)が、基本的に社員が会社債権者に対する直接の責任を負わず、会社法586条の規律も及ばない合同会社については、私見ではあるが、妥当しないようにも思われる(松井信憲著/商業登記ハンドブック[第4版]/商事法務/2021年/657頁)。
  • 上記先例と異なり、共同相続人全員の加入の登記をする必要はない(櫻庭倫著/平成26年商号・法人登記実務における諸問題/民事月報70巻5号49頁)
説の帰結
  1. 一旦、全相続人が社員として加入する。
  2. 遺産分割協議の結果、一部(または全部)の相続人が社員となる。
  3. 手順4(社員間で協議をし、業務執行社員、代表社員となった者のみ登記する。)
  1. 遺産分割協議の結果、一部(または全部)の相続人が社員となる。
  2. 手順4(社員間で協議をし、業務執行社員、代表社員となった者のみ登記する。)

私も、金子先生同様「法令の改正や明確な先例が現れるまでは、合同会社にあっても先例の見解に従った方が無難(金子登志男・監修/立花宏・著/商業登記実務から見た合同会社の運営と理論/中央経済社/2021年/46頁)」と考えています。

 

<令和5年12月18日以下追記>

遺産分割協議の効果が相続時点に遡及せず、一旦、全相続人が法定相続分において相続するというのであれば、既にそれは遺産分割協議とはいえないのではないか。

全相続人が法定相続分において確定的に相続した相続人は、相続人全員で協議せずとも、他の相続人との間で、有効に出資持分の譲渡をなし得ると思われる。

手順4■(他の社員がいる場合には)当該他の社員との協議

社員の中から業務執行社員や代表社員を特に定めている場合には、その地位は特定の社員の能力・信用を基礎として委託されたものであるため、一般に社員の持分が譲渡され、又は相続人に包括承継されたときでも、業務執行社員の地位や代表社員の地位が承継されるものではない(上柳克郎・鴻常夫・竹内昭夫・編集代表/新版注釈会社法⑴/有斐閣/1985年/244頁、314頁)とされていますので、複数相続人が社員持分を承継した場合や他にも社員がいる場合には、社員の中から業務執行社員や代表社員を選定します。

相続人がなることができるのは次の3つのいずれかです。

  1. 非業務執行社員(定款には記載されますが、登記はされません。)
  2. 業務執行社員(登記されます。)
  3. 代表社員(会社のトップです。登記されます。)

フローチャートⅢ(定款に持分承継規定がない)


死亡は法定退社事由です(会607Ⅰ③)ので、相続人は社員になることはできず、退社に基づく持分払戻請求権を承継しています(会611)。それを前提に・・・

合同会社には被相続人以外にも社員がいますか?

いる。
  • 合同会社は、当該他の社員が継いでくれています(解散していません。)。
  • 相続人は、合同会社に参加するか、持分の払戻を受けるかについて、当該他の社員と協議することができます。

合同会社に参加したい=手順5

持分払戻を受けたい=手順6へ

いません。被相続人が唯一の社員だった。
  • 唯一の社員が死亡した場合、社員が欠けたことになり合同会社は解散します(会641④)。

手順7へ


手順5■合同会社への参加に向けた手続

上記「手順2■相続人の確定」「手順3■相続人間で遺産分割協議」「手順4■社員との協議」を行います。

他の社員が、合同会社への参加を認めてくれるのであれば、持分払戻請求権を現物出資するなどして社員資格を再度取得したうえ、合同会社へ参加することができます。

一方、他の社員が、合同会社への参加を認めてくれないのであれば「手順6■持分の払戻を受ける」しか方法はありません(合同会社へ参加できません。)。

手順6■持分の払戻を受ける手続

持分の払戻しでは、被相続人による出資のうち資本金の額に計上されていた額が減少することになります(会社計算規則30Ⅱ①)。

退社に伴う「持分の払戻し」では、通常(1か月間または2か月間の)債権者保護手続を要することとなります(会社法635)ので、この手続終了後、払戻を受けることとなります。

手順7■法人の清算へ向けた手続⑴ー法人を清算するしかない。

合同会社の唯一の社員が死亡し、定款に「社員が死亡した場合又は合併により消滅した場合においては、当該社員の相続人その他の一般承継人が当該社員の持分を承継するものとする。」との規定がない場合には、その合同会社は、最終的には、事業を継続することができません。その理由は次のとおりです。

まず「社員が欠けたこと」は合同会社の解散事由です(会社法641)。 

会社法第641条(解散の事由)
  持分会社は、次に掲げる事由によって解散する。
  1. 定款で定めた存続期間の満了
  2. 定款で定めた解散の事由の発生
  3. 総社員の同意
  4. 社員が欠けたこと。
  5. 合併(合併により当該持分会社が消滅する場合に限る。)
  6. 破産手続開始の決定
  7. 第824条第1項又は第833条第2項の規定による解散を命ずる裁判

次に「社員が欠けたこと」を理由に解散した合同会社は、会社継続できません(会社法652Ⅱ)。

会社法第642条(持分会社の継続)
 
  1. 持分会社は、前条第1号から第3号までに掲げる事由によって解散した場合には、次章の規定による清算が結了するまで、社員の全部又は一部の同意によって、持分会社を継続することができる。
  2. 前項の場合には、持分会社を継続することについて同意しなかった社員は、持分会社が継続することとなった日に、退社する。

 

最後に、相続人が(払戻請求権を現物出資するなどして)社員加入することで何とかできないかと思われるかもしれませんが、解散した合同会社は清算をしなければならないとされており(会社法644)、しかも「清算の目的の範囲内において」しか能力を有さない(会社法645)ため、新たな社員加入は認められないというのが通説です。

会社法第644条(清算の開始原因)
  持分会社は、次に掲げる場合には、この章の定めるところにより、清算をしなければならない。
  1. 解散した場合(第641条第5号に掲げる事由によって解散した場合及び破産手続開始の決定により解散した場合であって当該破産手続が終了していない場合を除く。)

     

  2. 設立の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合
  3. 設立の取消しの訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合
会社法第645条(清算持分会社の能力)
  前条の規定により清算をする持分会社(以下「清算持分会社」という。)は、清算の目的の範囲内において、清算が結了するまではなお存続するものとみなす。

手順8■法人の清算へ向けた手続⑵ー誰が清算人になるのか

社員が欠けたことを理由に解散した合同会社の場合には、利害関係人の申立により裁判所が清算人になる者を選任します(会社法647Ⅲ)。

  • 合同会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行います。
  • 申立手数料はそれほどかかりませんが、清算人には通常弁護士が選任されることとなるため、その予納金が高額になります。スポットの清算人制度(不動産の任意売却のため、債権譲渡通知の受領のためなど)を導入することで予納金を低額に収める工夫をしている裁判所もあるようですので、詳細は、申立を担当する司法書士又は弁護士にご確認ください。

参考文献


以下3冊を参照しました。

  • 松井信憲『商業登記ハンドブック[第4版]』商事法務/2021年
  • 金子登志男・監修/立花宏・著『商業登記実務から見た合同会社の運営と理論』中央経済社/2021年
  • 泉水悟『事例解説 合同会社の登記』日本加除出版/2021年・・・手続を細かく場合分けして記載されており司法書士には使い易い。LEGALLIBRARYにも収蔵されている。