限定承認


ご親族がお亡くなりになると①財産も借金も引き継ぐか(単純承認)、②何も引き継がないのか(相続放棄)を3か月以内に決めなければなりません。

 

この単純承認と相続放棄の中間にあるのが「限定承認」です。

限定承認をすれば、もらった遺産の範囲内で、被相続人の借金を返済できます(民法922条)。

単純承認をしてしまって、プラス財産よりマイナス財産の方が大きかったときには、相続人は固有の財産(相続が始まる前に相続人が元々持っていた財産)からマイナス財産を返済しなければなりません。

  限定承認 相続放棄
特徴 もらった遺産の範囲内で、被相続人の借金を返済する。 遺産も借金も相続しない。

家裁への

申立手続

相続人全員が足並みを揃えて、全員で行う必要がある。 一人ずつ自分で判断して行う。
難易度

譲渡所得税がかかる可能性があり、税理士との連携必須。

遺産を換価し配当を要する

手続きは相当困難。

お一人でも不可能ではない。

ただし、限定承認をした場合には、相続税とは別に譲渡所得税が発生します。

おそらくプラスだろうけど念のためにという感覚でやると相続財産の大幅な目減りを招くことになります。当グループでは、専門の税理士とガッチリとタッグを組んで、税負担も考えた相続プランの立案と実行を支援しています。

もくじ
  1. 限定承認のメリット
  2. 限定承認を選択する基準
  3. 限定承認の流れ
  4. 標準的な所要時間
  5. 司法書士の報酬・費用
  6. Q&Aよくある問合せ
  7. 人気の関連ページ

限定承認のメリット


1.相続人の自腹で借金返済せずにすむ

遺産以上の借金があっても、遺産の範囲内で返済すればすむ。

2.先買権を行使すれば、不動産などどうしても必要なものを相続できる。

限定承認では財産を原則として競売しますが、不動産などどうしても相続したいものがあれば先買権という権利を行使すれば、時価で入手することが出来ます。

限定承認を選択する基準


限定承認を行うと、被相続人が相続人に対して、相続財産を時価で売却したものとみなされ被相続人に「みなし譲渡所得税」が課税されます。

これは、先買権を行使したときに限定されず、限定承認をした場合すべてに当てはまります。

CF.単純承認した場合には、所得税はかかりません。

つまり・・・

借金がありそうだからと、取り敢えず限定承認しておくと・・・単純承認するよりも損をすることもある。
プラス財産 > マイナス財産 +  譲渡所得税 

のときには、限定承認しない方がよい。

∵ 所得税がない分、単純承認した方が手元には多く残る。

∵ 限定承認の専門家費用は、単純承認と比較して、結構かかる。

プラス財産 < マイナス財産 +  譲渡所得税 + 専門家費用
譲渡所得税がかかるのも、専門家費用が高いのも分かったが、先買権を使って自宅を守りたい。

また、限定承認をした場合にも相続税が課税されますので、ご注意ください。

限定承認の流れ


相続の開始

期限がとても短いですので、出来るだけお早目にご相談ください。

お亡くなりになる前に、ご相談いただいても結構です。

ご相談の予約

最寄りの当グループ事務所にご相談ください。

当グループでは、資産税・相続税に詳しい税理士さんにも同席いただきます。税務に関するご相談にも、ご回答可能です。

相続人間で協議

限定承認は、相続人全員が足並みをそろえる必要があり、一人でも単純承認する方がいると出来ません。相続放棄した方がいても、その方を除いて合意すれば大丈夫です。

相続の承認・放棄の期間伸長の申立

通常3か月では、調査や限定承認申立が完了することはありません。

そこで家裁に申し立てて、この期間を伸長してもらいます。

みなし譲渡所得税試算

相続財産調査、負債調査

相続人間で協議

財産と負債、譲渡所得税が明らかになった段階でもう一度相続人間で協議をお願いします。

限定承認は、相続人全員が足並みをそろえる必要があり、一人でも単純承認する方がいると出来ません。相続放棄したい方がいても、その方には相続放棄をしていただき、それ以外の方で限定承認を申し立てることを合意すれば大丈夫です。

相続の限定承認申立

司法書士が作成した限定承認申立書に、相続人全員でご署名いただき、司法書士が管轄家庭裁判所に申立書を提出します。

照会書への回答

申立から1~2週間で、裁判所から申立人に対して、照会書が送付されてきますので、司法書士にご連絡ください。内容をご説明し、間違いのない回答の方法をお伝えします。

限定承認申述受理審判

(相続人が1人しかいないとき)

相続財産管理人は選任されず、限定承認の申述をした限定承認者が手続きを進めます。

(相続人が複数であるとき)

相続財産管理人選任審判

申述受理審判と同時に、共同相続人の一人が相続財産管理人に選任されます。

共同相続人の中で、相続財産管理人候補を選んでいる場合は、その方を選任してほしいという上申書を申述段階で提出しておくか、家裁からの照会があった段階でその旨を伝えます。


官報公告・催告

期間内(限定承認者の場合は5日以内、相続財産管理人の場合は選任後10日以内)に

①限定承認した旨

②債権の請求をすべき旨

を官報に公告し、知れたる債権者に対して個別に催告します。通常は内容証明郵便で郵送しますが、司法書士がお手伝いいたします。

財産管理口座を作成

銀行口座を解約し、管理口座にまとめる。

財産の換価処分

(原則)

競売の申立

限定承認者全員の名義に法定相続登記を行ったうえ、限定承認者・相続財産管理人が競売の申立を行います。

第三者が競落する可能性があります。

(相続人が優先的に買いたいとき)

先買権行使のための鑑定人選任申立

鑑定人が「時価」を鑑定

不動産鑑定士など鑑定人を先買権行使の際に推薦することも出来ますが、これを認めるかは裁判所の判断です。

先買権行使の通知

優先的に買いたい相続人が、限定承認者・相続財産管理人に対して、鑑定価格以上で「先買権行使」を行う旨通知。

金銭交付

先買権行使者が、限定承認者・相続財産管理人に対して、自分の固有財産から金銭を支払います。

この時点で、先買権行使目的財産は、相続財産から解放されます。

限定承認者・相続財産管理人は、受け取った金銭を相続財産として管理します。

先買権行使者への名義変更


相続債権者・受遺者への弁済

官報掲載から2か月経過後(民928条)、相続財産すべての換価処分が終わっていれば、

❶知れたる債権者・申し出があった債権者に対して弁済を行います。

全額弁済できないときは、それぞれの債権額の割合に応じて按分弁済します。

❷受遺者に対する弁済は、債権者に対する弁済の後になります(民931)。

❸届け出をしなかった債権者への弁済を行います。

残余財産の処分

標準的な所要時間


どれだけ急いでも1年前後かかります。

司法書士の報酬・費用


手続き  司法書士の報酬(税込) 実費
(戸籍収集) 11,000~33,000円程度 1万円程度
みなし譲渡所得税試算 (税理士報酬;資産内容によりお見積り)  
(相続財産調査)

調査範囲によります。

照会先1か所につき1,100~2,200円

郵送費
(負債調査) 33,000円 3千円ほど
(相続の承認・放棄の期間伸長の申立) 55,000円/相続人お一人

相続人一人につき800円

郵送費

相続の限定承認申立 220,000円

被相続人一人につき800円

郵送費

申立後のご相談・手続き援助

22,000円×5回程度

 
鑑定人選任申立

110,000円

(別途鑑定人報酬:不動産規模により220,000円~)

被相続人一人につき800円

郵送費

法定相続登記 55,000円 固定資産税評価額の4/1000が登録免許税
先買権行使による登記 55,000円 固定資産税評価額の20/1000が登録免許税
合計

ざっくり55万~66万円ほど

別途、税理士報酬・鑑定士報酬が必要です。

 

Q&Aよくある問い合わせ


限定承認と税務

Q.限定承認した場合、みなし譲渡所得税が課税される可能性があるそうですが、相続税もかかりますか?

限定承認も相続する手続きですので、相続税もかかる可能性があります。当グループでは限定承認のご相談を受ける際には、資産税・相続税に詳しい税理士さんに同席いただくなどして、税務に関するご相談にも同時に対応いたします(平成31年3月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)。


限定承認と裁判所手続き

Q.限定承認手続き中に、相続財産の債務超過が判明した場合は、相続財産の破産などになるのですか?

確かに相続財産について破産手続開始申立をすることはできます(破産法224)が、実務上は、破産申し立てを行わず、限定承認手続きの中で清算する(按分配当する。民法929)のがほとんどです(平成31年3月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)。


Q.限定承認に関して裁判所の関与はどこまで行われますか?

相続財産管理人選任までです。その後必要な官報公告や債権者への弁済は、限定承認者・相続財産管理人が行ないます。第三者の管財人が選任されることもなく裁判所は関与しません。よって手続き終了報告なども特に必要とされていません。

もっとも、各手続きは、司法書士が順次アドバイスさせていただきますので、ご安心いただけます。

(平成31年3月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)


Q.限定承認の中で任意売却するとどうなりますか?!

限定承認手続きにおいて、財産を換価する場合、認められているのは、競売か先買権行使かの二通りしかありません。任意に売却すると、債権者の利益を害するおそれがあるからです。

任意売却してしまうと、限定承認手続き外で、相続財産の一部を処分したこととなり、単純承認したことになります(法定単純承認。民法921)。単純承認したことになると、被相続人の借金が遺産全部では返済できない場合、相続人が自腹を切って返済する必要が生じるのです。この点、ご注意くださいますようお願いします。(平成31年3月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)。


不動産への先買権行使と不動産登記

Q.不動産に対して、先買い権を行使した場合、その登記は、裁判所の嘱託登記でしょうか?それとも相続登記を申請しなければなりませんか?

裁判所の嘱託で登記する規定がありませんので、次のとおり登記申請する必要があります。

❶限定承認申立によって、限定承認者全員の共有になっていますので、限定承認者全員名義に相続登記を行います。

❷先買い権行使による移転登記

登記の目的:甲野太郎・甲野次郎(先買権行使者以外の全員)持分全部移転

登記原因:年月日民法932条但書の価額弁済

(平成31年3月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)


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