医療法人には医療法の解散事由以外に、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の解散事由も適用されるのか?!


例えば、財団である医療法人(医療法人財団)は、2期連続純資産額が300万円を下回ったときには解散しなければならないのでしょうか?!

この解散事由は、一般財団法人の解散事由としては明記されています(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律202)が、医療法人の解散事由としては記載されていません(医療法55)。

では、財団である医療法人はどうなるのでしょうか?!

なかなかマニアックな論点ですが、ウェブや法律書を検索しても明確な答えが見つけられませんでしたので、解説します。

もくじ
  1. 医療法人には、社団と財団がある。
  2. 医療法人に、一般法人法は準用されているか?
    1. 医療法は、包括的な条文で一般法人法を準用しているか?
    2. 医療法は、個別条文で一般法人法を準用しているか?
    3. 医療法は、解散事由について一般法人法を準用しているか?
  3. 医療法は、医療法人独自の解散事由を定めている。
    1. 「財団たる医療法人」と「普通の一般財団法人」の解散事由比較
    2. 「社団たる医療法人」と「普通の一般社団法人」の解散事由比較
  4. 出版物ではどうなっているか?
  5. 各都道府県が公開している「寄付行為のひな形」ではどうなっているか?
  6. 本来ならば、医療法の立法趣旨などから考えるべき。
  7. 結論

〔凡例〕このページでは、以下の略記を行います。

一般法人法:一般社団法人及び一般財団法人に関する法律

医療法人には、社団と財団がある


医療法人を大きく分けると、医療法人「社団」と医療法人「財団」に分かれます。

近年、医療法ではなく、一般法人法に基づき設立された「医療一般社団法人」や「医療一般財団法人」も出てきていますが、まだまだ少数ですので、この記事では、医療法人社団と医療法人財団について解説しています。

医療法第39条
 
  1. 病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
  2. 前項の規定による法人は、医療法人と称する。

このコラムでは、論点がズレるため詳しく説明しませんが、もう少し医療法人の種類について確認したい方は、記事「法人である医療機関の全種類を分類&解説」をご参照ください。

また、コラム「医療法人を設立する際、正式名称に『社団』『財団』は必要なのか?!」もご参照ください。

医療法人に、一般法人法は準用されているか?


まず、医療法は、包括的な条文で一般法人法を準用しているか?

医療法には「医療法人には、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律を準用する」旨を定めた条項は存在しません。

次に、医療法は、個別条文で一般法人法を準用しているか?

医療法を「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」で検索すると次のような条文が準用されています。

医療法第46条の3の6
  一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)第57条の規定は、医療法人の社員総会について準用する。(以下略)
医療法第46条の4の7
  一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第193条の規定は、医療法人の評議員会について準用する。(以下略)
医療法第46条の5の4
  一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第72条及び第74条(第4項を除く。)の規定は、社団たる医療法人及び財団たる医療法人の役員の選任及び解任について準用する。(以下略)

その他、医療法は、多くの場面で一般法人法を準用しています。

 

ところが、医療法は、解散事由については一般法人法を準用していません。

医療法は、医療法人独自の解散事由を定めている。


医療法は、解散事由について一般法人法を準用していないどころか、医療法独自の解散事由を定めています。

医療法第55条
 
  1. 社団たる医療法人は、次の事由によつて解散する。
    1. 定款をもつて定めた解散事由の発生
    2. 目的たる業務の成功の不能
    3. 社員総会の決議
    4. 他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。次条第1項及び第56条の3において同じ。)
    5. 社員の欠亡
    6. 破産手続開始の決定
    7. 設立認可の取消し
  2. 社団たる医療法人は、総社員の4分の3以上の賛成がなければ、前項第3号の社員総会の決議をすることができない。ただし、定款に別段の定めがあるときは、この限りでない。
  3. 財団たる医療法人は、次に掲げる事由によつて解散する。
    1. 寄附行為をもつて定めた解散事由の発生
    2. 第1項第2号、第4号、第6号又は第7号に掲げる事由
  4. 医療法人がその債務につきその財産をもつて完済することができなくなつた場合には、裁判所は、理事若しくは債権者の申立てにより又は職権で、破産手続開始の決定をする。
  5. 前項に規定する場合には、理事は、直ちに破産手続開始の申立てをしなければならない。
  6. 第1項第2号又は第3号に掲げる事由による解散は、都道府県知事の認可を受けなければ、その効力を生じない。
  7. 都道府県知事は、前項の認可をし、又は認可をしない処分をするに当たつては、あらかじめ、都道府県医療審議会の意見を聴かなければならない。
  8. 清算人は、第1項第1号若しくは第5号又は第3項第1号に掲げる事由によつて医療法人が解散した場合には、都道府県知事にその旨を届け出なければならない。

「財団たる医療法人」と「普通の一般財団法人」の解散事由

「財団たる医療法人」と「普通の一般財団法人」の解散事由を並べて比較すると分かりやすいかもしれません。

普通の一般財団法人の解散事由が、財団たる医療法人にも適用されなら、重なる部分もない筈です。

財団たる医療法人の解散事由 普通の一般財団法人の解散事由
(医療法) (一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)
  定款で定めた存続期間の満了(202Ⅰ①)
寄附行為をもつて定めた解散事由の発生(55Ⅲ①) 定款で定めた解散の事由の発生(202Ⅰ②)

目的たる業務の成功の不能(55Ⅲ②→55Ⅰ②)

基本財産の滅失その他の事由による一般財団法人の目的である事業の成功の不能(202Ⅰ③)

他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。次条第1項及び第56条の3において同じ。)

 

(55Ⅲ②→55Ⅰ④)

合併(合併により当該一般財団法人が消滅する場合に限る。)(202Ⅰ④)

破産手続開始の決定(55Ⅲ②→55Ⅰ⑥)

破産手続開始の決定(202Ⅰ⑤)
設立認可の取消し(55Ⅲ②→55Ⅰ⑦)  
  261条第1項又は第268条の規定による解散を命ずる裁判(202Ⅰ⑥)
  一般財団法人は、前項各号に掲げる事由のほか、ある事業年度及びその翌事業年度に係る貸借対照表上の純資産額がいずれも300万円未満となった場合においても、当該翌事業年度に関する定時評議員会の終結の時に解散する。

 

202Ⅱ)

  新設合併により設立する一般財団法人は、前項に規定する場合のほか、第199条において準用する第223条第1項の貸借対照表及びその成立の日の属する事業年度に係る貸借対照表上の純資産額がいずれも300万円未満となった場合においても、当該事業年度に関する定時評議員会の終結の時に解散する。(202Ⅲ)
  みなし解散(203)

「社団たる医療法人」と「普通の一般社団法人」の解散事由

ついでに「社団たる医療法人」と「普通の一般社団法人」の解散事由も並べて比較しておきます。

社団たる医療法人の解散事由 普通の一般社団法人の解散事由
(医療法) (一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)
  定款で定めた存続期間の満了(148①)
定款をもつて定めた解散事由の発生(55Ⅰ①) 定款で定めた解散の事由の発生(148②)
目的たる業務の成功の不能(55Ⅰ②)  
社員総会の決議(55Ⅰ③) 社員総会の決議(148③)

他の医療法人との合併(合併により当該医療法人が消滅する場合に限る。次条第1項及び第56条の3において同じ。) 

(55Ⅰ④)

合併(合併により当該一般社団法人が消滅する場合に限る。)(148⑤)

社員の欠亡(55Ⅰ⑤)

社員が欠けたこと(148④)

破産手続開始の決定(55Ⅰ⑥)

破産手続開始の決定(148⑥)
設立認可の取消し(55Ⅰ⑦)  
  261条第1項又は第268条の規定による解散を命ずる裁判(148⑦)
  みなし解散(149)

出版物ではどうなっているか?


山中正登/著『第2版 Q&A 法人登記の実務 医療法人』(日本加除出版、2017年)167頁

「医療法人は、医療法55条所定の解散事由のほか、医療法人社団においては定款に基づく解散事由、医療法人財団においては寄附行為に基づく解散事由のいずれかの発生により解散し」とのみ記載があります。

「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律の解散事由が準用される」旨の記載はありません。また「純資産額300万円2期下回ると解散事由となる」旨の記載もありません。

各都道府県が公開している「寄付行為ひな形」ではどうなっているか?


医療法人の設立認可は、各都道府県が行います。そこで各都道府県はモデル定款を公開しています。

ちなみに、医療法人「社団」の定款は「定款」といいますが、医療法人「財団」の定款は「寄付行為」といいます。

東京都

大阪府

医療法所定の解散事由以外は、解散事由として記載されていません(財団たる医療法人の新寄付行為案/「改正医療法」特設ページ/大阪府HP/最終アクセス220429)

結論


よって、医療法人の解散事由には、一般財団法人の解散事由は適用されず、財団法人たる医療法人が仮に「ある事業年度及びその翌事業年度に係る貸借対照表上の純資産額がいずれも300万円未満となった場合においても、当該翌事業年度に関する定時評議員会の終結の時に解散する。」ことはありません。

人気の関連ページ

医療機関に関する法人登記(独自の論点)

全ての法人に共通

医療機関向け法務支援サービス