隣地が境界ギリギリに建築するのを止められませんか?!


民法は「建物を築造するには、境界線から50㎝以上の距離を保たなければならない」と定め、これに反して建築しようする者に対しては、隣地所有者が、建築中止や変更を請求できるとしています(民234)。ところが、街中を見渡すと、ピッタリとくっついて建築されている建物がたくさんあります。これらは全て法律違反の建築物なのでしょうか?

また、隣地の建築が法律違反であった場合には、隣地所有者はどういう対策をすることができるのでしょうか?

このコラムでは、そんなあなたの疑問に回答します。

もくじ
  1. 民法第234条
  2. 建築基準法第63条(旧第65条)
  3. 民法第234条と建築基準法第63条の関係
    1. 最高裁第三小法廷平成元年9月19日判決(昭58(オ)1413号・建物収去等請求事件)
    2. まとめ
  4. 「隣地の建設が合法か否か」の確認方法
    1. 防火地域・準防火地域の調べ方
    2. 「耐火構造」とは何か?
    3. 隣地建物が「耐火構造」か否かの調べ方
    4. 要件のどちらかを満たしていなかった場合
    5. 建物の境界からの距離
  5. やっぱり違法だったときの「あなたの選択肢」
  6. 司法書士の報酬・費用

民法第234条


民法第234条(境界線付近の建築の制限)
 
  1. 建物を築造するには、境界線から50㎝以上の距離を保たなければならない。
  2. 前項の規定に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる。ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができる。

民法第234条の趣旨

民法第234条第1項の趣旨は、建物と境界線との間に一定の間隔を保持することにより、通風や衛生を良好に保ち、類焼等の災害の拡大を防止し、また、境界線付近における建物の築造及び修繕の際に通行すべき空き地を確保することにある(東京地裁平成4年1月28日判決・判タ808号205頁)。

建築基準法第63条(旧第65条)


ところが、建築基準法には、前記民法の規定と相反する規定が存在しています。

建築基準法第63条(隣地境界線に接する外壁)
   防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。

建築基準法第63条の趣旨

  • 耐火構造の外壁を設けることが防火上望ましい。
  • 防火地域又は準防火地域における土地の合理的ないし効率的な利用を図る。

(下記、最高裁平成元年9月19日判決を参照ください。)

民法第234条と建築基準法第63条の関係


民法第234条と建築基準法第63条は、相反しているように見えます。

やはり裁判でも争われ、その結果、両規定の関係が明らかになっています。

最高裁第三小法廷平成元年9月19日判決(昭58(オ)1413号・建物収去等請求事件)

◆要旨
 

建築基準法63条所定の建築物の建築には、民法234条1項は適用されない。

◆抜粋
   建築基準法65条【1】は、防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨規定しているが、これは、同条所定の建築物に限り、その建物については民法234条1項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当である。けだし、建築基準法65条は、耐火構造の外壁を設けることが防火上望ましいという見地や、防火地域又は準防火地域における土地の合理的ないし効率的な利用を図るという見地に基づき、相隣関係を規律する趣旨で、右各地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができることを規定したものと解すべきであって、このことは、次の点からしても明らかである。すなわち、第一に、同条の文言上、それ自体として、同法6条1項に基づく確認申請の審査に際しよるべき基準を定めたものと理解することはできないこと、第二に、建築基準法及びその他の法令において、右確認申請の審査基準として、防火地域又は準防火地域における建築物の外壁と隣地境界線との間の距離につき直接規制している原則的な規定はない(建築基準法において、隣地境界線と建築物の外壁との間の距離につき直接規制しているものとしては、第一種住居専用地域内における外壁の後退距離の限度を定めている五四条の規定があるにとどまる。)から、建築基準法65条を、何らかの建築確認申請の審査基準を緩和する趣旨の例外規定と理解することはできないことからすると、同条は、建物を建築するには、境界線から50センチメートル以上の距離を置くべきものとしている民法234条1項の特則を定めたものと解して初めて、その規定の意味を見いだしうるからである。

【1】最高裁判決がなされた平成元年当時、現行建築基準法第63条は第65条に全く同じ文言のまま規定されていました。

まとめ

原則 建物を築造するには、境界線から50㎝以上の距離を保たなければならない(民法234)。
例外

防火地域又は準防火地域内にある建築物で、なおかつ、外壁が耐火構造のもの

→その外壁を隣地境界線に接して設けることができる(建築基準法63)。

「隣地の建設が合法か否か」の確認方法


建築基準法第63条は「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる。」と規定していますので、要件は次の二つ(両方満たす必要がある。)になります。

  1. 防火地域又は準防火地域内であること。
  2. 隣地に建設される建物の「外壁が耐火構造」であること。

防火地域・準防火地域の調べ方

インターネットの検索エンジン(Googleなど)で「建物の建っている市町村名」、「防火地域」そして「マップ」と入れて検索してください。

そうすると各市町村の用途地域マップが出てきます。

+印に所在している当事務所(あなまち司法書士事務所)は防火地域にある」ことがお分かりいただけると思います。

「耐火構造」とは何か?

「耐火構造」とよく似た言葉に「防火構造」というものがあります。

  • まず「耐火構造」とは、建物内部から出火した場合に周囲への延焼を防ぐ構造をいいます。「火災が起きた際にその建物自体を倒壊しにくくすること」「周囲の建物に燃え移らないこと」が「耐火」です。建物の内側に用いられます。
  • 次に「防火構造」とは、周辺の建物で発生した火災が、その建物に燃え移りしにくい構造をいいます。建物の外側に用いられます。 
建築基準法第2条(用語の定義)

 

この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

①~⑥ (略)

⑦ 耐火構造 壁、柱、床その他の建築物の部分の構造のうち、耐火性能(通常の火災が終了するまでの間当該火災による建築物の倒壊及び延焼を防止するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄筋コンクリート造、れんが造その他の構造で国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。

⑦の二 準耐火構造 壁、柱、床その他の建築物の部分の構造のうち、準耐火性能(通常の火災による延焼を抑制するために当該建築物の部分に必要とされる性能をいう。第九号の三ロにおいて同じ。)に関して政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。

⑧ 防火構造 建築物の外壁又は軒裏の構造のうち、防火性能(建築物の周囲において発生する通常の火災による延焼を抑制するために当該外壁又は軒裏に必要とされる性能をいう。)に関して政令で定める技術的基準に適合する鉄網モルタル塗、しつくい塗その他の構造で、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの又は国土交通大臣の認定を受けたものをいう。(以下略)

隣地建物が「耐火構造」か否かの調べ方

耐火構造か否かは「建築確認申請書(第四面)」に記載がありますので、隣地の建築主が、任意に見せてくれる場合には、確認ください。

【5.主要構造部】

 

□耐火構造

□建築基準法施行令第108条の3第1項第1号イ及びロに掲げる基準に適合する構造

□準耐火構造

□準耐火構造と同等の準耐火性能を有する構造(ロ―1)

□準耐火構造と同等の準耐火性能を有する構造(ロ―2)

□その他

 

隣地の建築主が任意に「建築確認」を見せてくれない場合には、どうすれば良いか?!

誰でも見ることができる「建築計画概要書」の記載事項とはなっていません(建築計画概要書が何なのか、建築計画概要書の閲覧方法については、コラム「隣地の建築計画はどこで確認するか?!(宅地開発から建物建築までの流れ)」を参照ください)。

建築確認書自体は、個人情報になるので、市町村は開示していません。指定確認検査機関への閲覧請求も、基本的には本人しかできません。

こういった場合には、①裁判所に対して建築工事中止の仮処分を申し立てるとともに調査嘱託を申し立てるか、②弁護士にご依頼のうえ弁護士法23条照会をしてもらうかしか方法はないであろうと思います。

 

隣地の建築主が任意に見せてくれた「建築確認」では「耐火構造」となっていれば安心してよいか?

建築確認申請では「耐火構造」としておきながら、建物の柱が木材の場合には、耐火構造とはいえませんので、現場も確認しておく必要があります。

要件の「どちらか」を満たしていなかった場合

要件のどちらかを満たしていなかった場合には、建築基準法第63条が認めている特例「境界に接しての建築」は認められませんので、原則通り民法第234条の規定が適用されることとなります。

そうすると、隣地の建築計画が違法かどうかは「建物の境界からの距離」によることとなります。

建物の境界からの距離

建物の境界からの距離に関して、二件の裁判例を見つけました。

  • 民法234条1項にいう50センチメートル以上の距離は、原決定説示の同項の趣旨により、建物の側壁またはこれと同視すべき出窓その他の張出し部分と境界線との間の最短距離を意味するものであって、建物の屋根または廂の各先端から鉛直に下した線が地表と交わる点と境界線との最短距離を意味しないと解するので相当である(東京高裁昭和58年2月7日判決)。
  • 民法234条1項は,通風・衛生を良好に保ち,類焼等の災害の拡大を防止し,境界線付近における建物の築造修繕の際に通行する空き地を確保するために,最低限度の境界線と建物との間隔を定めたものであることからすると,同項所定の50センチメートル以上の距離とは、建物の側壁又はこれと同視すべき出窓その他の張出部分と境界線との最短距離を定めたものであると解するのが相当である(東京地裁平成27年3月27日判決)。

これら二つの裁判例から分かることは、次の三点です。

  1. あくまで外壁からの距離
  2. 外壁に出窓がついていれば、出窓から境界までの距離
  3. (通常、外壁より境界に近くにくる)屋根や庇(ひさし)は、境界から50センチ離れ無くてよい。

やっぱり違法だったとき、あなたの選択肢


(境界から建物までの距離の規定に)違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができる(民法234Ⅱ本文)とされていますので、この規定に基づいて建築の中止や変更を求めることができます。

 

泣き寝入り(チャンスは二度と来ない)

ただし、建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後は、損害賠償請求ができるのみ(民法234Ⅱただし書)ですので、この期限を過ぎると燃えやすい建物が法律の許容する範囲を超えて隣に建っているという恐怖を感じながら生活していくことになります。

市区町村の建築指導課への指導要請

お金をかけずに解決する方法です。

行政には味方になってもらう必要がありますので、行政の動きが遅かったり対応に不満があっても、決して激昂することなく、しっかりとした資料や写真を持参して冷静に説明しましょう。

建築工事中止の仮処分申立て

建築指導課が動いてくれないなどあなたは、下記二つの方法から選択することが可能です。

  • 弁護士に依頼して仮処分の手続をまるごと依頼する方法
  • 司法書士に依頼して仮処分申立書作成+あなたご自身で法廷へ行く方法

仮処分の審理は、閉鎖された法廷で開かれるため司法書士は同席できません。

また、瞬発力も要求されますので、この手続は、弁護士にご依頼されることをオススメします。

なお、当グループであれば不動産に強い弁護士にご紹介することが可能です。

司法書士の報酬・費用


22~33万円(税込)