「親族」+「専門職」の複数後見人【事例紹介(後編)】


【事例】

Cは重度の知的障害者でグループホームで生活しています。Cの兄弟は、A・B・C・Dの4人兄弟で、とても仲が良い兄弟です。全員成年に達しており、AとBは自分の家庭を築き、Dは独身で海外赴任中です。先月、父親のXが死亡しました。母親のYは5年前に他界しています。したがって、Xの相続人は4人の子供たちです。Xの相続財産は、自宅の不動産(土地・建物)と預金の100万円だけでした。自宅に居住したい者はなく、A・B・Dの話し合いの結果、不動産を売却して売却代金と100万円を4等分するのがいいのではないかとなりました。

しかし、調べてみると、遺産分割をするにも、相続財産の不動産を売却するにもCの意思表示が必要であることがわかりました。

そこで、Aは、近所を流れる川のほとりにある司法書士事務所へ相談に行きました。事務所に行くと背が低いのに高野という名前の人物が出てきました。

  何となくわかってきたよ。他に注意点は?

Aさん


司法書士髙野

そうですね。Cさんの資産が高額になってしまうと後見制度支援信託をしてから辞任することになるでしょうね。  

  信託?後見の話してるんだよね?ん?

そうですね。Cさんの資産が高額になってしまうと後見制度支援信託をしてから辞任することになるでしょうね。  

  信託?後見の話してるんだよね?ん?

はい。Aさんの仰った信託とは全く別の話ですね。Aさんのは『家族信託』とか『民亊信託』というもので、私が言ったのは『後見制度支援信託』というもので、後見制度のなかの話です。一定の金額を信託銀行に信託し、簡単には出金できないようにするのです。具体的に言うと、出金するには家裁の指示が必要になるんですね。後見人だけでは出金できないんです。それで後見人による横領等を防ごうという。  

  ふーん。目安とかあるの?

私が知る限りでは、東京家裁本庁では手許の流動資産(普通預金・現金)が500万円以内になるように信託するという基準です(家裁によって違う可能性が充分考えられます)。なので、例えば、不動産売却して分割した結果、Cさんの預金額が1500万円になったとして、毎月の収支がプラス2万円の場合、手許を300万円くらいにするように1200万円を信託する、とかですかね。  

 

500万円じゃないの?


収支がプラスでスタートが500万円だと、すぐに超えちゃうじゃないですか。収支がマイナスならそれでもいいのかもしれませんけど、500を超えないように調整するということですね。  

  だったら、マイナスの場合は?足りなくなっちゃうじゃ?

いや、そういうケースでは、定期的に例えば2か月に1度信託口座から15万円を普通預金に自動的に振り替えるようなことが可能です。あ、そういえば、Cさんは重度の知的障害とおっしゃいましたよね?一応、この信託は類型が『後見』じゃないとだめなんですね。補助とか保佐では使えないんです。お話を聞く限りCさんは後見かなぁと思いますが、そういう注意点もあります。  

  なるほどなぁ。だいたい分かりました。他には・・・?

そうですね、Cさんのケースは問題がなさそうですけど、一応、遺産分割はCさんの法定相続分4分の1を確保することが目安になります。絶対というわけではありませんが、理由もなくCさんは0とか、半分だけとかは無理です。

あ、あと、本当に後見開始の申立てをするとなった場合に、その申立書類を作成することを私にご依頼いただくと、私の報酬と裁判所の手数料や実費などがかかります。

 

  それは誰が払うの?C?

いえ、申立てをするAさんにお支払いいただくことが原則になります。ただ、裁判所の手数料はCさんの財産から返してもらうことができます。  

  ほかはお金かからない?

あとは・・・、可能性としては1割以下なんですけど、申立をしてから裁判所がご本人の状態を確認するために『鑑定をします』と言うことがあります。そうなると鑑定費用というのを納める必要があり、5万円前後が多いかなと思いますがデータ上は10万円というようなケースもあるようです。  

  そうか、じゃあ、わかりました。そういう感じで、複数ってやつで申立書類を作ってください。

分かりました。  

まとめ


いかがでしたでしょうか。イメージがつかめたでしょうか。事例のようなケース以外では「8050問題」「親亡きあと問題」に備えるためにも使えると思います。親御さんがお元気なうちに専門職と複数後見でお子さんの支援にあたり、定期的に3人で会うようにし、親御さんがお亡くなりになったあとも本人が知っている後見人が残ることで、ご本人も安心できると思います。専門職は、ご本人のことを一番よく知っている親御さんから話を聞けますし、信頼関係を構築することができれば将来の不安を少しでも減らして親御さんも旅立てると思います。

 

他のケースにおいても、複数後見を上手に使いこなしていただければ、とても良い選択肢になり得ると思いますので、ご検討されてみてはいかがでしょうか。

この記事の執筆者


司法書士 髙野守道

川のほとり司法書士事務所

平成28年司法書士登録

葛飾生まれ、葛飾育ち、葛飾在住、事務所も葛飾

 

開業当初から、世の中の「困った」を一つでも多く解消すること、軽減させることを念頭に、先義後利の精神で今日も駆けずり回っている。

義理と人情溢れる下町の頼りになる司法書士になれたらいいな、なれるといいな。



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