債権者保護手続の催告は到達が必要です(スケジュールは余裕をもって設計を)


債権者保護手続(旧・債権者異議手続)を要する手続では、公告及び催告が必要とされています。

本コラムでは、この「催告」に焦点をあてて説明します。催告は到達が必要で、到達から債権者保護手続期間が開始するので、スケジュールは余裕をもって設計をしてくださいねというお話しです。

この記事は、司法書士ほか専門家向けの記事です。

もくじ
  1. 到達主義か発信主義か
  2. 異議申述期間をどう定めるか?
    1. 問題点
    2. 解決方法
    3. 各スキームの比較
    4. いずれにしても・・・
  3. 債権者から異議が出たときは、それへの対応が完了しないと会社登記を申請できない。
  4. 参考文献 
  5. 執筆者の紹介
  6. 人気の関連ページ

到達主義か発信主義か


債権者保護手続に関する規定(会449条、789条、799条など)は、株主に対する通知(会126条)のような民法97条に対する例外規定になっていません。

したがって(意思表示に関する)原則通り「到達主義」が採用されています(下記文献同趣旨)。

  • 司法書士・電子広告調査株式会社代表取締役土井万二/最近の債権者保護手続の傾向と問題点『登記情報682号』金融財政事情研究会/2018/7頁
  • 塩野誠、宮下和昌著『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック第2版』東洋経済新報社/2021/489頁
  • 森・濱田松本法律事務所 編 石綿学 著 石井裕介 著 小松岳志 著 邉英基 著 高谷知佐子 著 戸嶋浩二 著 金丸祐子 著 藤田知也 著『新・会社法実務問題シリーズ/9組織再編〈第3版〉』(中央経済社、2022年)286頁
  • 森・濱田松本法律事務所/編『M&A法大系』(有斐閣、2015年)717頁
  • 宍戸善一 (一橋大学教授)/監修 岩倉正和 (一橋大学教授・弁護士),佐藤丈文 (弁護士)/編著『会社法実務解説』(有斐閣、2011年)454頁
【比較】会社法126条
 
  1. 株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。
  2. 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
  3. ~5.(略)

異議申述期間をどう定めるか


問題点

官報公告と催告書で債権者保護手続を行うと、債権者の異議申述期間が二重になる場合があります。

すなわち①官報公告の掲載日を起算点とする申述期間と②催告書の到達日を基準とする申述期間の二つが存在することになります。

解決方法

上記を解消する方法としては、下記の方法が考えられます。

  1. 官報は「本公告掲載の翌日から1か月」とし、催告書には「本書到達日の翌日から1か月」として申述期間を定める 【1】。
  2. 2か月弱の申述期間をとって確定期日を「令和○年○月○日まで」と官報および催告書に掲載する【2】。
  3. 個別催告の発送から受取までの時間を考慮し1か月に数日~1週間程度【3】を加えた日を申述期間として定め「令和○年○月○日まで」と確定期日を官報と催告書に掲載する。
  4. ダブル(二重)公告を行う【4】。

【1】官報と催告書に定める異議申述期間は必ずしも一致する必要はない(神﨑満治郎他編著『商業・法人登記360問』テイハン/2018/314頁)。

【2】司法書士・電子広告調査株式会社代表取締役土井万二/最近の債権者保護手続の傾向と問題点『登記情報682号』金融財政事情研究会/2018/6頁

【3】 債権者保護手続の期間は1か月を下回ることができないとされているので、1か月を超える分には問題が無い(会社法449条ほか)。

【4】ダブル公告とは、「官報」と「定款規定の公告方法」の両方に債権者に対する公告を行う方法で、個別催告を省略することが可能です。

各スキームの比較

上の方法を比較すると次のとおりです。 

  メリット デメリット
  • 細かい申述期間を計算する必要が無い。
  • 債権者毎に異なる申述期間が存在することになるので、管理に手間がかかる【1】。
  • 官報が掲載されてから催告書を発送する場合でも対応がしやすい【2】。
  • 債権者への到達時期がずれても手続的な瑕疵が発生しにくい。
  • 急ぎの場合には向かない。
  • 官報に掲載されてから催告書を発送する場合でも対応がしやすい。
  • 債権者への到達時期がずれても手続的な瑕疵が発生しにくい。
  • ②に比べると短期間で終わる。
  • 1か月に加える期間の見積が甘いと手続上の瑕疵となる【3】。

 

  • 債権者ごとの到達日を確認する必要がない。
  • 債権者数が多い場合【4】には有効。
  • 密行性を確保する必要がある場合には有効。

 

  • 登記されている公告方法が官報の場合は、事前に定款変更決議が必要で、公告開始までに登記申請しておく必要がある(急ぎの場合には向かない。)。
  • 電子公告にする場合は、①専用HPを設ける必要があり、②電子公告が途切れたときに債権者保護手続の瑕疵となる可能性があり、③電子公告調査費用が15万~18万円かかる。
  • 債権者数が少ないとき【4】にダブル公告をすると余分な経費がかかる。
  • 二重公告ができない場合がある【5】

【1】各債権者に到達した時期から少なくとも1か月を要する。

【2】催告書に記載する申述期間を官報掲載から2か月後弱に設定すればよく、会社法上の期間も満たせるため。

【3】債権者保護手続が完了していない場合は、資本金の減少手続、合併は効力を生じない。また、合併等の場合は効力発生日より前に手続を完了させる必要がある(会449Ⅵ①、750Ⅵほか、江頭憲治郎著『株式会社法』有斐閣/2021/724頁、913頁)。

【4】「個別催告発送代行費用+郵送費 > 公告方法変更登記費用+日刊紙公告費用」という方程式が成立する場合にはじめてダブル公告の予算上のメリットが発生します。当グループの場合には、次のとおり債権者数220人以上のとき、はじめてダブル公告に予算上のメリットが発生します。

(個別催告の発送代行1,100円+特定記録郵送費164円)×債権者数X > 

(公告方法の変更登記報酬約5万円+実費約4万円)+日刊紙公告(日刊工業新聞の場合は約19万円)

1,264円×債権者数X > 28万円

【5】下記の場合には、ダブル公告はできず、個別催告を行う必要があります。

  • 吸収分割の場合で不法行為債権者が存在する場合(会789Ⅲ)
  • 合名会社、合資会社が株式会社へ組織変更をする場合である(無限責任社員が消滅するため、債権者に対する影響が大きい。会781Ⅱ→779Ⅲを合名会社・合資会社には準用していない)。

いずれにしても・・・

上記スキームの中から、最も都合の良いものを選択いただければ幸いです。

いずれにしましても、公告・催告開始時期は、期日の2か月ほど前に設定しておくのが、専門家としては賢明だと思われます。

債権者から異議が出たときは、それへの対応が完了しないと会社登記を申請できない。


さらに公告と催告が完了していたとしても、会社法第810条(債権者の異議)が完了しないと、登記をすることができません。

会社法第922条(新設合併の登記)
 
  1. 二以上の会社が新設合併をする場合において、新設合併により設立する会社が株式会社であるときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める日から二週間以内に、その本店の所在地において、新設合併により消滅する会社については解散の登記をし、新設合併により設立する会社については設立の登記をしなければならない。

    一 新設合併により消滅する会社が株式会社のみである場合 次に掲げる日のいずれか遅い日

     イ~二 (略) 

     ホ 第810条の規定による手続が終了した日

     ヘ (略)

    二 新設合併により消滅する会社が持分会社のみである場合 次に掲げる日のいずれか遅い日

     イ (略)

     ロ 第813条第2項において準用する第810条の規定による手続が終了した日

     ハ (略)

    三 新設合併により消滅する会社が株式会社及び持分会社である場合(略)

  2. 二以上の会社が新設合併をする場合において、新設合併により設立する会社が持分会社であるときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める日から二週間以内に、その本店の所在地において、新設合併により消滅する会社については解散の登記をし、新設合併により設立する会社については設立の登記をしなければならない。

    一 新設合併により消滅する会社が株式会社のみである場合 次に掲げる日のいずれか遅い日

     イ~ロ (略)

     ハ 第810条の規定による手続が終了した日

     ニ (略)

    二 新設合併により消滅する会社が持分会社のみである場合 次に掲げる日のいずれか遅い日

     イ (略)
     ロ 第813条第2項において準用する第810条の規定による手続が終了した日

     ハ (略)

    三 新設合併により消滅する会社が株式会社及び持分会社である場合(略)

会社法第924条(新設分割の登記)
 
  1. 一又は二以上の株式会社又は合同会社が新設分割をする場合において、新設分割により設立する会社が株式会社であるときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める日から二週間以内に、その本店の所在地において、新設分割をする会社については変更の登記をし、新設分割により設立する会社については設立の登記をしなければならない。
    一 新設分割をする会社が株式会社のみである場合 次に掲げる日のいずれか遅い日
     イ~ロ (略)
     ホ 第810条の規定による手続をしなければならないときは、当該手続が終了した日
     ヘ (略)
    二 新設分割をする会社が合同会社のみである場合 次に掲げる日のいずれか遅い日
     イ (略)
     ロ 第813条第2項において準用する第810条の規定による手続をしなければならないときは、当該手続が終了した日
     ハ (略)
    三 新設分割をする会社が株式会社及び合同会社である場合 前二号に定める日のいずれか遅い日
  2. 一又は二以上の株式会社又は合同会社が新設分割をする場合において、新設分割により設立する会社が持分会社であるときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める日から二週間以内に、その本店の所在地において、新設分割をする会社については変更の登記をし、新設分割により設立する会社については設立の登記をしなければならない。
    一 新設分割をする会社が株式会社のみである場合 次に掲げる日のいずれか遅い日
     イ~ハ (略)
     ニ 第810条の規定による手続をしなければならないときは、当該手続が終了した日
     ホ (略)
    二 (以下略)

会社法第810条の手続とは何かと言いますと、その第5項に「異議を述べた債権者に対する弁済・担保提供・信託」が定められています。第810条に定められている以上、これらも完了させなければ組織再編登記は申請できないということになってしまいます。

 

 

会社法第810条(債権者の異議)
 
  1. 次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める債権者は、消滅株式会社等に対し、新設合併等について異議を述べることができる。

    一 新設合併をする場合 新設合併消滅株式会社の債権者

    二 新設分割をする場合 新設分割後新設分割株式会社に対して債務の履行(当該債務の保証人として新設分割設立会社と連帯して負担する保証債務の履行を含む。)を請求することができない新設分割株式会社の債権者(第七百六十三条第一項第十二号又は第七百六十五条第一項第八号に掲げる事項についての定めがある場合にあっては、新設分割株式会社の債権者)

    三 株式移転計画新株予約権が新株予約権付社債に付された新株予約権である場合 当該新株予約権付社債についての社債権者

  2. 前項の規定により消滅株式会社等の債権者の全部又は一部が異議を述べることができる場合には、消滅株式会社等は、次に掲げる事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者(同項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、第四号の期間は、一箇月を下ることができない。

    一 新設合併等をする旨

    二 他の消滅会社等及び設立会社の商号及び住所

    三 消滅株式会社等の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの

    四 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

  3. 前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(新設分割をする場合における不法行為によって生じた新設分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。

  4. 債権者が第2項第4号の期間内に異議を述べなかったときは、当該債権者は、当該新設合併等について承認をしたものとみなす。

  5. 債権者が第2項第4号の期間内に異議を述べたときは、消滅株式会社等は、当該債権者に対し、弁済し、若しくは相当の担保を提供し、又は当該債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を信託しなければならない。ただし、当該新設合併等をしても当該債権者を害するおそれがないときは、この限りでない。

参考文献


本コラム執筆のため下記文献を参考にしました。

  • 司法書士・電子広告調査株式会社代表取締役土井万二/最近の債権者保護手続の傾向と問題点『登記情報682号』金融財政事情研究会/2018
  • 塩野誠、宮下和昌著『事業担当者のための逆引きビジネス法務ハンドブック第2版』東洋経済新報社/2021
  • 神﨑満治郎他編著『商業・法人登記360問』テイハン/2018
  • 宍戸善一他編著『会社法実務解説』有斐閣/2011
  • 江頭憲治郎著『株式会社法』有斐閣/2021

執筆者の紹介


司法書士 河村 賢一(かわむら・けんいち)

あなまち司法書士事務所在籍。

中央大学・法学部・法律学科(国際政治学ゼミ)卒業。

平成28年埼玉と東京の司法書士事務所に勤務。徹底的に不動産登記を学ぶ。

令和4年8月神戸へ転居と同時に「あなまち司法書士事務所」に入所

令和4年11月司法書士試験合格

令和5年2月司法書士登録(組織再編、スタートアップ資金調達を担当)

令和5年11月開業。同時に「あなたの街の司法書士事務所グループ」へ参画

特技:英語原典の推理小説を読むこと、独学で英検準1級を取得。



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