成年後見開始審判の確定予定日の計算


成年後見人・保佐人・補助人は、選任審判が確定すると一気に業務を開始する必要があります。したがって、後見人等の候補者にとっては、とても重要な日です。それゆえ家庭裁判所には審判確定日に関する問合せが殺到して業務を逼迫していると聞きました。

そこで、このコラムでは(復習を兼ねて)家庭裁判所の事務負担を少しでも減らすべく執筆しました。

もくじ
  1. 告知(特別送達)を受け取った日は「必ず記録」
  2. 審判確定日を算出するために重要な条文
  3. 審判確定日を論理的に考えてみる。
  4. 期間計算に関する条文をチェック
    1. まず家事事件手続法
    2. 次に民事訴訟法
    3. さらに民法
    4. (参照用)国民の祝日に関する法律
  5. 具体例に当てはめて計算

告知(特別送達)を受け取った日は「必ず記録」


成年後見開始等の審判は、申立人や後見人に選任された方に対して、特別送達によって告知されることになっています。

特別送達は受け取った日を審判書に「メモする」又は「日付印を押しておく」ことが重要です(司法書士の方は簡裁代理でも重要ですので、クセをつけておくと良いでしょう。また、スタッフに対しては、特別送達を勝手に受け取らないように指導しておく必要もあります。)。

 

裁判所手続の色々な期間が、この特別送達を受け取った日からカウントスタートされるからです。

審判確定日を算出するために重要な条文


なぜ審判書(告知)を受け取った日にすぐ後見業務を開始できないのかと言いますと、審判に対して異存がある方に即時抗告する機会を与える必要があるからです。

家事事件手続法第74条(審判の告知及び効力の発生等)
 
  1. 審判は、特別の定めがある場合を除き、当事者及び利害関係参加人並びにこれらの者以外の審判を受ける者に対し、相当と認める方法で告知しなければならない。
  2. 審判(申立てを却下する審判を除く。)は、特別の定めがある場合を除き、審判を受ける者(審判を受ける者が数人あるときは、そのうちの一人)に告知することによってその効力を生ずる。ただし、即時抗告をすることができる審判は、確定しなければその効力を生じない。
  3. 申立てを却下する審判は、申立人に告知することによってその効力を生ずる。
  4. 審判は、即時抗告の期間の満了前には確定しないものとする。
  5. 審判の確定は、前項の期間内にした即時抗告の提起により、遮断される。
家事事件手続法第86条(即時抗告期間)
 
  1.  審判に対する即時抗告は、特別の定めがある場合を除き、2週間の不変期間内にしなければならない。ただし、その期間前に提起した即時抗告の効力を妨げない。
  2. 即時抗告の期間は、特別の定めがある場合を除き、即時抗告をする者が、審判の告知を受ける者である場合にあってはその者が審判の告知を受けた日から、審判の告知を受ける者でない場合にあっては申立人が審判の告知を受けた日(2以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から、それぞれ進行する。

審判確定日を論理的に考えてみる。


論理的も何も、条文を順番に見ていくだけですが、表にして見比べてみると・・・

「後見」と「保佐・補助」とで異なるのが分かります。

後見では、「ご本人」が告知の対象外になっているのです。

その結果、ご本人が告知を受けた日は、審判確定日を考えるうえで、考慮する必要がないことになります。

  後見開始審判 保佐開始審判 補助開始審判

  • 申立人(家事74Ⅰ)
  • × ご本人には告知されず、通知に留まります【2】。
  • 成年後見人に選任される者(家事122Ⅲ)
  • 後見開始により終了する任意後見人、任意後見監督人(家事122Ⅲ)
  • 申立人(家事74Ⅰ)
  • 被保佐人となるべき者(=ご本人。家事74Ⅰ)【2】
  • 保佐人に選任される者(家事131)
  • 保佐開始により終了する任意後見人、任意後見監督人(家事131)
  • 申立人(家事74Ⅰ)
  • 被補助人となるべき者(=ご本人。家事74Ⅰ)【2】
  • 補助人に選任される者(家事140)
  • 保佐開始により終了する任意後見人、任意後見監督人(家事140)

  • 成年被後見人となるべき者(=ご本人。家事122Ⅰ)【2】
なし なし

【1】

  • 本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官(家事123Ⅰ①、民7)
  • 任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人(家事123Ⅰ①、任意後見契約法10Ⅱ)
  • 申立人を除く(家事123Ⅰ柱書)。
  • 本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官(家事132Ⅰ①、民11本文)
  • 任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人(家事132Ⅰ①、任意後見契約法10Ⅱ)
  • 申立人を除く(家事132Ⅰ柱書)。
  • 本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官(家事141Ⅰ①、民15Ⅰ本文)
  • 任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人(家事141Ⅰ①、任意後見契約法10Ⅱ)
  • 申立人を除く(家事141Ⅰ柱書)。

 

  • 2週間(家事86)
  • 審判の告知を受ける者でない者による後見開始の審判に対する即時抗告の期間は、民法第843条第1項の規定により成年後見人に選任される者が審判の告知を受けた日(2以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から進行する。(家事123Ⅱ)

 

 

  • 2週間(家事86)
  • 審判の告知を受ける者でない者及び被保佐人となるべき者による保佐開始の審判に対する即時抗告の期間は、被保佐人となるべき者が審判の告知を受けた日及び民法第876条の2第1項の規定により保佐人に選任される者が審判の告知を受けた日のうち最も遅い日から進行する。(家事132Ⅱ)

 

 

  • 2週間(家事86)
  • 審判の告知を受ける者でない者及び被補助人となるべき者による補助開始の審判に対する即時抗告の期間は、被補助人となるべき者が審判の告知を受けた日及び民法第876条の7第1項の規定により補助人に選任される者が審判の告知を受けた日のうち最も遅い日から進行する。(家事141Ⅱ)

 

 

  • 成年後見人候補者が告知を受けた日(2以上あるときは、当該日のうち最も遅い日)から2週間
  • ご本人が通知を受けた日は関係がない【2】
  • ご本人が審判の告知を受けた日又は保佐人候補者が告知を受けた日のうち最も遅い日から2週間
  • ご本人が審判の告知を受けた日又は補助人候補者が告知を受けた日のうち最も遅い日から2週間

【1】後見開始決定がなされたことに対する異議(即時抗告)は可能ですが、

後見人の人選への異議(即時抗告)は認められません。

【2】被保佐人、被補助人には「正式に告知」されるのに対して、成年被後見人に対しては「通知だけ」に留まるのが、留意点です。これにより審判確定日が異なります。

すなわち、保佐・補助の場合には、「ご本人が告知を受け取った日」又は「(保佐人若しくは補助人の)候補者が告知を受け取った日」の遅い方から2週間です。

一方、後見の場合には「後見人候補者が告知を受け取った日」から2週間となり、ご本人が通知を受け取った日は関係がありません。

期間計算に関する条文をチェック


まず家事事件手続法

成年後見開始等の審判は、家事事件手続法に従ってなされますので、まずは家事事件手続法をチェックします。

家事事件手続法第34条(期日及び期間)
 
  1. (略)
  2. (略)
  3. (略)
  4. 民事訴訟法第94条から第97条までの規定は、家事事件の手続の期日及び期間について準用する。

次に民事訴訟法

家事事件手続法第34条第4項で民事訴訟法を参照していますので、次は民事訴訟法をチェックします。

民事訴訟法第95条(期間の計算)
 
  1. 期間の計算については、民法の期間に関する規定に従う。
  2. 期間を定める裁判において始期を定めなかったときは、期間は、その裁判が効力を生じた時から進行を始める。
  3. 期間の末日が日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日、1月2日、1月3日又は12月29日から12月31日までの日に当たるときは、期間は、その翌日に満了する。

さらに民法

民事訴訟法第95条第1項で民法を参照していますので、さらに民法をチェックします。

民法は第1編総則に第6章として期間の計算方法を定めています。

民法第138条(期間の計算の通則)
  期間の計算方法は、法令若しくは裁判上の命令に特別の定めがある場合又は法律行為に別段の定めがある場合を除き、この章の規定に従う。

民法第139条(期間の起算)

  時間によって期間を定めたときは、その期間は、即時から起算する。
民法第140条 
  日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
民法第141条(期間の満了)
  前条の場合には、期間は、その末日の終了をもって満了する。
民法第142条
  期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。→民訴95条3項は民法142条の特別法なので、民訴95条3項に従います。
民法第143条(暦による期間の計算)
 
  1. 、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
  2. 、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。 

(参照用)国民の祝日に関する法律

国民の祝日に関する法律第2条
  「国民の祝日」を次のように定める。
  •  元日 一月一日 年のはじめを祝う。
  •  成人の日 一月の第二月曜日 おとなになつたことを自覚し、みずから生き抜こうとする青年を祝いはげます。
  •  建国記念の日 政令で定める日 建国をしのび、国を愛する心を養う。
  •  天皇誕生日 二月二十三日 天皇の誕生日を祝う。
  •  春分の日 春分日 自然をたたえ、生物をいつくしむ。
  •  昭和の日 四月二十九日 激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす。
  •  憲法記念日 五月三日 日本国憲法の施行を記念し、国の成長を期する。
  •  みどりの日 五月四日 自然に親しむとともにその恩恵に感謝し、豊かな心をはぐくむ。
  •  こどもの日 五月五日 こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する。
  •  海の日 七月の第三月曜日 海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う。
  •  山の日 八月十一日 山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する。
  •  敬老の日 九月の第三月曜日 多年にわたり社会につくしてきた老人を敬愛し、長寿を祝う。
  •  秋分の日 秋分日 祖先をうやまい、なくなつた人々をしのぶ。
  •  スポーツの日 十月の第二月曜日 スポーツを楽しみ、他者を尊重する精神を培うとともに、健康で活力ある社会の実現を願う。
  •  文化の日 十一月三日 自由と平和を愛し、文化をすすめる。
  •  勤労感謝の日 十一月二十三日 勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう。
国民の祝日に関する法律第3条
 
  1.  「国民の祝日」は、休日とする。
  2.  「国民の祝日」が日曜日に当たるときは、その日後においてその日に最も近い「国民の祝日」でない日を休日とする。
  3.  その前日及び翌日が「国民の祝日」である日(「国民の祝日」でない日に限る。)は、休日とする。

具体例に当てはめて計算


具体的な事例に当てはめて、計算してみましょう。

<事例1>

日付 出来事
R5.9.15(金)

審判の告知を受けとった日。

2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。

R5.9.16(土)

初日不算入(家事34→民訴95→民140)。

9/16の午前0時が期間計算の始期。

R5.9.29(金)

2週間の末日。期間満了日。

9/29の24時で即時公告できる期間が満了。

期間の末日は金曜日なので民訴95条は不適用。

R5.9.30(土)

期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定。

以下、審判を受け取った日を一日ずつ、ずらしてみます。

面白いことが分かりますよ。

<事例2>

日付 出来事
R5.9.16(土)

審判の告知を受けとった日。

2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。

R5.9.17(日)

初日不算入(家事34→民訴95→民140)。

9/17の午前0時が期間計算の始期。

R5.9.30(土)

2週間の末日。期間満了日にみえますが・・・

9/30は土曜日なので即時公告期間は満了せず翌日に繰り越し(家事34→民訴95Ⅲ)

R5.10.1(日)

10/1は日曜日なので即時抗告期間は満了せず翌日に繰り越し(家事34→民訴95Ⅲ)

R5.10.2(月)

10/2の24時で即時抗告期間が満了

R5.10.3(火)

期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定

<事例3>

日付 出来事
R5.9.17(日)

審判の告知を受けとった日。

2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。

R5.9.18(月)

初日不算入(家事34→民訴95→民140)。

9/18の午前0時が期間計算の始期。

R5.10.1(日)

2週間の末日。期間満了日に見えますが・・・

10/1は日曜日なので即時抗告期間は満了せず翌日に繰り越し(家事34→民訴95Ⅲ)

R5.10.2(月)

10/2の24時で即時抗告期間が満了

R5.10.3(火)

期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定

<事例4>

日付 出来事

R5.9.18

(月・祝日)

審判の告知を受けとった日。

2人以上が審判の告知を受けるときは最後の人が告知を受けとった日(家事123)。

R5.9.19(火)

初日不算入(家事34→民訴95→民140)。

9/19の午前0時が期間計算の始期。

R5.10.2(月)

2週間の末日。期間満了日。

月曜日なので民法142条は不適用。

10/2の24時で即時公告できる期間が満了。

R5.10.3(火)

期間満了日の翌日(家事74Ⅳ)午前0時で審判確定。

最後に「面白いこと」って?!

特別送達は「土曜日受け取っても、翌月曜日に受け取っても審判確定の日は同じ」ということです。

早く確定させたうえ、早く執務を開始しようとしていた真面目な専門職後見人の皆様、土曜日に受け取っても早くなりません。