「物忘れ」が始まっていることを、どう本人に伝えるべきか?


私たち司法書士が、どうやってご本人に受診を促しているのかは、一般の方にとっても役に立つと思いこのコラムを執筆しました。 

 

私たち司法書士は、たくさんの終活(財産管理対策、遺産分割対策など)をお手伝いしています。ところが、終活を始めようと司法書士事務所にお越しになった時点で「既に認知症ではないか」と思われる方がいらっしゃいます。また、何回か打ち合わせをするうちに、話が通じなくなり「認知症になったのではないか」ということもあります。

認知症が発症し、判断能力がない方が行った遺言や贈与などは、無効になってしまう可能性があります。そんなとき、司法書士は、せっかくの遺言や贈与が無効にならないよう、医師の受診をおすすめします。

 

また、二つの段階に分けて考えることも重要です。受診を勧めるべきかという第一段階と、認知症であったときに認知症であることを伝えるべきかという第二段階です。このコラムも、この二つの段階を分けて執筆します。

もくじ
  1. 受診を勧めるべきか否か
    1. 物忘れがあっても、認知症とは限らない。
    2. 治る認知症や、薬で進行を遅らせることが出来る場合もある。
    3. 本人も家族も備えることができる。
    4. 法的な保護を受けることもできる。
    5. 介護保険の要介護認定を受けやすくなる。
  2. 至急受診して対応いただく必要があるとき
  3. 受診を勧める上手な方法
  4. 認知症と診断された場合に告知すべきか

受診を勧めるべきか否か


「お父さんがボケ始めた」「認知症になった」と言っていても、何の解決にもなりません。認知症かどうかは、医師でないと判断できないからです。

まずは「受診を勧めるべき」です。そして、その理由は次のとおりです。

物忘れがあっても、認知症とは限らない。

物忘れにも色々な種類があります。素人がこれらを判断することはできませんが、色々な物忘れがあることは、理解する必要があります。

加齢による物忘れ 認知症による物忘れ
物忘れを自覚している 物忘れの自覚がない
体験したことの一部を忘れる 体験したこと自体を忘れる
ヒントがあれば思い出す ヒントがあっても思い出せない
日常生活に支障はない 日常生活に支障がある
判断力は低下しない 判断力が低下する

(加齢によるもの忘れと認知症の違いは?/認知症ねっと/https://info.ninchisho.net/mci/k20/最終アクセス210417)

この他にも、交通事故や脳腫瘍が原因のものもあります。

数日で収まる一時的な物忘れや回復する物忘れもあります。

よって、私たちは「物忘れ」の原因を特定するために「受診を勧めるべき」と考えます。

治る認知症や、薬で進行を遅らせることができる場合もある

受診した結果、認知症であったとしても、認知症の種類によっては、治ることや薬で進行を遅らせることも可能とのことです。

受診すれば早期に治療を開始できるという点でも「受診を勧めるべき」と考えます。

本人も家族も備えることができる

認知症であることが分かったとしても、ご本人は「今後の生き方」を考えることができます。

受診してご自身が認知症と診断してもらう機会がなければ、ご本人は「今後の生き方」を考える時間を持たないまま、認知症が進んでしまうかもしれません。

認知症になったとしても、ご本人が納得できる有意義な時間を過ごすために受診を勧めるべきと考えます。

法的な保護を受けることもできる

世の中には、悪質な訪問販売やさまざまな詐欺があります。詐欺の被害に遭った場合でも、あらかじめ成年後見制度などを利用していた場合には、被害の回復が容易に行えることもあります。

また、終活(財産管理対策、遺産分割対策など)においても、本格的な認知症発症前であれば、様々な方法をとることができます。

どういう手を打つことができるか「現状把握」のためにも受診するべきなのです。

介護保険の要介護認定を受けやすくなる。

至急受診して対応いただく必要があるとき


物忘れかなと思ったときには、全員受診していただくべきと考えます。

次の場合には、特に緊急性が高く、受診とその後の対応を至急していただく必要があります。

  1. 火の不始末を起こしたとき
  2. 自動車を運転なさるとき
  3. ご自宅で一人暮らしをなさっているとき
  4. これから重要な法律行為を行なおうとしているとき

受診を勧める上手な方法


プライドの高い方

プライドの高い高齢者の方は、自分で思い出せないことに苛立ちを感じている人も多いです。プライドが高い人にストレートに伝えると「受診やあなた自身との会話」を拒絶されることが多いので、慎重に少しずつ伝えていく必要があります。

 

オススメの伝え方

ご本人に少しずつトラブルの自覚を促します。

「この前、書類をなくされたと思ったら、後で出てきたんですよね。そうおっしゃってましたよね?」と、本人から聞いた形にして、記憶の掘り起こしを促します。
周囲が「こういう(思い違いの内容や、失敗の内容)こともありましたよねー」と言ったときに・・・

ご本人が「あー。そんな事もあったわねー」と言ってくれるようになってくれば・・・

周囲は「少しずつ判断が難しくなることもありますので、専門機関を受診した方が良いと思うんですよねー。」と受診を促します。

「ご高齢者が遺言書を作成するときには、判断能力が十分であることを後日証明できるように診断書の取得を皆様全員にお願いしているんですよね。」 

 

駄目な伝え方

「打合せ内容を覚えていないから、受診した方が良い」などとストレートに言ってしまうのは、やめておきましょう。

「この前の日曜日、何をされてましたか?」とオープンクエスチョンで質問すると、思い出せないことにストレスを感じるそうですので、やめておくべきでしょう。

大切なのは、ご本人を怒らせないこと。

怒ってしまうと、聞く耳を持たないのは皆様も同じですよね。

そして、自信を失わせないこと。

それほどプライドが高くない方

どんなお話しをしても「そうねー」「そうかもしれんねー」と言ってくださる方の場合でも、ストレートに「ボケてますよ」「認知症ですよ」などと伝えるのは、やめるべきです。

それがショックで症状が進んでしまう虞があるからです。

 

プライドの高い低いに関わらず、性格に関わらず、周囲がご本人に伝えるべきことは「物忘れがあること」「専門医の受診を受けましょう」ということだけです。

認知症と診断された場合に告知すべきか


認知症と診断された場合に、それを本人に告知すべきかどうかは、難しい問題です。周囲からすれば「告知しないほうが本人にとって幸せではないか」と思ってしまうからです。

 

次の場合には、特に緊急性が高く、認知症である旨の告知を至急していただく必要があります。もっとも告知するときに「認知症」という言葉を使うかどうかは、また別問題です。

  1. 火の不始末を起こしたとき
  2. 自動車を運転なさるとき
  3. ご自宅で一人暮らしをなさっているとき
  4. これから重要な法律行為を行なおうとしているとき

告知しなくてもすむ場合には告知せず、告知しなければ進められない場合にのみ告知すれば良いと考えています。また、告知の際に「認知症」という言葉を使う必要はありません。

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