(ベンチャーや中小企業も導入検討すべき)株主総会資料の電子提供(ウェブ開示)制度


株主総会資料の電子提供制度(電子提供措置制度)が始まりました(会社法325の2以下)。

上場企業はこの制度の利用を強制されますが、ベンチャーや一定規模の中小企業においても利用を検討するメリットがありますのでご紹介します。

(この記事は、令和4年10月にこうべ商工会議所のDM「ビジネスメールマガジン」に寄稿したものを加筆して掲載したものです。)

もくじ
  1. 制度の概要
  2. 制度の適用
    1. 非上場企業
    2. 上場企業
    3. 施行日
  3. 従来の同種制度との比較
  4. 電子提供措置の具体的内容・ウェブサイトへの掲載方法(会325の3)
  5. 招集通知の特則(会325の4)
  6. 株主からの書面交付請求(会325の5)
  7. 電子提供中断時の救済措置(会325の6)
  8. 電子公告調査制度(会941)の適用はあるか?
  9. メリット・デメリット
  10. 手続の流れ(導入まで)
  11. 手続の流れ(導入後の総会運営)
  12. 種類株主総会への準用
  13. 他の法人への準用
  14. 導入をオススメする企業・団体
  15. 参考文献
  16. 人気の関連ページ

〔凡例〕この記事では次のように略記します。

  • 会:会社法
  • 会298Ⅰ①:会社法第298条第1項第1号
  • 規則:会社法施行規則(平成18年法務省令第12号)
  • 改正法:会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)
  • 整備法:会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和元年法律第71号。)
  • 整備政令:会社法施行規則等の一部を改正する省令(令和2年法務省令第52号)の一部並びに会社法の一部を改正する法律及び会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の一部の施行に伴う法務省関係政令の整備に関する政令(令和4年政令第249号)
  • 改正省令:商業登記規則等の一部を改正する省令(令和4年法務省令第34号)
  • 商登法:整備法による改正後の商業登記法(昭和38年法律第125号)
  • 組登令:整備政令による改正後の組合等登記令(昭和39年政令第29号)
  • 商登規:改正省令による改正後の商業登記規則(昭和39年法務省令第23号)

制度の概要


電子提供制度は、次のとおり整理できます。

要件

  1. 電子提供制度を採用することを定款に定め、登記する。
  2. 株主総会資料(株主総会参考書類、議決権行使書面、計算書類及び事業報告、連結計算書類)を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載する。
  3. 株主に対し、そのウェブサイトのアドレス等を書面により通知する。

効果

これまで印刷した書類で送付する必要があった株主総会参考資料を送付する必要がなくなります(会

325の2以下:電子提供措置)。

なお、招集通知自体は書面で送付する必要がありますが、株主から個別に同意を得ればこの招集通知自体もメール等で行うことができます(会299Ⅲ)。

従来   電子提供措置をとる場合

会社が株主総会に際して株主に発送するもの

  • 株主総会招集通知
  • 株主総会参考資料
  • (議決権行使書)
  • (委任状勧誘用紙)

会社が株主総会に際して株主に送付するもの

  • 株主総会招集通知
  • 通知書面(アクセスURL等記載)【1】
  • (議決権行使書)
  • (委任状勧誘用紙)
   

【1】 株主総会参考資料の添付は不要です。その代わりに、株主総会参考資料と同じ情報が記載されているホームページへのアクセスURL等が記載された通知書を添付します。

制度の適用


非上場企業

非上場会社は、利用するかどうか自由です(会325の2)。

会社法第325条の2(電子提供措置をとる旨の定款の定め
  株式会社は、取締役が株主総会(種類株主総会を含む。)の招集の手続を行うときは、次に掲げる資料(以下この款において「株主総会参考書類等」という。)の内容である情報について、電子提供措置(電磁的方法により株主(種類株主総会を招集する場合にあっては、ある種類の株主に限る。)が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって、法務省令で定めるものをいう。以下この款、第911条第3項第12号の2及び第976条第19号において同じ。)をとる旨を定款で定めることができる。この場合において、その定款には、電子提供措置をとる旨を定めれば足りる。
  1. 株主総会参考書類
  2. 議決権行使書面
  3. 第437条の計算書類及び事業報告
  4. 第444条第6項の連結計算書類

上場企業

上場会社は、電子提供措置の利用が強制されます(社債、株式等の振替に関する法律159の2Ⅰ)。

もっとも電子提供措置を行いながら、会社が任意に書面でも送付することも可能です。

社債、株式等の振替に関する法律第159条の2(電子提供措置に関する会社法の特例)
 
  1. 振替株式【1.2】を発行する会社は、電子提供措置(会社法第325条の2に規定する電子提供措置をいう。)をとる旨を定款で定めなければならない。
  2. (略)

【1】振替株式とは、株券を発行する旨の定款の定めがない会社の株式(譲渡制限株式を除く。)で振替機関が取り扱うもの(社債、株式等の振替に関する法律128)。

【2】株式等振替制度とは、「社債、株式等の振替に関する法律」により、上場会社の株式等に係る株券等をすべて廃止し、株券等の存在を前提として行われてきた株主等の権利の管理(発生、移転及び消滅)を、機構及び証券会社等に開設された口座において電子的に行うものです。

この株式等振替制度において、機構は、金融商品取引所に上場されている株式、新株予約権、新株予約権付社債、投資口、優先出資、投資信託受益権(ETF)及びそれらに準ずるものであって、発行者の同意を得たものを取り扱います。

(以上、【2】について株式等振替制度/証券保管振替機構/最終アクセス220924

施行日

令和4(2022)年9月1日です(会社法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令(令和3年政令第334号))。

  • 非上場会社では、令和4(2022)年9月1日以降に開催する株主総会から株主総会資料の電子提供措置を採用することができます。
  • 上場会社では、令和5(2023)年3月1日以降開催される株主総会から本制度が利用されることになります(整備法10Ⅳ)。上場会社は①令和5年3月1日までに他の会社登記をするときにはそのついでに、②令和5年3月1日までに他の会社登記をしないときは令和5年3月1日までに電子提供措置に関する登記申請をする必要があります(整備法10ⅣⅤ)。上場企業がこの登記を怠ったときは代表者が100万円以下の過料に処せられます(整備法10Ⅷ)。

従来の同種制度との比較


従来もよく似た制度がありましたが、株主一人一人から個別に同意を取得することが条件でした。

非上場企業は、株主総会参考資料を①書面で送付する、②個別に同意をとった株主にのみ電子提供する(会299Ⅲ)又は③電子提供措置を採用するのいずれかを自由に選択できます。

会社法299Ⅲ   会社法325の2以下
  • 定款記載は不要。
  • 同意を得た株主に対してのみ、株主総会資料を電子提供できる。
  • 定款に記載必要(登記も必要)。
  • 株主の同意を得ることなく全株主に対して、株主総会資料を電子提供できる。
  • 個別同意の取得は煩瑣。
  • 全株主から同意が得られなければ株主ごとに異なる取扱いを要する。
  • 書面で欲しい株主は会社に請求すれば書面でもらえる。

電子提供措置の具体的内容・ウェブサイトへの掲載方法(会325の3)


掲載期間(開始日~終了日)

  • 株主総会の日の3週間前の日又は招集の通知を発した日のいずれか早い日までに掲載開始する必要があります(会325の3Ⅰ)。
  • 株主総会の日後3か月を経過する日が終了するとウェブサイトへの掲載を終了することができます(会325の3Ⅰ)。

具体的な様式

電子提供措置の具体的様式は、次のとおりです(会225の2、規則95の2、規則222Ⅰ①ロ)。

  • 株主がウェプサイトに掲載された情報の内容を「閲覧」「印刷」「保存」できること
  • 閲覧等のためにパスワードを掛けることは可能です。なぜなら(不特定多数の者が情報の提供を受ける必要がある電子公告とは異なり)電子提供措置は、株主だけが情報の提供を受ければ足りるからです。

(以上、法務省民事局参事官室/会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明/2018年/3頁以下を参照)

  • ベタ記事で掲載してよいか、PDF等を掲載すべきかですが、電子提供措置をとった情報は閲覧・印刷・保存できる状態でなければならないこと、改ざんの難易度、株主の閲覧環境が均一でないことを考慮するとPDFによる掲載が適していると考えられます。なお、PDF資料のダウンロードをするためのアプリ〔Adobe Reader(アドビ・リーダー)〕は、アドビ社が無料公開しています。
第325条の3(電子提供措置) 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、第299条第2項各号に掲げる場合には、株主総会の日の3週間前の日又は同条第1項の通知を発した日のいずれか早い日(以下この款において「電子提供措置開始日」という。)から株主総会の日後3か月を経過する日までの間(以下この款において「電子提供措置期間」という。)、次に掲げる事項に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならない。
 第二百九十八条第一項各号に掲げる事項
 第三百一条第一項に規定する場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項
 第302条第1項に規定する場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項
 第三百五条第一項の規定による請求があった場合には、同項の議案の要領
 株式会社が取締役会設置会社である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第437条の計算書類及び事業報告に記載され、又は記録された事項
 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第444条第6項の連結計算書類に記載され、又は記録された事項
 前各号に掲げる事項を修正したときは、その旨及び修正前の事項
 前項の規定にかかわらず、取締役が第299条第1項の通知に際して株主に対し議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については、前項の規定により電子提供措置をとることを要しない。
 第一項の規定にかかわらず、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社が、電子提供措置開始日までに第1項各号に掲げる事項(定時株主総会に係るものに限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書(添付書類及びこれらの訂正報告書を含む。)の提出の手続を同法第27条の30の2に規定する開示用電子情報処理組織(以下この款において単に「開示用電子情報処理組織」という。)を使用して行う場合には、当該事項に係る情報については、同項の規定により電子提供措置をとることを要しない。

招集通知の特則(会325の4)


招集通知の発送時期

原則   電子提供措置をとる場合
  • 非公開会社であれば1週間前(会社法299Ⅰ)
  • さらに、非公開会社の取締役会非設置会社であれば1週間を下回る期間を定款で定めた場合にあってはその期間前(会社法299Ⅰ)。
  • 総会2週間に発送必要(会325の4Ⅰ)。 

招集通知の記載事項

会社法第325条の4(株主総会の招集の通知等の特則) 前条第1項の規定により電子提供措置をとる場合における第299条第1項の規定の適用については、同項中「2週間(前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、1週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))」とあるのは、「2週間」とする。
 第299条第4項の規定にかかわらず、前条第1項の規定により電子提供措置をとる場合には、第299条第2項又は第3項の通知には、第298条第1項第5号に掲げる事項を記載し、又は記録することを要しない。この場合において、当該通知には、同項第1号から第4号までに掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
 電子提供措置をとっているときは、その旨
 前条第3項の手続を開示用電子情報処理組織を使用して行ったときは、その旨
 前2号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項【1】
 第301条第1項、第302条第1項、第437条及び第444条第6項の規定にかかわらず、電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社においては、取締役は、第299条第1項の通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類等を交付し、又は提供することを要しない。
 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社における第305条第1項の規定の適用については、同項中「その通知に記載し、又は記録する」とあるのは、「当該議案の要領について第325条の2に規定する電子提供措置をとる」とする。

【1】「法務省令で定める事項」は次のとおりです。

会社法施行規則第95条の3(電子提供措置をとる場合における招集通知の記載事項)法第325条の4第2項第3号に規定する法務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
  電子提供措置をとっているときは、電子提供措置をとるために使用する自動公衆送信装置  のうち当該電子提供措置をとるための用に供する部分をインターネットにおいて識別するための文字、記号その他の符号又はこれらの結合であって、情報の提供を受ける者がその使用に係る電子計算機に入力することによって当該情報の内容を閲覧し、当該電子計算機に備えられたファイルに当該情報を記録することができるものその他の当該者が当該情報の内容を閲覧し、当該電子計算機に備えられたファイルに当該情報を記録するために必要な事項
  法第325条の3第3項に規定する場合には、同項の手続であって、金融商品取引法施行令 (昭和40年政令第321号)第14条の12の規定によりインターネットを利用して公衆の縦覧に供されるものをインターネットにおいて識別するための文字、記号その他の符号又はこれらの結合であって、情報の提供を受ける者がその使用に係る電子計算機に入力することによって当該情報の内容を閲覧することができるものその他の当該者が当該情報の内容を閲覧するために必要な事項
 法第325条の7において読み替えて準用する法第325条の4第2項第3号に規定する法務省令で定める事項は、前項第1号に掲げる事項とする。

株主からの書面交付請求(会325の5)


会社が電子提供措置を行う場合でも、インターネットを閲覧しない株主を保護する必要があります。そこで、株主から会社に対して「インターネットに掲載する情報を書面でください」と請求することができます(会325の5)。

実務上問題となりそうな点は次のとおりです。

  • 株主が「いつまでに書面交付請求すべき」という期限はありません(会325の5Ⅰ参照)。
  • 会社が基準日【1】を定めていた場合には、当該基準日までに請求した株主に対してのみ交付すれば足ります(会325の5Ⅱ括弧書き)。定時株主総会の基準日を「毎事業年度末日」と定款で規定している企業は多いです。この場合には、株主は事業年度末までに書面交付請求をしておけば定時総会から書面交付を受けられることになります。
  • 基準日を定めない株主総会の場合、当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面の交付を受けるためには、招集通知が発送されるまでに、書面交付請求をしている必要があります(会325の5Ⅱ)。
  • 株主は、一度書面交付請求をすると、株主自身が撤回しない限り、書面交付請求後に開催されるすべての株主総会及び種類株主総会との関係で有効です。総会ごとに書面交付請求をする必要はありません(竹林俊憲編著/一問一答・令和元年改正会社法/商事法務/2020)。
  • 会社は、株主からの書面交付請求がたまってくると何のために電子提供措置をとったのか分からなくなります。そこで、株主が書面交付請求をしてから1年を経過した場合には、その株主に対して1か月以上の期間(催告期間)を定めて書面交付を終了する旨を通知し、これに異議のある場合には催告期間内に異議を述べるべき旨を催告できます(会325の5Ⅳ)。そして、この通知・催告を受けとった株主が催告期間内に異議を述べなければ、催告期間を経過した時に、当該株主が行った書面交付請求は効力を失うことになります(会325の5Ⅴ)。

まとめ

株主総会参考資料を書面で欲しい株主は、総会招集通知を見てから書面交付請求をするのではなく、電子提供措置規定があることを確認した時点で「予め書面交付請求」をしておくと良いでしょう。

【1】株主総会において議決権を行使できる株主は、決議の際に株主名簿に記載された方ですが、株主には変動を生じる可能性があり、こうした株主を確定するために基準日制度が設けられています(会124Ⅰ)。基準日はあらかじめ定款で定めておくこともできます。臨時総会開催のために基準日を定める場合には、会社は基準日株主が行使できる権利内容を定める必要があり(会124Ⅱ)、2週間前までに所定の事項を公告することにより基準日を定めることもできます(会124Ⅲ)。ただし、非公開会社(譲渡制限会社)では株主の変動は少なく、株式譲渡を会社に対抗するためには会社への株式譲渡承認請求を行う必要があるため、会社はいつでも株主を確定できるため、基準日を定める必要がないのが一般的です。

第325条の5(書面交付請求)
 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の株主(第299条第3項(第325条において準用する場合を含む。)の承諾をした株主を除く。)は、株式会社に対し、第325条の3第1項各号(第325条の7において準用する場合を含む。)に掲げる事項(以下この条において「電子提供措置事項」という。)を記載した書面の交付を請求することができる。
 取締役は、第325条の3第1項の規定により電子提供措置をとる場合には、第299条第1項の通知に際して、前項の規定による請求(以下この条において「書面交付請求」という。)をした株主(当該株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための基準日(第124条第1項に規定する基準日をいう。)を定めた場合にあっては、当該基準日までに書面交付請求をした者に限る。)に対し、当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければならない。
 株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるもの【1】の全部又は一部については、前項の規定により交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができる。
 書面交付請求をした株主がある場合において、その書面交付請求の日(当該株主が次項ただし書の規定により異議を述べた場合にあっては、当該異議を述べた日)から一年を経過したときは、株式会社は、当該株主に対し、第二項の規定による書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議のある場合には一定の期間(以下この条において「催告期間」という。)内に異議を述べるべき旨を催告することができる。ただし、催告期間は、一箇月を下ることができない。
 前項の規定による通知及び催告を受けた株主がした書面交付請求は、催告期間を経過した時にその効力を失う。ただし、当該株主が催告期間内に異議を述べたときは、この限りでない。
【1】会社法施行規則95の4

電子提供が中断したときの救済措置(会325の6)


サーバーの不調等により株主が電子提供措置を見られなくなる場合もあろうかと思います。

そういった場合の救済措置も用意されています。 

第325条の6(電子提供措置の中断)
 第325条の3第1項の規定にかかわらず、電子提供措置期間中に電子提供措置の中断(株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったこと又は当該情報がその状態に置かれた後改変されたこと(同項第七号の規定により修正されたことを除く。)をいう。以下この条において同じ。)が生じた場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、その電子提供措置の中断は、当該電子提供措置の効力に影響を及ぼさない。
 電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること。
 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと。
 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと。
 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと。

株主としては、一度閲覧して見られない場合にも、日をかえて何回か試す必要があるということです。

電子公告調査制度(会941)の適用はあるか?!


電子提供措置が適切に行われたことについて、電子公告調査会社等による調査を受ける法律上の義務はありません(法改正時に検討はされましたが、見送られました。)。

一方、電子提供措置が中断した場合に救済措置(会325の6)の適用を受けるためには、会社は中断期間が1/10以下であったことを立証する必要があります。そこで、調査機関が調査してくれるようであれば【1】、依頼しておくのも決議取消しの訴えを回避するためにも有効です。

また、中断自体を避けるため複数のウェブサイトに電子提供措置をとっておくことも有益だと思われます。

第941条(電子公告調査) この法律又は他の法律の規定による公告(第440条第1項の規定による公告を除く。以下この節において同じ。)を電子公告によりしようとする会社は、公告期間中、当該公告の内容である情報が不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置かれているかどうかについて、法務省令で定めるところにより、法務大臣の登録を受けた者(以下この節において「調査機関」という。)に対し、調査を行うことを求めなければならない。

【1】令和4年9月、この記事の筆者が電子公告調査株式会社(本店:大阪市)に対して電話にて照会したところ180,000円程度で受託するとのことでした。

 

以上、電子広告調査制度の適用はあるか?!について「森・濱田松本法律事務所 編 宮谷隆 著 奥山健志 著『新・会社法実務問題シリーズ/4 株主総会の準備事務と議事運営〈第5版〉』(中央経済社、2021年)」を参照した。

メリット・デメリット


■メリット1/3 印刷封入のための作業時間・コスト削減

株主総会参考書類等の印刷や郵送のための作業時間・作業コストが削減できます。

 

経団連参加企業41社を対象としたアンケート(有効回答数28社。下のグラフ)によると

  • 招集通知関連書類の印刷・封入に要する期間は、概ね2週間程度(約10~12営業日)。
  • 印刷・封入等にかかる費用が1億円を超える企業は8社。

株主総会プロセスの電子化促進等に関する研究会事務局提出資料~招集通知関連書類の電子提供~(原則電子化に向けた検討を中心に)/経産省/H28.2.2/8頁/最終アクセス220918

 

中小企業において、どの程度のコスト減になるのかは、各社バラバラでしょう。

株主数や議案数の多い中小企業においても結構コストが掛かっているのではないでしょうか?

人件費+郵送費又は外注費、この削減に繋がる可能性があります。 

■メリット2/3 株主に早期に株主総会資料を提供できる。

株主が株主総会資料の内容を十分に検討する期間が確保され、株主総会への出席者が増える効果も期待できます。

■メリット3/3 最先端であることをアピールできる。

外部からの投資を呼び込みたい企業様にとっては「(法務も)最先端であること」をアピールするチャンスです。

■デメリット1/2 招集通知の早期発送が必要

招集通知の発送時期は、本来

  • 非公開会社であれば1週間前(会社法299Ⅰ)
  • さらに、非公開会社の取締役会非設置会社であれば1週間を下回る期間を定款で定めた場合にあってはその期間前(会社法299Ⅰ)。

であるところ、電子提供措置を採用した場合には、総会の2週間に通知発送が必要になります(会325の4Ⅰ)。 

■デメリット2/2 定款変更のための総会招集と登記が必要

電子提供措置をとる旨の定款変更総会決議が必要になります。

急ぎ導入したい場合には、臨時株主総会を招集して行なう必要がありますが、そうでない場合には定時総会で決議し、来年の定時総会から電子提供措置を導入すれば余分に総会を招集する必要はありません。

電子提供措置をとる旨は登記事項にもなる(会911Ⅲ⑫の2)ので、登記コスト(登録免許税3万円+司法書士報酬=合計10万円前後)が必要になりますが、一度変更すれば良いだけですので、それほど負担にはならないでしょう。 

導入までの手続の流れ


電子提供措置制度採否の検討

取締役会の開催

株主総会の招集

株主総会の開催

定款記載例

定款には電子提供措置をとる旨を定めれば足り(会325の2)、ウェブサイトのアドレス等の記載は不要です(令和4年8月3日民商第378号)。

(株主総会参考書類等の電子提供措置)

第○条の2 当会社は株主総会の招集に際し、株主総会参考書類等の内容である情報について、電子提供措置をとるものとする。

(このひな形は、令和4年8月3日民商第378号を参照した。)

書面交付請求をした株主に対して交付する書面の記載事項の一部を省略する場合の定款記載例は次のとおりです。

(書面交付請求)

第○条の3 当会社は、第○条の2により電子提供措置をとった事項のうち、法務省令で定めるものについて、会社法第325条の5第1項の書面交付請求をした株主に対し交付する書面に記載しないことができる。

(このひな形は、藤原総一郎・堀天子・小林雄介(著)/森・濱田松本法律事務所(編)/新会社法実務問題シリーズ1/定款・各種規則の作成実務(第4版)/中央経済社/2021/94頁を参照した。)

変更登記の申請

添付書類:委任状、株主総会議事録、株主リスト(商登法第46条第2項、商登規第61条第3項)。

登録免許税:申請1件につき3万円(登録免許税法別表第一第24号(一)ツ)。

登記例

令和4年9月1日の法施行にあわせて、総会を招集し、定款規程を設けた場合には、次のとおりとなります(会911Ⅲ⑫の2)。ウェブサイトのアドレスの記載は不要です。

電子提供措置に関する規定 当会社は株主総会の招集に際し、株主総会参考書類等の内容である情報について、電子提供措置をとるものとする。 令和 4年10月 3日設定
令和 4年10月10日登記 

(民商第378号令和4年8月3日)。

● 登記すべき事項はあくまでも「電子提供措置をとる旨の定款の定め」となっておりますので、「電子提供措置に係るウェブサイトのアドレス」や「書面交付請求をした株主に交付する書面の内容を一

部省略する旨の定款の定め」の記載を登記することはできません。

当該定款の定めがある会社には電子提供措置を選択するか否かの裁量がありません(会社法第325条の3第1項参照)ので、「当会社は、・・・・・電子提供措置をとることができる。」といった

定款の記載も登記することができません。

株主総会資料の電子提供制度に関する登記について/法務省/5頁/最終アクセス220922

導入後の手続の流れ


非公開会社(基準日を通常定めない)の場合の流れは次のとおりです。

ウェブサイトへの掲載開始

株主総会の日の3週間前の日又は招集の通知を発した日のいずれか早い日までに掲載開始する必要があります(会325の3Ⅰ)。

株主からの書面交付要求

会社は「今回の総会分についても」応じる義務があります(会325の5Ⅱ)。

以降に開催される総会においても、この株主から書面交付請求がなかったとしても書面による交付が必要となります。

株主総会招集通知の発送

299条1項の招集通知は株主総会の日の2週間前までに発する(325条の4)。

  • 株主総会の日時場所、目的等に加えて電子提供措置を採用している旨、情報を提供するウェブページのアドレスも記載します。
  • なお、個別に株主の承諾を得ればこの招集通知自体も電磁的方法によることが可能です(会299Ⅲ)。

株主からの書面交付要求

会社は「今回の総会においては」応じる義務はありません(会325の5Ⅱ)。

ただし、今回の総会以降に開催される総会においては、この株主から書面交付請求がなかったとしても書面による交付が必要となります。

株主総会の開催

ウェブサイトへの掲載終了

株主総会の日後3か月を経過する日が終了するとウェブサイトへの掲載を終了することができます。

種類株主総会への準用


電子提供制度は種類株主総会にも準用されます(会325の7)。

第325条の7(株主総会に関する規定の準用) 第325条の3から前条まで(第325条の3第1項(第5号及び第6号に係る部分に限る。)及び第3項並びに第325条の5第1項及び第3項から第5項までを除く。)の規定は、種類株主総会について準用する。この場合において、第325条の3第1項中「第299条第2項各号」とあるのは「第325条において準用する第299条第2項各号」と、「同条第1項」とあるのは「同条第1項(第325条において準用する場合に限る。次項、次条及び第325条の5において同じ。)」と、「第298条第1項各号」とあるのは「第298条第1項各号(第325条において準用する場合に限る。)」と、「第301条第1項」とあるのは「第325条において準用する第301条第1項」と、「第302条第1項」とあるのは「第325条において準用する第302条第1項」と、「第305条第1項」とあるのは「第305条第1項(第325条において準用する場合に限る。次条第4項において同じ。)」と、同条第2項中「株主」とあるのは「株主(ある種類の株式の株主に限る。次条から第325条の6までにおいて同じ。)」と、第325条の4第2項中「第299条第4項」とあるのは「第325条において準用する第299条第4項」と、「第299条第2項」とあるのは「第325条において準用する第299条第2項」と、「第298条第1項第5号」とあるのは「第325条において準用する第298条第1項第5号」と、「同項第1号から第4号まで」とあるのは「第325条において準用する同項第1号から第4号まで」と、同条第3項中「第301条第1項、第302条第1項、第437条及び第444条第6項」とあるのは「第325条において準用する第301条第1項及び第302条第1項」と読み替えるものとする。

他の種類の法人への準用


次の種類の法人は、電子提供制度を導入することができます。

  • 一般社団法人【一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第47条の2】
  • 投資法人【投資信託及び投資法人に関する法律第94条第1項】
  • 信用金庫、信用金庫連合会【信用金庫法第48条の9】
  • 労働金庫、労働金庫連合会【労働金庫法第54条の2】
  • 協同組織金融機関(優先出資者総会に係る部分)【協同組織金融機関の優先出資に関する法律第40条第4項】
  • 相互会社【保険業法第41条第1項等】
  • 特定目的会社【資産の流動化に関する法律第65条第3項】
  • 医療法人【医療法第46条の3の6】
  • 漁業協同組合、漁業生産組合、漁業協同組合連合会、水産加工業協同組合、水産加工業協同組合連合会、共済水産業協同組合連合会【水産業協同組合法第47条の5の2等】
  • 森林組合、生産森林組合、森林組合連合会【森林組合法第60条の3の2等】
  • 農業協同組合、農業協同組合連合会【農業協同組合法第43条の6の2】
  • 農林中央金庫【農林中央金庫法第46条の4】

導入をオススメする企業・団体


毎年株主総会資料の発送が大変な企業様・団体様

株主も多いし、株主総会資料も分厚い。毎年定時総会シーズンには気が重たくなる企業様・団体様。一度、これまでの印刷費・発送費・人件費を算出して、電子提供措置の導入コスト・運用コストと比較してみてください。

思わぬ経費節減ができるかもしれません。 

最先端であることをアピールしたい企業様・団体様

外部からの投資を呼び込みたいベンチャー企業にとっては「(法務も)最先端」をアピールするチャンスです。是非導入をご検討ください。

参考文献


  • 『企業法務はここを押さえる!令和元年会社法改正ガイドブック』/ 日本加除出版/2020.2
  • 『令和元年 改正会社法 改正の経緯とポイント』/有斐閣/2021.2 
  • 『新・会社法実務問題シリーズ/4株主総会の準備事務と議事運営』〈第5版〉中央経済社/2021.6

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