生命保険契約で保険金受取人が指定されているときは、遺言では保険について一切触れなくて良いのか?


生命保険の受取人を保険契約で指定している場合、遺言書に記載しなくても、指定された受取人は単独で(遺産分割協議を行なわないでも)、生命保険金を受け取ることができます。よって、生命保険については遺言書で触れられないことが通常だと思います。

それでも尚、遺言に記載する必要がある場合はないのか、検討しました。

 

もくじ
  1. 「保険契約上の地位」とは何か ?
  2. 「保険契約上の権利」とは何か?
  3. 「保険契約上の義務」とは何か?
  4. 保険金受取人の「権利・義務」は何か?
  5. ここまでのまとめ
  6. 「保険契約上の地位」又は「保険契約上の権利」について遺言で触れるべき場合は?
  7. 遺言で触れるべき場合、具体的な記載方法は?
  8. 保険金受取人の変更に関する重要条文

「保険契約上の地位」とは何か?


遺言書には「保険契約上の地位」と書かれることも「保険契約上の権利」と書かれることもあります。これらに違いはあるのか?

コレは・・・

保険「契約上の地位」 保険契約上の「権利」 保険契約上の「義務」

ということになります。

保険契約上の「権利」と「義務」について、以下ご説明します。

「保険契約上の権利」とは何か?


保険契約上、保険契約者は保険会社(保険者)に対して、次のような権利をもっています。

  1. 保険金受取人の変更(保険法43)
  2. 危険減少の場合の保険料の減額請求権(保険法48)
  3. 保険契約の解除権(保険法54)
  4. 保険契約終了時の保険料積立金の払戻し請求権(保険法63)
  5. 保険契約者の権利に、死亡保険金を受け取る権利は含まれません。保険金受取人がこの権利をもっているからです(保険法42)。

「保険契約上の義務」とは何か?


保険契約上、保険契約者は保険会社(保険者)に対して、次のような義務を負っています。

  1. 保険料支払義務(保険法2③)
  2. 保険契約締結時の告知義務(保険法37)
  3. 被保険者死亡を知った時の通知義務(保険法50)

保険金受取人の権利・義務は何か?


保険金受取人の権利

保険金受取人は、保険法上次のような権利を有しています。

  1. 死亡保険金を受け取る権利(保険法2⑤、同42)
  2. 介入権(保険法60-62)【1】

【1】保険契約者の破産管財人、差押債権者、質権者などの第三者が解約返戻金を債務の弁済にあてるため、契約者が契約していた医療保険などを解除する場合に、保険金受取人が解約返戻金相当額を負担することにより契約を存続させることができる権利です(保険法60-62)。

被保険者が高齢者であるときなどは保険に再加入することが困難になるので、このような場合に、保険金受取人の利益を守ることを目的にして、保険法改正により追加されました。保険契約の当事者ではない保険金受取人が介入することから「介入権」と言われます。

保険金受取人の義務

保険金受取人は、次のような義務を負っています。

  1. 被保険者死亡を知った時の通知義務(保険法50)

ここまでのまとめ


    保険契約者 保険金受取人

保険金受取人の変更 〇あり ✕なし
危険減少の場合の保険料減額請求権 〇あり ✕なし
保険契約の解除権 〇あり ✕なし
保険契約終了時の保険料積立金の払戻請求権 〇あり ✕なし
死亡保険金を受け取る権利 ✕なし 〇あり
介入権 ✕なし 〇あり

保険料支払い義務 〇あり ✕なし
保険契約締結時の告知義務 〇あり ✕なし
被保険者死亡を知ったときの通知義務 〇あり 〇あり

保険契約者の権利義務と、受取人の権利義務は重複しない。

受取人が、保険契約者の権利義務も承継する必要があるときには、遺言書で定めておく必要がある。

例えば、年金方式で給付される保険であれば、受取人も保険契約者の権利・義務(=地位)を承継した方が良いでしょう。

「保険契約上の地位」又は「保険契約上の権利」について遺言で触れるべき場合とは?


保険契約の状態に応じて、保険契約ごとに次のとおり検討します。

保険金受取人が承継した方が良い「権利」はあるのか?

・受取人を変更する権利:年金型保険の場合には要検討

・保険料の減額:既に全額支払っている場合には、承継不要

・契約の解除:解除の権利は承継しておくべきなので承継必要

・保険料積立金の払戻し:契約が解除された場合、積立金の払戻請求権が発生するので承継必要

 

保険金受取人が承継した方が良い「義務」はあるのか?

・保険料支払義務:既に全額支払っている場合には、義務承継不要

・契約締結時の告知義務:契約が成立する段階での話なので、義務承継不要

・被保険者死亡を知った時の、通知義務:通知義務は、もともと保険金受取人にも課せられているので義務承継不要

遺言書への具体的表現方法


先に検討した結果、

権利のみを承継すれば良い場合には「保険契約上の権利」と指定すれば結構です。

権利だけではなく、義務も承継する必要があるときには「保険契約上の地位」と指定する必要があります。

(参照)

  • 「保険契約上の地位」・・・保険契約上の一切の権利・義務
  • 「保険契約上の権利」・・・保険契約上の権利のみ 

 

ただし、保険金をこっそり遺すという観点からすると記載するデメリットもあります。

保険金受取人と「その他の財産」を相続させる相続人が一致する場合には、「その他の財産は全て〇〇に相続させる。」という条項に「保険契約者の地位」を含めることができるのか?検討すべきでしょう。

保険金受取人の変更に関する重要条文


特に第45条には注意が必要です。

保険法第43条(保険金受取人の変更)
  
  1. 保険者契約者は保険金受取人を変更することができる。
  2. 保険金受取人の変更は、保険者(保険会社)に対する意思表示によってする。
  3. 前項の意思表示は、その通知が保険者に到達したときは、当該通知を発した時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、その到達前に行われた保険給付の効力を妨げない。
保険法第44条(遺言による保険受取人の変更)
  
  1. 遺言によっても保険金受取人を変更することができる。
  2. 遺言による保険金受取人の変更は、その遺言が効力を生じた後、保険契約者の相続人がその旨を保険者に通知しなければ、これをもって保険者に対抗することができない。
保険法第45条(保険金受取人の変更についての被保険者の同意)
   死亡保険契約の保険金受取人の変更は、被保険者の同意がなければ、その効力を生じない。

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