スポットでも使える「補助+代理権付与」


成年後見について、ネガティブな情報や誤った情報が世間に拡がる一方で、有効な活用方法があまり知られてません。そこで、このコラムでは「スポットでも使える『補助+代理権付与』」をご紹介します。

特に「補助相当」であって、

  • 遺産分割協議をしたいけれど、ずっと成年後見制度を利用するのは嫌だ。
  • 不動産を売却したいけれど、ずっと成年後見制度を利用するのは嫌だ。

という方は、一度、ご検討いただく価値があると思います。

後見制度の利用を考えている方、一度利用を検討したものの断念された方、このような方々の参考になれば幸いです。

もくじ
  1. 補助制度の特徴
    1. 3つの類型では異質な「補助」
    2. 同意権付与の取消・代理権付与の取消
    3. 3つのパターン
    4. 開始取り消し
    5. 勘違いしている専門職もいる・・・
  2. 立案担当者の想定、現場書記官の認識
  3. 事例ご紹介
  4. この記事の執筆者
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補助制度の特徴


3つの類型では異質な「補助」

後見制度には、補助・保佐・後見の3つの類型があります。その中の補助は、明らかに他の2つと違う点があります。それは、開始申立に本人の同意が必要ということです(民法第15条第2項)。反対に言うと、保佐と後見は、本人の同意がなくても申し立てることが可能です。これはよく知られていることだと思います。 

民法第15条(補助開始の審判)
 
  1. 精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第7条又は第11条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
  2. 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
  3. 補助開始の審判は、第17条第1項の審判又は第876条の9第1項の審判とともにしなければならない。

私がお伝えしたいのは、もう一つの大きな特徴である「補助は取り消せる」ということです。条文にハッキリと書かれていますので、一部の家裁の特殊な運用などではなく、日本全国一律の対応です。鍵は民法第18条第2項、第3項です。

ちなみに、精神上の障害が消滅したので開始取消(第18条第1項)というのは、補助・保佐・後見に共通のことなので、補助の特徴とは言えません。ここでは原因の消滅による取消しではない取消しのお話をします。

民法第18条(補助開始の審判等の取消し)
 
  1. 第15条第1項本文に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判を取り消さなければならない。
  2. 家庭裁判所は、前項に規定する者の請求により、前条第一項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。
  3. 前条第1項の審判及び第876条の9第1項の審判をすべて取り消す場合には、家庭裁判所は、補助開始の審判を取り消さなければならない。

同意権付与の取消・代理権付与の取消

家庭裁判所は、民法第17条第1項の審判(同意権付与の審判)をすべて取り消すことができます(民18Ⅱ)。同様に、民法第876条の9第1項の審判(代理権の付与の審判)をすべて取り消すことができます(民876条の9Ⅱで準用する民876条の4Ⅲ)。

そして、家庭裁判所は、同意権付与の審判(第17条第1項の審判)及び代理権付与の審判(第876条の9第1項の審判)をすべて取り消す場合には、補助開始の審判を取り消さなければなりません(民法18Ⅲ)。 

民法第17条(補助人の同意を要する旨の審判等)
 
  1. 家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る。
  2. 本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
  3. 補助人の同意を得なければならない行為について、補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被補助人の請求により、補助人の同意に代わる許可を与えることができる。
  4. 補助人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
民法第876条の9(補助人に代理権を付与する旨の審判)
 
  1.  家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
  2. 第876条の4第2項及び第3項の規定は、前項の審判について準用する。
民法876条の4(保佐人に代理権を付与する旨の審判)
 
  1. 家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。
  2. 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。
  3. 家庭裁判所は、第1項に規定する者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。

3つのパターン

ここで、補助制度についておさらいです。補助開始は、民法第17条第1項の審判又は民法第876条の9第1項の審判とともにしなければならないことを思い出してください(民法15Ⅲ)。

つまり、補助開始の審判には、

①同意権付与の審判と同時、

②代理権付与の審判と同時、

③同意権付与と代理権付与の両方の審判と同時

という3つのパターンが考えられるのです。

 

①のケースで同意権付与の審判が民法第18条第2項によってすべて取り消されたらどうなるでしょうか。この場合、自然に同条第3項に当てはまります。第3項に当てはまると家庭裁判所には選択の余地がなく「補助開始の審判を取り消さなければならない」のです。

②③も同様です。

開始取り消し

つまり、補助が取り消しとなる場合には、

  1. 精神上の障害が消滅したことによる開始取消、
  2. すべての同意権の消滅による開始取消、
  3. すべての代理権の消滅による開始取消

という3パターンがあるのです。これは、保佐・後見にはない特徴です。

 

ちなみに「保佐」には、代理権を取り消す第14条第2項がありますが、取り消すことができない第13条第1項の同意権があるので、すべての代理権が消滅したとしても開始取消にはなりません。

勘違いしている専門職もいる・・・

このことを、勘違いしている専門職もいますので「成年後見制度って一度始めたら本人が回復する以外取り消せないですよね?」と聞いてみてください。

「そんなことはない、本人の回復とは関係なく取り消せる場合がある。」とか

「原則はね。でも、例外もあるよ。」とか「補助は取り消せるよ。」と

回答したら、その人は後見業務を専門的に取り扱っていると判断できるかもしれません。

反対に「そうだよ。」と回答したら、数年前の私です。鼻で笑ってやってください。恥ずかしながら、業務開始当時は理解できていませんでした。取り消せることがわかっていなくて。でも、できそうなので書記官に相談したら「できる」との回答で(そりゃそうだ。条文に書いてあるんだから。)、そして実際に取り消せて驚きました(驚くな。条文に書いてあるんだから。)。

立案担当者の想定、現場書記官の認識


立案担当者が執筆した『新成年後見制度の解説【改訂版】』(小林昭彦・大門匡・岩井伸晃[編著]/福本修也・岡田伸太・原司・西岡慶記[著]、きんざい、2017年)という本があります。宣伝文句の一つには「弁護士・司法書士、裁判官・裁判所書記官等の法律実務家など、成年後見制度に携わるすべての関係者にとって必携の1冊」とあります。この本のp74に、補助の取消しについて次のような記述があります。

補助開始の審判後に、その目的とされた法律行為の終了等(たとえば、遺産分割または財産処分行為の終了等)により、代理権付与および同意権付与の審判が全部取り消され、何らの代理権・同意権も伴わない空虚な状態になる場合には、本人の判断能力に変化がない場合でも、補助開始の審判の取消しを認めるのが相当です。/補助制度は、たとえば、必要に応じて特定の事務のみについて補助人に代理権を付与し、当該事務の終了後は速やかに開始の審判を取り消すという機動的な利用方法が可能になりますので、その面でも利用しやすい制度となるものということができます。

繰り返しになりますが、この本は、立案担当者が書いた本です。実務家が独自の見解を述べたものではありません。つまり、補助制度は、最初から、利用者が利用しやすいように、特定の行為についてだけ補助制度を利用して行為終了後には取消すことが想定されているのです。

 

さらに、裁判所の書記官向けの書籍『家事事件手続法下における書記官事務の運用に関する実証的研究―別表第一事件を中心に―』(裁判所職員総合研修所[監修]、司法協会、2017年)のp311とp334に、その手続きについて、『新成年後見制度の解説【改訂版】』を引用しながら解説がなされています。

事例ご紹介


この記事の執筆者


司法書士 髙野守道

川のほとり司法書士事務所

平成28年司法書士登録

葛飾生まれ、葛飾育ち、葛飾在住、事務所も葛飾

 

開業当初から、世の中の「困った」を一つでも多く解消すること、軽減させることを念頭に、先義後利の精神で今日も駆けずり回っている。

義理と人情溢れる下町の頼りになる司法書士になれたらいいな、なれるといいな。



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