「事業報告書」作成から株主総会への提出・報告、備置きまで


計算書類(とその附属明細書)は税理士が作成してくれますが、事業報告書は基本的には貴社ご自身で作成いただく必要があります。極簡単に申し上げますと、事業報告書とは「過去1年の間に会社に発生した重要事実のうち会計に関する以外の事実を書類にまとめたもの」です。

以下の記事が、事業報告書を作成される際の参考になれば幸いです。

もくじ
  1. 事業報告書の位置づけ
  2. 事業報告書・附属明細書に関する一覧(まとめ)
  3. 事業報告書の作成(事業報告書の記載事項)
    1. 全株式会社共通の記載事項
    2. 公開会社の特則
    3. 社外役員がいる会社の特則
    4. 会計参与設置会社の特則
    5. 会計監査人設置会社の特則
  4. 事業報告書の附属明細書の記載事項
  5. 事業報告書の監査
  6. 事業報告書の株主への提供
  7. 事業報告書の定時株主総会への提出
  8. 事業報告書の備置き・閲覧等

事業報告書の位置づけ


事業報告書は、事業年度ごとに会社が作成し、株主に報告する必要があります。

事業年度ごとに作成を要する書類は、次のとおりです(会社法435)。

  1. 計算書類・・・⑴貸借対照表、⑵損益計算書、⑶株主資本等変動計算書、⑷個別注記表
  2. 計算書類の附属明細書
  3. 事業報告書
  4. 事業報告書の附属明細書

計算書類(とその附属明細書)は税理士が作成してくれますが、事業報告書は基本的には貴社ご自身で作成いただく必要があります。

事業報告書・附属明細書に関する一覧(まとめ)


「事業報告書」と「事業報告書の附属明細書」を、手続きの流れの順に整理すると次のとおりです。

まず「会社の種類」欄から貴社に該当する種類をすべて選択いただきその下の項目をチェックすると分かりやすいと思います。

  会社の種類
  全ての株式会社 公開会社 社外役員のいる会社 会計参与設置会社 監査役設置会社 会計監査人設置会社 取締役会設置会社
❶作成(事業報告書) ○必要 特則あり 特則あり 特則あり   特則あり  
❶作成(附属明細書) ○必要 特則あり          
             
❷監査(事業報告書)         監査役の監査 監査役の監査 取締役会承認
❷監査(附属明細書)         監査役の監査 監査役の監査 取締役会承認
▼               
❸株主への提供(事業報告書)             ○必要
❸株主への提供(附属明細書)             ×不要
▼               
❹定時総会への提出・報告(事業報告書) ○必要       ○必要 ○必要 ○必要
❹定時総会への提出・報告(附属明細書) ×不要       ×不要 ×不要 ×不要
▼               
❺備置き・閲覧等(事業報告書) ○必要       ○必要 ○必要 ○必要
❺備置き・閲覧等(附属明細書) ○必要       ○必要 ○必要 ○必要

それでは詳しく、説明していきます。

事業報告書の作成(事業報告書の記載事項)


すべての株式会社には、事業報告書を作成する義務があります(会社法435Ⅱ)。

事業報告書の附属明細書の作成義務もありますが、のちほど詳しく説明します。

会社法第435条(計算書類等の作成及び保存)
 
  1. (略)
  2. 株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産及び損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいう。以下この章において同じ。)及び事業報告並びにこれらの附属明細書を作成しなければならない。
  3. 計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、電磁的記録をもって作成することができる。
  4. (略)

事業報告書に記載すべき事項については会社法施行規則118条以下で定められています。

全株式会社共通の記載事項

すべての会社に共通する記載事項は、会社法施行規則118条が定めています。

  • 株式会社の状況に関する重要事項で会計に関するもの以外の事項(会社法施行規則118①)・・・具体的に記載すべき事項は法定されていませんので、1年間に起こった「会社にって重要な事項」をご自由に記載いただければ結構です。
  • 業務の適正を確保するための体制(内部統制システム)に関する決定・決議、運用状況の概要(会社法施行規則118②)・・・内部統制に関する委員会の開催状況、社内研修の実施状況、内部統制・内部監査部門の活動状況等を記載することが考えられる(坂本三郎・堀越健二・辰巳郁・渡辺邦広「会社法施行規則等の一部を改正する省令の解説〔Ⅱ〕ー平成27年法務省令第6号ー」旬刊商事法務/2061号/21頁)。
  • 会社の支配に関する基本方針(会社法施行規則118③)・・・中長期的な視点をも踏まえた会社の経営方針(企業価値の維持・増大やこれに対する市場の評価に対する取り組み等を含む)等の具体的な取り組みや支配のあり方に係る背景事情をも勘案した基本方針であるとされる(相澤哲・郡谷大輔「新会社法関係法務省令の解説⑸事業報告(下)」旬刊商事法務/1763号/14頁)。
  • 特定完全子会社に関する事項(会社法施行規則118④)
  • 親会社等との取引(会社法施行規則118⑤) 
    • イ 親会社等との取引をするに当たり当該株式会社の利益を害さないように留意した事項(当該事項がない場合にあっては、その旨)
    • ロ 親会社等との取引が当該株式会社の利益を害さないかどうかについての当該株式会社の取締役(取締役会設置会社にあっては、取締役会。ハにおいて同じ。)の判断及びその理由
    • ハ 社外取締役を置く株式会社において、ロの取締役の判断が社外取締役の意見と異なる場合には、その意見

公開会社の特則(会社法施行規則119~124)

会社法でいう「公開会社」とは、上場会社ではありませんのでご注意ください。

発行済み株式の一部にでも譲渡制限を設けていない会社のことです(会社法2条5号)。

公開会社の事業報告書には、次の事項も記載する必要があります。

  • 株式会社の現況に関する事項(会社法施行規則119①、記載事項の詳細は同規則120)
  • 株式会社の会社役員に関する事項(会社法施行規則119②、記載事項の詳細は同規則121)
  • 株式会社の役員等賠償責任保険契約に関する事項(会社法施行規則119②の2、記載事項の詳細は同規則121の2)
  • 株式会社の株式に関する事項(会社法施行規則119③、記載事項の詳細は同規則122)
  • 株式会社の新株予約権等に関する事項(会社法施行規則119④、記載事項の詳細は同規則123)
  • 社外役員に関する事項(会社法施行規則124)

実際に作成される際には、経団連が発表しているひな形も参考になろうかと思います。

社外役員がいる会社の特則(会社法施行規則124)

こちらも公開会社にのみ適用される条文です(∵「第二目 公開会社における事業報告の内容」中に規定されている。)。

社外役員に関する詳細は、コチラ「社外取締役・社外監査役・独立役員」を参照ください。

社外役員がいる会社の場合には、会社法施行規則121条の記載事項に加えて、会社法施行規則124条に定める事項も記載する必要があります。

会計参与設置会社の特則(会社法施行規則125)

会計参与を設置している会社の場合には、会社法施行規則125条をご参照ください。

会計監査人設置会社の特則(会社法施行規則126)

会計監査人を設置している会社の場合には、会社法施行規則126条をご参照ください。

事業報告書の附属明細書の記載事項


事業報告書の附属明細書(会社法435Ⅱ)の内容については、次のとおり規定されています。

特に会社法128条3項は難解ですので、条文の下に表で分かりやすく表示しています。

 

会社法施行規則第128条 

  1. 事業報告の附属明細書は、事業報告の内容を補足する重要な事項をその内容とするものでなければならない。
  2. 株式会社が当該事業年度の末日において公開会社であるときは、他の法人等の業務執行取締役、執行役、業務を執行する社員又は法第598条第1項の職務を行うべき者その他これに類する者を兼ねることが第121条第8号の重要な兼職に該当する会社役員(会計参与を除く。)についての当該兼職の状況の明細(重要でないものを除く。)を事業報告の附属明細書の内容としなければならない。この場合において、当該他の法人等の事業が当該株式会社の事業と同一の部類のものであるときは、その旨を付記しなければならない。
  3. 当該株式会社とその親会社等との間の取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該株式会社とその親会社等との間の利益が相反するものを含む。)であって、当該株式会社の当該事業年度に係る個別注記表において会社計算規則第112条第1項に規定する注記を要するもの(同項ただし書の規定により同項第4号から第6号まで及び第8号に掲げる事項を省略するものに限る。)があるときは、当該取引に係る第118条第5号イからハまでに掲げる事項を事業報告の附属明細書の内容としなければならない。【1】

【1】会社法施行規則128条3項を整理すると下表のとおりです。

  会計監査人設置会社の場合 会計監査人設置会社以外の会社の場合

個別注記表に会社計算規則112Ⅰの事項全てを記載したとき

個別注記表で会社計算規則112Ⅰ④⑤⑥⑧の事項を記載省略したとき
関連当事者取引を行った

個別注記表に会社計算規則112Ⅰの事項を全て記載必要

(会社計算規則112Ⅰ本文【2】)

事業報告の附属明細書には記載不要

会社計算規則112Ⅰ①②③⑦は個別注記表の必要的記載事項

会社計算規則112Ⅰ④⑤⑥⑧は個別注記表の任意的記載事項(省略可能)

(会社計算規則112Ⅰただし書き【2】)

事業報告の附属明細書には記載不要

 

事業報告の附属明細書に会社法施行規則118⑤イロハの事項を記載必要

(会社法施行規則128Ⅲ)

【2】会社計算規則第112条(関連当事者との取引に関する注記)
   1.関連当事者との取引に関する注記は、株式会社と関連当事者との間に取引(当該株式会社と第三者との間の取引で当該株式会社と当該関連当事者との間の利益が相反するものを含む。)がある場合における次に掲げる事項であって、重要なものとする。ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社にあっては、第4号から第6号まで及び第8号に掲げる事項を省略することができる。
   

一 当該関連当事者が会社等であるときは、次に掲げる事項

     

イ その名称

ロ 当該関連当事者の総株主の議決権の総数に占める株式会社が有する議決権の数の割合

ハ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合

   

二 当該関連当事者が個人であるときは、次に掲げる事項                         

     

イ その氏名

ロ 当該株式会社の総株主の議決権の総数に占める当該関連当事者が有する議決権の数の割合

   

三 当該株式会社と当該関連当事者との関係

四 取引の内容

五 取引の種類別の取引金額

六 取引条件及び取引条件の決定方針

七 取引により発生した債権又は債務に係る主な項目別の当該事業年度の末日における残高

八 取引条件の変更があったときは、その旨、変更の内容及び当該変更が計算書類に与えている影響の内容

  2~4.(略)

事業報告書の監査


会社法第436条(計算書類等の監査等)
 
  1. 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含み、会計監査人設置会社を除く。)においては、前条第2項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、法務省令で定めるところにより、監査役の監査を受けなければならない。

  2. 会計監査人設置会社においては、次の各号に掲げるものは、法務省令で定めるところにより、当該各号に定める者の監査を受けなければならない。

    一 前条第2項の計算書類及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)及び会計監査人

    二 前条第2項の事業報告及びその附属明細書 監査役(監査等委員会設置会社にあっては監査等委員会、指名委員会等設置会社にあっては監査委員会)

  3. 取締役会設置会社においては、前条第2項の計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第1項又は前項の規定の適用がある場合にあっては、第1項又は前項の監査を受けたもの)は、取締役会の承認を受けなければならない。

事業報告書の株主への提供


会社法第437条(計算書類等の株主への提供)
   取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集の通知に際して、法務省令で定めるところにより、株主に対し、前条第3項の承認を受けた計算書類及び事業報告(同条第一項又は第二項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない。

取締役会が設置されていない会社においては、株主総会の招集通知は、必ずしも書面でなされるとは限りません(会社法299条参照)ので、本条は適用されません。

事業報告書の定時株主総会への提出


事業報告は、過去の事実について書かれたものですので、その当否を株主が判断するのは相応しくありませんので、株主総会の承認ではなく、株主総会へ提出し報告するとされています。

会社法第438条(計算書類等の定時株主総会への提出等)
 
  1. 次の各号に掲げる株式会社においては、取締役は、当該各号に定める計算書類及び事業報告を定時株主総会に提出し、又は提供しなければならない。
    1. 第436条第1項に規定する監査役設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第436条第1項の監査を受けた計算書類及び事業報告
    2. 会計監査人設置会社(取締役会設置会社を除く。) 第436条第2項の監査を受けた計算書類及び事業報告
    3. 取締役会設置会社 第436条第3項の承認を受けた計算書類及び事業報告
    4. 前3号に掲げるもの以外の株式会社 第435条第2項の計算書類及び事業報告
  2. (略)
  3. 取締役は、第1項の規定により提出され、又は提供された事業報告の内容を定時株主総会に報告しなければならない。

事業報告書の備置き・閲覧等


最後に「備置(そなえおき)」も忘れてはいけません。

備え置きとは、閲覧の請求等に対応するために「所定の場所に置いておく」ことを意味します。

事業報告書は他の計算書類、附属明細書などとともに、一定期間、本店と支店に備置きしておく必要があります。

会社法第442条(計算書類等の備置き及び閲覧等)
 
  1. 株式会社は、次の各号に掲げるもの(以下この条において「計算書類等」という。)を、当該各号に定める期間、その本店に備え置かなければならない。

    一 各事業年度に係る計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書(第436条第1項又は第2項の規定の適用がある場合にあっては、監査報告又は会計監査報告を含む。) 定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日(第319条第1項の場合にあっては、同項の提案があった日)から5年間

    二 (略)

  2. 株式会社は、次の各号に掲げる計算書類等の写しを、当該各号に定める期間、その支店に備え置かなければならない。ただし、計算書類等が電磁的記録で作成されている場合であって、支店における次項第3号及び第4号に掲げる請求に応じることを可能とするための措置として法務省令で定めるものをとっているときは、この限りでない。

    一 前項第1号に掲げる計算書類等 定時株主総会の日の1週間(取締役会設置会社にあっては、2週間)前の日(第319条第1項の場合にあっては、同項の提案があった日)から3年間

    二 (略)

  3. 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。ただし、第2号又は第4号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

    一 計算書類等が書面をもって作成されているときは、当該書面又は当該書面の写しの閲覧の請求

    二 前号の書面の謄本又は抄本の交付の請求

    三 計算書類等が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧の請求

    四 前号の電磁的記録に記録された事項を電磁的方法であって株式会社の定めたものにより提供することの請求又はその事項を記載した書面の交付の請求

  4. 株式会社の親会社社員は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、当該株式会社の計算書類等について前項各号に掲げる請求をすることができる。ただし、同項第二号又は第四号に掲げる請求をするには、当該株式会社の定めた費用を支払わなければならない。

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