領収書(受取証書)を求められたときの対応


顧客から領収書の交付を求められたとき、これを拒むことはできるのでしょうか?!

場合分けをして考えてみましょう。

もくじ
  1. 領収書の発行義務
    1. 対面で現金払いの場合
    2. 銀行振込
    3. 代金引換
    4. クレジットカード払い
    5. 電子マネー払い
    6. 領収書不発行の特約がある場合
    7. まとめ
  2. 領収書の再発行義務
  3. 領収書発行義務がない場合でも・・・

領収書の発行義務


対面で現金払いの場合

現金で受け取った場合に、顧客が請求したときには、受け取った側は領収書(受取証書)を発行する義務を負っています(民法486)。

事業者側は、顧客が請求しなかった場合においても、必ず領収書を発行し、その控えを保管しておくことをオススメします。後日のトラブルを予防するためです。現に、司法書士法では、領収書の交付義務を定めています(司法書士法施行規則29Ⅰ)。

 

一方、顧客側は「領収書をくれないのであれば支払わない」と言うことができます(同時履行の抗弁権)。

民法第486条(受取証書の交付請求等)
 
  1. 弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
  2. 弁済をする者は、前項の受取証書の交付に代えて、その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる。ただし、弁済を受領する者に不相当な負担を課するものであるときは、この限りでない。

銀行振込

振込伝票だけでは、何のお金の支払いとして支払ったのか証明することができません。

したがって、振込により支払をした方も、領収書の発行・交付を請求できるとされています(東京地判昭和47年 9月18日・昭44〔ワ〕12454号・土地明渡請求事件)。

東京地判昭和47年 9月18日・昭44〔ワ〕12454号・土地明渡請求事件
  原告は、被告から本件賃料の送金をうけたときは、遅滞なくその領収書を送付すべき債務を負担し、これはじ後の賃料を支払うべき被告の債務に対し先履行の関係にあるものというべきであるから、原告が領収書を送付しないかぎり、被告がじ後の賃料を支払わなくとも、その点につき違法のかどはないものということができる。しかるところ、原告が昭和四三年四、五月分の賃料を受領しながらその領収書を送付せず、また、かりにそれ以後の賃料の支払を受けても、それに対する領収書を送付する意思のなかったことが推認されること前項で確定したとおりであるから、被告が昭和四三年六月分から翌四四年五月分までの賃料を支払わなかったことについては違法性がなく、原告がこれを原因に解除権を取得すべき理由はないから、原告がした本件解除の意思表示は無効というほかはない。

代金引換

顧客が代金を支払ったのは、運送会社に対してであって、運送会社が領収書を発行しています。

したがって貴社には発行する義務はありません。

 

なお、先にご説明した銀行振込の場合も、銀行が受け取ったように見えますが、「銀行は送金しただけであって、受け取ったのは貴社です」ので、銀行振込の場合には領収書発行義務があるとされています。

クレジットカード払い

事業者である貴社が支払いを受けたのは、あくまでクレジット会社からであって、直接顧客に支払って貰った訳ではありません。したがって、クレジットカードによる支払の場合には、事業者には領収書の発行義務はありません。クレジット会社の発行するご利用明細書が領収書代わりになります。

 

もっとも、顧客にこれを理解してもらうのは困難ですので、サービスとして自社名の領収書を発行する事業者もいらっしゃいます。

クレジットカード払いでも領収書を発行する場合の注意点は次の二点です。

  1. 領収書に「クレジットカード払い」である旨を明記ください。商品を一つ売ってクレジット会社からの支払と、顧客からの支払の二つの支払を受けたように見えるからです。
  2. 収入印紙の納付義務はありません。金銭を直接授受していないため印紙税法に定める正式な「売上代金の受取書」や「売上代金以外の受取書」ではないためです。

クレジット販売の場合の領収書/国税庁/最終アクセス230325

電子マネー払い

電子マネーには以下の3種類があります。

  • ①プリペイド型:前払い。先に現金をチャージ(電子マネーに変換)しておいて、支払う。
  • ②デビット型:同時払い。電子マネーと銀行口座をリンクさせ、電子マネーを使うと同時に口座残高が減る。
  • ③ポストペイ型:後払い。電子マネーとクレジットカードをリンクさせ、電子マネーを使うと同時にクレジットカード利用残高が増える。

①②の場合には、顧客の支払を直接事業者が受け取りますので領収書の発行義務があります。

③の場合には、顧客は未だ支払っておらず、事業者も受け取っていません(事業者はクレジットカード会社から支払を受けます。)ので、事業者に領収書の発行義務はありません。それでも領収書を発行する際には、クレジットカード払いの場合をご参照ください。

領収書不発行の特約がある場合

民法486条の領収書発行の義務は、特約で免除することができます。

(法律の条文の中には、①絶対守らないと約束が無効になるもの〔強行規定〕と、②法律が定めているのはあくまでも基準であって当事者間で別の合意が可能なもの〔任意規定〕があります。民法486条は任意規定とされています。)

特約としてよく使われているのは次のような文言です。

  • (契約書に記載する場合)銀行振込の振込明細書をもって領収書に代えることを合意した。 
  • (HPなどに掲載する場合) 銀行振込明細書をもって領収書にかえ、領収書は発行いたしませんのでご了承ください。

対面で現金で支払われる場合でも「領収書要らないよ」と言われ「分かりました」と返答した場合には「領収書不発行の特約」が成立したと考えていただいて結構です。

ただし「領収書は要らないよ」と言われた場合(この場合には、まさに領収書不発行の合意が成立しそうです)でも、発行義務がある業種もあります(司法書士法施行規則29Ⅰ)。

貴社は「発行義務がある業種か否か」を念のためにご確認ください。

まとめ(領収書発行義務)

支払方法 領収書の発行義務
現金払い 支払者から請求されたときは発行義務あり
銀行振込 支払者から請求されたときは発行義務あり
代金引換

販売事業者には発行義務なし

運送会社は支払者から請求されたときは発行義務あり

クレジットカード払い 販売事業者には発行義務なし 
電子マネー払い

プリペイド型:支払者から請求されたときは発行義務あり

デビット型:支払者から請求されたときは発行義務あり

ポストペイ型:支払者から請求されても発行義務なし

領収書不発行特約がある場合 支払者から請求されても発行義務なし

領収書の再発行義務


法律上、領収書の再発行義務はありません。顧客は、法的に再発行を請求することはできませんし、事業者側がこれを強制されることはありません。

領収書を紛失した場合には、発行者に再発行をお願いするしかありません。

 

一方、発行者が再発行に応じる場合には「再発行である」旨を明示しておく必要があります。

再発行の場合の収入印紙の負担については・・・顧客と協議していただければと思います。

領収書発行義務がない場合でも・・・


商売は、顧客から影口(かげぐち)を叩かれるのは避けたいところです。

仮に発行義務がない場合においても、ある程度顧客の求めに応じることも大切です。ただし発行に応じるときには「クレジットカード払い」「電子マネー払い」「再発行」などの記載をお忘れなきよう御注意ください。

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