配偶者短期居住権(2020.4.1以降開始相続)


配偶者短期居住権/配偶者居住権についてまとめた、実務家向け索引ページです。

具体的内容については、条文に直接当たっていただければ幸いです。

もくじ
  1. 配偶者短期居住権とは(配偶者居住権との比較)
  2. 配偶者短期居住権の意義
  3. 人気の関連ページ

配偶者短期居住権とは(配偶者居住権との比較)


  配偶者「短期」居住権 配偶者居住権
意義 被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合において、成立要件を充たすときには、その居住建物について、暫定的に一定期間、無償で使用できる権利のこと(民1037)。 被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、成立要件を充たすときには、その居住建物について、終身又は一定期間、無償で使用収益できる権利のこと(民1028)。
成立要件
  1. 被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始時に無償で居住していたこと
  2. 配偶者が配偶者居住権を取得していないこと
  3. 配偶者が廃除や欠格で相続権を喪失していないこと。

(以上、民1037Ⅰ)

  1. 被相続人の配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していたこと【1.2】。無償要件がないのは何故か
  2. 被相続人の配偶者が次のいずれかの方法により配偶者居住権を取得すること
    • 遺産分割
    • 遺贈、死因贈与
    • 家裁の審判(民1029)
  3. 相続権喪失していないことが成立要件に入っていないのは、上記要件「2.」が入っている時点で。。。
存続期間
  • 遺産分割をする場合:遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日又は相続開始の時から6か月を経過する日のいずれか遅い日(民1037Ⅰ①)
  • 上記以外の場合:居住建物を相続した者からの配偶者短期居住権の消滅申入れの日から6か月を経過する日(民1037Ⅰ②)
  • 原則:配偶者の終身
  • 例外:別段の定め

(以上、民1030)

成立効果
  1. 配偶者短期居住権は登記不可。
  2. 配偶者短期居住権は譲渡不可(民1041→民1032Ⅱ)
  3. 居住建物取得者は居住建物を第三者への譲渡等の配偶者短期居住権に対する妨害禁止(民1037Ⅱ)
  4. 居住建物取得者は、いつでも消滅申入れできる(民1037Ⅲ)
  5. 配偶者には用法遵守義務・善管注意義務(民1038Ⅰ)
  6. 配偶者には第三者への無断使用禁止(民1038Ⅱ)居住建物取得者の承諾を得ても不可。
  7. 配偶者が「5.~6.」に違反した場合、居住建物取得者は、配偶者短期居住権を消滅させることができる(民1038Ⅲ)
  8. 居住建物の修繕等(民1041→民1033)
  9. 居住建物の費用負担(民1041→民1034)
  10. 配偶者短期居住権の財産価値は、配偶者の具体的相続分からその価額を控除することを要しない。遺留分侵害額請求の対象ともならない。
  1. 配偶者居住権は登記可能(民1031)居住建物の引渡は第三者対抗要件ではない。
  2. 配偶者居住権は譲渡不可(民1032Ⅱ) 
  3. 居住建物取得者に対して配偶者居住権の行使妨害禁止の定めがないのは何故か
  4. 居住建物取得者は、消滅申入れできない。
  5. 配偶者には用法遵守義務・善管注意義務(民1032)
  6. 配偶者には無断増改築禁止・第三者への無断使用収益禁止(民1032Ⅲ)居住建物所有者の承諾を得れば転貸し収益を得て良い。
  7. 配偶者が「5.~6.」に違反した場合、居住建物所有者は、是正催告しそれでも是正されないときは、配偶者居住権を消滅させることができる(民1032Ⅳ)
  8. 居住建物の修繕等(民1033)
  9. 居住建物の費用負担(民1034)
  10. 配偶者居住権の財産価値は、配偶者の具体的相続分からその価額を控除することを要する。遺留分侵害額請求の対象にもなる。
消滅事由

 

  1. 配偶者が相続権を喪失したとき(民1037Ⅰただし書)
  2. 存続期間満了(民1037Ⅰ①)
  3. 居住建物取得者からの消滅申入れから6か月経過(民1037Ⅰ②)
  4. 配偶者が用法遵守義務等に反したときの居住建物取得者からの消滅請求(民1038)
  5. 配偶者が居住建物を取得したとき(民1039)
  6. 配偶者の死亡(民1041→民597Ⅲ)
  7. 居住建物全部滅失(民1041→民616の2)

 

  1. ー(∵配偶者居住権が成立しない)
  2. 存続期間満了(民1036→民597Ⅰ)
  3. 配偶者が用法遵守義務等に反したときの居住建物取得者からの消滅請求(民1032Ⅳ)
  4. ー(∵配偶者居住権が成立しない)
  5. 配偶者の死亡(民1036→民597Ⅲ)
  6. 居住建物全部滅失(民1036→民616の2)
消滅効果

 

  1. 居住建物返還(配偶者が居住建物について共有持分を有する場合を除く)
  2. 配偶者が相続開始後に居住建物に附属させた物の収去(民1040→民599ⅠⅡ)
  3. 配偶者が相続開始後に居住建物を損傷した場合の原状回復(民1040→民621)

 

  1. 居住建物返還(配偶者が居住建物について共有持分を有する場合を除く)(民1035Ⅰ)
  2. 配偶者が相続開始後に居住建物に附属させた物の収去(民1035Ⅱ→民599ⅠⅡ)
  3. 配偶者が相続開始後に居住建物を損傷した場合の原状回復(民1035Ⅱ→民621)

【1】被相続人が相続開始時に居住建物を第三者と共有していた場合には、配偶者居住権は成立しない(民1028Ⅰただし書)。

【2】居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない(民1028Ⅱ)。

配偶者短期居住権の意義


配偶者短期居住権は、遺産分割が完了するまでの間に、配偶者にとって大きな効果を発揮します。

配偶者短期居住権がなかったら・・・左下の枠内のようなことが配偶者に起こりえるということです。

これまで(遺産の管理方法に関する民法の原則) 配偶者短期居住権が成立するとき

遺産分割協議未了の遺産【1】は相続人の共有(民898)

共有割合は、法定相続分であって具体的相続分ではない(最判H12.2.24)【2】

遺産共有は物権法上の共有と同じ

(最判S30.5.31)

遺産分割協議未了の遺産の管理方法は、相続人の法定相続分の割合に従い、その過半数で決する(民252)

共有者たる相続人は、遺産全部を共有持分に応じて使用できる(民249)

  • 共有者たる相続人は「当然には」遺産を使用する相続人に対して明渡し請求出来ない(最判S41.5.19)が・・・
  • 遺産分割により遺産の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認される(最判H8.12.17)が・・・
 
  • 「遺産の管理としては」過半数相続人は明渡しを請求しえる可能性がある。
  • 遺産占有相続人に対して他の相続人は、賃料相当額の使用損害金(不当利得返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求として)を請求し得る。

⇔配偶者は、明渡し請求を拒むことができる【3】

 

⇔配偶者は、使用損害金の請求を受けることがない【3】

【1】可分債権などの例外

【2】具体的相続分とは、特別受益・寄与分などを勘案した後の各相続人の具体的な相続分のことです。

【3】類推適用の可能性(加藤祐司弁護士・Q&A改正相続法のポイント・日弁連編・新日本法規・令和元年・204p以下ご参照)

内縁の配偶者

遺産分割の当事者となることはないから新法1037Ⅰ①(遺産分割協議)を類推適用する余地はない。

類推適用の可能性があるのは1037Ⅰ②(遺贈)である。

配偶者以外の共同相続人 

被相続人と生活を共にし、被相続人の生活を助け、財産形成に協力した者の場合には、1037Ⅰ①が類推適用される可能性がある。

類推適用とまではいかないでも、明渡請求を権利濫用として却下したり、黙示の使用貸借契約の解除を認めない場合もあると思われる。

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