コーポレートガバナンス・コード(CGコード)


上場会社のコーポレートガバナンスを理解するうえで必要不可欠とされる「コーポレートガバナンス・コード(CGコード)」とは何でしょうか。

そもそも「コーポレート・ガバナンス」とは一体、何なのでしょうか。

これらについて、あなたの理解が進む一助になれば幸いです。

もくじ
  1. コーポレートガバナンス・コードとは、何か
  2. 制定目的
  3. 強行法規性
  4. コーポレートガバナンス・コードの構成
  5. 5つの基本原則
    1. 株主の権利・平等性の確保
    2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
    3. 適切な情報開示と透明性の確保
    4. 取締役会等の責務
    5. 株主との対話
  6. 相当する規定が会社法にはあるのか?!

コーポレートガバナンス・コードとは、何か


「コーポレートガバナンス」も「コード」もあまり聞き慣れないと思います。

「コーポレートガバナンス」と「コード」に分けて考えてみましょう。

コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンスとは

  • 会社が
  • 会社の株主・顧客・従業員・地域社会に貢献するために導入する
  • 企業統治の仕組み

のことです。

  • 大会社に該当するときは必ず制定する(それ以外の会社においては適宜制定する)必要があり、
  • 内容は取締役会において決定します(会社法348Ⅲ④、同Ⅳ)。

コードとは

コード「code」とは、英単語で、行動規範・慣例・法典・条約・規約という意味です。

例えば「ドレス・コード」は、ある場所における服装の規定のことです。

コーポレートガバナンス・コードとは

コーポレートガバナンス・コードとは

  • 東京証券取引所と金融庁が事務局して取りまとめた「コーポレートガバナンス」に関する「コード」です。
  • 2015(平成27)年6月、上場会社に対して適用が開始されました。
  • 上場会社は「コーポレートガバナンス・コード」の各原則を実施することによって「攻めのガバナンス」を実現することができるとされています(事業活動への制約ではない。)。
  • 上場会社は「コーポレートガバナンス・コード」の各原則を実施しない場合には理由を説明することを求められます。
  • また、実施せず、実施しない理由の説明もしない場合には、有価証券上場規程違反として、制裁措置(違反金の支払い等)の対象となる可能性がある。

コーポレートガバナンス・コードの制定目的


制定経緯

1961年 自由主義経済の発展のために協力を行う機構として国際機関である経済協力開発機構(OECD:Organisation for Economic Co-operation and Development)が設立される。
1964年 日本もOECDに加盟。
1999年 OECDが「OECD コーポレート・ガバナンス原則」を公表
2006年 会社法施行
2013年 政府が経済復興を目指すことを示した「日本再考戦略」に、CCコードを明記。
2014年

機関投資家に向け「責任ある投資家の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫」を公表。「SSコード」と略称される。

2015年 上場企業に向け「コーポレートガバナンス・コード」の適用開始(以降2回改訂)
2018年 金融庁「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表
2019年 会社法改正。上場企業に対して社外取締役の設置義務等が導入

制定目的

コーポレートガバナンス・コードが制定された目的は次の二つです。

  • 責任追及を恐れて適切なリスクを取らない(過度にリスクヘッジをする)上場企業の役員に対して、戦略的な「攻めの意思決定」を後押しし、収益性を高めるため。
  • 中長期的な投資を促すため。

車の両輪

機関投資家向けの「SSコード」と、上場企業向けの「CGコード」は、車の両輪として「企業の収益性を高め」「投資家の投資を促す」効果を期待されています。

機関投資家は「SSコード」を受け入れるか否かを自由に選択できますが、323の機関投資家(信託銀行、投信・投資顧問会社等)が受け入れを表明しています(令和5年3月31日時点)。

コーポレートガバナンス・コードの強行法規性


コーポレートガバナンス・コードは、法令ではありませんので、強制力はありません。

また、上場会社には、コーポレートガバナンス・コードを実施するか、しない自由はあります。ただ、実施しない場合にはその理由を報告する必要があります。

 

有価証券上場規程(東京証券取引所)

第436条の3(コーポレートガバナンス・コードを実施するか、実施しない場合の理由の説明)
   上場内国会社は、別添「コーポレートガバナンス・コード」の各原則を実施するか実施しない場合にはその理由を第419条に規定する報告書において説明するものとする。この場合において、「実施するか、実施しない場合にはその理由を説明する」ことが必要となる各原則の範囲については、次の各号に掲げる上場内国会社の区分に従い、当該各号に定めるところによる。

(1) スタンダード市場及びプライム市場の上場内国会社   基本原則・原則・補充原則

(2) グロース市場の上場内国会社             基本原則

   
第445条の3(コーポレートガバナンス・コードの尊重)
 

上場会社は、別添「コーポレートガバナンス・コード」の趣旨・精神を尊重してコーポレート・ガバナンスの充実に取り組むよう努めるものとする。

違反へのペナルティー

取引所は、コーポレートガバナンス・コードを実施しないにも関わらず理由を報告しない上場会社に対して、次のようなペナルティを課すことができます。

  • 上場会社が発行者である上場株券等を特設注意市場銘柄に指定することができる(東証・有価証券上場規程503Ⅰ④)。
  • 改善報告書の提出を求めることができる(東証・有価証券上場規程504Ⅰ②)。
  • 公表することができる(東証・有価証券上場規程508Ⅰ②)
  • 上場契約違約金の支払いを求めることができ、この場合にはその旨を公表する(東証・有価証券上場規程509Ⅰ②)。

コーポレートガバナンス・コードの構成


  • 5つの基本原則
  • (その下に)計31の原則
  • (さらにその下に)計42の補充原則

が設けられています。

  基本原則

(その下に)

原則

(さらにその下に)

補充原則

  1.株主の権利・平等性の確保 7 11
  2.株主以外のステークホルダーとの適切な協働 6 3
  3.適切な情報開示と透明性の確保 2 4
  4.取締役会等の責務 14 21
  5.株主との対話 2 3
原則の合計数 5 31 42
「実施するか、実施しない場合にはその理由を説明する」ことが必要となる各原則の範囲
  • スタンダード市場
  • プライム市場

の上場内国会社 

必要 必要 必要
  • グロース市場

の上場内国会社

必要    

5つの基本原則


基本原則1■株主の権利・平等性の確保

上場会社は、株主の権利が実質的に確保されるよう適切な対応を行うとともに、株主がその権利を適切に行使することができる環境の整備を行うべきである。

また、上場会社は、株主の実質的な平等性を確保すべきである。

少数株主や外国人株主については、株主の権利の実質的な確保、権利行使に係る環境や実質的な平等性の確保に課題や懸念が生じやすい面があることから、十分に配慮を行うべきである。

この基本原則の下に、7つの「原則」が定められています。

さらに、それぞれの原則の下には「補充原則」が定められています。

そして、

  • スタンダード市場及びプライム市場の上場内国会社については、基本原則・原則・補充原則の全てを
  • グロース市場の上場内国会社については、基本原則を

それぞれ実施する必要があります。

これらの関係は、以下の「基本原則2」~「基本原則5」についても同様です。

基本原則2■株主以外のステークホルダーとの適切な協働

上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。

取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。

基本原則3■適切な情報開示と透明性の確保

上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。

その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。

基本原則4■取締役会等の責務

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1) 企業戦略等の大きな方向性を示すこと

(2) 経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと

(3) 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。

こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

CGコードが定める「独立役員の要件」については、コチラ「社外取締役・社外監査役・独立役員」もご参照ください。

基本原則5■株主との対話

上場会社は、その持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するため、株主総会の場以外においても、株主との間で建設的な対話を行うべきである。

経営陣幹部・取締役(社外取締役を含む)は、こうした対話を通じて株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に正当な関心を払うとともに、自らの経営方針を株主に分かりやすい形で明確に説明しその理解を得る努力を行い、株主を含むステークホルダーの立場に関するバランスのとれた理解と、そうした理解を踏まえた適切な対応に努めるべきである。

相当する規定が会社法にはあるのか?!


コーポレートガバナンス・コードに相当するような規定が会社法にもあります。

ただし、会社法は「法令、定款への適合を確保するための体制」と「業務の適正を確保するための体制」の整備を求めているに過ぎませんので、コーポレートガバナンス・コードの方が『より広範な内容』について『より具体的な定め』を置いているといえます。

会社法第348条(業務の執行)
 
  1. 取締役は、定款に別段の定めがある場合を除き、株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する。
  2. 取締役が二人以上ある場合には、株式会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役の過半数をもって決定する。
  3. 前項の場合には、取締役は、次に掲げる事項についての決定を各取締役に委任することができない。
    1. (略)
    2. (略)
    3. (略)
    4. 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備
    5. (略)
  4. 大会社においては、取締役は、前項第4号に掲げる事項を決定しなければならない。

会社法第348条第3項第4号を分析するために箇条書きにすると・・・

  • 取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
  • その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制

これらの体制の整備については、取締役の一人に決定を任せるのではなく、各取締役が協議して決めるように定めています。

大会社では、これらの体制の整備について、決定しておかなければならないとされています(会348Ⅳ)。

会社法施行規則第98条(業務の適正を確保するための体制)
  
  1. 法第348条第3項第4号に規定する法務省令で定める体制は、当該株式会社における次に掲げる体制とする。
    1. 当該株式会社の取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制
    2. 当該株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
    3. 当該株式会社の取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
    4. 当該株式会社の使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
    5. 次に掲げる体制その他の当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制
      1. イ 当該株式会社の子会社の取締役、執行役、業務を執行する社員、法第598八条第1項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者(ハ及びニにおいて「取締役等」という。)の職務の執行に係る事項の当該株式会社への報告に関する体制
      2. ロ 当該株式会社の子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
      3. ハ 当該株式会社の子会社の取締役等の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
      4. ニ 当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制
  2. 取締役が二人以上ある株式会社である場合には、前項に規定する体制には、業務の決定が適正に行われることを確保するための体制を含むものとする。
  3. 監査役設置会社以外の株式会社である場合には、第一項に規定する体制には、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を含むものとする。
  4. 監査役設置会社(監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある株式会社を含む。)である場合には、第一項に規定する体制には、次に掲げる体制を含むものとする。
    1. 当該監査役設置会社の監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項
    2. 前号の使用人の当該監査役設置会社の取締役からの独立性に関する事項
    3. 当該監査役設置会社の監査役の第一号の使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項
    4. 次に掲げる体制その他の当該監査役設置会社の監査役への報告に関する体制
      1. イ 当該監査役設置会社の取締役及び会計参与並びに使用人が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
      2. ロ 当該監査役設置会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務を執行する社員、法第598条第1項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が当該監査役設置会社の監査役に報告をするための体制
    5. 前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制
    6. 当該監査役設置会社の監査役の職務の執行について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項
    7. その他当該監査役設置会社の監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

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