消滅時効が完成していると思っていた債務が実は時効完成していないケース

民間同士の金銭消費貸借で「期限の利益喪失約款がない場合」や「約款があっても一括請求を受けていない場合」にご注意


最終の弁済より又は貸付より貸し主が個人の時には10年、法人の時には5年で時効消滅します(令和2年4月1日改正民法施行前に発生していた債務の場合)。

 

ところが、「分割返済の約定」はあるのに「期限の利益喪失特約」がない場合には、消滅時効が完成しにくくなっています。

 

特に、司法書士の皆さんは、サラ金に対する消滅時効の援用で慣れてしまっていると思いますので、民間同士の金銭消費貸借で消滅時効援用の依頼を受けたときには、ご注意ください。

契約書文言と消滅時効の関係


契約書の「期限の利益喪失約款」の定め 消滅時効の進行

債務者が分割弁済を1回でも遅滞したときは「当然に」期限の利益を喪失し一括返済する義務を負う。

【貸金業者の契約はほぼ全部これ:当然喪失型】

1回でも遅延したとき

=残債務全額について一括返済義務が発生するとき

=この時から全債務について消滅時効が進行

債務者が分割弁済を1回でも遅滞したときは「債権者の請求により期限の利益を喪失させることができ」債務者は一括弁済する義務を負う。

【民間企業間の契約ではありえる:請求喪失型】

1回遅延しても債権者が一括請求しなければ、残債務全額について一括返済義務は発生しない

=弁済期から5年以上経過している分割弁済分のみ時効消滅(最判昭和42.6.23)

期限の利益喪失約款なし 

【民間企業間の契約ではありえる】

弁済期から5年以上経過している分割弁済分のみ時効消滅する(大審院明治40.6.13)。

期限の利益喪失約款がない場合、債権は債務者に対して一括弁済を請求できない【1・2・3】。

仮に、一括返済を請求していてもその請求は無効だから、全残債務について時効が完成していないと判断される可能性がある。

【1】法律上当然に期限の利益を喪失する場合(民137)

  1. 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
  2. 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
  3. 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

【2】法律上の期限の利益喪失事由だけでは、一括弁済義務を発生させる機会が少なすぎるので、銀行や貸金業者の契約には、次のような条項も入っています。

  1. 債務者が差押を受けたとき
  2. 債務者が弁済を怠ったとき

【3】そして債権者が【2】の定めを入れていなかったとき又は債務者が【1】にも【2】にも該当しないときには、債権者は勝手に債務者の期限の利益を喪失させることはできません。

分割弁済の約定があっても貸金債権には、定期金債権の時効(旧民法168条)は適用されない。


旧民法168条

定期金債権は、第1回の弁済期から20年間行使しないときは、消滅する。最後の弁済期から10年間行使しないときも、同様とする。

大審院判決明治40年6月13日

民法第168条の定期金の債権は・・・消費貸借に基づく債権は・・・数回若しくは数十回に之を弁済することと為すも同条にいう定期金の債権に非ざる。

契約書への反映


時効に係りにくいからといって、「期限の利益喪失約款を入れない」のは、遅延が発生しても一括返済を請求できなくなりますので、債権管理上問題があります。

契約書を作成される際には『当然喪失型』『請求喪失型』のそれぞれのメリット・デメリットをよくご理解いただいたうえ、作成なさる必要があります。

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