遺産を勝手に占有している相続人がいる場合の対処方法


遺産分割協議が完了していないのに、遺産を勝手に占有している相続人がいる場合、他の相続人としてはどのような対処方法があるのかをフローチャートで説明します。司法書士向け専門記事です。

 

参考書籍:野口大弁護士、藤井伸介弁護士編集代表/実務家も迷う遺言相続の難事件(事例式解決への戦略的道しるべ)/遺言・相続実務問題研究会/新日本法規/令和3年/74頁以下

同参考書籍は、家裁事件勉強会の令和3年指定書籍です。

本記事内では同書を「難事件」と略記します。

どんな請求が法律上可能か?!


当該相続人に対して、明渡しの請求はできない〔1〕
当該相続人は、相続開始前から無償で被相続人と当該物件で同居していたか?!
 
していない   していた
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当該相続人には、無償使用権限がないため、賃料相当損害金を請求できる〔2〕   当該相続人には、遺産分割終了まで、無償使用権限がある〔3〕
 
  • 賃料相当損害金を請求する民事訴訟〔2〕
  • 遺産分割調停
 

お早い目に・・・〔4〕

  • 遺産分割協議〔5〕
  • 相続分譲渡〔6〕
  • 遺産分割調停・審判〔7〕

〔1〕∵相続人であれば法定相続分に応じた使用収益権がある。

〔2〕最判平12.4.7判タ1034.98

共有物である本件各土地の各一部を単独で占有することができる権原につき特段の主張、立証のない本件においては、上告人は、右占有により上告人の持分に応じた使用が妨げられているとして、右両名に対して、持分割合に応じて占有部分に係る地代相当額の不当利得金ないし損害賠償金の支払を請求することはできるものと解すべき

賃料相当損害金請求を認容する判決を取得し、占有者持分について強制競売の申立をして、自らが買受申出をしてその持分を取得し、不動産引渡命令の申立て(民執83)をすることも可能でしょう(難事件83頁)。

「難事件」には、以上を前提にした「具体的な示談交渉の方法」や「税法上の注意点」も記載されていますのでご参照ください。

〔3〕最判平8.12.17判タ927.266

共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合は、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである。けだし、建物が右同居の相続人の居住の場であり、同人の居住が被相続人の許諾に基づくものであったことからすると、遺産分割までは同居の相続人に建物全部の使用権原を与えて相続開始前と同一の態様における無償による使用を認めることが、被相続人及び同居の相続人の通常の意思に合致するといえるからである。

〔4〕早くに決着しないと、いつまでも無償で居住させることになるからです。

〔5〕遺産分割協議

無償で居住できるメリットを手放したくない占有相続人が遺産分割協議成立に協力しない可能性があります。そして、全相続人の合意がないと遺産分割協議は有効に成立しません。

〔6〕相続分の譲渡

一部相続人の非協力により遺産分割協議が成立しない場合には、協力してくれる相続人から「相続分の譲渡(譲受)」を受けていく方法があります。

法定相続登記を経由したうえ、「相続分の譲渡」による持分移転登記をすることは可能ですが、登記原因は「相続分の売買」又は「相続分の贈与」を選択します。

登記原因として「相続分の贈与」を選択した場合には、遺産分割協議が成立した場合と同視できないため贈与認定されるリスクがあります(難事件79頁以下)。

〔7〕遺産分割調停・審判

遺産分割調停が不調になると、法律上は原則として審判に移行します(家事事件手続法272Ⅳ)。遺産分割調停と同審判の実際については、記事「遺産分割調停・審判(相続紛争解決)」をご参照ください。

場合 対応
代償金を支払える相続人がいる

代償分割を求める

・代償金を取得費に計上できない(難事件81頁)。

・賃料相当額を代償金から控除できない。∵相続開始後の賃料相当額は特別受益ではない(民903)。

・単独名義にできても占有相続人が退去しない場合、別途手続必要。

経済的に有利とはいえない。

代償金を誰も支払えない

+(かつ)

売却可能な不動産

 

換価分割(任意売却)を求める(家事194Ⅱ)

・全相続人の同意必要。

・遺産管理者の報酬が問題?

・売却価格を巡る紛争発生の可能性

ハードルが高い

換価分割(法定相続登記のうえ競売)を求める(家事194Ⅰ)

・必ずしも高額で売却できるとは限らない。

・相続人も入札できる(買受申出制限なし)。

・売却代金は裁判所が各相続人に交付するので手間なし。

・譲渡所得税の負担は法定相続分に応じて公平

・土地建物を同時に競売できるようにしておく必要がある。

代償金を誰も支払えない 

+(かつ)

売却不可能な不動産

(最後の手段)共有とする分割

・遺産共有が物件共有になるだけ。

占有相続人に対して賃料相当損害金が請求できるようになる。

共有物分割請求など

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