種類株式(優先株)の設計・発行手続


株式会社は、様々な種類の株式を発行することができます。

あなたが事業承継対策やM&A対策をお考えの場合には、是非、種類株式の活用もご検討ください。

 

あなたが司法書士にご依頼される際には「○○したいのだけれど、何か良い方法はない?」とだけ、お伝えください。会社法・民法その他の方法を駆使して、様々なプランをご提案いたします。

もくじ
  1. 種類株式の種類
  2. 「シチュエーション別」利用できる種類株式
  3. 黄金株
    1. 黄金株式VS選任条項付株式の比較(役員選任に関して)
    2. 黄金株の拒否権に制限を加える方法
  4. 配当優先株式
  5. 種類株式の発行手続
  6. 司法書士の報酬・費用
  7. Q&Aよくあるお問合せ
  8. 人気の関連ページ

種類株式の種類


会社が発行できる株式の種類は次のとおりです。

   

単一株式発行会社での導入可否

(会107)

=全ての株式への導入可否 

種類株式発行会社での導入可否

(会108)

=一部の種類株式への導入可否 

剰余金の配当 ×
残余財産の分配 ×
議決権制限 ×
譲渡制限

株主からの取得請求権付(プットオプション)

会社からの取得条項付(コールオプション)

全部取得条項付(株主総会特別決議で取得する)

×
拒否権付(黄金株) ×
役員選任権付 ×

「シチュエーション別」利用できる種類株式


シチュエーション 種類株式を利用 それ以外を利用
少数株主整理
  • 全部取得条項付株式
  • 株主名簿管理
  • スクイーズアウト
  • 所在不明株主の株式売却許可申立
  • 株式併合
  • 株式交換(金銭対価)
  • 合併(合併対価を金銭)
株式分散予防
  • 譲渡制限付株式
  • 相続人への売渡請求規定導入
  • 持株会設立
経営権をスムーズに渡す(事業承継)
  • 議決権制限株式
  • 無議決権株式
  • 配当優先株式
  • 遺言
  • 遺留分に関する民法特例
後継者成長まで経営を監視したい(事業承継)
  • 拒否権付株式
  • 役員選任権付株式
 
 M&A
  • 全部取得条項付株式
 

黄金株


株主総会・取締役会・清算人会で決議すべき事項中『定款に定めた決議事項』について、その黄金株の株主による種類総会決議が必要とするものです(会108Ⅰ⑧)。

したがって・・・

  • 黄金株の株主は要決議事項の全部について拒否権を有する訳ではなく、定款で定めた決議事項についてのみ拒否権を有しています。
  • 定款で「株主総会等で決議すべき事項については、当該株主総会等の決議の他、A種類株主による種類株主総会を必要とする」など拒否権の対象を広範に定めると会社運営が進まなくなる可能性があります。

黄金株式VS選任条項付株式の比較(役員選任に関して)

発行するのを「黄金株」にしようか「役員選任条項付株」にしようか迷ったときには、下表をご参照のうえ、ニーズに叶ったものをお選びください。

  黄金株(拒否権付株式) 選任条項付株式
特徴

 

  1. 株主総会で選任又は解任された役員を承認するかどうか黄金株の種類株主総会で決議する。(承認しない場合の株主総会決議は失効。)
  2. どの役員(例:取締役のみ、取締役及び監査役)の選任又は解任決議につき承認が必要とするかは、あらかじめ定款に記載し、登記しなければならない。
  1. 取締役又は監査役を、選任条項付株式の種類株主が直接選任・解任する(その他の手続不要)。
  2. 選任・解任できる取締役又は監査役の数は、あらかじめ定款に記載し、登記しなければならない。
メリット
  1. どの決議について拒否権を持つかは、会社側で自由に設定できる。
  2. 実質上、役員の選任(又は解任)について実権を握ることとなる。
  3. 定款で定めれば、取締役会での代表取締役の選定(又は解任)についても拒否することができる。
  1. 取締役又は監査役については直接選任権・解任権を持つ。
デメリット
  1. 黄金株式の株主が議決権を行使できない場合は、株主総会が空転してしまうおそれがある。
  2. 任期途中の解任はできない。
  3. 他の種類株主総会で役員を選任する場合は、拒否できない。
  1. 非公開会社限定。
  2. 取締役又は監査役の選任・解任に関してのみ。
  3. 最低員数を選任できない場合は、廃止されたものとみなされる。

 

共通するデメリット
  1. 株主に相続が開始した場合、会社にとって予期せぬ相続人が株主となる可能性がある(⇒取得条項を付けるなどして対応可能。)。
  2. 取締役等の選任について実質的に支配権を持つことになるので、対外的な視点も考慮に入れる必要がある。
選任の決議機関

株主総会

※黄金株主は、株主総会の選任決議を承認するか否かの権限を持つ。

選任条項付株主の種類株主総会
対象取りなる取締役数 全員

あらかじめ定款に記載し、登記しておかなければならない。

※選任できる員数を変更する場合には、改めて定款変更及び登記内容の変更手続が必要。

解任決議

株主総会

※黄金株主は(定款に定めれば)株主総会の解任決議を承認するか否かの権限を持つ。

選任した取締役について解任決議権がある。

※定款で別段の定め可能。

代表取締役の選定・解職

あらかじめ定款に記載し、登記しておけば代表取締役の選任・解任も支配することが可能。

※取締役会で決議し、それを承認するか否かの権限を持つ。

関与不可(取締役会の決定事項に従う)

黄金株の拒否権に制限を加える方法

黄金株の権限が大きすぎるため、少し制限できないかというご相談もよくいただきます。

例えば次のような方法があります。

 

方法1 拒否権を発動できる決議事項を最初から少なくする。

 

方法2 拒否権を発動できる期間を制限する。

例)「次の決議には、A種類株主で構成される種類株主総会の決議を必要とする。ただし、平成○年○月○日から平成○年○月○日までに限る。」等

 

方法3 全体株主総会で一定数以上賛成があった場合、拒否不可と定める。

例)「次の決議には、A種類株主で構成される種類株主総会の決議を必要とする。ただし、株主総会において出席株主の議決権の4分の3以上で議決されたものについてはこの限りでない。」等

 

方法4 拒否権を一定回数発動したとき(黄金株の株主による種類株主総会で、ある議案を一定回数否決したとき)は、その黄金株を取得できる旨の取得条項を付けておく。

例)「A種類株主の種類株主総会において、3回以上議案が否決された場合は、当会社は、A種類株式を取得することができる。」等

 

黄金株がすでに発行されている場合に、上記内容の制限を加える(方法1~方法4)変更をする場合には、種類総会決議または黄金株株主全員同意が必要となります。したがって、一旦発行した黄金株の内容変更は、困難である場合が高いと言わざるを得ません。

方法1、方法2、方法3→黄金株主による種類総会決議が必要です(会322Ⅰ)。

方法4→黄金株株主全員の同意が必要です(会111Ⅰ)。

配当優先株式


他の種類の株式よりも剰余金の配当において、優先して配当を受けることができます。

配当優先株式で、決めて戴くべき事項は、次の3項目です。

  Aパターン Bパターン
❶優先配当の定め方

□「1株につき年〇円の優先配当金を支払う(金額で定める)。」

→普通株式無配でも配当あり。

□「1株につき普通株式に対する配当財産の〇%増しの優先配当金を支払う(割合で定める)。小数点以下1位を切り上げる。」

        ▼

このままでは、普通株式無配なら配当なし。

        ▼

□優先配当金の下限を1株あたり金〇円とする。普通株式に対する配当財産がない場合にも、優先株式に対して1株金〇円を優先配当金として支払う。

❷所定の優先配当を行った後さらに配当可能利益がある場合、普通株式とともに優先株式も配当を受けるか

□受ける(参加型)

「当会社は、B種類株主に対して、優先配当金のほか、A種類株主に対して交付する配当財産と同額の配当財産を交付する。」

→優先配当株式は、常に、普通株式よりも高額の配当を受ける。

【無議決権の持株会の場合はこちらを採用します】

□受けない(非参加型)

「当会社は、B種類株式に対して、優先配当金を超えて配当財産を交付しない」

 

→普通株式への配当金よりも、配当優先株式への配当金が少額になりえる。

❸優先配当出来なかったとき、次年度への優先配当額を繰り越すか  

□繰り越す(累積型)

→全部又は一部の優先配当が出来ない場合には、翌事業年度以降に繰り越す(キャリーオーバー)

 □繰り越さない(非累積型)

「ある事業年度において、B種類株主に対して支払うB種類株式1株あたりの剰余金配当額が優先配当金の額に達しないときでも、当会社は、当該不足額を翌事業年度以降に累積しない」

❹期中の配当の場合にも優先するか

□優先する

□(❸の累積型を採用した場合において累積している額を除いて)普通株と同様に配当する

スタートアップ(ベンチャー企業)への投資の際に検討すべき配当優先株については「磯崎哲也/起業のファイナンス(増補改訂版)/日本実業出版社/2015/307頁以下」も参照。

種類株式の発行手続


いずれの種類株式を設ける場合でも、次の2パターンになります。

  既存株式を種類株式に変更する方法 種類株式を新株として発行する方法
手続方法 

 

  1. 種類株式発行会社への変更
    【株主総会・特別決議】
  2. 既存株式の一部を種類株式に変更【株主全員の同意】

 

  1. 種類株式発行会社への変更
    【株主総会・特別決議】
  2. 募集株式の発行
    【株主総会・特別決議】
上記手続により変更となる他の事項 なし 資本金の額の増加
費用 司法書士報酬+実費

株主の出資

司法書士報酬+実費

司法書士の報酬・費用


下記報酬には、どのような種類株式を発行すべきかのアドバイスを含みます。

方針を決定するためにレポートや、取締役会への出席もご希望の場合には、別途お見積もりを作成いたします。

業務の種類

司法書士の報酬

実費
種類株式の登記

A)発行済株式の一部を変更

  • 変更登記申請書
  • 議事録等作成
  • 株主名簿変更
  • 会社登記事項証明書取得(1通)
  • 165,000円~550,000円(税込)【1】
  • 2種類以上は、1種増える毎44,000円(税込)を加算
  • 35,000円

種類株式の登記

B)種類株式を新規に発行

  • 変更登記申請書
  • 議事録等作成
  • 株主名簿変更
  • 会社登記事項証明書取得(1通)
  • 165,000円(税込)~550,000〔増資額による〕【1】
  • 2種類以上は、1種増える毎44,000円(税込)を加算
  • 65,000円~〔増資額による〕

【1】スタートアップの資金調達のように、条項数が多いもの、登記方法について法務局との協議が必要なものについては、見積書を提出いたします。

Q&A よくあるお問い合わせ


Q.会社法にいう種類株式発行会社とは

複数の株式を発行することができるよう定款で定められた会社。現実に複数発行している必要はありません。

(平成28年9月・あなまち司法書士事務所・司法書士染田直樹)


Q.取得条項付と全部取得条項付の違いがわかりません。

いずれも株式会社が、株主に請求すれば、株主から株式を買い上げることができる種類株式です。違いは次のとおりです。

 

 

取得請求権付株式 

全部取得条項付株式
普通株式を変更する場合 種類株主全員の同意(会111①) 株主総会特別決議(会466、309Ⅱ⑪)
取得事由が発生した場合

①予め定款に取得事由を定める。

②取得事由の発生

③取得のための株主総会不要

④会社からの取得請求

①定款に取得事由の定め不要

②取得事由の発生

③取得のための株主総会特別決議

④会社からの取得請求(会309Ⅱ③、171Ⅰ)

 

取得の対象となる株式 一部の者の株式のみ取得可能 種類株式を有する種類株主の全てを取得することしかできない。

 

(平成28年9月・あなまち司法書士事務所・司法書士佐藤大輔)


Q.単一株式発行会社が種類株式発行会社になるための手続

次のとおりです。

 

パターン 承認方法
既存株主の株式の一部を種類株式に変更する 株主全員の同意
新たに種類株式を発行する 株主総会特別決議

(平成28年9月・あなまち司法書士事務所・司法書士染田直樹)


Q.株主全員の同意がいるのはどんなときですか?

次のとおりです。

 

会社法 内容 同意がいる人
110

【単一株式発行会社】

  • 普通株式の一部・全部を取得条項付株式に変更
  • 取得条項付株式の内容変更
株主全員
 

【単一株式発行会社】

既存株主を種類株主に変更(単一株式発行会社から種類株式発行会社への変更)

株主全員
111

【種類株式発行会社】

既発行の種類株式(例えばB種類株式)を取得条項付とする場合

B種類株主全員

(別途、定款変更承認の株主総会特別決議)

 

(平成28年9月・あなまち司法書士事務所・司法書士染田直樹)


Q.事業承継のために、過半数の株式を後継者に移しますが、役員の選任だけは、口を挟みたいと思います。拒否権付株式(いわゆる黄金株)と役員選任権付株式の違いは?

次のとおりです。

また、役員の選任に関して両方の種類株式を導入することは、規定に矛盾が生じるため出来ません。 さらに、一つの種類株式に「取締役選任議案に対する拒否権」と「取締役選任権」を付与することも出来ません。 ただし、一つの種類株式に「代表取締役選任議案に対する拒否権」と「取締役選任権」を付与することは可能です。

(平成28年10月25日執筆/平成28年12月6日加筆修正・あなまち司法書士事務所・司法書士染田直樹)

 

  黄金株(拒否権付株式) 選任条項付株式
特徴

①黄金株主は、株主総会が選任した役員を拒否できる

②黄金株主は、株主総会が解任した役員の解任を拒否できる

③「どの役員(取・監・代取)の選任・解任について拒否できるか」予め定款に定め、登記も必要

①一定数の取・監を、選任条項付株式が直接、選任又は解任できる

②「選任・解任できる取・監の数」を予め定款に定め、登記も必要

メリット

①どの決議について拒否権を持たせるか、会社が自由に設計できる

②実質上、役員選任・解任につき実権を握ることが可能

③定款で定めれば、取締役会での代取の選定・解任についても拒否できる

④公開会社も採用できる

①一定数の取・監について、直接選任・直接解任できる

デメリット

 

①黄金株主が議決権を行使できない(意思表示できない)場合、役員を選任できなくなる

②黄金株主と経営陣との間で、対立があるとどのような議案も、黄金株主が拒否し、役員を選任できなくなる

③種類株主総会で取締役・監査役を選任する場合、拒否できない

④株主総会が解任しない役員を解任することはできない

 

①公開会社は採用できない

②代取を選任・解任することは出来ない

③定款で定めた人数の取・監の候補者を選任できない場合は、選任条項は廃止されたものとみなされる(会社法112Ⅰ)

①当該種類株主に相続が発生した場合、会社にとって予期せぬ相続人が株主となる可能性がある(⇒取得条項をつけるなどして対応可能)

②取締役などの選任について実質的に支配権を持つので、将来の出資者・銀行・取引先などの視点も考慮する必要がある


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