不動産売買(取引)での関西方式・関東方式【まとめ】


不動産売買(不動産取引)では、関西と関東で、3つの大きな商慣習の違いがあります。

この違いをキッチリと理解できていないと、値付けを間違ったり、思わぬ費用負担が発生して困ることもありますのでご注意ください。

また、これらの関西ルール・関東ルールは、不動産の所在地によって区分されるものですので、契約の折衝段階でなんとかなるものではありませんので、ご注意ください。 

 

「不動産『賃貸借』における関西方式・関東方式」についてはこちらをご参照ください。

もくじ
  1. 収益物件の敷金・保証金の持ち回り
    1. 関東・関西共通の原則
    2. 関東の商慣習
    3. 関西の商慣習
    4. ご注意点
  2. 固定資産税・都市計画税精算の起算日
  3. 売渡費用(司法書士報酬)の負担者
  4. 人気の関連ページ

収益物件の敷金・保証金の持ち回り


関東・関西共通の原則

賃貸マンションや事務所ビルなど収益不動産を売買するとき、売主が賃借人から預かっている敷金や保証金をどうすればよいでしょうか。敷金を預かっている売主から、買主にその分の現金を交付すればよいのでしょうか?

敷金や保証金は、賃借人が退去する時に賃貸人が賃借人に対して返還しなければならない債務です。

この返還債務は所有権の移転に伴って売主から買主に引き継がれます(売主の返還債務はなくなり、買主は新たに返還債務を負担します。)。

 

前所有者が新所有者に対し、賃借人から預託を受けた敷金を交付しなかった場合でも、新所有者は敷金返還債務を承継します。

最判昭和39年6月19日は、賃借人が、競売で購入した新所有者に対して敷金の返還を求め、新所有者が競売で購入したのだから、敷金返還債務は引き継いでいないと主張したため訴訟になった事例ですが、次のとおり判断しました。

最判昭和39年6月19日
  本件建物賃貸借が民法第395条の短期賃貸借に該当し、従つて、右賃貸借を抵当権者(競落人)に対抗しうると解する以上、競落人たる上告人は、競落による所有権移転とともに、右賃貸借の賃貸人たる地位を承継するのであるから、旧賃貸人に差入れられた敷金に関する法律関係は、旧賃貸人に対する賃料の延滞のないかぎり、前記賃貸人たる地位の承継とともに、当然、旧賃貸人から上告人に移転すると解するのが相当 

それでは、賃貸人の地位を承継した建物の新所有者は、前所有者が賃借人から預かった敷金返還債務全額を承継するでしょうか。

 

判例は、賃貸人の地位が移転する時点で、前賃貸人に預託していた敷金の額から、賃借人が前賃貸人に対して負担していた未払賃料債務等が控除され、新賃貸人は、当初の敷金額から前賃貸人に対する未払賃料債務等を控除した残額の返還債務のみを承継するものと解しています(最判昭和44年7月17日)。

最判昭和44年7月17日
   敷金は、賃貸借契約終了の際に賃借人の賃料債務不履行があるときは、その弁済として当然これに充当される性質のものであるから、建物賃貸借契約において該建物の所有権移転に伴い賃貸人たる地位に承継があつた場合には、旧賃貸人に差し入れられた敷金は、賃借人の旧賃貸人に対する未払賃料債務があればその弁済としてこれに当然充当され、その限度において敷金返還請求権は消滅し、残額についてのみその権利義務関係が新賃貸人に承継されるものと解すべきである。 

ここまでは、関東と関西で違いはありません。

 

関東で関西で異なるのは「賃貸マンションや事務所ビルなど収益不動産を売買するとき、売主が賃借人から預かっている敷金や保証金に相当する現金を、買主に交付するか否か」という商慣習です。

関東の商慣習

関東では不動産取引の慣例として、売主から買主に引き継がれる返還債務の金銭については売買代金から差し引いて決済します。

 

●例えば不動産売買代金が1億円、敷金返還債務が2000万円とした場合、それらを相殺して8000万円で決済します。

関西の商慣習

関西では敷金等の額を売買代金から差し引かずに決済します(「敷金の持回り」といわれます。)。そして、不動産売買後に賃借人が退去する場合には、買主が自らの負担で敷金や保証金を返還します。買主からすると関西の商慣習では不利な印象を受けますが、買主は新たに発生する返還債務分のコストを考慮のうえで購入価格を判断することで不利益を回避しています。

任意売却や強制競売も、敷金が売主から買主へと引渡しされない点で関西方式といえます。

 

●例えば不動産売買価格が1億円、敷金等返還債務が2000万円とした場合、これらを相殺せず買主が売主に1億円を支払って決済をします(敷金返還債務の相殺はしません。)。ちなみに、税務会計上も返還債務分は不動産取得価格として見てもらえますので、税務会計上の不動産取得価格は1億2000万円と計上します。

ご注意点

売主・買主の両方が関西の方で売買物件も関西の場合、又はすべて関東の場合であれば、商慣習も一緒なのでトラブルは発生しませんが、売主・買主のどちらかが関東、あるいは関西である場合には注意が必要です。

特に、関東の方が関西の物件を購入する際は、返還債務に相当する金銭を売買代金から差し引いてくれません。契約直前でトラブルにならないようにお気をつけください。

 

同じ売買価格の物件を、関東方式と関西方式で決済する場合

  • 買主の一時的な現金支出が少ないのは【関東方式】であり、
  • 売買後退去が連続してあった場合キャッシュが苦しくなる可能性があるのは【関西方式】です。

 

不動産会社様も売買契約書では単に「敷金は持ち回りとする。」という一文では、一般的な市民が誤解する可能性が高いですので、次のとおり明示しましょう。

関東 買主は賃貸人の地位承継に伴い、売主が賃借人から預かっている保証金(敷金)の返還債務を免責的に承継する(売主は保証金返還債務を免責される。)ものとする。売主は、買主に対し、契約書第6条の所有権移転と同時に、預かり保証金(敷金)相当額の引き渡しを行う(売買代金は保証金返還債務を勘案せず決定されたものである。)ものとする。
関西 買主は賃貸人の地位承継に伴い、売主が賃借人から預かっている保証金(敷金)の返還債務を免責的に承継する(売主は保証金返還債務を免責される。)ものとし、売主は契約書第6条の所有権移転時期に、預かり保証金(敷金)相当額については、引き渡しを行わない(売買代金が保証金返還債務を勘案した上決定されたものである。)ものとする。

固定資産税・都市計画税精算の起算日


固定資産税・都市計画税は、毎年1月1日の登記簿上の所有者に対して、課税されます。

年度の途中に行なわれる不動産売買では、これを売買代金完済の日で区分し、その前日までを売主が、当日以降を買主が負担して精算するのが通常です。

特約で排除することも可能ですが、この場合には「買主が得」をします。

売買不動産についての租税公課その他の賦課金及び、電気、ガス、水道料金等は売買代金完済の日をもって区分し、その前日迄に相当する部分は売主の負担としその当日以後に相当する部分は買主の負担とする。但し、固定資産税及び都市計画税の起算日は、【関東方式:1月1日、関西方式:4月1日】とする。

関東は1月1日を起算日とする。

関西は4月1日を起算日とする。

売渡費用の負担者


通常の不動産売買(取引)では、必要な登記は次の順序で行ないます。

  1. 売主の現住所(印鑑証明書の住所)と登記簿上の住所が異なるときの所有権登記名義人住所変更登記
  2. 住宅ローンの登記(抵当権)があるときの抵当権抹消登記
  3. 売主から買主への所有権移転登記
  4. 買主の住宅ローンの抵当権設定登記

関東方式では

関東方式では、「1」「2」の費用を売主が負担し、「3」「4」の費用を買主が負担します。

つまり、売主は、住所変更も抵当権抹消もなければ、「1」「2」がないので、不動産取引において司法書士に報酬を支払うことはありません。権利証や登記識別情報がないときには、司法書士がこれらの代わりに本人確認情報を作成して法務局へ提出しますが、この費用は売主側の事情として売主に請求します。

関西方式では

関西方式では「1」「2」の費用を売主が負担し、「4」の費用を買主が負担するのは関東と同じです。ところが、「3」の費用は、「売渡に要する費用」と「所有権移転費用」に分けて、前者を売主が、後者を買主がそれぞれ負担します。「売渡費用」とは売主の本人確認、権利書確認、登記原因証明情報作成などに要する費用です。

「売渡費用」は司法書士事務所によって異なりますが、通常「3~5万円」です。

 

関東法式・関西方式の売買契約書の記載例は、それぞれ次のとおりです。

関東

登記申請に要する費用のうち所有権登記名義人の住所氏名の変更登記費用及び抵当権等の抹消登記費用は売主の負担とし、所有権移転に要する登録免許税及び登記費用は買主の負担とする。

※ 単に「所有権移転登記手続に要する費用は買主の負担とする。」とする例も見られますが、正確には上記のように明記すべきです。

関西 登記申請に要する費用のうち売渡しに関する登記費用、所有権登記名義人の住所氏名の変更登記費用及び抵当権等の抹消登記費用は売主の負担とし、所有権移転に要する登録免許税及び登記費用は買主の負担とする。

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