葬儀(葬式)費用負担者は誰なのか?!


葬儀費用は、相続開始後(被相続人の死亡後)発生する費用であるため、相続財産(相続負債)ではありません【1】。

よって、次のような考え方をします。

  1. 葬儀費用を当然に相続財産から支払って良いという訳ではない。
  2. 遺産分割協議の対象事項ではない。
  3. 遺産分割調停で、付随問題として話し合いできるが、揉めれば民事訴訟で解決すべき。

「えっ、そうなの?!」とお思いかもしれませんが、葬儀費用の負担について揉めた場合には、法律ではそのように考えます。詳しくご説明します。


【1】相続財産とは「相続開始時」に存在していたプラスの財産(積極財産)とマイナス財産(消極財産)をいいます。

もくじ
  1. 葬儀費用とは
  2. 香典
  3. 葬儀費用負担者の決定方法
  4. 相続人が負担した葬儀費用の一部を、他の相続人に請求できるか?
  5. 民法309条「葬式費用の先取特権」は何を定めた条文か?

葬儀費用とは


ややこしいのですが「民法上の葬儀費用といえるか」と、「相続税の申告のために費用としてプラス財産から控除できるか」は別問題で、まとめると表のようになります。

種類  

民法上の葬儀費用

といえるか

相続税申告の費用として控除できるか

葬儀費用 追悼儀式に要する費用
  • お葬式(通夜、告別式)の費用
  • 葬儀業者に支払う費用
  • 僧侶・寺へのお布施など聖職者への支払
  • 参列者全員に配る会葬御礼・粗供養・粗品
  • 通夜告別式の飲食代
  • (仏式)初七日、四十九日法要費用
  • (神道式)十日祭、五十日祭の費用
  • これらの参集関係者に提供した食事などの接待料
  • 永代供養料

一律に判断するのは困難で実情を踏まえて。

葬儀と同日に初七日を行う繰上法要であれば可。

一律に判断するのは困難で実情を踏まえて。

葬儀と同日に初七日を行う繰上法要であれば可。

埋葬などに要する費用
  • 死体検案費用
  • 死亡届費用
  • 死体運搬費用
  • 火葬費用
香典返戻費用
  • 香典返し
×(喪主の負担すべき費用) 不可
祭祀承継費用 
  • 墓地取得費用
  • 墓石購入費用

×(祭祀承継者の負担すべき費用)

不可 
  • 仏壇・祭壇の購入費用
  • 位牌の購入費用

×(祭祀承継者の負担すべき費用)

不可
  •  (仏式)初盆、一周忌、三周忌など年忌法要
  • (神道式)一年祭、五年祭

×(祭祀承継者の負担すべき費用)

不可

香典


香典の受取人は通常は、喪主と解されます。

(ですから、当然に「香典返し」は、喪主が負担します。)

 

(香典)ー(香典返し費用)=(葬儀費用)に充てられます。

 

香典が多くて、(香典返し)と(葬儀費用)を支払っても、余るときに誰が貰えるのかは

喪主が貰えるという説と、相続人全員が貰えるという説があります。

葬儀費用負担者の決定方法


葬儀費用は誰が、負担すべきものでしょうか?

次のように考えます。

1.被相続人から指示があった場合

被相続人から指示された者が葬儀費用負担者となります。

2.相続人間で合意があった場合

相続人間で合意した者が、葬儀費用負担者となります。

3.指示や合意がなく、争いがある場合

負担者の決め方については、次のような各説があり、いずれの裁判例もあります。

従来は相続財産負担説が多数ですが、近時裁判例は喪主負担説が相当数あります。

これらの説のいずれかにより負担者が一律に決まるのではなく、具体的な事実関係を検討したうえで、誰が負担するのが適切かを判断する。

喪主負担説 喪主が葬儀の形態・規模を決めるのだから、喪主が当然に負担すべきとする説
相続人負担説 相続人が共同して負担すべきとする説 
相続財産負担説 遺産で負担すべきとする説 
慣習・条理説 その地方の慣習によって決するとする説 

考慮すべき具体的な事実関係の例

  葬儀費用負担者と
言いやすい要素 ⇔ 言いにくい要素
取得した相続分   他の相続人より多くを相続した ⇔ 法定相続分 ⇔ 相続しなかった
葬儀に関与した経緯 喪主として主体的に関与 ⇔ 葬儀に呼ばれなかった
葬儀に関与した度合 喪主として主体的に関与 ⇔ 喪主と相談し葬儀内容を決定 ⇔ 参列せず
葬儀金額と遺産総額 葬儀費用が相当なときの他の相続人 ⇔ 葬儀費用が過大なときの他の相続人

相続人が負担した葬儀費用の一部を、他の相続人に請求できるか?


相続人の一人が葬儀費用を全額負担した場合に、他の相続人に対して、負担を請求できるかという問題です。

次のように整理できます。

〇=負担を請求できる。×=負担を請求できない。

 

請求されている相続人は

葬儀費用負担者といえるか?!

はい いいえ

負担を請求している相続人は、

香典・葬儀費用の明細を開示

しているか?!

開示している ×
開示していない × ×

負担を請求するならば、明細を明らかにすべきです。

負担を請求されたら、明細を明らかにするよう請求して納得のうえ、負担するべきです。

民法309条「葬式費用の先取特権」は何を定めた条文か?


民法309条に「葬式費用の先取特権」という条文があります。先取特権というのは「この権利をもっている人は、他人に先駆けて債権を回収しても良いよ」という抵当権などと同じような強い権利です。

民法第309条(葬式費用の先取特権)
 
  1. 葬式の費用の先取特権は、債務者のためにされた葬式の費用のうち相当な額について存在する。
  2. 前項の先取特権は、債務者がその扶養すべき親族のためにした葬式の費用のうち相当な額についても存在する。
民法第306条(一般の先取特権)
 

次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

一 共益の費用

二 雇用関係

三 葬式の費用

四 日用品の供給

この条文をそのまま読むと「被相続人の葬式費用を立替えた人は、被相続人の総財産の上に先取特権を有している(遺産分割よりも先に立替えた葬式費用を回収できる。すなわち「葬儀費用については相続財産負担説」を採用している。)」と読めなくもありませんが、間違いです。

次の高裁決定が正しい民法309条の読み方を解説しています。

東京高裁平成21年10月20日決定

【事案の概要】

葬儀費用を負担し葬儀会社に支払った喪主が、相続人が相続した預金債権に対して葬儀費用の先取特権に基づき差押を行ったもの。

【決定要旨】

  1. 309条1項の「債務者」とは死者自身を指すものと解されている
  2. 葬式費用の債権者は、本来的には葬儀社であって、「債務者」の総財産である遺産の上に相当額について先取特権を有することになる。
  3. 葬儀社に費用を立替払した者は、債権者(葬儀社)に代位することもできる立場にあり(同法499条1項)、やはり先取特権を有すると認めるべきである。
  4. これに対し、喪主として葬儀社と葬儀に関する契約をした者が葬儀社に支払った費用については、その喪主自身のために、死者の総財産に先取特権が成立するとは解し得ない。
  1. 本件では「葬儀費用の喪主負担説」を採用したうえで、
  2. 抗告人(喪主)は、(喪主自身のために亡Aのために葬儀を行なったのだから)亡A及びその相続人(の財産)に対して葬式費用の先取特権を有していないと判断しています。

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