清算型遺贈のススメ:相続人以外の第三者に、遺言で「不動産」を渡すのは危険


お子様のいない方が増えるにつれ、兄弟姉妹ではなく、第三者(個人または団体)に遺産を寄付したいとおっしゃる方が増えてきた印象があります。

このうち特に問題になりやすい『第三者に不動産を遺贈するとき注意すべき点』について、ご説明します。

もくじ
  1. 「贈与」や「遺贈」で、どんな税金が発生するか
  2. 相続人でない第三者に財産を遺した場合の税金
  3. 遺留分のある相続人はいないか?
  4. 不動産のままでは受け取ってくれない団体もある
  5. 遺言書の工夫
  6. 遺言執行者は必須
  7. 第三者への遺贈はとても難しい
  8. 人気の関連ページ

「贈与」や「遺贈」で、どんな税金が発生するか


名著「税理士・公認会計士・弁護士関根稔〔著〕/相続の話をしよう/財経詳報社/R2/90頁」に、この問題を考えるのに最適な設問がありました。

【設問】

AがBに対して、次の価格の不動産を贈与する場合、A・Bがそれぞれ個人であるとき、法人であるとき課税関係はどうなるでしょうか?価格はそれぞれ次のとおりであったとします。

  • 取得価格   1億円
  • 相続税評価額 3億円
  • 実勢価格   5億円

【正解】は次のとおりです。

贈与者A   受贈者B
  税金名 課税価格     税金名 課税価格
個人A 非課税 個人B 贈与税(相続税) 3
個人A みなし譲渡所得税 5-1=4 法人B 法人税【1】 5
法人A 法人税 5-1=4 個人B 所得税 5
法人A 法人税 5-1=4 法人B 法人税 5

【1】同族法人の場合、株主に対する「みなし贈与」となる。すなわち、同族法人が贈与(遺贈)を受けた場合、株価が増加し、株主はその分の財産を贈与をされたものとみなされます(相続税法9)。

ヤヤコシイですよね。

ただし、今回は個人が、相続人以外の第三者(個人又は法人)に対して、遺贈する場合ですので、関係するのは表の上半分(下に抜粋した部分)だけです。

贈与者A   受贈者B
  税金名 課税価格     税金名 課税価格
個人A 非課税 個人B 贈与税(相続税) 3
個人A みなし譲渡所得税 5-1=4 法人B 法人税 5

もう少し詳しく見ていきましょう。

相続人でない第三者に財産を遺した場合の税金


相続が発生した場合に、発生する税金の種類は次のとおりです。

  • お亡くなりになった方に所得があった場合に発生する所得税の準確定申告
  • 不動産を第三者へ贈与した場合に発生する(譲渡)所得税(所得税法59条)
  • 相続税

 

これらの税金は、相続人以外の第三者に不動産を遺贈した場合には、どうなるのでしょうか?

『不動産を遺贈するときに注意すべき点』を懇意の税理士さんに詳しく教えていただきました。

  • 法定相続人が「いる場合」と「いない場合」
  • 受贈者が「法人である場合」と「個人である場合」

について、下表のような場合分けが必要です。

  法定相続人が・・・
いる場合 いない場合
所得税の準確定申告義務
  • 相続人が相続開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに被相続人の所得の準確定申告を行い、納税義務も負う。
  • 法人に対する不動産の遺贈があれば、その不動産譲渡所得も含む。路線価ではなく、実勢価格ベースで課税される。【1】
  • 包括受遺者がいる場合は、包括受遺者が遺贈のあったことを知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までに被相続人の所得の準確定申告を行い、納税義務も負う。
  • 包括受遺者がいない場合は、相続財産法人の管理人が確定した日の翌日から4か月を経過した日の前日までに被相続人の所得の準確定申告を行い、納税義務も負う。

譲渡所得税

 

⑴ 受遺者が「法人」の場合

  • 時価で譲渡したものとみなされ、被相続人に譲渡所得税が課税される。
  • 法人への遺贈が包括遺贈の場合(法人が被相続人の債務も承継するから)包括受遺者である法人も準確定申告の共同提出義務を負い、納税義務を承継する。
  • 受遺者が法人の場合、相続人が譲渡所得税の負担を引き継ぐ。【2】
  • 受遺者が法人の場合、相続財産法人が譲渡所得税の負担を引き継ぐ。

⑵ 受遺者が「相続人以外の個人」の場合

  • 譲渡所得税は課税されない。
相続税

 

⑴ 相続税の基礎控除額は

3000万円+600万円×法定相続人数

⑴ 相続税の基礎控除額は3000万円のみ。 

⑵ 受遺者が「法人」の場合

  • 法定相続人の有無に関係なく、受遺者が普通法人の場合、受贈益について法人税が課税される。路線価ではなく、実勢価格ベースで課税される。【3】
  • 同族法人の場合、株主に対する「みなし贈与」となる。すなわち、同族法人が贈与(遺贈)を受けた場合、株価が増加し、株主はその分の財産を贈与をされたものとみなされます(相続税法9)。

⑶ 受遺者が「相続人以外の個人」の場合

  • 法定相続人の有無に関係なく、受遺者の取得財産は相続税の対象となる。
  • 相続(遺贈)によって財産を取得した人が、被相続人の配偶者及び一親等の血族以外の場合、取得した財産に係る相続税は2割加算となる。

【1】所得税の課税では、路線価を利用できない。

【2】実質所得者課税の原則(所得税法12、法人税法11、地方税法24の2の2)の適用があるかは事案による。

【3】法人税の課税では、路線価を利用できない。

遺留分のある相続人はいないか?


次は、税金とは全く異なるお話しです。

遺産を受け取った当事者が、紛争(遺留分侵害額請求)に巻き込まれる可能性についてです。

  法定相続人が・・・
いる場合 いない場合
遺留分侵害額請求
  • 配偶者・親・子が相続人の場合:これら相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性がある【リスクあり】
  • 兄弟姉妹のみが相続人の場合:遺留分侵害額請求権がないので、遺留分侵害額請求を受ける可能性はない【安心】
  • 遺留分侵害額請求を受ける可能性はない【安心】

遺留分侵害額請求について詳しく知りたい方は、記事「遺留分侵害額請求」をご参照ください。

遺留分対策について詳しく知りたい方は、記事「遺留分対策」、記事「遺留分放棄の許可」記事「生命保険の活用」をご参照ください。

相続人に配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属がいる場合

相続人に配偶者、直系卑属(子や孫)、直系尊属がある場合には、これらの方は遺留分を有しています。全ての財産を相続人以外の個人や団体に渡してしまうと、遺産を受け取った個人や団体が、相続人から遺留分侵害額請求をされる可能性があるのです。

 

したがって、遺留分権利者がいる場合には、対策が必要です。対策方法は大きく分けて次の3つです。

  • 遺留分権利者に生前贈与を行なったうえ、家裁から「遺留分放棄の許可」を得ておく
  • 遺留分権利者に最低限遺留分に相当する財産を渡すようにする。
  • 遺産の一部を生命保険に代えて受取人を遺産を受け取る個人や団体にしておき、いざ遺留分侵害額請求を受けたときには、生命保険金で遺留分相当額を支払ってもらう。

相続人が兄弟姉妹だけの場合には、兄弟姉妹は遺留分を有していませんので、心配ありません。

相続人が兄弟姉妹(又は甥姪)だけの場合

相続人が兄弟姉妹だけの場合には、兄弟姉妹は遺留分を有していませんので、心配ありません。

不動産のままでは受け取ってくれない団体もある


これまで見てきたとおり、不動産の遺贈を受ける際には

  1. 税金の問題
  2. 遺留分侵害額請求を受けるリスク
  3. 不動産ならではの管理コスト

があるため、不動産のままでは遺産を受け取ってくれない個人や団体が多くあります。

それでは、不動産を第三者に渡したいという場合にはどうすれば良いのでしょうか?!

遺言書の工夫


不動産を第三者に受け取ってもらうための工夫は色々あります。

まず一つは、遺言書を工夫することです。

清算型遺贈となる条項

不動産ではなく、不動産を売却した現金を渡すという方法があります。

これは清算してから渡すので「清算型遺贈」といわれる方法です。

例えば、遺言書には次のとおりの文言を使います。

別紙遺産目録記載の全ての財産を換価し、一般社団法人○○に遺贈する。

遺言書文言の工夫

さらに相続しない相続人に税負担だけいかないように、次の文言を加えておいても良いでしょう。

前条の遺贈する財産は、次の金員を控除した後の財産とする。
  1. 相続人に課税された相続税
  2. 準確定申告に基づく所得税
  3. 換価処分により課税される所得税等の税負担
  4. 相続登記、相続後の換価及び遺言執行に要する費用

 (参照:税理士・公認会計士・弁護士関根稔[著]/相続の話をしよう/財形詳報社/令和2年/32頁以下)

同書95頁の文例も参考になります。

遺言執行者は必須


清算型遺贈では、一時的に相続人名義に相続登記をする必要があります。

相続人名義に登記を入れてしまいますと、当該相続人に不動産を処分される可能性があります。

 

そこで、これを防ぐためには「遺言で遺言執行者を選任しておく」ことが必要です。

遺言執行者が就任すると、相続人には「遺言に反する処分を禁止する効力」が発生します(民1013)。

第三者への遺贈はとても難しい


第三者への遺贈は「法律や税金が絡み合い」とても難しいことがお分かりいただけたと思います。

これらの問題をすべて解決し、『確実に最後の希望を叶える』ために、是非、遺言書作成と遺言執行を司法書士にお任せいただきたいと思います。

参考となる文献


  • Case24子のいない夫婦が相次いで死去したが、各々生前に清算型遺贈の趣旨を含む遺言をしていた場合/実務家も迷う遺言相続の難事件ー事例式解決への戦略的道しるべ/遺言・相続実務問題研究会(編集)/野口大・藤井伸介(編集代表)/新日本法規/R3.1.28/291頁

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