司法書士賠償責任保険の分析


■市民の皆さまへ

司法書士は絶対にミスをしないよう各事務所がマニュアルやチェックリストを作成し、工夫をこらして業務にあたっております。しかしながら、司法書士はトラブル予防の専門家として「どんなに注意深く仕事をしていても、ミスは発生しうる」ことを知っています。そこで、万一ミスが発生しても皆さまにご迷惑を掛けないよう高額な保険に加入しています。

■司法書士の皆さまへ

司法書士の業務であればセミナーや出版以外は概ね保険でカバーされる模様ようです。

サイバーテロの被害にあった場合についてのサイバー保険については、各単位司法書士会が加入している保険会社によって様々な模様です。

この記事には、「サイバー保険の状況」と「司賠責保険に関する裁判例」も追加していく予定です。

もくじ
  1. 保険の概要
  2. 保険金支払対象となる損害
  3. 被保険事故の範囲
  4. 被保険事故の発生時期
  5. 司法書士会員の義務

保険の概要(兵庫県司法書士会)


全員加入部分

  支払限度額【1】 保険料【4】
業務補償【2】 施設補償【3】
身体障害 財物損壊

全員

加入

1請求ー1000万円

保険期間中(1年)ー2000万円

依頼者等1名-1000万円

1請求-2000万円

1請求ー1000万円

5,000~

6,000円/年間

いずれも免責金額【5】:10万円

【1】支払限度額:保険金が支払われる限度額。保険金額。

【2】業務補償:司法書士業務遂行上、過失により委託者・第三者に財産的損害を与えた場合、名誉毀損した場合に補償されます。

【3】施設補償:司法書士業務遂行のために所有・仕様・管理する施設(施設内動産を含む。)の欠陥又は管理上のミスにより、他人の生命身体を害したり、他人の財物を損壊させた場合に補償されます。

【4】保険料:毎年変動します。

【5】免責金額:司法書士の自己負担額。損害額から差し引いて保険会社は支払う。

上乗せ加入部分

保険会社はDセット以上をオススメされているが、損害賠償請求をかじった者であればFセット以外はあり得ないと考えるでしょう。

  支払限度額

保険料

【6】

業務補償 施設補償
身体障害 財物損壊
Aセット 

1請求ー3000万円

保険期間中(1年)ー6000万円

依頼者等1名ー3000万円

1請求ー6000万円

1請求ー1000万円

7,500円

~/年間

Bセット

1請求ー5000万円

保険期間中(1年)ー1億円

依頼者等1名ー5000万円

1請求ー1億円

1請求ー1000万円

9,600円

~/年間

Cセット

1請求ー1億円

保険期間中(1年)ー2億円

依頼者等1名ー1億円

1請求ー2億円

1請求ー1000万円

12,000円

~/年間

Dセット

1請求ー2億円

保険期間中(1年)ー4億円

依頼者等1名ー2億円

1請求ー4億円

1請求ー1000万円

17,000円

~/年間

Eセット

1請求ー4億円

保険期間中(1年)ー8億円

依頼者等1名ー4億円

1請求ー8億円

1請求ー1000万円

24,000円

~/年間

Fセット

1請求ー5億円

保険期間中(1年)ー10億円

依頼者等1名ー5億円

1請求ー10億円

1請求ー1000万円

29,000円

~/年間

上乗せ加入分には、免責金額はなし。cf.【5】

【6】補助者人数が0人の場合から、人数に応じて保険料は加算される。

その他、上記【1】から【5】もご参照。

保険金支払い対象となる損害


支出前に保険会社の同意を得ておかないと、保険金が支払われないことがあるので注意です。

損害の種類 内容
①損害賠償金 法律上の損害賠償責任に基づいて損害賠償請求権者に対して支払うべき治療費や修理費等(損害賠償請求権者に対する遅延損害金を含みます。) 
②損害防止費用 事故が発生した場合の損害の発生または拡大の防止のために必要または有益であった費用
③権利保全行使費用 発生した事故について、他人から損害の賠償を受けることができる場合に、その権利を保全または行使するために必要な手続に要した費用
④緊急措置費用 事故が発生した場合の緊急措置(他人の生命や身体を害した場合における被害者の応急手当等)に要した費用
⑤協力費用 引受保険会社が発生した事故の解決にあたる場合、引受保険会社へ協力するために要した費用
⑥争訟費用 損害賠償に関する争訟について支出した訴訟費用、弁護士報酬等の費用

参照:令和4年度・兵庫県司法書士会/司法書士賠償責任保険/ご加入のご案内

被保険事故の範囲


対象となる業務範囲

大きくわけて次の3つです。

 

1.「司法書士法3条1項業務」すなわち

①登記供託手続の代理

②法務局提出文書の作成

③登記・供託に関する審査請求手続の代理

④裁判所・検察庁提出文書の作成、筆界特定手続書類の作成

⑤前各号の事務についての相談

⑥簡裁代理

 

イ 140万円以下の民事訴訟手続の代理

ロ 140万円以下の和解、支払督促の代理

ハ 140万円以下の訴訟提起前の証拠保全手続、民事保全手続の代理

ニ 140万円以下の民事調停の代理

ホ 少額訴訟債権執行の代理

⑦140万円以下の法律相談、仲裁手続代理、示談代理

⑧140万円以下の筆界特定についての法律相談、代理

 

2.改正前不動産登記法の保証書作成について保証人を引き受けた業務

 

3.「司法書士法施行規則第31条業務(③号を除く)」すなわち

①管財人、管理人その他これらに類する地位に就き、他人の事業の経営、他人の財産の管理若しくは処分を行う業務又はこれらの業務を行う者を代理し、若しくは補助する業務

②後見人、保佐人、補助人、監督委員その他これらに類する地位に就き、他人の法律行為について、代理、同意若しくは取消しを行う業務又はこれらの業務を行う者を監督する業務

④官民競争入札又は民間競争入札により落札した登記情報等の書面交付業務(競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(平成十八年法律第五十一号)第33条の2第1項に規定する特定業務)

⑤法第3条第1項第1号から第5号まで及び前各号に掲げる業務に附帯し、又は密接に関連する業務

 

3号を除くとされていますので

③司法書士業務に関連する講演会の開催、出版物の刊行その他の教育及び普及の業務

は、補償対象外ということになりますので、注意が必要です。

被保険事故の発生時期


事故・損害賠償請求と保険期間の関係

参照:令和4年度・兵庫県司法書士会/司法書士賠償責任保険/ご加入のご案内

保険期間中の廃業、死亡、欠格、任意解約した場合

保険期間中の廃業/死亡/欠格(司法書士法5条①、③~⑥)した場合 その時点で加入している契約の補償内容により5年間にわたって補償が延長される。ただし、直接間接を問わず、司法書士法5条①、③~⑥までに定める法令違反、懲戒処分、懲戒免職又は業務禁止の処分等の原因となった行為に起因する損害に対しては、保険金を支払わない。
廃業によらず任意解約した場合 5年間の延長補償はない。

参照:令和4年度・兵庫県司法書士会/司法書士賠償責任保険/ご加入のご案内

司法書士会員の義務(兵庫県司法書士会)


兵庫県司法書士会会則第86条の6(会員の報告義務)
  
  1. 会員は、保険金の請求を行うおそれのある事故が発生した場合は、本会及び保険会社に速やかに報告しなければならない。
  2. 前項の報告を怠ったことによる責任は、当該会員が負わなければならない。
   
兵庫県司法書士会会則第86条の7(会員の協力)
 
  1. 保険金の請求者である会員は、事故処理委員会が行う調査に協力しなければならない。
  2. 会員は、前項の会員の復代理人であったときその他事故に関係するときは、前項の調査に協力するよう努めなければならない。
   
兵庫県司法書士会会則第86条の9(規程への委任)
  業務賠償責任保険に関し必要な事項は、別に規程で定める。

会則の委任に基づき「兵庫県司法書士会業務賠償責任保険運用規程」が定められています。