宅建業免許が必要な場合


不動産売買や賃貸借を他人の間に入って、仲介するには宅建免許が必要なことは、比較的よく知られていますよね。

ところが、自己所有不動産の売却を業として行なう場合も宅建業の免許が必要です。不動産投資家の方は勿論、投資家から物件を預かる宅建業者の方にもご注意いただきたい点をまとめました。

 

宅建業の無免許営業は逮捕されることもある重罪(宅建業法79、80)ですから、十分にご注意いただく必要があります。

もくじ
  1. 宅地建物取引業法の規定
  2. 自己所有物件売却にも宅建免許が必要な理由(宅建業法第2条第2号の解析)
  3. 「業として」行なうとは何か(国土交通省ガイドラインより)
  4. 破産管財人が不動産を売却するのに宅建業免許は要さないのか?
  5. 宅建業法違反が争われた裁判例
  6. 無免許営業の検挙数
  7. 無免許営業で検挙された事例
  8. 考察

宅地建物取引業法の規定


宅建業の定義

宅地建物取引業法第2条(用語の定義) 
この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号の定めるところによる。
①宅地 建物の敷地に供せられる土地をいい、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第8条第1項第1号の用途地域内のその他の土地で、道路、公園、河川その他政令で定める公共の用に供する施設の用に供せられているもの以外のものを含むものとする。
宅地建物取引業 宅地若しくは建物(建物の一部を含む。以下同じ。)の売買若しくは交換又は宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介をする行為で業として行うものをいう。【1】
③宅地建物取引業者 第3条第1項の免許を受けて宅地建物取引業を営む者をいう。
④宅地建物取引士 第22条の2第1項の宅地建物取引士証の交付を受けた者をいう。

【1】後ほど詳しく説明します。

無免許営業の禁止(免許を受けた宅建業者の独占業務)

宅地建物取引業法第12条(無免許事業等の禁止)
 
  1. 第3条第1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営んではならない。
  2. 第3条第1項の免許を受けない者は、宅地建物取引業を営む旨の表示をし、又は宅地建物取引業を営む目的をもつて、広告をしてはならない。
宅地建物取引業法第13条(名義貸しの禁止)
 
  1. 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に宅地建物取引業を営ませてはならない。
  2. 宅地建物取引業者は、自己の名義をもつて、他人に、宅地建物取引業を営む旨の表示をさせ、又は宅地建物取引業を営む目的をもつてする広告をさせてはならない。 

無免許で宅建業を営業した者には厳しい罰則

第8章 罰則
宅地建物取引業法第79条
 

次の各号のいずれかに該当する者は、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

①(略)

②第12条第1項の規定(無免許営業の禁止)に違反した者

③第13条第1項の規定(名板貸しの禁止)に違反して他人に宅地建物取引業を営ませた者

④第65条第2項又は第4項の規定(業務停止命令)による業務の停止の命令に違反して業務を営んだ者

宅地建物取引業法第80条
 

次の各号のいずれかに該当する者は、100万円以下の罰金に処する。

②第12条第2項(無免許なのに表示・広告)、第13条第2項(名義貸しなのに表示・広告)、(以下略)

自己所有物件売却にも宅建免許が必要な理由(宅建業法第2条第2号の解析)


文章が長いうえ「又は」「若しくは」が連発でわかりにくい第2号を分析すると答えが見えます。

 

❶接続詞の利用には、次のルールがあります。 

※「又は」と「若しくは」は、「又は」の方が大きいくくりになる。

(A若しくはB)又はC

(A、B若しくはC)又は(C、D若しくはE)

 

❷このルールを適用して、第2号を括弧でくくると次のとおりになります。

【(宅地若しくは建物)の(売買若しくは交換)】又は【(宅地若しくは建物)の(売買、交換若しくは貸借)の(代理若しくは媒介)】をする行為で業として行うものをいう。

  

❸分かりやすくするために二つに分けると次のとおりです。

  • 【(宅地若しくは建物)の(売買若しくは交換)】をする行為で業として行うものをいう。
  • 【(宅地若しくは建物)の(売買、交換若しくは貸借)の(代理若しくは媒介)】をする行為で業として行うものをいう。

 

❹さらに平易にすると次のとおりです。

  • 宅地か建物の売買(交換)を業として行なうもの
  • 宅地か建物の売買(交換、賃借)の代理(媒介)を業として行なうもの

 

❺売買・賃貸の「仲介」だけでなく、「自分のものである不動産の売買」であっても業として行なうには宅建業免許が必要なことがわかります。これを表にすると次のようになります。

  売買 賃貸
他人所有物件の媒介・代理 必要 必要
自己所有物件 必要 不要

たとえ、ご自身所有の物件であっても「業として」行なうと宅建業の無免許営業になってしまいます。宅建業者に売却の仲介を依頼したとしても無免許営業です。

そして、宅建業の無免許営業は、刑事罰ですのでご注意が必要です。

「業として」行なうとは何か?!


国土交通省ガイドライン「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」によると、「業として行う」というのは…「宅地建物の取引を社会通念上事業の遂行と見ることができる程度に行う状態を指すものであり、その判断は次の事項を参考に諸要因を勘案して総合的に行われるものとする。」として次の「5つの基準」が挙げられています。

①取引の対象者

広く一般の者を対象に取引を行おうとするものは事業性が高く、取引の当事者に特定の関係が認められるものは事業性が低い。

(注)特定の関係とは、親族間、隣接する土地所有者等の代替が容易でないものが該当する。

 

②取引の目的

利益を目的とするものは事業性が高く、特定の資金需要の充足を目的とするものは事業性が低い。

(注)特定の資金需要の例としては、相続税の納税、住み替えに伴う既存住宅の処分等利益を得るために行うものではないものがある。

 

③取引対象物件の取得経緯

転売するために取得した物件の取引は事業性が高く、相続又は自ら使用するために取得した物件の取引は事業性が低い。

(注)自ら使用するために取得した物件とは、個人の居住用の住宅、事業者の事業所、工場、社宅等の宅地建物が該当する。 

 

④取引の態様

自ら購入者を募り一般消費者に直接販売しようとするものは事業性が高く、宅地建物取引業者に代理又は媒介を依頼して販売しようとするものは事業性が低い。

 

⑤取引の反復継続性

反復継続的に取引を行おうとするものは事業性が高く、1回限りの取引として行おうとするものは事業性が低い。

(注)反復継続性は、現在の状況のみならず、過去の行為並びに将来の行為の予定及びその蓋然性も含めて判断するものとする。

また、1回の販売行為として行われるものであっても、区画割りして行う宅地の販売等複数の者に対して行われるものは反復継続的な取引に該当する。 

破産管財人が不動産売却をするのに宅建業免許は要さないのか?


これについても前記・「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(国土交通省)」に答えが書かれています。

破産管財人は、破産財団の管理処分権を有し、裁判所の監督の下にその職務と して財産の処分及び配分を行うものであり、破産財団の換価のために自らの名において任意売却により宅地又は建物の取引を反復継続的に行うことがあるが、当該行為は、破産法に基づく行為として裁判所の監督の下に行われるものであることにかんがみ、法第2条2号にいう「業として行なうもの」には該当せず、当該行為を行うに当たり法第3条第1項の免許を受けることを要さないものとする。

ただし、当該売却に際しては、必要に応じて、宅地建物取引業者に代理又は媒介を依頼することにより、購入者の保護を図ることが望ましい。  

宅建業法違反が争われた裁判例


宅建業法違反で刑事罰に処せられた裁判例を下記に掲載しますので、ご参照ください。

なお、要約はすべてWestlawJAPANによります。

東京高裁平成19年2月14日判決

◆学生アパートの所有者らを構成員とする企業組合が、特定の宅地建物取引業者と提携し、自らはアパートの賃借人の募集、勧誘行為等を行う一方、最終的に宅地建物取引業者を媒介人とする賃貸借契約を締結させ、宅地建物取引業者が賃借人から受け取る仲介手数料の6割を取得していた行為が、宅地建物取引業の無免許営業に当たるとされた事例

◆企業組合の上記行為に際し、企業組合の募集、勧誘行為等により既に賃貸借契約の締結を希望するに至っている者に対し、自らを媒介者とする重要事項説明書及び賃貸借契約書を提供するなどしていた宅地建物取引業者の行為が、宅地建物取引業法の名義貸し行為に当たるとされた事例

最高裁平成16年12月10日第二小法廷判決

◆民事執行法上の競売手続により宅地又は建物を買い受ける行為は、宅地建物取引業法二条二号にいう宅地又は建物の「売買」に当たる。  

最高裁昭和57年9月9日第一小法廷判決

◆宅地建物取引業法一三条一項、七九条三号は、自己の名義をもつて他人に宅地建物取引業を営ませる行為につき、その相手方が右取引業を営む免許を受けていると否とにかかわりなく、一律にこれを禁止、処罰する趣旨である。

最高裁昭和49年12月16日第二小法廷判決

◆宅地建物取引業法(昭和四六年法律第一一〇号による改正前のもの)一二条一項にいう「宅地建物取引業を営む」とは、営利の目的反復継続して行う意思のもとに宅地建物取引業法二条二号所定の行為をなすことをいう。

宅建業法違反(無免許営業)違反の検挙数


警察庁生活安全局・生活経済対策室は、毎年「生活経済事犯の検挙状況」を発表しています。これを数年分見ていくと、次のような検挙数【1】になります。

この数を少ないと見るか、多いと見るかはあなた次第ですけれど、実際に逮捕されていることには注意が必要です。

  平24 平25 平26 平27 平28 平29 平30 令01 令02
検挙事件数 16 7 7 17 9 5 4 6  
検挙人員 25 7

8

20 15 8 6 7  

【1】「検挙」は法律用語ではありませんが、概ね、警察が「逮捕した」又は「任意取り調べ」を行なうことの総称として使われるようです。

無免許営業で検挙された主な事例


この事例も警察庁生活安全局発表の「生活経済事犯の検挙状況」から「無免許営業」を抜粋したものです。

 

令和元年

被疑者は、都道府県知事の免許を受けないで、業として、平成30年12月頃から2回にわたり、建物売買契約の媒介をし、無免許で宅地建物取引業を営んだもの。

令和元年5月、2名を宅地建物取引業法違反(無免許事業等の禁止)で逮捕した。  

平成29年

建設業等を営むAは、行政担当者による再三の指導に従わず、傘下のグループ会社の代表取締役Bと共謀のうえ、都道府県知事の免許を受けないで、業として、平成29年1月頃 から同年9月頃までの間、計4回にわたり、 宅地(12画)を売却し、無免許で宅地建物取引業を営んだもの。

平成29年11月、2名を宅地建物取引業法違反(無免許事業等の禁止)で逮捕した。  

平成27年

宅地建物取引業を営むAは、免許の取消処分を受けた後、平成27年5月から8月までの間、競落した複数の不動産物件を売却し、無免許で宅地建物取引業を営んだもの。   

同年11月までに、Aを宅地建物取引業法違反(無免許事業等の禁止)で逮捕した。  

平成24年

不動産業者は、平成23年3月から同年11 月までの間、県知事の免許を受けずに、建物賃貸借契約の媒介を行い、福島県借り上げ住宅制度の特別措置を利用して、福島県から仲介手数料約2万6,000円をだまし取 るなどした。

24年4月までに、同人を宅地建物取引業法違反(無免許事業等の禁止) 及び詐欺罪で逮捕した(福島)。  

会社役員の男は、平成23年1月から24年4月までの間、競売で落札した建物の販売を繰り返し、県知事の免許を受けずに不動産を売買した。

24年11月、同人を宅地建物取引業法違反(無免許事業等の禁止)で逮 捕した(香川)。

平成16年

 

不動産業者らが、知事の免許を受けないで、平成14年2月から16年4月までの間、競売物件8件を落札し、合計約1億1,000万円で販売した。

16年5月、宅地建物取引業法(無免許)違反で3人を検挙した(新潟)。

不動産業者が、知事の免許を受けないで、 平成13年11月から15年5月までの間、宅地建物24物件を約1億6,000万円で販売した。

16年9月、宅地建物取引業法(無免許)違反で 2人を逮捕した(兵庫)。

平成15年

無免許不動産業者らが、平成13年7月から 14年7月までの間、国定公園内に無許可で道 路を設置するなど工作物を新築した上、他の不動産業者の名称を使用し、約20人に対して 約30区画の土地を販売した。

15年6月までに、 宅地建物取引業法違反、自然公園法違反及び詐欺罪で3人を逮捕した(愛知県警)。

考察


裁判例や検挙事例の中には、見るからに悪質なものも含まれますが、

  • 「わずか2回」で業と認定され逮捕されている検挙事例
  • 競売で落札する行為も宅建業法違反とされている裁判例

もあることには注意が必要です。

不動産投資家の方へ

宅建業免許を取得していない投資家の方は、投資用不動産を次々に売却しないようになさった方が宜しいかと存じます。

また、売却する必要があるのであれば、宅地建物取引士のライセンスを取得なさって、宅建業免許も取得しておいた方が、リスクなく不動産投資を継続できると思われます。

宅建業者の方へ

次々と自己所有物件を売却するクライアントは、本来、宅建業免許を取得していなければなりません。売却依頼を引き受けるうちに、無免許営業の幇助にならないよう充分ご注意ください。

リスクを考えると、お取引は慎重になさった方が賢明です。

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