貸借対照表の公告(決算公告)で注意すべき事項


株式会社は、定時株主総会で決算承認後、遅滞なく貸借対照表を公告する必要があります(会社法440Ⅰ)。

 

このコラムでは、貸借対照表などの公告を、官報又は日刊紙に掲載する場合の注意点について説明しています。

貸借対照表を電子公告で行う場合の注意点は、別のコラムで説明します。

もくじ
  1. 掲載すべき媒体
  2. (会社規模別)掲載すべき情報
  3. 「貸借対照表の要旨」で注意すべき点
  4. 標準的な所要時間
  5. 司法書士の報酬・費用

掲載すべき媒体


貸借対照表の公告は、定款で定めた「会社が公告をする方法」で行います(会440Ⅱ、会社2㉝)。

 

つまり、定款で定めた公告方法が

  • 「官報」であるときは官報
  • 「日経新聞」であるときは日経新聞
  • 「電子公告」であるときは「自社サイトの指定箇所」

に掲載して行います。

なお、ここでは公告を「官報」又は「日刊紙」に掲載する場合の注意事項に限定します。

官報・日刊紙と電子公告では掲載すべき情報が異なる(会440Ⅱ)ため、「電子公告」の注意点は、別コラムに記載予定です。

定款で定めた公告方法 貸借対照表を掲載すべき媒体
官報  官報 【1】
日刊紙 日刊紙【1】
電子公告 電子公告

【1】貸借対照表をウェブページで公開するとしている会社の場合には、官報や日刊紙への掲載に代えて当該ウェブページに掲載すればよい(会社440Ⅲ)。

(会社の規模別)掲載すべき情報


法人の種類・規模によって、公告すべき内容が異なります(会440)。

法人の区分 決算公告記載内容

資本金5億円以上又は負債総額200億円以上 

株式譲渡制限なし

大会社で

公開会社

貸借対照表(資産負債細分)【1】

損益計算書∵会440Ⅰ

資本金5億円以上又は負債総額200億円以上 

株式譲渡制限あり

大会社で

非公開会社

貸借対照表

損益計算書∵会440Ⅰ

資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満 

株式譲渡制限なし

大会社以外

公開会社

貸借対照表(資産負債細分)【1】

※損益計算書は不要

資本金5億円未満かつ負債総額200億円未満 

株式譲渡制限あり

大会社以外

非公開会社

貸借対照表

※損益計算書は不要

特例有限会社・合同会社・合名会社・合資会社 不要

【1】会社計算規則139条(資産の部)

3 公開会社の貸借対照表の要旨における固定資産に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。

一 有形固定資産

二 無形固定資産

三 投資その他の資産

4 公開会社の貸借対照表の要旨における資産の部の各項目は、公開会社の財産の状態を明らかにするため重要な適宜の項目に細分しなければならない。

会社計算規則140条(負債の部)

公開会社の貸借対照表の要旨における負債の部の各項目は、公開会社の財産の状態を明らかにするため重要な適宜の項目に細分しなければならない。

「貸借対照表の要旨」で注意すべき点


大会社以外・非公開会社が「会社が公告をする方法」で「貸借対照表の要旨」を公告する場合、注意すべき事項は次のとおりです。

まず、作成を始める前に、貸借対照表の「負債の部合計」が200億円を超えていないこと、資本金が5億円を超えていないことをチェックします。大会社では公告内容が異なるからです。

次に、株式の譲渡制限の有無についてもチェックします。記載すべき事項が異なるからです。

  第●期決算公告【1】 令和●年●月●日【2】  
        神戸市灘区鹿ノ下通二丁目4番15号【3】  
        あなまちサムライサポート株式会社【3】  
        代表取締役 佐藤 大輔【3・4】  
  貸借対照表の要旨(令和●年●月●日現在)【5】  
  科 目【6】 金額(百万円)【7】  
 

流 動 資 産 210,637  
  固 定 資 産 【13】0   
  繰 延 資 産 924,599  
    合      計 【12】1,135,236  
 

流 動 負 債 96,082  
   賞与引当金【8】 【14】  
  固 定 負 債  【14】  
   退職給付引当金【8】 【14】  
  株 主 資 本【9-0】 1,039,154  
   資  本  金 1,000,000  
   資本剰余金【9-1】 【14】  
    資本準備金 【14】  
   利益剰余金【9-2】 39,154  
    利益準備金 【14】  
    その他利益剰余金 39,154  
    (うち当期純利益)【10】 【11】(39,154)  
   自己株式  
  評価・換算差額等    
   その他有価証券評価差額金    
   繰越ヘッジ損益    
   土地再評価差額金    
  新株予約権    
    合     計 【12】1,135,236  
           

【1】設立年から数えて、期が少なすぎるのはおかしいです。逆に多すぎるのは決算期変更している場合もありますので、あり得ることです。

【2】掲載日は、定時株主総会の日の翌日以降です。官報代理店が入力してくれます。掲載が早すぎないようにご注意ください。

【3】決算承認株主総会後の事項を記載します。決算承認総会で同時に、商号・本店・代表取締役などの変更が行われていた場合、新商号・新本店・新代表取締役を記載します。登記事項証明書に従って正確に記載します。

【4】代表取締役が2名いる場合でも1名のみの表示で問題ありません。

【5】決算年月日を記載します。決算承認定時総会の日ではありません。

【6】科目の文字数は1行あたり9文字が上限です。

科目は、計算書類のうち法律が要求している最低限度の科目を記載します。行が増えれば掲載料が増えるからです。罫線を除いて上下20行までが2枠で掲載可能です。20行を超す場合には3枠での掲載です。

科目で頭(書出し)が下がっている科目は、上の科目の内訳を意味しています。

【7】金額は1行あたり10桁が上限です。

金額は百万円又は千円単位が一般的ですが、これら以外でも大丈夫です(会社計算規則144)。切り捨て・四捨五入いずれでも結構ですが、同じ貸借対照表では「全て切り捨て」するか、「全て四捨五入」する必要があります。チェックのしやすさから「全て切り捨て」をオススメします。

【8】負債に係る引当金がある場合には、当該引当金については、引当金ごとに、他の負債と区分しなければなりません(会社計算規則140Ⅱ)

賞与引当金・退職給付引当金・役員退職慰労引当金等は、流動負債・固定負債の下欄に全て記載する必要があります。なお、貸倒引当金は流動資産に係るので、通常記載されません。 

【9-0】株主資本とは、資本金、資本剰余金、利益剰余金を足した金額です。

【9-1】資本剰余金の内訳記載は必須項目です(会社計算規則141Ⅲ)。

 資本剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。
 資本準備金
 その他資本剰余金

【9-2】利益剰余金の内訳記載は必須項目です(会社計算規則141Ⅳ)。

 利益剰余金に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。
 利益準備金
 その他利益剰余金

【10】当期純利益や当期純損失は、損益計算書を掲載しない場合必須です(会社計算規則142)が、貸借対照表の記載事項ではありません。かっこ書き()で表示することでそれを示しています。

【11】損益計算書から数字を拾って記載します。純損失である場合には(うち当期純利益)に代えて(うち当期純損失)と記載することも可能です。(うち当期純利益)と記載した場合には金額をマイナス表示で、(うち当期純損失)と記載した場合には正の数字を記載します。

【12】「資産の部合計」と「負債及び純資産の部合計」金額は一致している必要があります。

また「資産の部の科目を合算したもの」と「資産の部合計金額欄」は一致している必要があります。さらに「負債及び純資産の部の科目を合算したもの」と「負債及び純資産の部合計金額欄」は一致している必要があります。ただし、切り捨て・四捨五入【7】の結果、不一致が生じても許容されます。

【13】「0」は、桁未満の数字があるときに記載します。

【14】科目に該当する金額がないときには科目ごと削除します。
【15】最後に、科目ごとの数字を合計して、合計欄の数字と比較することで「科目丸ごと抜けていないか」をチェックします。

 

 

<参照>

標準的な所要時間


官報の場合、掲載希望日の約2週間前が申込締切日です。

申込から2週間程度で、官報に掲載されます。

 

日刊紙の場合は、申込から掲載に要する日数は、新聞社によって異なります。

司法書士の報酬・費用


大会社以外で非公開会社の場合

業務内容 司法書士の報酬 費用

「貸借対照表の要旨」作成

官報への申込

原稿の校正

33,000円(税込)

一番小さい2枠(官報)の場合

74,000円余

大会社以外で公開会社の場合

業務内容 司法書士の報酬 費用

「貸借対照表の要旨」作成

「損益計算書の要旨」作成

官報への申込

原稿の校正

66,000円(税込)

一番小さい4枠(官報)の場合

148,000円余

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