司法書士法人設立や司法書士法人への合流は、立ち止まって良く考えよう。


平成15年4月1日以降、司法書士も法人の設立が可能となりました。

さらに、令和2(2020)年8月1日司法書士法改正により、一人であっても司法書士法人を設立することが可能になりました。令和2年現在、全国で741の司法書士法人が現存しています。また、制度開始以降、解散した法人はあまたあれど、法人の総数は増加傾向にあり減少したことはありません。

 

ところで私たち司法書士は、制度導入のメリット・デメリットを十分に比較検討してお客様に提案する職能です。こんな筈では無かったとならないように、司法書士法人の新規設立や司法書士法人への合流は、十分検討のうえ判断しましょう。

 

この記事は、司法書士法人化を所内で検討した際に、作成した資料を加筆公開したものです。

司法書士法人設立を検討中の同業先生方の参考になれば幸いです。

もくじ
  1. 司法書士が法人へ参画する方法
  2. 司法書士法人が抱える司法書士の種類
  3. 司法書士法人化のメリット・デメリットを徹底比較
  4. まとめ

司法書士が法人へ参画する方法


司法書士が司法書士法人へ参画する方法は次の二通りです。

  1. 社員(=役員)として参加する。無限連帯責任を負う。
  2. 従業員司法書士(勤務司法書士)として勤務する。無限連帯責任を負わない。

司法書士法人に勤務司法書士のつもりで就職する方は、司法書士法人の拠点数と社員数を比較しましょう。拠点数と社員数が同じようであれば、急な社員の退社があったときには、社員になってくれるよう、あなたが言われる可能性があります。

一方、司法書士法人の経営側としては、社員司法書士数が拠点数をある程度上回るような経営をする必要があります。

司法書士法人が抱える司法書士の種類


司法書士であっても分かりにくい「司法書士法人が抱える司法書士の種類」は次のとおりです。

  用語 解説
役員 代表社員(司法書士)

社員たる司法書士は各自代表が原則です(司法書士法37)が、

代表社員を定めたときには代表社員の住所・氏名が登記されます。

社員(司法書士)

社員たる司法書士は各自代表が原則です(司法書士法37)

住所氏名が登記されます。

特定社員(司法書士)

社員司法書士のうち簡裁訴訟代理業務を行うことができる司法書士。

(特定社員)と登記されます。

従業員

従業員司法書士

勤務司法書士

スタッフ司法書士

登記されません。

従業員司法書士などは、法律用語ではありません。

組合等登記令「別表」を参照ください。

法人化のメリット・デメリットを徹底比較


法人化のメリット・デメリットは、「複数司法書士が在籍する事務所」と「一人司法書士事務所」のメリット・デメリットと混乱して論じられることが多いので、注意すべきです。

個人事務所

司法書士法人
一人司法書士の場合

複数司法書士在籍や

グループの場合

一人法人の場合

複数司法書士在籍

の場合

総合力 

×継続性・安定性の確保

〇継続性・安定性の確保 ×継続性・安定性の確保 〇継続性・安定性の確保

×分業化・専門性の確保。一人司法書士が全分野でついていくのは、確かに勉強が大変

○分業化・専門性の確保

×分業化・専門性の確保。一人司法書士が全分野でついていくのが大変なのは一人司法書士法人でも同じ。

△分業化・専門性の確保

→収益性の観点から特殊な案件は法人は受けない印象

×仕事の相互フォローができない。

○仕事の相互フォローができる(子育て・介護)

×仕事の相互フォローができない。

○仕事の相互フォローができる(子育て・介護)

△一部財産のみ明確化は可能 

〇個人財産と事業財産の明確化

社員のリスク【1】

〇他人の債務まで無限連帯責任を負うリスクなし ×無限連帯責任リスク(司法書士法38)【2】
〇所長が懲戒されても、勤務司法書士は対象にならない。 ×法人への懲戒処分は、勤務司法書士であっても対象になる可能性がある(司法書士法48条)
〇雇用契約などで定めがなければ競業避止義務はない。独立前に集客を試すことも可能。 ×社員は「他の社員全員の同意」があっても、競業避止義務は免除されない(司法書士法42)。従業員司法書士が社員司法書士になると個人事件を受任できない。

〇司法書士の自宅住所は公開されない。

〇訴訟受託の障害にならない。

×社員司法書士の住所が登記簿上公開される。

×訴訟受託の障害になりえる。

×急に転勤を命じられるリスク

設立などコスト   

×設立にも解散にもコスト

×設立コスト:定款認証費用と司法書士会入会金が数万円ずつ。設立登記登録免許税は非課税。

×解散コスト:解散登記登録免許税は非課税。裁判所監督下のため大変(司法書士法44の3)

日常的なコスト   
〇会費は一人ごと  ×会費は法人分も必要
○職務上請求に身分証明書添付不要 ×職務上請求に法人登記事項証明書の添付必要
×法人登記事項証明を原本還付する手間・人件費
〇領収書への印紙貼付義務なし   

×領収書への印紙貼付の金額負担

×領収書への印紙貼付の手間・人件費

〇社会保険への加入義務は常時10名以上雇用した場合のみ。近い将来5名以上になる予定

×社会保険への強制加入

×複式簿記による顧問税理士報酬の上昇

〇決算公告義務はありません。

〇決算公告義務はありません【3】
税金   

〇消費税の2年間減免 

〇所得の分配による事業主への課税軽減

×法人税が個人課税より有利となるためには、一定以上の所得規模が必要 

×法人の場合、利益がなくても、最低限、法人市県民税(均等割)が発生する

×経理作業が複雑(複式簿記)で所内負担が大きくなると共に顧問税理士報酬の値上げ要素になる

×自分の取り分が、給料制(役員報酬)になる【4】

×税務署に狙われやすくなる
集客   
〇さも大きい事務所であると市民が誤解して依頼につながることがあるかも?! 
○司法書士業務(後見など)が長いスパンになってきたので、法人だと市民に安心してもらえる。
△一人司法書士事務所でも上場企業を顧客にもつ事務所もあることを考えると・・・ 〇法人顧客は、法人事務所を選択しがち。法人事務所にいると個人事務所が不安だからと言われることも多い。
×「先生の次、どうなるのかな?」と顧客に心配されうる。 〇「先生の次、どうなるのかな?」と顧客に心配されない。 ×「先生の次、どうなるのかな?」と顧客に心配されうる。 〇「先生の次、どうなるのかな?」と顧客に心配されない。
求人   
×求人の場面では法人に負ける。 △グループで求人を行なって差を縮める。 〇さも大きい事務所であると求職者が誤解して求人がしやすくなるかも?! 
〇社会保険加入は自由 〇社会保険加入は義務
〇責任関係・序列の明確化 〇責任関係・序列の明確化
〇社員になってもらうのに、かなりしぶとい交渉が必要
事業拡大   
×他の事務所を吸収できない。 △グループとして拡大できる。 〇他の事務所を吸収しやすい
  〇合併ではないので、それぞれのやり方で行える。 ×合併後に仕事のやり方統一に苦労する。
〇元々ご自身の事務所なので問題ない。 ×支店長、支店ナンバー2の退社が多い。
〇元々ご自身の事務所なので代替要員手配は必要ない。 ×急な支店長(社員)の退社で、代替社員の手配に苦労する。
〇元々それぞれの顧客なので問題なし ×支店長が退職して顧客を持っていくと売上は減るが経費は減らない
次世代への引継(事業承継)
△承継を失敗しても廃業届だけで済む。 〇所長がこっそり引退できる。 ×承継に失敗すれば裁判所監督下で解散(司44の3) 所長がこっそり引退できる。
△司法書士事務所の第三者承継は売上数千万円程度では、顧問先でもなければ買手がつきにくい。
〇事業譲受(合併)法人が事業譲渡(被合併)事務所に社員を送り込むことで可能
×契約(雇用契約、事務所賃貸借契約など) は個人なので複数司法書士が在籍していても、承継時は契約し直しが必要。 契約の承継は法人名義なので容易

日常業務

×司法書士個人のマイナンバーを法人顧客に提示する必要がある。

×法人顧客にマイナンバー管理コストを負担させている。

○司法書士個人のマイナンバーを法人顧客に提示する必要がない。

〇法人顧客にマイナンバー管理コストを負担させずに済む。

×支店間の営業成績と人件費・広告費などの経費がアンバランスだと従業員間で不満が募ってその調整で苦労する。

×領収書への印紙貼付け手間

×職務上請求のために大量の登記事項証明書が必要
×商業登記電子証明書を利用した際に申請が中止・却下となる事案が発生しうる【5】

【1】自分は従業員司法書士だからと安心できません。

特に社員司法書士数が、拠点数を少し上回る程度しかいない場合には、突然の社員退社によって「あなた」に社員司法書士のお鉢が回ってくる可能性もあります。もちろん拒否して従業員として居座ることも可能でしょうが、居座るキモがなかったり、どうしても退職できないタイミングであった場合には。。。

【漫画】弁護士のたぬじろう@B_Tanujiro が、X(旧・Twitter)上で分かりやすい漫画を発表なさっていますので、ご参照ください。

https://x.com/B_Tanujiro/status/1755154184515752331?s=20

【2】不本意な無限連帯責任を負担する可能性がある場合を例示すると次のとおりです。

  • 法人の誰かのミスで、自分が関与していなくても、社員が多額の賠償責任を負うリスク。
  • 社員が「雇われ」と同視できる立場でも経営失敗で、社員が多額の借金を背負うリスク。
  • 脱退社員の責任が継続するリスク・・・代表社員と喧嘩別れして退社登記をしてもらえないリスク(司法書士法38Ⅵ、会社法612)。
司法書士法第38条(社員の責任)
  1. 司法書士法人の財産をもつてその債務を完済することができないときは、各社員は、連帯して、その弁済の責任を負う。
  2. 司法書士法人の財産に対する強制執行がその効を奏しなかつたときも、前項と同様とする。
  3. 前項の規定は、社員が司法書士法人に資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、適用しない。
  4. 簡裁訴訟代理等関係業務を行うことを目的とする司法書士法人が簡裁訴訟代理等関係業務に関し依頼者に対して負担することとなつた債務を当該司法書士法人の財産をもつて完済することができないときは、第一項の規定にかかわらず、特定社員(当該司法書士法人を脱退した特定社員を含む。以下この条において同じ。)が、連帯して、その弁済の責任を負う。ただし、当該司法書士法人を脱退した特定社員については、当該債務が脱退後の事由により生じた債務であることを証明した場合は、この限りでない。
  5. 前項本文に規定する債務についての司法書士法人の財産に対する強制執行がその効を奏しなかつたときは、第2項及び第3項の規定にかかわらず、特定社員が当該司法書士法人に資力があり、かつ、執行が容易であることを証明した場合を除き、前項と同様とする。
  6. 会社法第612条の規定は、司法書士法人の社員の脱退について準用する。ただし、第4項本文に規定する債務については、この限りでない。

会社法第612条(退社した社員の責任)

  1. 退社した社員は、その登記をする前に生じた持分会社の債務について、従前の責任の範囲内でこれを弁済する責任を負う。
  2. 前項の責任は、同項の登記後2年以内に請求又は請求の予告をしない持分会社の債権者に対しては、当該登記後2年を経過した時に消滅する。

【3】司法書士法人には、株式会社などの場合に必要な貸借対照表の公告義務はありません。∵株式会社と異なり出資社全員が無限責任を負っているからです。

なお、他の司法書士法人と合併する場合には、合併する旨の公告のみが必要です(司法書士法45の2)。

【4】儲かった年でも、自分にボーナスを支払うことができず、儲かった年は法人の内部留保になります。翌年の最低売上を計算したうえ役員報酬を決められる顧問料型士業(弁護士・税理士・社会保険労務士)にこそ法人化は望ましいと言われる所以です。

 

本記事の執筆のために、一人司法書士事務所、共同事務所、司法書士法人の方にご意見をうかがった。

また、司法書士法人の経営課題とその対処方法/月間登記情報623号16頁/金融財政事情研究会も参考にさせていただいた。今ならウェブ上でも閲覧できる(最終アクセス210515)ので、読者諸氏もご覧いただければ、法人経営の大変さや本音がわかると思います。

【5】 ときどきあるそうです。

まとめ


以上見てきた通り、法人化が全てではありません。

法人化は単に「選択肢が増えた」という程度にお考えいただければ良いと思います。

 

先生方、一人一人「どういう形態で仕事をしたいのか」という理想は異なります。

大規模事務所を目指したい方は、法人を設立してもよいかもしれません。

 

一方、 

数名の気の合う仲間と助け合いながらやりたい先生や、

従業員を雇わず一人で全てをコントロールしたい先生には、

司法書士法人を設立するよりも良い方法があるかもしれません。

 

たとえば、当グループのように 

  • 各司法書士が独立した事務所を維持しながらも
  • 同じような考え方の司法書士が集まり協同して
  • 新しい社会のインフラ「何か困ったときには、何でも一番に相談してもらえる窓口」

になることを目指したい方もいらっしゃるかもしれません。

そんなときは、是非「あなたのまちの司法書士事務所グループ」へのご参加をご検討ください。