意思能力とは何か?意思能力が無いことをどう証明するか?


「意思能力」がない者がした行為は無効です。

認知症高齢者の方の中には、意思能力がない方もいらっしゃいます。

 

このような状態であることをいいことに、高齢者に不必要な高額商品を売りつける業者や、高齢者の預貯金を横領する親族がいます。そんなときには、高齢者に意思能力がなかったことを証明できれば、これらを無効にすることが可能です。

 

当コラムが、皆様のお役にたてることを祈念します。

もくじ
  1. 意思能力と行為能力
  2. 意思能力と事理弁識能力
  3. 意思能力が無いことをどう証明するか?
    1. 従来
    2. 近時
    3. 意思能力低下・喪失の原因別「評価ツールの有用性」
    4. 裁判例の判断基準
  4. 長谷川式とは何か?
  5. MMSEとは何か?
  6. 「長谷川式の点数が低いことや、看護記録等の一部記載のみを根拠に『意思能力がない』と主張する」ことは危険
  7. 参考文献
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意思能力と行為能力


  意思能力 行為能力
意 味 自らがした行為の結果を判断することができる能力 単独で有効な取引行為(法律行為)をすることができる能力
効 果 無効【1】 取消できるなど

       

ないとされる例

 

未就学児(小学校入学前程度の子)

泥酔者

重度の精神障害者

未成年者

成年被後見人

【1】無効。すなわち効力が発生しません。

  • 意思能力がない者がした行為は無効(大審院明治38年5月11日判決)
  • 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする(新民法3条の2)

意思能力と事理弁識能力


法律行為が無効となる「意思能力」と、成年後見開始原因とされる「事理弁識能力」は全く同じ意味なのか?それとも異なる意味なのか?

興味深い内容ですので、ほんの入口だけご紹介します。

民法第3条の2(意思能力)
  法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
民法第7条(後見開始の審判)
  精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者・・(略)・・の請求により、後見開始の審判をすることができる。

平田厚先生は、その著書「民事における意思能力の判断事例集ー取引行為、遺言、婚姻、養子縁組等ー」新日本法規/令和2年/3頁以下において、以下の三説をご紹介されています。

  1. 意思能力と事理弁識能力は異なる概念であるとする説
  2. 実質的内容には差異がないとする説
  3. 山本敬三教授の新説(下表)
能力 成立要件としての能力  
資格要件としての能力  合理的判断能力 =成年後見の「事理弁識能力」
意味理解能力 =「意思能力」

意思能力が無いことをどう証明するか?


従来

過去のある時点での法律行為の有効性が問題になったとしても、本人に意思能力がなかったことの立証手段がほとんど存在しなかった。

近時

立証手段が用意されている。

  • 認知症の場合には、要介護認定の過程で行なわれる「主治医意見書」に本人の意思能力に関する記載がなされる。
  • 障がい者の場合には、障害支援区分によって意思能力に関する記載がなされることがある。
  • 成年後見等開始申立の際に添付する医師の成年後見用診断書や鑑定に、本人の意思能力に関する記載がなされる。

意思能力低下・喪失の原因別「評価ツールの有用性」

意思能力低下・喪失の原因 長谷川式やMMSEなどの評価ツール
見当識障がい、短期記憶障がいを中核症状とする認知症 意思能力を判定可能
精神障がい者 適さない【1】
知的障がい者 適さない【1】

【1】本人の状況や障害支援区分の判定資料によって判断するしかないであろう(平田厚著「民事における意思能力の判断事例集ー取引行為、遺言、婚姻、養子縁組等ー」新日本法規 /令和2年/9頁)。

裁判例の判断基準

平成10年以降の意思能力が問題となった裁判例を検討された明治大学教授・弁護士の平田厚先生は、おおむね次のように分析されている(平田厚著「民事における意思能力の判断事例集ー取引行為、遺言、婚姻、養子縁組等ー」新日本法規・令和2年・契約につき9頁、遺言につき119頁)。

 

裁判例で重視されたように見える基準(特に重視を◎)

取引金額

評価ツール

の評点

本人にとって

取引することに

客観的必要性・合理性はあったか

取引後の後見開始

などの審判

不動産売買      

預金取引

     
賃貸借契約      
委任契約      
投資契約      
贈与契約      
  裁判例で重視されたように見える基準(特に重視を◎)

遺言内容

の難易度

評価ツール

の評点

遺言内容の不平等が合理的か

本人の心身状況

と遺言内容

遺言【1】 〇【2】

【1】遺言能力の判断については、取引行為とは異なり、基本的にそれほど高い能力を予定していないものとされている。取引行為における行為能力は成年年齢としているが、遺言能力は15歳としている(民961)ところからも、そのように考えられている(平田厚著「民事における意思能力の判断事例集ー取引行為、遺言、婚姻、養子縁組等ー」新日本法規・令和2年・119頁)。

【2】評点などの指標を使用しない、使用できない事例では、本人の心身状況と遺言内容とを相関的に見て判断しているように思われる(平田厚著「民事における意思能力の判断事例集ー取引行為、遺言、婚姻、養子縁組等ー」新日本法規・令和2年・121頁)

長谷川式とは何か?!


正式には「改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」といいます。

得点(判定方法)

  • 「30点」満点、
  • 「21点以上」を正常、
  • 「20点以下」を認知症の疑いと判定。
  • HDS-Rは、認知症のスクリーニングを目的に作成されたものであり、得点による重症度分類は行なわない。

検査内容

質問項目は9問と少なく、所要時間は5~10分程度。

質問への回答は全て口頭で行なう。

MMSEとは何か?!


正式には「ミニメンタルステート検査」といいます。

得点(判定方法)

  • 「30点」満点、
  • 「28点以上」を正常、
  • 「27~24点」を軽度認知障害疑い、
  • 「23点以下」を認知症の疑いと判定。

検査内容

質問項目は11問、所要時間は10~15分程度。

質問への回答は、口頭・記述・描画で行なう。

「長谷川式の点数が低いことや、看護記録等の一部記載のみを根拠に『意思能力がない』と主張する」ことは危険


藤井伸介先生は「意思能力や意思を表現する能力の有無の判断は、入院直後の一時的な急患状態における観察を記録したカルテや看護記録の『認知障害』『言語障害』『意思疎通困難』等の表現あるいは長谷川式簡易スケールの点数のみによって判断すべきではなく、退院直前の観察結果や自宅療養中の状態、通院時の看護記録などを総合して判断すべき」とされ、その好例として下記裁判例を示される(藤井伸介編集代表「審判では解決しがたい遺産分割の付随問題への対応」新日本法規/H29/45p以下)。

東京地裁H19.10.1判決

被相続人と同居していなかった相続人が、同居相続人に対して「被相続人が脳梗塞を発症後は意思能力を喪失していたため、被告らは被相続人の財産を被告らの利益のために管理し、処分した」として使途不明金の返還を求めた訴訟。

時系列

H3.2.23 外食中、脳梗塞を発症し救急搬送
H3.3.6 長谷川式簡易スケールの点数15点(長谷川式20点以下は認知症の疑い)
H3.10.3 看護記録に「認知障害」との記載あり
H5.3.2 看護記録に「言語障害あり、呂律回らず聞き取れない。奥さんは代弁できるようだ」との記載あり
H6.7.18 看護記録に「意思疎通困難」との記載あり
H12.5.1 死亡
「認知障害」「言語障害」「意志疎通困難」等の言葉に関する裁判所の評価
 

Aが平成3年2月23日に脳梗塞で倒れた後,意思能力,意思を表現する能力を欠いていたと認めることができないことは明らかである。原告らは,Aが意思能力,意思を表現する能力を欠いていたとの主張の根拠として,上記看護記録等に「認知障害」,「言語障害」,「意志疎通困難」等の言葉があることをあげるが,「認知障害」との表現は,誤嚥による肺炎のため救急車で搬送された時点での記載にすぎないし,「言語障害」との表現は,同時に,「『いたい』,『なにすんだよ』等訴えあります。」,「本人の時々の発語や表情にてコミュニケーションをとっています。」などの記載とともに記載されている表現にすぎないし,「意志疎通困難」との表現も,「呂律が回らず,聞き取れない」ことを示すにすぎず,妻である被告Y1には聞き取れるようである旨の記載と同時に使われている表現にすぎないし,「言語障害あり,意志疎通困難」との記載も,嘔吐を繰り返して入院した際の記載にすぎない上,これらの記載は,書面の性質上,医師がAの精神能力の程度を診察した上で診断として記載したものではなく,看護士がそのときどきの看護上の留意点等として記載したものにすぎないことが明らかである。

そして,被告Y1本人尋問の結果によると,Aは,倒れた後も言葉がやや不自由であったものの,意思能力を有し,被告Y1とは会話をしていたというのであり,前記証拠関係は,被告Y1の上記供述を裏付けるものということができる。

「長谷川式スケール15点」に関する裁判所の評価
  原告らは,長谷川式簡易スケールによるAの得点が15点であった点を指摘するが,長谷川式簡易スケールが認知症(当時「痴呆」)についての簡易な問診テストであり,質問者から提示された言葉や数字の暗唱力,記憶力,計算能力,面前に示された物の記憶力等を問う方法によって採点されるものであり,30点満点で合計点が20点以下の場合には痴呆疑いとされ,15点は,中等度痴呆とするものであるが,そもそも認知症といえるか,また,その程度がどの程度かは,専門家が他の検査等と総合した上で判定すべきものであり,上記テストの点数のみによって意思能力の有無,程度を判定し得るものでないことは公知の事実である。Aに対する上記簡易検査が行われたのは,Aが脳梗塞を発症して初めて入院した際のことであり,脳梗塞により左半身不随となり,それまでの生活状況と著しく異なった状況に置かれるに至ったAが,そのような急性期ないし直後に行われた問診による上記テストに際し,どのような精神状態,感情のもとで,問いかけに応答したのかは明らかでなく,Aがなげやりな応答をした可能性も否定することはできないから,上記テストの結果がその後のAの精神能力の程度を示すものと断ずることはできない上,上記テストに際して,Aが専門医による他の検査や総合判定を受けたことを窺わせる証拠もない以上,上記テストが15点であったことだけで,直ちにAに意思能力がなくなっていたとか,著しく低下していたと認定することはできない道理である。本件証拠中には,上記テストにおける各項目の具体的点数を明らかにするものはないから,Aの精神能力のどのような点に問題があったのかは不明といわざるを得ず,例えば計算能力,例えば暗唱能力が減退していたとしても,自己の所有財産の扱い方について,意思を形成し,これを表現する能力を著しく欠いていたと断ずることは無理というほかはない。

裁判所が長谷川式の点数や、看護記録の記載へかような評価を下した背景には、被告側から「被相続人が当時意思能力を有していたこと」を証する多様な証拠が提出されていたからであるのは言うまでもありません。

意思能力の無効を主張する立場の方は、平田厚先生の「裁判例で重視されたように見える基準」について、十分な証拠を集め検証のうえ、意思能力が無いことを主張する必要があります。

参考文献


  • 平田厚著「民事における意思能力の判断事例集ー取引行為、遺言、婚姻、養子縁組等ー」新日本法規/令和2年
  • 藤井伸介ほか著「ストーリーと裁判例から知る遺言無効主張の相談を受けたときの留意点」日本加除出版/令和2年
  • 藤井伸介編集代表「審判では解決しがたい遺産分割の付随問題への対応」新日本法規/H29

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