顧客からの過大要求・悪質クレーム等カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応


「カスタマーハラスメント(カスハラ)」とは、顧客が企業に対して理不尽なクレームや言動をすることをいいます。日本語に翻訳すると分かりやすいです。カスタマー(=顧客)によるハラスメント(=嫌がらせ)、すなわち「顧客による嫌がらせ」のことです。

お客様は大切です。しかし、お客様が言うことに全て従っていたのでは、新たな問題が生じます。

この記事では、カスタマーハラスメントの定義を確認したうえ、対処方法について解説しています。

カスハラに直面した場合の対処方法も細かく解説していますので、万一の場合に備えて、ブックマークをオススメします。

〔凡例〕この記事では、次のとおり略記します。

  1. 労働契約法:労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)
  2. 労働施策総合推進法:労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)(略称・通称:労働施策総合推進法、パワハラ防止法)
  3. 厚労省告示5号事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)/23頁以下
  4. 厚労省通達令和2年2月10日付「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律第8章の規定等の運用について(通達)」厚生労働省雇用環境・均等局長/8頁
  5. 厚労省マニュアル厚生労働省「カスタマーハラスメント 対策 企業マニュアル」令和3年度厚生労働省委託事項、東京海上ディーアール株式会社受託/2022年
  6. 雇用機会均等法:雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)
  7. 育児・介護休業法:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成三年法律第七十六号)

公的資料の中では「5.厚労省マニュアル」が分かりやすいです。

「お客様は神様です」の真意


「お客様は神様です」この言葉を最初に使ったのは、国民的歌手の(故)三波春夫さんだそうです。

 

一般的に「お客様は神様です」という言葉は「商売人は、お客様を神様のように扱うべき」という意味で使われているように思います。

 

ところが、三波春夫さんがこの言葉で伝えたかったのは、別の意味だそうです。

三波春夫さんは、お客様の前に立つときは「あたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできない」という意味で使っていたということです。

芸を極めた方が伝える【お客様を目の前にしたときの心の持ち方】は、私たちも真似したい素敵な考え方だと思います。 

 

参照:「『お客様は神様です』について」三波春夫オフィシャルサイト/最終アクセス250510

カスハラの定義


厚労省マニュアル9頁では、「カスタマーハラスメント」を次のように定義しています。 

本マニュアルでの〔1〕カスタマーハラスメント
  顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害される〔2〕もの

〔1〕カスハラの定義(基準)が、企業によってマチマチであることを表しています。

〔2〕マニュアルでは、労働者の就業環境を守るために、カスタマーハラスメントを定義づけし、企業に対策を求めていることが分かります。

 

パワハラ・アカハラ等との違い

カスタマーハラスメントは、パワハラ・アカハラ等とは異なり、社外との関係で起こります。

名称(略称) 主な内容・対象 主な発生主体
カスタマーハラスメント(カスハラ)

顧客や取引先による暴言・暴力・過度なクレームなど、社会通念上不相当なもので、当該手段・態様により、労働者の就業環境をが害されるもの

顧客・取引先
     
パワーハラスメント(パワハラ)

職場での優越的地位を利用し、業務範囲を超えた苦痛を与えることにより職場環境の悪化を招く行為(労働施策総合推進法30の2Ⅰ)

従業員間(上司・同僚)
セクシャルハラスメント(セクハラ)

被害者の望まない性的発言や行動を行い、被害者の対応によって不利益処分を行ったり、職場環境の悪化を招く行為(雇用機会均等法11参照)

従業員間
マタニティハラスメント(マタハラ)

妊娠・出産・育児休業等を理由とした解雇、降格、減給、契約更新拒否などの不利益取扱(雇用機会均等法9、同11の3等、育児・介護休業法10、同25)

従業員間
アカデミックハラスメント(アカハラ)

大学や研究機関において、教授や指導者などが学生や若手研究者に対して、権力の偏りなどを利用して、つぎの行為を行なうこと。

学習・研究の妨害/研究成果等の盗用/正当理由なき進級・卒業の妨害/教育や指導の放棄/暴言・罵倒、人格否定/プライバシーの侵害

教育・研究機関の教授・指導者

カスハラの判断基準


厚労省マニュアル11頁は、カスハラに該当するか、非該当(正当なクレーム)かについて、次の二つの基準で判断すべきとしています。

  1. 顧客等の要求内容に妥当性はあるか?
  2. 要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲か?

特に2つ目が分かりにくいですよね。

次表で確認ください。

 

カスハラに該当するか否か(フローチャート)

厚労省マニュアル等を参照にして、筆者においてフローチャートを作成しました。ご利用ください。

自社が提供したサービスや商品に、落ち度があったか? ー落ち度なし→

ーはい→ カスハラに該当する可能性
↓落ち度があった  
自社が提供したサービスや商品の落ち度は、自社の過失等で生じたものか? ーいいえ→
↓はい      
顧客の要求は妥当か?

ーいいえ→

【1】

ーいいえ→

正当なクレームでないが、カスハラ非該当の可能性。  

↓はい  
顧客が要求を通すためにとった手段【2】や態様【3】は社会通念上相当か? ーいいえ→
↓はい        
正当なクレーム        

【1】例えば、土下座や過大な損害賠償を要求する行為は、妥当とはいえません。

【2】手段とは

対面、電話、メール、手紙、内容証明などで伝えるのは良いでしょうが、街宣車で乗り付けて拡声器で要求を伝えるなどは社会通念上相当とはいえないでしょう。

【3】態様とは

例えば、顧客が企業に対して「クレームを入れたり、多少の説教をする」のは【手段】としては適切でしょう。ただし、それが長時間に及ぶ場合や、暴言や暴力を伴う場合、これらの【態様】は、社会通念上相当とはいえません。

カスハラの種類、どんな罪に該当するか?


顧客の次のような行為は、それぞれ右欄記載の罪に該当する可能性があります。

行為/態様 罪 
机を叩いて、店員を怒鳴りつける。 脅迫罪(刑法222)に該当する可能性
不手際のお詫びに、店舗の商品を無料で提供するようにしつこく要求する。 恐喝罪(刑法249)に該当する可能性

店員に土下座を要求する。

上司を出せ、社長を出せと要求する。

強要罪(刑法223)に該当する可能性
営業妨害の意図のもと数百回にわたり無言電話をする。 偽計業務妨害罪(刑法233、東京高判昭和48年8月7日・判タ301・278)に該当する可能性
顧客自ら商品を壊したうえで「商品が壊れていた」とクレームを入れる。 詐欺罪(刑法246)に該当する可能性
謝罪をさせるために自宅に呼び出した店員が帰ろうとするのを鍵を掛けるなどして帰らせない。 監禁罪(刑法220、最大判昭和28年6月17日刑集7・6・1289)に該当する可能性
いつまでも店から退去しない 不退去罪(刑法130後段)に該当する可能性
事実無根の事柄を取引先に通報された

名誉毀損罪(刑法230Ⅰ)に該当する可能性

従業員や企業に対して公然と「バカ」「無能」などと他人の前やSNS等不特定多数が見聞できる場で行った

侮辱罪(刑法231)に該当する可能性

その他の迷惑な行為

軽犯罪法違反に該当する可能性

刑法の条文を「カスハラした顧客等に対するペナルティ(刑事)」に掲載しておきますので、参照ください。

カスハラした顧客等に対するペナルティ(民事)


顧客が企業に対してカスハラを行なって、企業が損害を被った場合、企業は、当該顧客に対して、損害の賠償を求めて、民事訴訟を提起することが可能です。

民法第709条(不法行為による損害賠償)
 

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

カスハラした顧客等に対するペナルティ(刑事)


参照いただくために関係する刑法、軽犯罪法の条文を列挙します。

企業による告訴、逮捕、刑事裁判、収監、これに伴う失業などカスハラは割にあいません。

   
 

刑法第130条 (住居侵入等)

正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 

刑法第220条(逮捕及び監禁)

 

不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の懲役に処する。

 

刑法第222条(脅迫)

  1. 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
  2. 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

刑法第223条(強要)

  1. 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
  2. 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
  3. 前二項の罪の未遂は、罰する。

刑法第230条(名誉毀損)

  1. 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
  2. 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。

刑法第231条(侮辱)

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

 

刑法第233条(信用毀損及び業務妨害)

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

刑法第234条(威力業務妨害)

威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。

 

刑法第246条(詐欺)

  1.  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
  2. 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法第249条(恐喝)

  1. 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
  2. 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
   
  軽犯罪法(昭和二十三年法律第三十九号)

第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

一 (略)

二 正当な理由がなくて刃物、鉄棒その他人の生命を害し、又は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者

三 (略)

四 (略)

五 公共の会堂、劇場、飲食店、ダンスホールその他公共の娯楽場において、入場者に対して、又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、飛行機その他公共の乗物の中で乗客に対して著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた者

六~十二 (略) 

十三 公共の場所において多数の人に対して著しく粗野若しくは乱暴な言動で迷惑をかけ、又は威勢を示して汽車、電車、乗合自動車、船舶その他の公共の乗物、演劇その他の催し若しくは割当物資の配給を待ち、若しくはこれらの乗物若しくは催しの切符を買い、若しくは割当物資の配給に関する証票を得るため待つている公衆の列に割り込み、若しくはその列を乱した者

十四 公務員の制止をきかずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きく出して静穏を害し近隣に迷惑をかけた者

十五~二十七 (略)

二十八 他人の進路に立ちふさがつて、若しくはその身辺に群がつて立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとつた者

二十九~三十 (略)

三十一 他人の業務に対して悪戯などでこれを妨害した者

三十二 (略)

三十三 みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者

三十四 (略)

第二条 前条の罪を犯した者に対しては、情状に因り、その刑を免除し、又は拘留及び科料を併科することができる。

第三条 第一条の罪を教唆し、又は幇助した者は、正犯に準ずる。

第四条 この法律の適用にあたつては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあつてはならない。

カスハラの従業員・企業・他の顧客等への悪影響(=企業がカスハラに適切に対応すべき理由)


カスタマーハラスメントにさらされた従業員、企業、他の顧客は次のような悪影響を受けます。

「従業員が、外部から不当なことをされている。」企業としては、それだけで、十分、対処すべき理由になると思いますが、念のため列挙いたします。

従業員への悪影響

  • 生産性の低下:カスハラに対応している従業員は勿論、それを見ている周囲の従業員のモチベーションも低下します。モチベーションが低くなると、当然、生産性も低下します。
  • 健康不良:クレーマーへの対応中は勿論、対応完了後においても不本意な対応をさせられたことに対する悔しさや後悔で、不眠、頭痛、耳鳴りや精神疾患を患うこともあります。
  • 休職・退職:現場への恐怖から、休職や退職をしてしまうこともありえます。

 

他の顧客等への悪影響

店頭でカスハラが行なわれた場合

  • 店舗の雰囲気悪化:雰囲気が悪いお店で、用事を済ませざるを得なくなります。
  • サービスを受けられない:企業側がカスハラ対応に集中したことによる業務遅延によって、サービスを受けられなくなる可能性もあります。

 

企業への悪影響

  • 収益悪化:従業員の生産性の低下は、企業の収益悪化を招きます。
  • 他の業務への支障:クレーマーへの現場対応、電話対応、社内での検討、謝罪訪問によって、他の業務にも支障を来します。
  • 人員確保:カスハラに対応した従業員が休職・退職してしまうと、従業員の新規採用のために時間やコストを要することになります。
  • 従業員から提訴されるリスク:企業がカスハラに対して、組織として適切に対応せず、従業員が何等かの損失(精神疾患や就労不能)を招いた場合には、当該従業員から企業が提訴されるリスクが生じます【1】。企業には、従業員を安全な環境で働かせる法令上の義務(安全配慮義務)が課せられている(労働契約法5条など)ためです。
  • 企業のブランドイメージの毀損:他の顧客が目にする店頭やSNSでカスハラを受けた場合、企業のイメージが低下してしまいます。また、弱腰企業という印象を与えると、更に狙い撃ちされるリスクが生じます。
  • 金銭的損失:商品やサービスの値下げ対応、代替品の提供その他、上記のとおり金銭的損失が生じます。

【1】保護者の公立学校教諭に対する理不尽な言動があった際の校長の対応が不十分であったとして、市と県に対する損害賠償責任が認められた事例(甲府地判平成30年11月13日・労判1202号95頁

・ウエストロー・ジャパン)や、安全配慮義務が十分に行なわれていたとして企業の責任を否定した事例(東京地判平成30年11月2日・ウエストロージャパン)などがあります。

 

企業がカスハラに適切に対応すべき理由

企業がカスハラに適切に対応すべき理由は、次の二つです。

  1. これらの悪い影響を最小限で食い止めるため。
  2. 法令上の義務(安全配慮義務)があるため(労働契約法5条、労働施策総合推進法30の2)。労働施策総合推進法が定める雇用管理上の措置義務は、厚労省告示5号と厚労省通達で具体化されています。

企業は、カスハラには・・・

  • 組織的に対応する必要があります。
  • できる限り事前準備が必要です。

カスハラへの対応(今、まさに対応中の場合)


今まさに対応中で、貴社にマニュアルがない場合には、次のように対応してください。

<今まさにカスハラに直面しているときの対応方法>
  1. 顧客の自宅や会社には行かない。
  2. 一人で即断しない。
  3. 顧客に対して「上の者と相談して対応する」旨を伝える。
  4. 顧客とのやり取りを録音するなど証拠化する。
  5. 顧客も録音していることを想定し、安易に約束しない。
  6. 書面(念書など)は安易に提出しない。
  7. 複数人で対応する。
  8. やり取りを記録する。
  9. 上長に報告する。
  10. (上長は)事実関係を確認する。
  11. (上長は)正当なクレームか、カスハラかを峻別する。
  12. (上長は)役員へ報告する。
  13. 外部へ相談を行なう。
  14. 毅然とした対応を行なう。
  15. カスハラを受けた従業員のケアを行なう。
  16. 対応方法が適切であったか、検証する。

以下、一つずつ説明していきます。

 

1■ 顧客の自宅や会社には行かない。

可能な限り自社の会議室や、人目のある喫茶店で面談するようにします。

自宅や会社等の相手方のテリトリーに呼び出され、どうしても応じないといけない場合であっても、一人で行くことは避けましょう。また「何時までに帰社しなければ(電話しなければ)、警察に通報してください。」等と上司や同僚に伝えておきましょう。

 

2■ 一人で即断しない。

顧客に詰められているとき、ご自身では冷静だと思っていても、一人で判断するのはリスクが大きいです。即断し、回答しないようにしましょう。

 

3■ 顧客に対して「上の者と相談して対応する」旨を伝える。

一人で判断できない状態であるときには「上の者と相談して対応する」旨を顧客に対して伝えていただいて支障ありません。

 

4■ 顧客とのやり取りを録音するなど証拠化する。

録音する際には、顧客に承諾を取る必要はありません。

また、こっそり取った録音であっても、民事訴訟の証拠として使うことができます。

 

5■ 顧客も録音していることを想定し、安易に約束しない。

顧客も、こちらの言質をとるために、録音していることを予想したうえで、話をしてください。

こちらが、暴言などを吐くと、SNSに掲載されたりして、顧客につけ込まれる可能性があります。

 

6■ 書面(念書など)は安易に提出しない。

企業側の対応が決まっていない時点では、何ら約束をしないようにしてください。

また、念書などの書面も顧客に提出しないようにしましょう。

 

7■ 複数人で対応する。

直ぐに引き継いでくれる上長が近くにいない場合、複数人で対応するようにします。

 

8■ やり取りを記録する。

顧客とやり取りをした日時、場所等を覚えているうちに、できるだけ詳細に記録します。

その際は、できるだけ「話した言葉どおり」で記録するようにしてください。また、あなたの心の動きも記録してください。

 

9■ 上長へ報告する。

カスハラであることが明白である場合のほか、自分では対応できない(キツい)と感じた場合、従業員は、躊躇せず直ちに、上長に報告します。

 

報告を受けた上長は、直ちに、次の対応を行ないます。

  • ①直ちに上長が対応を引き継ぐか、②(検討したり役員に報告する時間をもらうため)もうしばらく部下に対応を任せるか、を決定する。
  • 従業員に注意事項を伝える(念書などの書面を安易に提出しないよう、複数人で対応するよう)
  • 事実関係の確認
  • 正当なクレームと、カスハラの峻別
  • 役員への報告
  • 外部への相談

 

10■ (上長は)事実関係を確認する。

対応した従業員などから、事情を詳細に確認します。

事実であるかは、確かな証拠・証言に基づいて確認する必要があります。自社店舗内で発生したなら、防犯カメラ画像などを確認します。

 

11■ (上長は)正当なクレームか、カスハラかを峻別する。

顧客の要求等がカスハラに該当するか、正当なクレームなのかを、できるだけ客観的に判断します。

上記「カスハラに該当するか否か(フローチャート)」もご活用ください。

もちろん上長が、判断に迷ったときには、役員等に判断を仰ぎます。

正当なクレームである場合には、どこまで対応するべきか検討します。

 

12■ (上長は)役員へ報告する。

確認した事実関係、正当なクレームかカスハラいずれと判断したか、判断した理由を報告します。

正当なクレームと判断した場合には、謝罪の方法や、弁償の方法についても相談、確認します。

カスハラと判断した場合には、外部専門家に相談してよいかも確認します。

 

13■ 外部へ相談を行なう。

顧問や懇意にしている弁護士がいる場合には弁護士に、居ない場合には司法書士などの外部専門家に相談し、対応方法についてアドバイスを受けてください。司法書士はその権限の範囲内であれば直接担当し、そうでないときにはカスハラ対策に強い弁護士を紹介します。

刑法にも触れていると思う場合には、警察にも被害相談してください。

 

14■ 毅然とした対応を行なう。

対応方法が決まった場合には、毅然と対応します。

謝罪する場合にも、対象となった事実を明確にして、限定的に謝罪します。

不当な要求をしつこく繰り返す顧客に対しては、内容証明で明確に拒絶をし、それでも継続する場合には面談等禁止の仮処分や訴訟提起を検討します。

 

15■ カスハラを受けた従業員のケアを行なう。

カスハラは勿論、正当なクレームであったとしても、従業員の心のケアが必要になる場合があります。

従業員に体調やメンタルの不調が見られる場合、産業医等の専門家に対して相談対応を依頼したり、従業員に対して医療機関の受診を促します。

 

16■ 対応方法が適切であったか、検証する。

正当なクレームであっても、カスハラであっても、①対応方法が適切であったか、②発生を予防する方法を社内で検証します。

検証結果をマニュアルに反映します。

カスハラへの対応(事前準備する)


何事も、事前に準備しておいた方が上手くいきます。

精神的なプレッシャーが強く、適正な判断能力を奪われてしまうこともあるカスハラ対策については、その傾向が特に顕著です。必ず、カスハラに対する事前準備を整えておきましょう。

<カスハラ対応の事前準備>
  1. クレームへの対応は、企業によって異なることを知る。
  2. トップ自ら「カスハラには毅然と対応する」旨を宣言する。
  3. 相談窓口を設置する。
  4. 「クレーム対応マニュアル」や「カスハラ対応マニュアル」を作成する。
  5. 社内研修を実施する。

1■ クレームへの対応は、企業によって異なることを知る。

クレームに対してどう対応するかは、企業によって異なります。

一定の基準を超えた場合に悪質であるとして毅然と対応する企業 皆さまの企業は、どちらでしょうか? 顧客第一主義であれば「顧客が納得する」まで対応する企業

クレームへの対応が従業員ごとにバラバラでは、更なるクレームを招きかねません。そこで、企業は基準を策定し、従業員に周知しておく必要があります。「クレームに対して、どこまで対応するか」は企業風土の一つでもあるからです。

 

2■ トップ自ら「カスハラには毅然と対応する」旨を宣言する。

カスハラ対策の第一歩は、企業トップによる社内への宣言です。

企業トップ自らが宣言するだけで、従業員は安心して顧客対応をすることができるようになります。

トップによる宣言の例
 

 弊社は、お客様に対して真摯に対応し、信頼や期待に応えることで、より高い満足を提供することを心掛けます。

 一方で、お客様からの常識の範囲を超えた要求や言動の中には、従業員の人格を否定する言動、暴力、セクシャルハラスメント等の従業員の尊厳を傷つけるものもあり、これらの行為は、職場環境の悪化を招く、ゆゆしき問題です。

 わたしたちは、従業員の人権を尊重するため、これらの要求や言動に対しては、お客様に対し、誠意をもって対応しつつも、毅然とした態度で対応します。

 もし、お客様からこれらの行為を受けた際は、従業員が上長等に報告・相談することを奨励しており、相談があった際には組織的に対応します。 

 (厚労省マニュアル21頁「基本方針の例」を抜粋)

ただし、宣言するだけでは実効性がありませんので、次のように進めていきます。

 

3■ 相談窓口(相談担当者)を設置する。

職場の上長といっても、カスハラ対策が専門ではありません。

そこで、カスハラについて相談できる担当者を決めておきます。ベテラン従業員の色々乗り越えてきた実績が役に立つこともあるでしょう。

相談に応じられる人材が社内にいない場合、相談窓口は外部専門家でも良いでしょう。

 

4■ 「クレーム対応マニュアル」や「カスハラ対応マニュアル」を作成する。

正当なクレームと、カスタマーハラスメントの区別は難しいです。

したがって、経営者は、予めマニュアル(基準)を作成し、これを従業員に周知する必要があります。

マニュアルを自社で作成できないときには、外部専門家を交えて作成しましょう。

 

5■ 社内研修を実施する。

これらのマニュアルを従業員に周知するために、社内研修を実施します。

外部専門家を招いてセミナーを実施してもらうのも良いかもしれません。

他社の対応事例


任天堂

2022年10月、任天堂が「修理サービス規程/保証規程」の中に「カスタマーハラスメントについて」と題する条項を盛り込んだことをマスコミ各社が報道しました。

令和7年5月現在の同社の「修理サービス規程/保証規程(最終更新日:2024年10月29日)」は、下記のとおりです。(https://support.nintendo.com/jp/repair/eula/repair_policy.html) 

カスタマーハラスメントについて
 

修理品に関する問い合わせをいただく際に、お客様のご要望を実現するための手段として、社会通念上相当な範囲を超える行為(下記のとおりですが、これに限りません)を行うことはご遠慮ください。これらの行為があったと当社が判断した場合、交換または修理をお断りさせていただく場合がございます。更に、当社が悪質と判断した場合には、警察・弁護士等に連絡のうえ、適切な対処をさせていただきます。

 

  • 威迫・脅迫・威嚇行為
  • 侮辱、人格を否定する発言
  • プライバシー侵害行為
  • 保証の範囲を超えた無償修理の要求など、社会通念上過剰なサービス提供の要求
  • 合理的理由のない当社への謝罪要求や当社関係者への処罰の要求
  • 同じ要望やクレームの過剰な繰り返し等による長時間の拘束行為
  • SNSやインターネット上での誹謗中傷

参考書籍等


この記事を執筆するにあたり、下記書籍等を参照しました。

  • 厚生労働省『カスタマーハラスメント 対策 企業マニュアル』令和3年度厚生労働省委託事項、東京海上ディーアール株式会社受託/2022年
  • 市川浩行弁護士・岩下明弘弁護士(共編)『過大要求・悪質クレームへの企業対応の実務ー取引先・消費者・株主の問題行動ー』新日本法規/令和4年
  • 東京弁護士会法友会(編集)『弁護士業務における関係者の問題行動』新日本法規/令和6年