使途不明金返還請求



被相続人名義の預金口座の取引経過を銀行から入手すると、生前・死後に多額の引出しがされていることが良くあります。

 

事情を知っている筈の相続人がハッキリ説明すれば良いのですが、説明できないときには、遺産分割協議をすることもできません。そんなときにはどうすれば良いのか?ご説明します。

もくじ
  1. 使途不明金が発生する理由
  2. 記録の取り寄せ
  3. チェックするポイント
  4. 解決方法の選択~「遺産分割調停より使途不明金返還請求訴訟を先行させるべき」理由
  5. 請求原因の選択
  6. 使途不明金は遺産分割の最難題

使途不明金の発生する理由


銀行口座の凍結を嫌っての死亡直前の引出

銀行口座名義人が死亡して、それを金融機関が知ると、銀行口座は凍結され入出金ができなくなります。これを知っている相続人が、口座名義人の死亡直前・直後に引き出すことがあります。

これらの出金されたお金は、当然、相続財産に含まれます。

被相続人の指示による引出し

被相続人から預金の引出しを指示(依頼)されることはよくあることです。

被相続人から口頭で引出しの指示を受け、通帳や銀行印を預って引出し後、被相続人に交付するという場面です。こういった場合には、被相続人の引出しの指示書面や、被相続人が引き出したお金を受け取ったことを証明する受領書が作成されることが少なく、被相続人の死後、引出金の使途を立証できず、窮地に立たされることもあります。

指示を受けた者 指示を受けた者の(通常の)対応
配偶者や子ども 引出金の使途や、目的を質問することも十分に考えられる。
それ以外の者 振込み指示を受けた場合以外、立ち入って使途まで尋ねることはしないのが通常。

被相続人の指示による引出しには次の2通りがあります。

  • 被相続人に贈与すると言われたので引き出した。
  • 被相続人が使うから引き出してくれと言われたので引き出した。

身近な相続人による着服

記録の取り寄せ


主に次のような資料を取り寄せます。

銀行の元帳(入出金票、出入り票)

銀行によって名称は異なりますが、相続人であれば取り寄せることが可能です。

取り寄せたら次はExcelなどの表計算ソフトに銀行(支店名も)・入出金日・入金額・出金額を入力します。

入金日・入金額をも入力するのは、A銀行から出金された100万円が同日にB銀行に入金されていたら使途不明金とは言えないからです。

これで、理由が分からないままに出金された金額の総額が明らかになります。

銀行の払戻請求書・出金伝票

被相続人ではない「誰が」出金したのかが明らかになります。

介護認定記録

被相続人が介護認定を受けるために受けた認定の記録です。

詳しくは「意思能力が無いことを証明するために『介護認定記録』を読み解く」を参照ください。

介護記録

被相続人が入所していた施設のケアマネやヘルパーによる記録です。

参考になる事項が記録されているかもしれません。」

医療記録

被相続人がどこの医療機関を受診していたのか分からないときには、各都道府県の後期高齢者医療広域連合に対して、診療報酬明細書等の開示請求をすることによって明らかになります。

詳しくは「意思能力が無いことを証明するために『医療記録』を読み解く」を参照ください。

チェックするポイント


記録を取り寄せた後、チェックする代表的なポイントは次のとおりです。

  1. 被相続人の入院先病院・入所先施設と、引出し金融機関・支店の位置関係
  2. 被相続人はいつ頃まで、自分で出金できたか?
  3. 被相続人の認知力はどういう経過で落ちていったのか?
  4. 被相続人の体力(銀行まで出金に行けたのか?)

解決方法の選択


使途不明金は遺産分割調停の対象にはなるが、相続人全員が合意しなければ遺産分割審判の対象にはなりません。

民法第906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)は、

  1. 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
  2. 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

と定めているものの、誰が出金したのか不明であれば、同条は使えません。

家庭裁判所の遺産分割調停(審判)で扱ってもらえなければ、使途不明金返還請求訴訟を地方裁判所に提起するしかありません。

遺産分割調停より使途不明金返還請求訴訟を先行すべき理由

なぜ使途不明金返還請求訴訟を先行すべきかを説明するために➊使途不明金返還請求訴訟を先行させた場合、➋遺産分割調停を先行させた場合に分けて、どうなるか考えてみます。

 

➊使途不明金返還請求訴訟(地裁)を先行させた場合

  1. 使途不明金訴訟(地裁)で、使途不明金は「被相続人から受益相続人への贈与」か「受益相続人による着服か」のいずれかが認定されます。
    • 「受益相続人が着服したものである」という理由で非受益相続人が勝てた場合、非受益相続人は(使途不明金×非受益相続人の法定相続分)を確保できます。
    • ところが「受益相続人が被相続人から生前贈与を受けたものである」という理由で非受益相続人が負けることもあり得ます。仮に、負けた場合であっても・・・
  2. 地裁の認定結果をもって、遺産分割調停(家裁)をして「受益相続人が被相続人から生前贈与を受けた(受益相続人の特別受益を)と主張」すれば、受益相続人の受けた生前贈与は特別受益と評価され、非受益相続人の具体的相続分は増えることになります。

 

➋遺産分割調停(家裁)を先行させた場合

  1. 非受益相続人が遺産分割調停(家裁)で「使途不明金があり、これは受益相続人が取得したものだ」と主張するも、使途不明金を誰が取得したのか分からない等の理由で「受益相続人の特別受益」と認められず、法定相続分による審判が為される可能性があります。
  2. ところが、後日提起した使途不明金返還請求訴訟(地裁)では、受益相続人が「使途不明金ではなく被相続人が受益相続人に生前贈与したものである」と主張し、その主張が通ることも有り得ます。
  3. そうすると、遺産分割調停(審判)は既に終わっているので、非受益相続人が「受益相続人の特別受益」を主張する機会はありません。非受益相続人は踏んだり蹴ったりですよね。

 

以上のとおりですので「使途不明金返還請求訴訟を遺産分割調停より先行させるべき理由」がお分かりいただけると思います。

「非受益相続人は使途不明金返還請求訴訟を先行させるべき」と知っている受益相続人側が遺産分割調停を先行させた場合、非受益相続人はどうすれば良いのか?

非受益相続人はどうすれば良いのか?遺産分割調停は不調になると審判に移行してしまいます。

それでは非受益相続人は困りますので、非受益相続人としては「為さず(調停をしない措置)」を求めていくしかないと思われます。

請求原因の選択


どういう法律構成で使途不明金の返還を請求するかを選択します。

請求原因 不法行為に基づく損害賠償請求 不当利得返還請求 預託金返還請求
弁護士費用 〇請求できる × ×

故意・悪意

の利息

5% 5% なし

消滅時効の期間(起算点)

3年(加害者と加害行為を知って)

20年(行為から・除斥期間)

10年(行為から) 10年(預けた時から)【2】
立証責任

❶故意過失

☛故意=盗った立証が困難

❷権利侵害行為【1】

❸損害発生

❹因果関係

❶法律上の原因なく

❷利得

❸損失

❹因果関係=利得に法律上の原因がないこと

 

❶目的物保管合意

❷目的物受領

❸返還請求【3】

 

 

 

被告による相殺抗弁【4】

不可

【1】権限なく引き出したことが請求原因事実なのか(請求原因説)、引出し権限のあることが抗弁なのか(抗弁説)争いがあるが、重要ではない(レガシィ「使途不明金」第1巻10p~)。

【2】寄託=いつでも返還請求できる=権利行使可能時期=預けた時から

【3】要件事実民法(中)497p/要件事実マニュアル上597p

【4】被告から「被告は、被相続人に苛められていたのでその損害賠償請求権を自動債権として相殺する」という主張がなされることがある。

使途不明金は遺産分割の最難題


種々の理由から「使途不明金は遺産分割の最難題」とされています。

弁護士であれば誰でもできるという訳ではないのです。

 

当グループでは、使途不明金の額の洗い出しから、「使途不明金問題に精通した」弁護士のご紹介までをお引き受けいたします。

 

街の弁護士さんに声を掛ける前に、是非一度当グループにお声がけください。

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