登記申請書や訴状の形式を整えることは、それほど難しいことではありません。
このコラムでは「自分で登記できるもん」というセルフ登記マンに、登記のリスクをご説明することで少しでもその意識を変えていただくことを目的にしています。
もくじ | |
|
例えば結婚しようと思ったとき、市役所に行けば、婚姻届がどこにあるか?どこに誰が記入するのか?丁寧に教えてくれます。
ところが「誰と結婚すべきか?」「適切な婚姻時期はいつか?」というようなアドバイスを求めても、市役所は回答できません。
では、誰かに不動産を贈与することを決めたとき、法務局に行けば、適切な贈与方法のアドバイスを受けることが出来るでしょうか?
法務局は、登記申請書の記載方法や添付書類のことであれば教えてくれるでしょう。でも、その結果、どういう税金が課税されるか、贈与以外に適切な方法はなかったのかを教えることはできません。
反対に形式さえ整っていれば、当事者に不利な場合であっても、他により良い方法があっても、そのアドバイスはせずに、登記を完了させてしまいます。
裁判所に行けば、ひな型を貰うことも出来るでしょう。
しかし、裁判所は、他の役所よりも中身については教えてくれません。裁判所は当事者双方にとって公平でないといけませんし、最終的には窓口に座っている裁判所職員の方ではなく、裁判官が判断することだからです。
私たち司法書士は、登記・民事訴訟のプロですが、登記申請書や訴状を作成することよりも、当事者に一番メリットがあるためにはどうすれば良いか考えることに、ほとんどの時間を使っています。
登記先例や裁判例を使って、形式を整えることも大切ですが、
を検討することの方が司法書士にとって大切なことだからです。
ひとつ分かっておいていただきたいのは、設立手続をまともな専門家に依頼せずに済ませた人は、後から修正のためのコストと時間がかかって、結局、損をしているケースが多いということです。
一人で設立登記が出来た。おめでとうございます。
でも、一人で設立登記をするために勉強したその知識は今後あなたの事業で何か役に立ちますか?
事業を行なうということは、先行投資が必要な場面もあるのです。それを理解できず「その瞬間のコストだけ」が気になる方は、そもそも起業に向いていないのかもしれません。
どうしても、設立手続を自分でも理解したいという方も、いらっしゃいます。
そんな方には、司法書士に同行して公証役場や法務局へご一緒いただくのも結構です。きっと、司法書士から今後のためになる話が聴けると思います。
不動産売買には地面師(売主になりすました詐欺師)なども存在しています。
また、登記でミスをしても修正のために売主が協力してくれないこともあり得ます。
セルフ登記をすることは、リスクがとても高いと言えます。
また、不動産取引では、その99%以上に司法書士が関与していると思います。
その中で、あなただけが「自分で登記します」と言い出したら、物件を紹介した不動産会社はどう思うでしょうか?司法書士は不動産会社に対して「登記に必要なので、これこれの書類をください」と伝えます。あなたにそういうことは無理でしょう。逆に登記について不動産会社に質問してしまうでしょう。そして、あなたはその不動産会社の中で、面倒な客リストに入るのです。
面倒な客には、面倒な物件を紹介することはあっても、優良物件を紹介することはありません。投資家になった場合、大切なのは不動産会社と仲良くなって優良な物件を他人よりも自分へ紹介してもらうことです。
よって、仲介手数料を値切るのは勿論、登記を自分でやるなどという面倒なことを言ってはいけません。
SNSなどで目にする「登記が簡単」という発信は、「登記申請書の穴埋めが簡単だった」という意味であると思いますが、その程度の事に国が資格制度を設けるわけはありません。
不動産登記は、登記申請書を穴埋めするだけで、完成するものではありません。
司法書士は、登記簿の権利の状態、登記簿と当事者が提出した公的書類の整合性を確認し、売主・買主の本人確認を行ない、100%登記完了させることを保証したうえで、売買代金を支払うよう促しているのです。
そして、万一登記を失敗した場合には、司法書士は損害を賠償します。
さらに、その万一に備えて高額な賠償責任保険に入っているのです。
セルフ登記マンは、司法書士よりも遥かに地面師(売主になりすました詐欺師)に騙される可能性は高いですし、書類のミスが発生したときに売主の協力を得られない可能性もあります。
何の責任も負わない素人投資家のブログやSNSの情報を鵜呑みにするか、国家資格のある司法書士の言葉を信じるべきか?考えるまでもないことだと思います。
少しでもケチって利益率を上げたいというなら、登記以外のコスト削減を考えた方が良いでしょう。登記の失敗は、所有権を取得できないことにも繋がるからです。
また、不動産取引(代金支払い)後、登記相談でジックリ相談しているうちに、第三者名義に移転登記(二重譲渡)されたり、差押えが入るリスクも忘れてはいけません。
司法書士がお預りする金額には、登記のための税金(登録免許税)が含まれています。
皆さん領収書の細かいところをご覧にならないですよね。ほとんどがこの税金です。
そして、この税金は登記の種類によって異なります。
例えば、不動産売買の登記であれば固定資産税評価額の0.1%~2%で、通常は数万円~数十万円です。ところが抵当権抹消の登記であれば不動産一つにつき1,000円です。
このあたりを理解されずに「不動産買うときには司法書士に何十万円も払ったけれど、抵当権抹消を自分でやれば数千円で済んだ。司法書士はボッタクリだ。」などと言う方がいるのは、とても残念なことです(登録免許税に関する記載はいずれも令和3年現在のものです。)。
司法書士が皆さんから受け取る報酬の大半は、登録免許税であることが多いのです。
数千万円からの買い物になることが多い不動産取引で、司法書士に対して支払う報酬はわずか数万円~十数万円がほとんどでしょう。司法書士に依頼した場合、わずかなコストで大きな安心を得られます。ちなみに、司法書士は合格率3%程度の難関国家資格の一つです。さらに、万一のときには賠償責任保険がカバーします。
話は変わりますが、任意保険未加入で車を運転する方のことをどう思いますか?
不動産のプロである不動産会社や司法書士から見れば、セルフ登記マンは、任意保険未加入で車を運転する危険な方と同じなのです。
どうしても登記が簡単に見えてしまう皆さんのために、登記の種類ごとに難易度・リスクをご説明しておきます。
実は、任意保険未加入で平然と公道を運転する運転手同様、セルフ登記マンが簡単にセルフ登記をやめないことを私たち司法書士は知っています。
でも、必要な情報をお伝えすることも当グループの大切な役目だと思い、当コラムを執筆しました。
不動産が多種多様であるのと同様に、権利関係も多種多様です。
たまたま簡単な権利関係の登記を、予定通りに登記できたとしても、それを一般論にして吹聴するのはおやめになった方が良いでしょう。あなた自身の知性を疑われてしまうからです。
確かに日本の法制度は、不動産登記の本人申請、民事訴訟の本人訴訟を認めています。
しかし、売買の登記は、売主と買主が共同で申請する共同申請主義を採用しています。
その中で、あなたがセルフ登記をすると、あなたは売主に迷惑をかけている(リスクを背負わせている)ことになります。そして、セルフ登記マンとはいえ、売主に迷惑を掛ける自由はありません。
さらに、あなたが売主から委任状をもらって売主の代理人になることは司法書士法違反となるためできません。ちなみに司法書士でない者が他人の代理人となって登記申請することは、たとえ無報酬であっても司法書士法に反します。そして、司法書士法違反は刑事罰です。
「登記受付窓口」は登記申請を受け付ける窓口であって相談する窓口ではありません。
相談したい場合には、別の窓口があるので、そちらをご利用ください。
「何をけち臭いことを言うねん?!チョットくらい待ってや」という声も聞こえてきそうですが、一切待てません。
なぜなら、同じ不動産に対する相容れない登記の申請は「早い者勝ち」というルール(民法177条)が存在しています。特に不動産売買の登記は、売主が買主ではない第三者に二重譲渡するリスクや、売主名義の間に差押を受けるリスクなどが存在しています。そして登記申請は、インターネットオンラインでも行なうことができます。受付窓口の列に早く並んだ者勝ちではないのです。
万一、司法書士がお請けした登記より先にこれらの登記が入ると、買主はお金を支払ったにも関わらず買主名義に登記できないことになるのです。もちろん、司法書士が責任追及される可能性もあります。
あなたが、長々と受付窓口で相談している間に、このような事態が発生した場合、責任をとっていただけますか?
セルフ登記に固執される方は、これらの点を重々ご承知のうえ、ご自身の責任でセルフ登記をなされれば良いと思います。