役員解任リスクとその回避方法


役員が変節し、社長の方針にことごとく反対するようになった場合、社長としては、他の役員の意向も聴取しながら、「彼を役員に置いておくことに害」があるならば、解任することをも検討せざるを得ません。

しかし、役員を解任することにはリスクを伴います。本当に解任すべきか否か迷ったときに、ご参照ください。

もくじ
  1. 役員解任リスクの種類
  2. 解任された役員の会社に対する損害賠償請求
  3. リスクを回避しながら解任する方法
  4. 司法書士の報酬・費用

役員解任リスクの種類


役員を解任した場合、貴社が負うリスクとしては、次のようなものがあります。

1.解任した役員から残存任期の役員報酬を請求されるリスク

本記事で詳しく解説します。

2.解任した役員から意趣返しとして競業事業・営業秘密漏洩などをされるリスク

競業事業の禁止や秘密保持義務の遵守をうたった「合意書」を作成し署名押印させるべきですが、解任のドタドタの中で取得するのは困難です。

役員として採用した時点で「役員委任契約書」を作成しておくべきですが、これもない場合には、不正競争防止法などで対抗する必要があります。

3.「解任」と登記された登記簿を見た取引先・銀行からお家騒動を疑われるリスク

役員を「解任」した場合、「解任」と登記されます。正当事由のある解任であれば、取引先や銀行も納得してくれるでしょう。

解任された役員の会社に対する損害賠償請求


損害賠償請求の根拠

会社は「正当な理由なく」役員を解任した場合、解任した役員に対して損害賠償の義務を負います。

会社法339条(解任)
2.前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。  
民法651条(委任の解除)

1.委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 

2.前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。

  1. 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
  2. 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

損害賠償の範囲

大阪高判昭56.1.30(昭54(ネ)1252号、下民32巻1~4号17頁、判タ444号140頁)
  商法257条1項ただし書(本記事執筆者注。商法257条1項但書は、現行・会社法339条)にいう損害賠償責任は、取締役を正当な理由なく解任したことについて故意、過失を必要としない法定責任であり、その損害の範囲は、取締役を解任されなければ残存任期期間中と任期満了時に得べかりし利益(所得)の喪失による損害を指すとしたうえ、役員報酬及び役員賞与はこれに当たるが、役員退職金はこれに当たらないとした事例(要約はWestlawJAPAN)

これを表であらわすと、下表のようになります。

残存任期の役員報酬 ○含まれる
役員退職慰労金 原則  ×含まれない
例外

①株主総会で役員退職慰労金支給決議がなされたとき→○

②過去に支給実績があるとき→△

③解任役員との契約があるとき→△

慰謝料など 原則 ×含まれない
例外 解任やその過程が不法行為になるとき→○

損害賠償請求が認められる年数

学説の分類

「損害賠償の範囲をいかに算定すべきかについて、学説上では、3つの説に大別することができる。」

  1. 「会社法339条2項の賠償範囲は、取締役が解任されなければ在任中および任期満了時に得られた利益の額であるという従来の判例・学説の理解に従い、残存任期における報酬相当額を損害額とする見解」
  2. 「損害賠償の算定期間を2年間に限定する見解」
  3. 「会社が取締役の任期を10年に伸長した目的に応じて要賠償額の範囲を決するという見解」

以上、隅谷史人教授(編集代表・加藤新太郎・山野目章夫・鈴木龍介『実務に活かす判例登記法』きんざい/2021/349頁)。なお、同書には、各説の根拠もまとめられているので、ご参照ください。

●2年に限定した裁判例と学説

東京地判平27・6・29(平25(ワ)17534号取締役地位確認等請求事件、判時2274号113頁)
  

Xらは、Xらが取締役を退任した日の翌日である平成23年1月21日から本件定款変更前の本来の任期の終期である平成28年6月末日までの間の得べかりし取締役報酬相当額が損害となる旨主張する。

しかしながら、平成23年1月から平成28年6月までの5年5か月以上もの長期間にわたって、Y社の経営状況やXらの取締役のの職務内容に変化がまったくないとは考えがたく、原告らが平成28年6月までの間に上記の月額報酬を受領し続けることができたと推認することは困難であって、その損害額の算定期間は、原告らが退任した日の翌日から2年間に限定することが相当である。

隅谷史人教授(編集代表・加藤新太郎・山野目章夫・鈴木龍介『実務に活かす判例登記法』きんざい/2021/349頁)
 

隅谷教授ご自身は「会社法339条2項の責任を、あくまで会社による解任の自由を前提としつつ、例外的に取締役の任期に対する期待を保護する法定責任であると位置づける以上、その制度趣旨から、法的保護に値する合理的期待は会社にとって過大なものであってはならず、従前の利害調整にならって法定任期期間である2年間(会社法332条1項本文)を限度とするものと解すべきである。」と第2説を支持しておられます。

●一切限定しなかった裁判例

東京地判平30・3・26(平28(ワ)12915号、ウエストロージャパン)やその控訴審である東京高判平30・8・22(平30(ネ)2489号、平30(ネ)3280号、ウエストロージャパン)では、93か月(7.75年)分、105か月(8.75年)分の残存任期期間の役員報酬(それぞれ2000万円前後の金額)を損害として認定していますので、任期設定には十分な注意が必要です。

裁判例自体は、上記学説3説について争った形跡もありませんので、引用いたしません。

定款変更(任期短縮)+再任しなかった場合への類推適用

株主総会において、任期を短縮(10年を2年に短縮)する定款変更を行うと同時に、役員選任を行ったものの特定の取締役を再任しなかった結果、特定の取締役を任期満了退任させた場合に、会社法339条2項は、適用または類推適用されるのでしょうか?

先ほどご紹介した裁判例(東京地判平27・6・29判時2274号113頁)では、以下のように述べて、類推適用を認めています。

東京地判平27・6・29(平25(ワ)17534号取締役地位確認等請求事件、判時2274号113頁)
  

会社法339条2項は、株主総会の決議によって解任された取締役は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる旨定めているところ、その趣旨は、取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がなされて本来の任期前に取締役から退任させられ、その後、取締役として再任されることがなかった者についても同様に当てはまるというべきであるから、そのような取締役は、会社が当該取締役を再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、会社に対し、会社法339条2項の類推適用により、再任されなかったことによって生じた損害の賠償を請求することができると解すべきである。

先ほどご紹介した隅谷教授も類推適用を認めますが、類推適用の要件を上記裁判例よりも厳しく解すべきとしています。

隅谷史人教授(編集代表・加藤新太郎・山野目章夫・鈴木龍介『実務に活かす判例登記法』きんざい/2021/355頁)
 

会社法339条が『解任』に関する規定である以上、(少なくとも第一義には)その類推適用はあくまで解任と同視し得る範囲でなされるべきであり、定款変更と不再任があったという事実だけでは足りず、より具体的に、それらの行為の主要な目的が特定の取締役を排斥することであったということまで認められる必要があると考えられる。

有限会社等で任期の定めがない場合

役員に任期の定めがない場合に、会社法339条2項が適用されない(すなわち、役員残存任期期間の報酬を有限会社には請求できない。)というのが、地裁レベルでの裁判例です。

秋田地裁H21.9.8判決(裁判所ウェブサイト、金商 1356号59頁)は、適用されない理由を明確に判示していますので、ご紹介します。

秋田地裁H21.9.8判決
  ア 会社法339条2項は、取締役の解任について株式会社が正当事由のあることを立証できない場合に、株式会社に対し、解任されなければ残存任期中に得られたであろう取締役の利益(所得)の喪失の損害賠償責任を認める特別の法定責任を定めた規定であり、具体的な任期があることが損害賠償請求権発生の要件と解される。

この点、商法(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下、同法による改正前の商法を単に「旧商法」という。)257条1項但書では、「任期ノ定アル場合ニ於テ」とされており、任期の定めがあることが損害賠償請求権発生の要件であることが法文上明らかであったところ、上記会社法339条2項ではこれに対応する文言はない。

しかしながら、これは、旧商法下では、株式会社の取締役について任期が定められない場合があり得た(旧商法256条参照)ものの、会社法下では、そもそも取締役等につき具体的な任期がないという場合は想定されなくなった(会社法332条等参照)ために、敢えて任期の定めがあるという文言が置かれなかったにすぎないと解される。

したがって、上記会社法339条2項は、具体的な任期があることを損害賠償請求権発生の当然の前提としていると解するのが相当である。

イ 原告は、特例有限会社であり、弁論の全趣旨によれば、取締役の任期につき定款上の定めがないことが認められる。

この点、廃止前の有限会社法の下では、取締役の任期につき法定の制限はなく、定款上任期を定めなければ、辞任・解任等がない限り、取締役であり続けたが、会社法の下でも、特例有限会社の取締役の任期については、従前どおりの規制が適用される(会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律18条)。

これらによれば、被告について、取締役の具体的な任期があったとは認められない。

(3) 前記(1)及び(2)のとおり、原告による被告の取締役解任には正当理由があったと認められるし、仮に正当理由がないとしても、被告について取締役の具体的な任期がなかったのであるから、被告が主張する原告による正当理由なき取締役解任に伴う損害賠償金の発生は認められない。

有限会社に関するその他の裁判例ついては、記事「有限会社や合同会社の役員について『任期規定導入』の可否」をご参照ください。

リスクを回避しながら解任する方法


1.任期満了まで待てないか検討

任期の定めを設けていない合同会社・有限会社の場合には、気にしなくても良い論点です。

 

任期満了を待つことができれば、

  • 単に「任期満了となったときに再選しなければ良い」だけで、会社からの意思表示である「解任」も、取締役からの意思表示である「辞任」もする必要がありません。
  • 登記簿には「辞任」でも「解任」でもなく「退任」と入ります。

などのメリットがあります。

2.解任について正当理由があることの証拠を徹底的に収集

当該役員に解任をちらつかせる前に、集められる証拠は全て集めてしまいましょう。

警戒して証拠を隠してしまうこともあり得るからです。

3.使用人兼務役員である場合には、使用人として雇用契約上の地位も有しているので、不当解雇にならないよう注意する。

使用人兼務役員であっても、「使用人(従業員)」の地位と「役員」の地位は別々のものです。

役員としての「解任」に正当事由があったとしても、従業員としての「解雇」の正当事由に当てはまるとは限らないからです。就業規則などを確認して従業員としても解雇できるものか検討します。

最悪、役員としては解任、従業員としては継続雇用ということもあり得ます。

4.解任じゃなく役員から自発的に辞任してもらえないか打診

解任じゃなく役員から自発的に辞任してもらえないか、当該役員に対して打診する。

収集した証拠の一部を見せることも効果的かもしれません。

事前に、辞任届を作成しておくことをオススメします。

また、後日言った言わないの水掛け論にならないよう会話の録音も必須です。

5.会社法手続を遵守して株主総会を開催し、当該役員を解任

司法書士の報酬・費用


業務内容 司法書士の報酬 費用
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株主総会の手続など こちらをご参照  
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