本来、有限会社の取締役・監査役などの役員、合同会社の業務執行社員・代表社員には、株式会社にあるような任期(2年とか10年で改選など)はありません。所有(株主)と経営(役員)が一致することの多いこれらの会社では「自分自身に任期を定める」ことになり、ほとんどの場合、無意味だからです。
ところが、貴社が有限会社や合同会社である場合であっても、外部から役員を招き入れる場合には、任期規定の導入を検討すべきです。
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わかりやすい例は、株式会社、それも上場企業を思い浮かべてください。株式会社では、会社のオーナー(所有者)は株主です。会社のオーナーである株主が、会社経営のプロを取締役に選んで「一定期間」その方に株式会社の経営を任せます。この「一定期間」のことを役員任期と言っています。
役員任期があれば、株主はダメな取締役にダラダラと経営を任せる必要もありませんし、取締役も役員任期があるうちは余程のことがない限り会社をクビにはならないと安心して経営に専念できます。
もし、ある取締役が優秀で次の任期も同じ取締役に経営を任せたいという場合でも、役員任期が来たら、役員改選が必要で、同じ取締役を選任する必要があります。役員任期のある会社が、役員改選を忘れてしまったり、役員改選したのに登記を忘れてしまうと過料が課せられることがあるので、注意が必要です。
有限会社の役員は、任期がありません。つまり、辞任・解任されない限り、終生、一生涯の間、役員であることが可能です。これは、株式会社へ移行せず、有限会社を続けている会社様が感じていらっしゃるメリットの一つだと思います。
会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律第18条 | |
特例有限会社については、会社法第332条(株式会社の取締役の任期)、第336条(株式会社の監査役の任期)及び第343条の規定は、適用しない。 |
その他の法人は、次のリンク先でご確認ください。
整備法は強行法規とはされていませんので、整備法とは異なる任期に関する規定を定款に導入することも有限会社の自由です。
任期規定を導入するデメリットの一つです。
役員任期のある会社の場合、役員との間で「任期満了まで報酬を支払うこと」を約束する委任契約を締結していることになります。したがって、任期中に正当な事由なく解任した場合には、当該取締役から「任期満了までの得べかりし報酬相当額」を請求されることになります(会社法339Ⅱ)。
一方、役員任期がない会社の場合には、会社法339条2項による請求がいずれも否定され、請求を認めた裁判例は見つけられませんでした(判例検索エンジンWestlawJAPAN令和3年5月時点)。
すなわち、任期規定を導入するということは、「正当事由なく」解任したときには残存任期について損害賠償請求をされるリスクを背負うことになるのです。
参考に、裁判例をいくつかご紹介します(判決文の要約はいずれも、WestlawJAPAN)。
東京地裁H30.4.25判決 | |
特例有限会社である被告の取締役を解任(本件解任)された原告らが、被告に対し、主位的に会社法339条2項に基づき、予備的に民法651条2項、同法709条に基づき、得べかりし報酬相当額の支払を求めた事案において、会社法339条2項所定の損害賠償請求権は取締役の任期が定まっていることが当然の前提とされ、定まった任期のない取締役に同条項の適用はなく、また、会社法下の特例有限会社については法定任期に関する会社法332条の適用が除外されているから、特例有限会社の定款で取締役の任期が定められていない場合、その取締役には定まった任期がないことになるところ、被告の定款には取締役の任期に関する規定はないから、被告の取締役には定まった任期がなく本件解任につき会社法339条2項の適用の余地はないとした上、民法651条2項による損害賠償責任の範囲には得べかりし報酬は含まれないなどとして、各請求を棄却した事例 |
東京地裁H29.8.23判決 | |
特例有限会社である被告会社の代表取締役であった原告が、同社取締役を解任(本件解任)されたことで損害を被ったとして、会社法339条2項又は民法651条2項により、解任されなければ得られたであろう報酬相当額及び原告が被告会社の債務を保証したことによる保証債務相当額の各損害につき、同社を再生債務者とする再生事件で再生債権を有することの確定を求めた事案において、会社法339条2項は取締役の任期が定まっていることが前提とされており、被告会社の取締役に定まった任期はないから、本件解任につき同項適用の余地はなく類推適用の基礎も欠くとし、また、解除により報酬請求権を失うことは解除の時期には関係がなく、報酬請求権を失っても不利な時期に解除されたとはいえないから民法651条2項も適用できないとした上、原告が不利な時期に解任(解除)されたことで保証債務相当額の損害を被ったともいえないとして、請求を棄却した事例 |
東京地裁H28.6.29判決 | |
特例有限会社における任期の定めのない取締役が解任されたとしても、当該取締役は解任の正当な理由の有無にかかわらず、会社法339条2項に基づく損害賠償請求をすることはできないと解するのが相当であるとし、各請求を棄却した事例 |
秋田地裁H21.9.8判決 | |
取締役の不当解任を理由とする損害賠償請求(会社法339条2項)について、具体的な任期があることが要件であるとして、具体的な任期の定めのない特例有限会社の取締役の同請求権による相殺の主張を排斥した事例 |
以上をまとめると、下表のようになります。
解任 |
任期中解任した場合 損害賠償請求を受けるか |
定期的な登記 | |
任期あり |
〇解任せずとも任期満了退任を待てばよい。 |
×正当事由なく解任すると、残存任期分の役員報酬の請求を受ける可能性あり | ×任期ごとに役員変更登記が必要 |
任期なし | ×場合によっては必要 | 〇なし | 〇定期的な役員変更登記は不要 |
メリット・デメリットをご理解いただいた上で、検討いただきたいのは次のようなケースです。
任期規定を導入することにした場合には、次のような定款規定を入れます。
定款変更には、株主総会の特別決議が必要ですので、適切に行なってください。
定款の規定例 | |
1 | 株主総会は、取締役の選任に際し、当該取締役について任期を定めることができる。 |
2 | この場合の取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 |
(神﨑満治郎著・特例有限会社の登記Q&A〔増補・改訂版〕・テイハン・2019・109p)。
一部の取締役についてのみ任期を導入することも可能とされています。
定款の規定例 | |
1 | 当社創業家の取締役である(具体的人名)、(具体的人名)の任期は、従前の例により定めないものとする。 |
2 | 前項の取締役以外の取締役の任期は、選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。 |
任期導入した役員への影響は次のとおりです。
①「就任から起算して今回定まった任期が経過している役員」は、直ちに任期満了退任となるので、再選する必要があります。
②「就任から起算して今回定まった任期が経過していない役員」は、任期満了とはなりませんが、①の役員との任期を合わせる必要があります【1】ので、辞任・再選する必要があります。
【1】何度も、役員変更登記を繰り返すと、その度に役員変更登記のコストがかかるからです。
有限会社役員の任期満了による退任・重任登記には、任期に関する規定が存在していることを証明するために、定款(抜粋)の提出が必要になります。