ややこしいようで、簡単な「どこまで細かく登記するのか」「どこまで住所を省略できるか」ルールについて解説します。
会社本店と社長住所は、登記されている理由が異なります。それを理解すれば自ずと貴社の場合に「どこまで細かく登記するのか」「どこまで住所を省略できるか」は明らかになります。
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会社登記簿を取得して拝見していると「3-8ー15」などと「ー(ハイフン)」を使って登記してしまっている会社様を見つけることがあります。「3-8-15」は、正確には「三丁目8番15号」か「三丁目8番地15」を略記したものです【1】。
この「ー(ハイフン)」による登記は、見る人が見ると非常に格好が悪いです。設立登記を司法書士に依頼せず自分で行なったか、ニセ司法書士に依頼したのが一目瞭然で、必要なときに必要なお金を使わない会社だと思われてしまうからです【2】。
会社には住民票がありませんので、登記簿が住民票の代わりになる正式な書類です。正式な書類である登記簿に「ー(ハイフン)」で登録されていれば、それが正式な(会社本店の)住所になってしまいます。
したがって、金融機関などで「正式な住所を記載してください」と言われたときに記載するのは「3ー8ー15」などとー(ハイフン)のまま記載するしかありません。
また、会社名義で不動産を購入するときにも「3-8-15」と登記せざるを得ず、恥ずかしい記載が広がっていきます。
「ー(ハイフン)」を使って登記されている場合には、正式な表記に変更をおすすめします。
【1】「3-8-15」が、正確には「三丁目8番15号」か「三丁目8番地15」のどちらであるかは、市役所(区役所)の住居表示実施の係に電話すると教えてくれます。
【2】コラム「登記(会社設立や不動産名義変更)を税理士・行政書士に依頼してはいけない理由」もご参照ください。
会社の本店を「どこまで細かく登記するか」を決める場合には、次の二つの要請を満たすものが良いです。
●居住用マンションの場合、集合ポストなど会社名を表示できるか?
☛表示できるのであれば、細かく登記する必要はありません。
☛表示できないのであれば、号室まで登記する必要があります。
●事業用ビル(テナントビル)の場合、ビル名は入れるべきではありません。
☛ビルが売却されて所有者が変わると、ビル名も変更されることがよくあるからです。
●SOHO【1】の場合、運営会社が薦める表記方法に合わせるべきです。
☛SOHOの場合、ビルエントランスの案内には、貴社名は表示されませんので、郵便物が届くようにするためには、運営会社が薦める表記方法「〇〇(SOHOの名称)内」や「号室」を行なう必要があります。
【1】ビルやテナントが、小商い事業者に対して本店住所としてテナントの住所を提供することです。
本店移転登記が完了しても、郵便物は自動的に新本店所在地に転送されません。
・取引先には、案内状を送付して移転をお知らせください。
・ホームページの表記も変更する必要があります。
・郵便局に郵便物の転送も依頼しておきます(コチラからインターネットで手続き可能です。〔郵便局HP〕)
会社の本店の表記とは異なり、郵便物が届く必要はありません。社長の自宅は、法人責任者がどこの誰かを(主に民事訴訟の場合などに)明らかにするために公示するためのものです。
次の二つの理由から、許容される範囲で省略することをお薦めしています。
印鑑証明書の記載から、登記で許容される住所が決まります。
そして、印鑑証明書の記載には、次の二通りがあります。
印鑑証明書の記載 | 登記で許容される住所(〇=可能、×=不可) | |
神戸市灘区鹿ノ下通二丁目4番15号 あなまちタワー1004号 |
左記のまま | 〇 |
神戸市灘区鹿ノ下通二丁目4番15号 (マンション名・部屋番号を省略) |
〇 | |
神戸市灘区鹿ノ下通二丁目4番15号 あなまちタワー(部屋番号を省略) |
△ 【1】 |
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神戸市灘区鹿ノ下通二丁目4番15-1004号 (マンション・ビル名が入らないパターン) |
左記のまま | 〇 |
神戸市灘区鹿ノ下通二丁目4番15号 (「-1004」を省略) |
△ 【2】 |
【1】当グループでは、全国の法務局に対して会社や法人の登記申請をしておりますが、この省略例はまだ実績が乏しいため、△にしております。この省略例の場合、ご要望に応じて登記申請いたしますが、法務局の訂正指示がある可能性があります。
【2】2023.6.9追記
昨今「プライバシー保護の観点から、代表取締役の住所は、登記情報上から非表示にするべき」との世論が盛んです。法務局によっては、印鑑証明書の記載にもかかわらず、部屋番号の省略を認めた例も出てきています。司法書士としては、顧客の意向を確認したうえ、部屋番号省略で申請し、補正指示があった場合にも省略するよう抵抗を試みる時代なのかもしれません。
SNSなどで社長の自宅住所を晒す馬鹿が居ますので、ご家族の安全を心配して「社長の自宅住所を隠す方法はないか」というお問い合わせを受けることがあります。
会社法は「代表取締役の氏名および住所」を登記すべき事項と定めています(会社法911Ⅲ⑭)。
そして「住所」とは「各人の生活の本拠」です(民法22)。
したがって、例えば会社本店で寝泊まりするなど「会社本店」が生活の本拠といえる場合には、住民票を会社本店に移したうえ、「代表取締役の住所」を「会社本店」と同じにすることもできると考えます。
ただし、住宅ローン控除を使えなくなるなどデメリットもあります。