【インサイダー取引規制】上場株式を売買する場合のほか、上場企業から受注する場合にも要注意


インサイダー取引規制は「上場企業の株主・役員・従業員」や「上場株を売買するとき」だけ気をつければ良い(中小企業の当社には関係ない)と思っていませんか?

中小企業の皆様も、上場企業から受注(上場会社と取引)することになった場合には、インサイダー取引規制が適用されます。そして、違反に対する罰則はとても厳しいです。

具体的にどんな行為がインサイダー取引として規制されているのか、きっちり把握して万一の「うっかり」を無くしましょう。 

もくじ
  1. 規制の趣旨
  2. 具体的に禁止されている行為
    1. 規制対象者
    2. インサイダー情報
    3. 禁止行為
    4. 公表
    5. 適用除外
  3. 罰則
  4. 村上ファンド事件
  5. インサイダー取引を未然に防止する方法
  6. 参考書籍等
  7. 人気の関連ページ

規制の趣旨


ざっくり申し上げますと…

株式市場の公正さを保つことで、投資家の信頼を確保するため、以下の行為を禁止しています。

  • 会社内部情報を知る者が、自分だけが知っている情報に基づいて、株式の売買等を行なうこと。
  • 内部情報を流通させること。

具体的に禁止されている行為


インサイダー取引規制では、「公表前」の「インサイダー情報」を持っている「規制対象者」が「第三者に伝達/株式売買」したときにペナルティを受けます。

規制対象となる「者」は誰か?

以下の三者が規制されています。

規制対象者

会社関係者等

(金166Ⅰ)

❶上場会社等【1】の役員、代理人、使用人、その他の従業者(派遣社員・パート・アルバイトを含む)(1号)
  ❷会計帳簿閲覧請求権者=上場会社等の議決権の100分の3以上の株式を保有する株主と親会社社員(2号)
  ❸上場会社等の投資主=投資信託及び投資法人に関する法律2条16項に規定する投資主(2号の2)
  ❹上場会社等に対する法令に基づく権限を有する者=監督官庁の公務員、親会社の監査役、会計監査人等(3号)
  契約締結者・締結交渉者=融資銀行、顧問弁護士、監査法人、取引先、業務提携先(4号)
  上記❷❸❺が法人の場合には、その法人の役員、代理人、使用人、その他の従業者(5号)
  上記いずれかに該当しなくなってから1年以内の元会社関係者(金166Ⅰ本文後段)

公開買付等関係者

(金167)

公開買付け【2】を実施しようとしている者について、上記❶~➐同様の規制対象者

第一次情報受領者

(金166Ⅲ、167Ⅲ)

上の「会社関係者」「公開買付等関係者」から直接情報を受領した者【3】

【1】上場会社の親会社と子会社は「上場会社等」に含まれる(金商法166Ⅰ①括弧書き)。

【2】「公開買付け」とは、通常の証券取引所経由の買付けではなく、買付者が「買付期間(いつまでに)」「買付価格(いくらで)」「買付予定株数(何株まで買うか)」などを公表し、不特定多数の株主から直接株式の買付を行なうことです。TOB(Take Over Bid)とも表示され、報道で目にすることも多いと思います。

【3】「情報受領者」は「会社関係者」の親族・知人・友人に限られない。

第一次情報受領者から情報提供を受けた「第二次受領者」以降は、インサイダー取引規制の対象外とされています。 

規制対象となる「インサイダー情報」とは何か?

規制対象となる「インサイダー情報」の種類

重要事実

決定事実 上場会社が金商法166Ⅱ①列挙事項【1】のいずれかを行なうこと又は行なわないことを決定したこと。
上場会社の子会社が金商法166Ⅱ⑤列挙事項【2】のいずれかを行なうこと又は行なわないことを決定したこと。
発生事実 上場会社に金商法166Ⅱ②列挙の事実【3】が発生したこと。
上場会社の子会社に金商法166Ⅱ⑥列挙の事実【4】が発生したこと。
決算情報 上場会社の売上高・経常利益・純利益・配当金又は上場会社の属する企業集団のそれらについて、「公表された直近予想値」と「新たに算出した予想値」又は「決算」において差異が生じたこと(金商法166Ⅱ③)。【5】
バスケット条項

上場会社(子会社含む)の運営・業務・財産に関する重要事実、かつ、投資判断に著しい影響を及ぼすもの(金商法166Ⅱ④⑧)。【6】

公開買付け等の実施・

中止に関する事実

左記のとおり(金商法167Ⅱ)。

【0-1】会社の飲み会で知った場合も規制対象になり得る(スタートアップ法務164頁)。

【0-2】いずれも軽微なものは重要事実から除かれる。

  • 「決定事項」につき、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令49、52
  • 「発生事実」につき、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令50、53
  • 「決算情報」につき、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令51、55

  【1】上場会社の決定事項(金商法166Ⅱ①列挙事項)

  1. 募集株式・処分自己株式・募集新株予約権を引き受ける者の募集(イ)
  2. 資本金の額の減少(ロ)
  3. 資本準備金又は利益準備金の額の減少(ハ)
  4. 自己株式の取得(二)
  5. 株式無償割当て又は新株予約権無償割当て(ホ)
  6. 株式(優先出資法に規定する優先出資を含む。)の分割(へ)
  7. 剰余金の配当(ト)
  8. 株式交換(チ)
  9. 株式移転(リ)
  10. 株式交付(ヌ)
  11. 合併(ル)
  12. 会社分割(ヲ)
  13. 事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け(ワ)
  14. 解散(合併による解散を除く。)(カ)
  15. 製品又は新技術の企業化(ヨ)
  16. 業務上の提携又は業務上の提携の解消(タ、金商法施行令28①)
  17. 子会社の異動を伴う株式又は持分の譲渡又は取得(タ、金商法施行令28②)
  18. 固定資産の譲渡又は取得(タ、金商法施行令28③)
  19. 事業の全部又は一部の休止・廃止(タ、金商法施行令28④)
  20. 株式(優先出資証券含む)の上場廃止の申請(タ、金商法施行令28⑤)
  21. 認可金融商品取引業協会に対する株券の登録の取消し申請(タ、金商法施行令28⑥)
  22. 認可金融商品取引業協会に対する株券の取扱有価証券としての指定の取消し申請(タ、金商法施行令28⑦)
  23. 破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始の申立て(タ、金商法施行令28⑧)
  24. 新事業の開始(新商品の販売又は新たな役務の提供の企業化を含む)(タ、金商法施行令28⑨)
  25. 公開買付け等に対抗するため取締役会等が決定した要請(タ、金商法施行令28⑩)
  26. 金融機関が債務完済不能又は預金等払戻しを停止のおそれがあるときに行なう内閣総理大臣に対する申出(タ、金商法施行令28⑪)

【2】上場子会社の決定事項(金商法166Ⅱ⑤列挙事項)

  1. 株式交換(イ)
  2. 株式移転(ロ)
  3. 株式交付(ハ)
  4. 合併(二)
  5. 会社の分割(ホ)
  6. 事業の全部又は一部の譲渡又は譲受け(へ)
  7. 解散(合併による解散を除く。)(ト)
  8. 新製品又は新技術の企業化(チ)
  9. 業務上の提携、業務上の提携の解消(リ、金商法施行令29①)
  10. 孫会社の異動を伴う株式又は持分の譲渡又は取得(リ、金商法施行令29②)
  11. 固定資産の譲渡又は取得(リ、金商法施行令29③)
  12. 事業の全部又は一部の休止又は廃止(リ、金商法施行令29④)
  13. 破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立て(リ、金商法施行令29⑤)
  14. 新たな事業の開始(リ、金商法施行令29⑥)
  15. 金融機関が債務完済不能又は預金等払戻しを停止のおそれがあるときに行なう内閣総理大臣に対する申出(リ、金商法施行令29⑦)
  16. 剰余金の配当(上場会社の配当が特定の子会社の剰余金の配当に基づき決定される旨が当該上場会社等の定款で定められた株式についての当該特定の子会社に係るものに限る。)(リ、金商法施行令29⑧)

【3】上場会社の発生事実(金商法166Ⅱ②列挙の事実)

  1. 災害による損害、業務遂行過程で生じた損害(イ)
  2. 主要株主の異動(ロ)
  3. 特定有価証券、オプションの上場廃止又は登録取消しの原因となる事実(ハ)
  4. 財産権上の請求にかかる訴え提起・判決・裁判によらない完結(二、金商法施行令28の2①)
  5. 事業差止め等仮処分命令の申立て・裁判・裁判によらない完結(二、金商法施行令28の2②)
  6. 免許取消し、事業停止その他これらに準ずる行政庁による処分(二、金商法施行令28の2③)
  7. 親会社の異動(二、金商法施行令28の2④)
  8. 債権者破産手続開始の申立て等(二、金商法施行令28の2⑤)
  9. 不渡り等(二、金商法施行令28の2⑥)
  10. 親会社の破産手続開始の申立て等(二、金商法施行令28の2⑦)
  11. 債務者・保証債務者の不渡り・破産等による債務不履行のおそれ(二、金商法施行令28の2⑧)
  12. 主要取引先(前年度における売上高又は仕入高総額の10%以上を占める取引先)との取引停止(二、金商法施行令28の2⑨)
  13. 債権者による債務免除、第三者による債務引受け・弁済(二、金商法施行令28の2⑩)
  14. 資源の発見(二、金商法施行令28の2⑪)
  15. 特定有価証券、オプションの指定取消原因となる事実(二、金商法施行令28の2⑫)
  16. 特別支配株主が株式等売渡請求を行う決定又は行わない決定をしたこと(二、金商法施行令28の2⑬)

【4】上場子会社の発生事実(金商法166Ⅱ⑥列挙の事実)

  1. 災害に起因する損害又は業務遂行の過程で生じた損害(イ)
  2. 財産権上の請求に係る訴え提起・判決・裁判によらない完結(ロ、金商法施行令29の2①)
  3. 事業差止め等の仮処分命令の申立て・裁判・裁判によらない完結(ロ、金商法施行令29の2②)
  4. 免許取消し、事業停止その他これらに準ずる行政庁による処分(ロ、金商法施行令29の2③)
  5. 債権者破産手続開始の申立て等(ロ、金商法施行令29の2④)
  6. 不渡り等(ロ、金商法施行令29の2⑤)
  7. 孫会社に係る破産手続開始の申立て等(ロ、金商法施行令29の2⑥)
  8. 債務者・保証債務者の不渡り・破産等による債務不履行のおそれ(ロ、金商法施行令29の2⑦)
  9. 主要取引先との取引の停止(ロ、金商法施行令29の2⑧)
  10. 債権者による債務免除、第三者による債務引受け・弁済(ロ、金商法施行令29の2⑨)
  11. 資源の発見(ロ、金商法施行令29の2⑩)

【5】決算情報の例

  1. 業績予想の大幅な修正
  2. 配当予想の大幅な修正

【6】バスケット条項の適用例

  1. 巨額の架空売上が判明
  2. 製品の検査数値の改ざんを確認
  3. 不適切な会計処理が判明
  4. 創業者の代表取締役退任は重要事実になりえる(スタートアップ法務164頁)
  5. その他、証券取引等監視委員会事務局『金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~』平成30年6月公表/86 頁を参照ください。 

規制対象となる「禁止行為」は何か?

規制対象となる「禁止行為」

売買等

【1】

(当該上場会社株式【3】の)売買その他有償譲渡・譲受(特定承継)

(金商法166Ⅰ本文、Ⅲ)

(当該上場会社株式【3】を)合併・会社分割によって承継し、承継させる(包括承継)

(金商法166Ⅰ本文、Ⅲ)

(株式派生商品【3】の)デリバティブ取引

(金商法167Ⅰ本文、Ⅲ)

伝達等

【2】

インサイダー情報の伝達(金商法167の2)
売買等の推奨(金商法167の2)

【1】損をしても刑事罰の対象(スタートアップ法務164頁等)

【2】未公表の「重要事実」を伝達することは原則として規制対象外

ただし、他人に利益を得させ又は損失発生を回避させる目的での情報伝達行為や取引推奨行為は禁止(スタートアップ法務164頁等)

【3】規制対象となる株式などの商品

規制対象「商品」

規制対象

  • 上場会社についての株式
  • 新株予約権証券・社債
  • J-REIT
  • リ ー ト
  • 上場インフラファンド

対象外

  • ETF
  • 一般に販売されている大部分の投資信託(ただし、いわゆる自社株投信のように、個別の上場会社の株式等のみを投資対象とする株式投資信託を除く。)

規制が解除されるインサイダー情報の「公表」とは何か?

内部情報が「公表」されれば、当該情報を利用して売買等したとしても規制に該当しなくなります。この「公表」は、以下いずれかの措置が取られたことを意味します(金商法166Ⅳ、167Ⅳ)。

規制が解除される「公表」
2以上の主要報道機関に情報公開(プレスリリース)してから12時間以上経過した時(金商法166Ⅳ→同施行令30Ⅰ①、30Ⅱ)【1】

金融商品取引所の上場規則に基づき、情報が適時開示情報閲覧サービス(TDnet:Timely

Disclosure network)により公衆縦覧に供された時(金商法166Ⅳ→同施行令30Ⅰ②③)

情報が記載された法定開示書類(有価証券届出書等)が電子開示システム(EDINET)により公衆縦覧に供された時(金商法166Ⅳ本文)
公開買付者が提出した公開買付届出書・公開買付撤回届出書が公衆縦覧に供された時(金商法166Ⅳ→同施行令30Ⅰ④⑤)

【1】補足

【2】適時開示情報閲覧サービス(TDnet:Timely Disclosure network)

【3】電子開示システム(EDINET)

適用除外

上記要件を全て充たしていても、例外的にインサイダー取引には該当しない場合(適用除外)があります(金商法166Ⅵ)。

「インサイダー取引規制」の適用除外
株式の割当てを受ける権利の行使による株券の取得(金商法166Ⅵ①)

新株予約権の行使による株券の取得(金商法166Ⅵ②)

オプションの行使による売買等(金商法166Ⅵ2号の2)

株式買取請求又は法令上の義務に基づく売買等(金商法166Ⅵ③)

防戦買い(金商法166Ⅵ④)
株主総会決議等の公表後に行う自己株式の取得(金商法166Ⅵ4号の2)
安定操作取引(金商法166Ⅵ⑤)
普通社債券等の売買等(デフォルト情報を知って売買等をする場合を除く)(金商法166Ⅵ⑥→有価証券の取引等の規制に関する内閣府令58)
知る者同士の証券市場によらない取引(いわゆるクロクロ取引)(金商法166Ⅵ⑦)
合併等による株券等の承継で帳簿価格が承継資産の20%未満である場合(金商法166Ⅵ⑧→有価証券の取引等の規制に関する内閣府令58の2)
重要事実を知る前に合併等の契約内容が取締役会で決議された場合(金商法166Ⅵ⑨)
単独新設分割による株券等の承継(金商法166Ⅵ⑩)
合併等の対価として自己株式を交付する場合(金商法166Ⅵ⑪)

一定の知る前契約に基づく売買等、特別事情に基づく売買であることが明らかな売買等(金商法166Ⅵ⑫→有価証券の取引等の規制に関する内閣府令59)

  1. 発行会社と締結した契約の履行として売買等を行う場合
  2. 信用取引の履行として反対売買を行う場合
  3. クレジットデリバティブ取引の履行
  4. 役員・従業員持株会,関係会社持株会,取引先持株会による取得
  5. いわゆる「るいとう」(株式累積投資)による取得
  6. 重要事実を知る前に公開買付開始公告を行ったTOB
  7. 重要事実を知る前の計画に基づき売出し等を行う場合
  8. コミットメント型ライツ・オファリングにおける発行会社と証券会社への売付け
  9. 証券会社に提出された契約等に基づいて行う売買等

罰則


課徴金納付命令

違反者には所定の計算式によって算出された課徴金の納付が命じられます(金商法175)。

課徴金納付命令が発令されるまでの流れは次のとおりです。

証券取引等監視委員会による調査

(金融商品取引法違反の事実が認められた場合)

証券取引等監視委員会は、金融庁に対して、課徴金納付命令を行うよう勧告

(金融庁は課徴金の納付を命じるべきであると判断した場合)

審判手続開始決定

(違反を認めた場合)課徴金納付命令

(違反を認めなかった場合)審判期日が開催される。

(審判期日において違反の事実が認定され,課徴金の納付が命じられた場合)

裁判により争うことができる。

刑事罰

  • 取引をした者:5年以下の懲役、500万円以下の罰金又はその両方が併科されます(金商法197の2)。
  • インサイダー取引によって得た財産は没収されます(金商法198の2Ⅰ)
  • インサイダー取引によって得た財産を没収できないときは、その価額を犯人から追徴します(金商法198の2Ⅱ)。
  • 法人の役職員が取引をした場合:法人も5億円以下の罰金(両罰規定。金商法207Ⅰ②)
  • インサイダー取引の結果、損をしても刑事罰の対象になります(スタートアップ法務164頁)。

村上ファンド事件


東京地裁平成19年7月19日判決(平18(特わ)2832号)証券取引法違反被告事件 

村上ファンド事件・第一審

 

◆被告会社の実質的経営者であった被告人が、株式会社ライブドアの代表者らから、インサイダー情報である株式会社ライブドアが株式会社ニッポン放送の上場株券等を買い集めることについての決定をした旨の事実の伝達を受け、その事実の公表前に、株式会社ニッポン放送の株券を大量に買い付けたという事案について、①ライブドアの業務執行を決定する機関が、同社においてニッポン放送の総株主の議決権数の100分の5以上の株券等を買い集めることについての決定をしたとして、被告人及び被告会社にインサイダー取引の成立が認められた事例、②被告人に懲役2年の実刑及び罰金刑が併科された事例、③複数回に分けて購入された株式が複数回に分けて売却された場合の株式の追徴額に関して、インサイダー取引において没収の対象となる株式は、規制期間の前後を問わず先入れ先出し法に従って特定すべきであるとされた事例

(要旨はWestlawJAPAN)

東京高裁平成21年2月3日判決(平19(う)2251号)証券取引法違反被告事件

村上ファンド事件・控訴審

  ◆投資顧問業者から特定の会社の株式買収の提案を受けその業者との間で当該買収に関する会議を設定することを了承したことが平成18年法律第65号による改正前の証券取引法167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」に当たるとされた事例

◆公開買付けに準ずる行為の実施に関する事実の伝達を受け、同事実の公表前に巨額の買付け(いわゆるインサイダー取引)を行った投資顧問業者(株式会社)の実質的経営者に対し、懲役刑につき、刑の執行が猶予された事例

(要旨はWestlawJAPAN)

最高裁第一小法廷平成23年6月6日判決(平21(あ)375号)証券取引法違反被告事件

村上ファンド事件・上告審

  ◆証券取引法(平成18年法律第65号による改正前のもの)167条2項にいう「公開買付け等を行うことについての決定」をしたというためには、同項にいう「業務執行を決定する機関」において、公開買付け等の実現を意図して、公開買付け等又はそれに向けた作業等を会社の業務として行う旨の決定がされれば足り、公開買付け等の実現可能性があることが具体的に認められることは要しない。

最高裁が村上氏らの上告を棄却したため、下記東京高裁判決が確定しました。

  • 被告人株式会社MACアセットマネジメントを罰金2億円に,被告人村上世彰を懲役2年及び罰金300万円に,それぞれ処する。
  • 被告人村上世彰においてその罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換算した期間,同被告人を労役場に留置する。
  • 被告人村上世彰に対し,この裁判確定の日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。
  • 被告人村上世彰から金11億4900万6326円を追徴する。
  • 原審及び当審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

インサイダー取引を未然に防止する方法


人材の面接時・採用時

取引先に上場企業(準備中を含む。)がある会社は、株式投資をしているか、興味を持っているかを確認する。

インサイダー取引規制について、罰則を含めて説明し、誓約書も提出させる。

誓約書

上場企業と取引をすることとなった中小企業は、役員・従業員の全員に対して「①当該上場企業の株を売買しない旨及び②インサイダー情報(内部情報)の伝達をしない旨」を誓約させ、誓約書を提出させましょう。

社内規則

社内規則を整備することも重要です。

売買をして良い時期や、会社による許可制にするなどの工夫ができます。

貴社の社内規則の整備については、各社がどのような規則を制定しているのかがわかる日本取引所グループ『上場会社インサイダー取引管理アンケート調査報告書』2016.10/最終アクセス230219も参考になろうかと思います。

社内研修

専門家から、具体的な事例をまじえて説明を受けると、従業員の方も「より」気をつけてくれると思います。

正当な業務行為でも注意

例えば、司法書士事務所が法務局に対して登記手続に関する事前照会を行う場合に、具体的な上場企業名を出して照会すると、インサイダー取引規制に該当してしまう可能性があります(第一次情報受領者による未公表の重要事実の伝達等の禁止:金商法167の2)。

参考書籍等


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