投資契約の内容が分かるようになると、種類株式でも実現できそうな条項が含まれていることが多いことに気づくと思います。
投資契約に定めた場合と種類株式の内容として定めた場合では、どういう違いが生じるのでしょうか?
もくじ | |
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投資契約 | 種類株式 | |
効力 | 「契約の効力」で発行会社と投資家との間の権利義務を定める。 | 「定款の効力」で株式そのものの内容として発行会社と投資家との間の権利義務を定める。 |
手続 |
種類株式ほど厳格な手続ではない。 | 会社法の定めに従い厳格である。 |
違反 |
投資契約に違反した場合は「契約違反」として相手方に対する債務不履行責任を負う。 | 種類株式により定められた権利義務の内容に違反した場合は「会社法違反」 |
定められる 内容 |
バラエティーに富む。 =契約自由の原則 |
会社法に列挙された種類株式のみ。 登記できる事項は、登記簿の見やすさを保つために限定されている。 |
投資契約の場合 | 種類株式の場合 |
剰余金の優先配当が投資契約書に盛り込まれることは珍しいです【1】。 | 剰余金の配当に関する優先種類株式(会社法108Ⅰ①) |
清算条項 |
残余財産の分配に関する優先種類株式(会社法108Ⅰ②) |
みなし清算条項 |
× 優先株式では対応できない。 |
「役員の選任については経営株主の提案に賛成する」等の定め | 議決権制限付種類株式(会社法108Ⅰ③) |
「経営株主は、その保有する発行会社株式につき、第三者に対する譲渡、担保の設定、その他一切の処分をしてはならない。ただし、相手方による事前の書面による承諾があった場合には、この限りでない。」等の定め | 株式譲渡制限付種類株式(会社法108Ⅰ④) |
経営株主や発行会社に対する株式買取請求権 |
取得請求権付種類株式(会社法108Ⅰ⑤) ・・・投資家から発行会社に対して普通株式等を対価として転換を請求できるように設計されることも多いため、転換請求権付種類株式といわれることもあります。 |
一斉取得条項 「発行会社が株式上場する旨を取締役会において決議し、かつ、株式上場に関する主幹事証券会社から○種優先株式を取得するべき旨の要請を受けた場合には、発行会社は取締役会決議により○種優先株式の取得と引換えに普通株式を交付することができるものとする。」等の定め |
取得条項付種類株式(会社法108Ⅰ⑥) ・・・IPOをする際に種類株式を残さないために設定される。 |
同上 | 全部取得条項付種類株式(会社法108Ⅰ⑦) |
投資家に対する「事前承認権=拒否権」の付与 | 拒否権付種類株式(会社法108Ⅰ⑧) |
投資家に対する「取締役の指名権(=取締役の派遣条項)」の付与 | 取締役の選任権付種類株式(会社法108Ⅰ⑨) |
優先引受権 | × 優先株式では対応できない。 |
経営株主の義務(取締役の専念義務、競業避止義務) | × 優先株式では対応できない。 |
事前協議権 | × 優先株式では対応できない。 |
情報請求権 | × 優先株式では対応できない。 |
優先買取権=先買権=ファースト・リフューザル・ライト | × 優先株式では対応できない。 |
共同売却権=譲渡参加権=タグ・アロング=コ・セール・ライト | × 優先株式では対応できない。 |
最恵待遇条項 | × 優先株式では対応できない。 |
強制売却権=ドラッグ・アロング | × 優先株式では対応できない。 |
【1】剰余金の配当は、配当可能利益の範囲内で行う必要があります。また、スタートアップは当初は利益を出しにくいため配当可能利益がないことがほとんどです。また、投資家は剰余金の配当レベルの金銭のために投資している訳ではありません。したがって、優先配当を定めないことが多い印象です。
投資契約の各条項の意味内容については、コラム「スタートアップと投資家との投資契約」をご参照ください。
同じ効果が得られるものであっても、「投資契約に入れるか、種類株式にするか」は、上記のメリットやデメリットを勘案いただき、発行会社と投資家との間で調整いただく必要があります。