借地権登記できない場合の「借地上の建物登記」民法177条の例外|不動産賃貸借契約


土地を借りたのだけれど、地主が借地権の登記に協力してくれない。

土地を貸したのだけれど、借主から借地権を登記してくれと言われている。

 

「土地賃貸借と登記」の問題を解説します。

もくじ
  1. 民法第177条(対抗要件の原則)
  2. 借地契約において「第三者」とは誰か?
  3. 借主は、土地に借地権の登記をしないと、自分が借地権を持っていることを「第三者」に主張できないのか?
  4. 借主は貸主に借地権の登記を請求できるのか?!
  5. 発生した問題
  6. 解決策として新たに設けられた民法177条の例外
    1. 明治42年から平成4年8月1日までの借地契約の場合
    2. 平成4年8月1日以降の借地契約の場合
    3. 借地権が第三者へ対抗できるようにする方法〔まとめ〕
  7. 結論(土地賃借人は何をすれば良いのか)
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民法第177条(対抗要件の原則)


民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

借地契約において「第三者」とは誰か?


借地契約の当事者は「貸主=地主=借地権設定者=賃貸人」「借主=借地人=借地権者=賃借人」です。契約当事者間では、契約があるので登記がなくっても、借主は貸主に対して借地権が存在していることを主張できます。

 

ところが、それ以外の第三者にとっては、借地権は目に見えません。例えば、貸主借主以外の第三者が更地だと思って自宅を建てるために買ったのに、実は借地権があったということであれば、その第三者は自宅を建てられないなど大きな損害になります。

 

したがって、借地契約において「第三者」といえば、貸主・借主以外の方すべてのことだと思っていただいて結構です。

 

次の問題は「借主は、借地権の登記をしないと、自分が借地権を持っていることを第三者に主張できないのか?」ということです。

借主は、土地に借地権の登記をしないと、自分が借地権を持っていることを第三者に主張できないのか?


先ほどの民法第177条に再度登場いただいてご説明しましょう。

民法第177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
  不動産に関する物権の得喪及び変更は、(中略)その登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

この条文に借主の権利を当てはめてみると分かりやすいと思います。

  <土地>に関する<借地権>の得喪及び変更は、その登記をしなければ、<土地の買主など第三者>に対抗することができない。

すなわち、<土地>を借地しても、借地権の登記をしないと、第三者に負けてしまいます。

 

次の問題は「借主は、貸主に対して、借地権の登記をするように請求する権利を持っているのか」ということです。

借主は貸主に借地権の登記を請求できるのか?!


ここで少しややこしい話しがあります。

借地借家法第2条(定義)
  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
  1. 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
  2. 借地権者 借地権を有する者をいう。
  3. 借地権設定者 借地権者に対して借地権を設定している者をいう。
  4. (略)
  5. (略)

実は、借地権には2種類あるのです。

どうして脱線したのかといいますと、借地権が「地上権」であるか又は「賃借権」であるかによって、借主が貸主に対して、登記を請求する権利を持っているか否かが異なるからです。

その結論は、次表のとおりです。

  種類 「内容」と「登記を請求できるか」
借地権 賃借権

賃借権=債権の一種=契約に基づき発生する権利=契約でどう定められているかによります。

賃貸借契約書の中で、借地権(賃借権)を登記すると決めている場合のみ、その契約に基づいて、借主は貸主に対して借地権(賃借権)の登記を請求する権利があります。

地上権

地上権=物権の一種=法律で決められた権利があります。

借地権が地上権であれば、地上権であるという理由だけで、借主は貸主に対して借地権(地上権)の登記を請求する権利があります。

ほとんどの借地権は「賃借権」です。

貸主は「賃借権など余計な登記をすると、登記簿が汚れる」などと言って、賃借権の登記を許さないのが通常です(借地契約が終了したときに、借地権登記を抹消するのにも手間がかかります。)。

 

つまり、土地の借主は「登記しないと賃借権を第三者に対抗できない」のに「貸主に登記を請求する権利はない」という困った状態なのです。

発生した問題


困った状態にあることを良いことに(奇貨として)、悪いことをしようとする人間も出てきます。

土地の賃借権は、その登記を経れば第三者対抗力を備えるが、登記請求権がないため登記をするには土地所有者の協力が必要である。現実には借地権の大部分が賃借権であるにもかかわらずその登記に協力する土地所有者は稀であるばかりか、対抗力がないことに着目して第三者に売却し賃借人の立退きを求め、またはそれを手段として地代の増額や一時金の支払を求める悪弊が民法の施行後ほどなく現れた(地震売買として社会的な問題とされた)

(稻本洋之助・澤野順彦〔編〕/コンメンタール借地借家法[第2版])/70頁)

 

法律を逆手にとって荒稼ぎするとは、酷い人間がいるものですが、法律はいつまでもこの状態を放置しませんでした。

解決策として新たに設けられた民法177条の例外


旧法(旧建物保護法※筆者注)はこれに対処するため明治42年に制定され、平成3年の改正に際して本法(借地借家法※筆者注)10条として再編された。

(稻本洋之助・澤野順彦〔編〕/コンメンタール借地借家法[第2版])/70頁)

明治42年から平成4年8月1日までの借地契約の場合

建物保護ニ関スル法律(略称:建物保護法)第1条
  建物ノ所有ヲ目的トスル地上権又ハ土地ノ賃借権ニ因リ地上権者又ハ土地ノ賃借人カ其ノ土地ノ上ニ登記シタル建物ヲ有スルトキハ地上権又ハ土地ノ賃貸借ハ其ノ登記ナキモ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得

建物保護に関する法律は、借地借家法の施行により廃止されましたが、借地借家法が同じ規定を置いて引き継いでいます。

平成4年8月1日以降の借地契約の場合

借地借家法第10条(借地権の対抗力)
 
  1. 借地権は、その登記がなくても、土地の上に借地権者が登記されている建物を所有するときは、これをもって第三者に対抗することができる。
  2. 前項の場合において、建物の滅失があっても、借地権者が、その建物を特定するために必要な事項、その滅失があった日及び建物を新たに築造する旨を土地の上の見やすい場所に掲示するときは、借地権は、なお同項の効力を有する。ただし、建物の滅失があった日から二年を経過した後にあっては、その前に建物を新たに築造し、かつ、その建物につき登記した場合に限る。

借地権が第三者へ対抗できるようにする方法〔まとめ〕

ここで、借地権の対抗要件をまとめると次のとおりになります。

原則(民法177)

借地権の設定登記

=土地に対する登記=貸主と借主が共同で申請する。

(賃貸人の承諾が必要なので、ほとんど為されない。)

例外(借地借家法10) 

借地上建物の登記【1】

=建物に対する登記=借主だけが単独で申請する。

【1】登記の種類について

  • 借地人が自己を所有者と記載した「表示の登記」をしていれば、本条にいう登記をした建物に当たる(最判昭50.2.13民集29-2-83)。保存登記までは要さない。
  • 建物についての処分禁止の仮処分登記をするために登記官が職権でした登記でも良い(大判昭13.10.1民集17-1937)。

結論(土地賃借人は何をすれば良いのか)


次表のとおりに場合分けして考えられます。

借地権が 場合 対応方法
賃借権である場合  登記する契約になっている場合

貸主に登記を請求する。

貸主が協力しないときは、裁判まですれば勝てるのでしょうけれど、自分名義の建物を登記した方がずっと安くて早いです。

登記する契約になっていない場合 貸主に登記させてくれませんか?と一声掛けて断られたら、自分名義の建物を登記する。
地上権である場合

貸主に登記を請求する。

貸主が協力しないときは、裁判まですれば勝てるのでしょうけれど、自分名義の建物を登記した方がずっと安くて早いです。

建物表題登記は、数万円~10万円程度が相場だと思います(古い建物で相続が発生している場合はもっと高いです。)。

また、土地借主が、建物表題登記をするのに、土地貸主の協力は必要ありません。

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