認知症の方の不動産売却


不動産売買に関して最も多い質問の一つです。

 

売主様のご家族から

「母が認知症なんですけれども、自宅を売却すること出来ますか?」

 

不動産会社から

「今、売却査定の依頼が入ったんですけれども、娘さんが『お父さんは認知症』っておっしゃってるんですよー。どんなことを注意しないとダメでしょうか?」

 

どういう状態であれば、売って良いのか?!

絶対ダメな状態とは?!

それでも売却しないといけないときには?!

 

司法書士の視点から考察しました。


簡単に申し上げると


認知症であれば、絶対に売却できないという訳ではありませんが・・・

  1. 売買契約締結時点
  2. 不動産取引(残代金支払、不動産引渡し)時点

両方の時点で、売主さんには、不動産を売却するだけの能力が要求されます。 

判断能力がない方の不動産を売ると・・・


判断能力がない状態にも二通りあります。

1.行為能力がない売主が行なった売買は、後日、取消しされる可能性のある売買になります。

2.もっと酷くて意思能力もない売主が行なった売買ならば、後日、売買の無効を主張されることもありえます。

 

売却直後に売主様が亡くなられ「ばあちゃんは、認知症やった。不動産なんか売却できる筈がない」などと相続人が騒ぎ出した場合には、仲介不動産会社などが責任を取らざるを得ない可能性がありますので、ご注意ください。

  意思能力 行為能力
意 味 自らがした行為の結果を判断することができる能力 単独で有効な取引行為(法律行為)をすることができる能力
効 果 無効(新民法3条の2) 取消できるなど

       

ないとされる例

 

未就学児(小学校入学前程度の子)

泥酔者

重度の精神障害者

未成年者

成年被後見人

売主のご家族が代理人なら売っても大丈夫か?


司法書士が不動産取引時(残代金支払時、物件引渡時)に意思確認をします【1】が、意思確認の対象は売主さんご本人です。

売主ご本人に能力がないことを確認した後に、ご家族が代理人だとご主張された場合でも、ご本人にはご家族を代理人にするための能力(委任契約を締結する能力)がないと判断せざるを得ないからです。

 

万が一、売主さんご本人が、認知症などで判断能力が落ちてしまった場合には、他の親族全員が売ってくれと言っても、司法書士は売却の登記を行なうことが出来ません。


【1】売買契約時には不動産会社(宅地建物取引士業)が確認します。

アウトかセーフかの判定方法


不動産取引時に司法書士は、次のように意思確認を行います。

売買契約時に意思確認をする不動産会社さんも、同様に行うことをオススメします。

まずは売主様ご本人とご面談を

ご本人に面談して、質問をします。

コストが掛からない方法ですので、まず一番最初に行なうことをオススメしています。

 

ご面談の内容は、ビデオ撮影・録音・細かいメモをして残しておきます。

主な質問項目は、次のとおりです。

  • 住所・氏名・生年月日
  • 今いる場所はどこか? (自宅・施設など)
  • 本当に売りたいのか?
  • いくら位で売りたいのか?

質問の中に、本当に不動産を売りたいご本人ならば、絶対に「はい」と答えないような質問を混ぜておきます。例えば

「本当は売りたくないんですよね。」

「(1億円の物件なのに)100万円で売るんですよね。」

認知症の方の中には、お気持ちが優しくて何にでも「はい」とお答えされる方がいらっしゃるからです。

成年後見用診断書の取得

質問を無事クリアした場合には、診断書を取得するようご家族にお願いします。

1.診断書には色々な形式のものがありますが、成年後見制度を利用する際に裁判所に提出する用の書式をオススメします。WORDでダウンロード

 

成年後見用診断書1/2
成年後見用診断書1/2
成年後見用診断書2/2
成年後見用診断書2/2

2.診断書が到着したら、「3判断能力についての意見」欄(上の赤枠で囲った部分)をご覧ください。それぞれの意味は、それぞれ次の通りです。

「3判断能力についての意見」欄への記載 意味
契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる。  行為能力に問題なし=堂々と売却できますが、診断書原本はお預かりしておきましょう。 
支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある。 補助相当=微妙
支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。 保佐相当=売却することは出来ません。
支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。 後見相当=売却することは出来ません。

成年後見登記事項証明書(登記されていないことの証明書)の取得

念のために「登記されていないことの証明書」も取得しておきましょう。

何が登記されていないかというと、成年後見登記がされていないことの証明です。

「登記されていないことの証明書」が取得できたということは、ご本人は申請日時点では、成年被後見人などではないということが、証明できます。

登記されていないことの証明書の説明及び請求方法(東京法務局HP)

登記されていないことの証明申請書
登記されていないことの証明申請書
登記されていないことの証明書(見本)
登記されていないことの証明書(見本)

判断能力なしだが、売却したい場合


判定が「判断能力がない」となったけれど、どうしても売却したい場合には、成年後見制度を利用することになります。ただし、成年後見制度のご利用には次のような注意点があります。

 

1.売却のための成年後見制度ではなく、ご本人のための成年後見制度なので、一度成年後見制度が始まるとご本人が亡くなるまで続く。

⑴ ご家族ご自身を成年後見人候補者として申立てをした場合

  • ご家族が選任されず、司法書士・弁護士などの専門職後見人が選任される場合がある。

⑵ ご家族が成年後見人に選任された場合

  • 帳簿をキッチリ作成して、定期的に家裁に報告することを要する。
  • 後見監督人選任か後見制度支援信託利用の利用を選択させられることがある(流動性の高い現金預金が大きいとき)

⑶ 司法書士・弁護士などの専門職後見人が選任された場合

  • 家庭裁判所が決定する報酬をご本人死亡まで支払う必要がある。

⑷ その他

  • 一度申立てをすると、家裁の許可がない限り、取下げ出来ない。
  • 節税のための贈与などが出来なくなる。

2.成年後見制度を利用して売却するには時間を要する。

  1. まず申立書の作成に3~6か月程度かかります。
  2. 家庭裁判所が決定を出すまでに1~3か月程度かかります。
  3. 決定が出て(申立人が受け取って)から2週間で審判確定です。
  4. 審判確定から1か月程度で、成年後見人が家裁に財産目録を提出します。
  5. 成年後見人が売却を相当と判断した場合には、家裁に売却許可申立をします。
  6. 許可申立から許可まで1~2週間かかります。

上記を合計すると、最短でも6か月、最長11か月ほどの時間を要することになります。

3.成年後見制度を利用しても売却できない場合がある。

売却したい不動産がご本人の居住用不動産で、かつ、ご本人に預貯金などの財産がある場合には

  • 成年後見人が売却しないこともあり得ます。
  • 成年後見人が売却するつもりでも、家庭裁判所が売却許可を出さないこともあり得ます。

売却したい不動産がご本人の非居住用不動産で、かつ、ご本人の現金預金が不足する場合には

  • 成年後見人は売却してくれる可能性が高いです。
  • 家庭裁判所の許可は不要です。

売却時の具体的な添付書類


居住用不動産とは。。。

非居住不動産とは。。。

ケース 監督人の同意書

家裁の

許可

後見人が本人に代わって売却

(成年後見監督人はいない)

非居住   不要
居住用  

必要

(民859の3) 

後見人が本人に代わって売却

(成年後見監督人がいる)

非居住

必要(民864、13Ⅰ③) 不要

居住用

不要(∵家裁への売却許可申立の段階で監督人の同意が必要) 必要

保佐人が本人に代わって売却

(保佐監督人はいない)

非居住   不要
居住用  

必要

(民876の5)

保佐人が本人に代わって売却

(保佐監督人がいる)

非居住 不要(民876の3Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨) 不要
居住用

不要(民876の3Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨)

必要

補助人が本人に代わって売却

(補助監督人はいない)

非居住   不要
居住用   必要

補助人が本人に代わって売却

(補助監督人がいる)

非居住

不要(民876の8Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨) 不要

居住用

不要(民876の8Ⅱ。本人の同意又は申立により代理権付与されているから、監督人同意まで求めない趣旨)

家裁からの同意書要求あれば必要

必要

任意後見人が本人に代わって売却

(必ず任意後見監督人がいる)
居住用 居住用・非居住ともに任意後見契約による  不要
非居住
被後見人ご本人が売却【1】 居住用 売却不可  
非居住 売却不可  
被保佐人ご本人が売却【1】 居住用    
非居住    
被補助人ご本人が売却【1】 居住用    
非居住    

【1】家庭裁判所において、後見・保佐・補助開始の各審判を受けていなかったとしても、司法書士がご本人に判断能力がないと判断した場合には、売却することができません。

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