「親族」+「専門職」複数後見人のススメ


成年後見について、ネガティブな情報や誤った情報が世間に拡がる一方で、有効な活用方法があまり知られてません。そこで、このコラムでは、成年後見制度の有効な活用方法の一つ「親族後見人と専門職後見人の同時選任」をご紹介します。

後見制度の利用を考えている方、一度利用を検討したものの断念された方、このような方々の参考になれば幸いです。

もくじ
  1. 複数後見人の選任
  2. メリット
    1. 緊急時の対応
    2. 報酬の按分
    3. スポット後見のような使い方
  3. 複数後見人選任から専門職後見人の辞任までの流れ
  4. 条文
  5. 事例のご紹介
  6. この記事の執筆者
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複数後見人の選任


家庭裁判所は、複数の後見人を選任することができます(民843Ⅰ、Ⅲ)。

保佐・補助でも同じです(民876の2Ⅱ、民876の7Ⅱ)。

さらに、家庭裁判所は、選任した複数の後見人について、その「事務を分掌」したり、「権限の共同行使の定め」をしたりすることができます(民859の2Ⅰ)。

 

「事務の分掌」とは、後見人の事務である財産管理の事務と身上保護の事務を、後見人ごとによって分けることを言います。例えば、「後見人Aは財産管理をする。後見人Bは身上保護をする。」とか「後見人Aは身上保護をする。後見人Bは財産管理と身上保護をする。」といった具合です。

次の写真は事務分掌したときの登記事項証明書です。

実際に選任されるパターンでもっとも多いのは、親族後見人+専門職後見人でしょう。私が経験してきた複数後見もほとんどがこのパターンです。つまり、ご本人を、ご家族とともに専門職が支援する形です。ご本人のことをよく知るご家族+対裁判所を含めて法的な支援をする専門職、という形になり、それぞれの特性が活かせる良い形だと思います。

メリット


ところで、複数後見のメリットってなんでしょうか。

緊急時の対応

まず「後見人自身の緊急時でも支援が途切れない」ということが挙げられます。

昨今の状況から、後見人自身がコロナウイルスに感染してしまったケースを想像していただければイメージしやすいと思います。そのとき、もう一人後見人がいれば、ご本人への支援が途切れることなく、各種支払い・申請・手続き・生活費のお届け等が行われます。

これが一人だと、途端に途切れてしまいますので、大きなメリットです。実は、私が就任しているケースでも、もう一人の後見人の方が感染してしまったというケースが複数ありましたし、私自身が感染してしまったときはもう一人の方に助けていただきました。複数ではないケースについては、私がコロナに罹患している間、ひたすら何も起きないことを願っていたものです(何も起きませんでした!)。後見人も人間ですから、思いがけない病気や事故に遭遇してしまうことがあります。そのとき、複数後見は、大きな威力を発揮します。

報酬の按分

次に、報酬の按分が挙げられます。ときどき、複数後見ということは報酬も2人分になるのではないかと思われている方がいらっしゃいますが、私の知る限り、そのようなことはありません。複数後見の報酬は、後見人が1人のときの報酬と変わらず、それを按分します。これは、考えようによっては、家族の外部に流れるお金(専門職の報酬)が少なくて済むということになります。

現に、東京家裁が公表している「成年後見人等の報酬額のめやす」の「4 複数成年後見人等」には「成年後見人等が複数の場合には,上記2及び3の報酬額を,分掌事務の内容に応じて,適宜の割合で按分します。」と、書かれています。

 

按分の割合については、後見人等の報酬自体がもともと裁判官の専権事項であり、理論立てて説明できるものではありません。なので、私の経験でお話をします。これまでの経験上、50%と50%のケースもありましたし、少し差がつけられるケースもありました。差がつけられると言いましても、52%と48%程度の差でした。これまでに何回か、報酬付与の申立ての際、50%と50%にしてもらいたい旨の上申書を添付したことがあるのですが、そのとおりになったこともあれば、そのとおりにならなかったこともありました。やはり、裁判官が、その裁量で決定しているということですね。

スポット後見のような使い方

親族を後見人にしたいと考えているけど、いわゆる課題のあるケースだから親族後見人は選任されそうもない。そういう理由で成年後見制度の利用を躊躇されている場合、複数後見を選択することによって、専門職とともに選任される可能性が充分考えられます。

 

まず、東京家裁が公表している、親族後見人候補者がいても候補者以外の者が選任されたり監督人が選任されたりするケースのいくつかを確認してみましょう。

① 親族間に意見の対立がある

② 財産の額や種類が多い

③ 不動産の売買や生命保険金の受領が予定されているなど,申立ての動機となった課題が重要な法律行為を含んでいる場合

④ 遺産分割協議など,後見人等候補者と本人との間で利益相反する行為について,監督人に本人の代理をしてもらう必要がある場合 

このほか⑮まで挙げられているのですが、上の4つが多いケースなのではないかと思います。

①は厳しいと思います。事情にもよると思いますが、親族間での意見の対立があるケースは、親族後見人が最も選任されにくいのではないかと考えます。

②③④については、私の経験上、専門職との複数後見を選択することによって、問題なく選任されると考えられます。②③④について、複数後見を利用した時のメリットは、親族後見人も選任されて良い、ただそれだけではありません。最大のメリットは、課題解決後の専門職の辞任です。専門職が辞任すれば、もともと望んでいた親族後見人だけという形が実現できます。最初から信頼している知り合いの専門家に複数後見で入ってもらえば課題解決も安心して任せられますし、課題解決後はもともと望んでいた親族後見人だけの形になり言うことなしですね。このやり方は実際に何件かやっていて、お勧めです。具体的には下のような流れになります。

複数後見人選任から専門職後見人辞任までの流れ


以上の流れをフローチャートにすると次のとおりです。

後見人選任から専門職後見人の辞任まで1~2年のイメージです。

複数後見人の選任

専門職が課題解決

例えば、不動産の売却完了です。

後見制度支援信託を利用

手許の管理財産(普通預金)を500万円以下にする。

管理財産が多いと、家庭裁判所は専門職後見人の辞任を認めなかったり、後日、後見監督人を選任する可能性があるからです。

手許の管理財産以外のものを信託財産としておくことによって、これらの不都合を回避します。 

※ 管理財産が少なければ支援信託をする必要はありません。

専門職の辞任

以降、親族後見人のみ

親族後見人だけが残ることになります。

条文


引用した条文は次のとおりです。

民法第843条(成年後見人の選任)
 
  1. 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
  2. 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
  3. 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
  4. (略)
民法第859条の2(成年後見人が数人ある場合の権限の行使等)
 
  1. 成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。
  2. 家庭裁判所は、職権で、前項の規定による定めを取り消すことができる。
  3. 成年後見人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる。

事例ご紹介


この記事の執筆者


司法書士 髙野守道

川のほとり司法書士事務所

平成28年司法書士登録

葛飾生まれ、葛飾育ち、葛飾在住、事務所も葛飾

 

開業当初から、世の中の「困った」を一つでも多く解消すること、軽減させることを念頭に、先義後利の精神で今日も駆けずり回っている。

義理と人情溢れる下町の頼りになる司法書士になれたらいいな、なれるといいな。



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