遺留分放棄許可の取消申し立て


家庭裁判所に許可された遺留分放棄を、後日、取り消しすることが出来るか(遺留分放棄の効果をなくすことは出来るか)という論点である。

これに関する裁判例も少ないが、審判例を分析し、一定の共通項を導き出した。

もくじ
  1. 許可の取消が認められた事例
  2. 許可の取消が認められなかった事例
  3. (審判例から導かれる)許可取消が認められる条件
  4. 許可の取消が認められなかった場合の対応
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1.許可の取消が認められた事例


東京家裁S44.10.23審判

【事例(時系列)】

申立人が継母と養子縁組

申立人が被相続人実父の遺留分放棄(継母要請。継母〔当時約1億円と評価〕の相続権があった)

申立人が継母と養子離縁(継母から財産の分配を受けず)

継母死去

申立人が遺留分放棄許可の取消を求めた事例(被相続人実父の相続開始前)

【審判内容(要旨)】

遺留分放棄の許可は、その理由とした事情が明らかに変更したため実情に適しなくなり、かつ申立人が放棄意思をひるがえしている場合においては、相続開始前であればこれを取り消すことができる。

(要旨は、WestlawJAPAN)

松江家裁S47.7.24審判

【事例(時系列)】

S40.申立人が結婚。夫婦は、被相続人たる父の家で暮らし出したが母と妻の折り合いが上手く行かず

S41.申立人夫婦が被相続人父母と別居。家業は実家に残った妹が婿取りをして継承することになり、婿取りの条件をよくするため申立人が遺留分放棄することとなった。

S41.遺留分放棄の許可

S47.妹の婿はなかなか見つからず、同女の婚期も失いかねないことになったので、婿取り家業継承をあきらめ妹は嫁入りした。妹も申立人が家業と財産継承を強く希望する。

S47.申立人の妻と母の感情のもつれも自然にほどけ、申立人家族も被相続人一家と同居再開。

 

【審判要旨】

遺留分放棄の許可審判がなされた後においても、前審判の基礎となつた客観的事情に明白かつ著しい変更が生じ、前審判の目的とした合目的性が失われて前審判を維持することが著しく社会的実情に合致しないと認められる場合には、その相続開始前に放棄者の申立によつてのみ右審判を取消す旨の審判をなしうる。(要旨は、WestlawJAPAN)

東京家裁S54.3.28審判

【事例(時系列)】

S41.申立人が被相続人父に関する遺留分放棄許可を得る(結婚準備に追われている最中、父に家裁に連れて行かれ裁判所で何を聞かれても異存がない旨を答えるよう強く指示されていた。山林事業を営む父は、長男のみに相続させるつもりで、妻・申立人・二女に遺留分放棄許可を申立させていた。遺留分に見合う贈与はなし。)。

S50.申立人は自分が行なったのが遺留分の放棄だと知る(申立人が父を相手方として遺留分を有することの確認申立を行なったが不調に終わった。)。

遺留分放棄の許可は12年前になされたもので、推定相続人間の事情も全く変わっており、申立人も遺留分放棄の意思をひるがえしている(父が申立人を相手方として親族間の紛争調整申立を行なったが不調に終わった。)。

【審判内容】

なされた遺留分放棄は、遺留分権利者の自由意志に基づくものでなく、代償もなく、許可審判後13年も経過し深刻な対立が生じているので、許可審判の効力を維持すべきではない。

2.許可の取消が認められなかった事例


東京家裁平成2.2.13審判

【事例(時系列)】

S34.申立人が母・被相続人との間に非嫡出子として出生

S45.申立人の親権者たる母が遺留分放棄許可申立(被相続人は自分の財産の一部(不動産)を母に隠して申立をさせた。親権者たる母は300万円を受領)。

その後、不動産の価値が高騰した。

S63.被相続人死亡。

H2.申立人は、遺留分放棄に要素の錯誤があると取消を求めた。

【審判内容(要旨)】

相続開始後に、非訟事件手続法一九条により、相続開始前にされた遺留分放棄許可審判の取消しを求めた事案において、一般論として相続開始後の遺留分放棄許可審判の取消しも許されないものではないとした上、本件においては申立人の主張する遺留分放棄における要素の錯誤及び当該許可審判を維持することが著しく不当になるような事情の変化はいずれも認められないとして、申立てを却下した事例(要旨は、WestlawJAPAN)

東京家裁S58.6.13審判(原審)、東京高裁S58.9.5決定(抗告審)

【事例(時系列)】

S3.申立人が被相続人と小川熊三との間の非嫡出子として出生

申立人が勤務先債務の連帯保証をした。

S50.遺留分放棄許可申立(仮に勤務先が債務を完済できないでいる間に、被相続人について相続開始すると申立人が取得する相続財産に対し強制執行を受ける可能性があると考えたこと。申立人自身の生活基盤が十分であること。)

その後、勤務先は債務を完済(申立人の連帯保証債務消滅)

S58.申立人は、遺留分放棄の取消を求めた。

【原審の審判内容(要旨)】

許可審判を取り消さなければならないほどの事情の変更ではない。

申立人にも遺贈する旨の被相続人の遺言と高齢により遺言書換え能力を失っていることは、許可審判取消の理由にはならない。

【抗告審の決定内容(要旨)】

原裁判所による取消却下の審判に対する抗告自体は適法という前提で・・・

遺留分放棄許可審判の取消しが許されるためには、許可当時の事情が変化し、遺留分放棄の状態を存続させることが客観的にみて不合理、不相当と認められるに至つた場合でなければならないとされた事例(抗告審の要旨は、WestlawJAPAN)

3.許可取消が認められる条件


数少ない審判例ではあるが、要約すると次のようになる。

単に気が変わったということでは認められないし、許可の取消が認められるハードルは高い。

遺留分放棄許可申立が遺留分権利者の真意ではなかったこと。

東京家裁S54.3.28審判

(遺留分放棄許可当時と)事情が変更し、遺留分放棄の存続が客観的にみて不合理・不相当であること。

東京高裁S58.9.5決定、東京家裁H2.2.13審判

不合理でも認められなかった事例(仙台高裁S56.8.10決定)

相続開始後であっても遺留分放棄許可取消は認められる。

東京家裁H2.2.13審判

4.許可取消申立が却下された場合の対応


取消申立が却下された場合に、即時抗告が出来るか否かについては、裁判例によって見解が分かれる。

いずれにしても遺留分放棄許可の取消が却下された場合には、遺留分侵害額請求の訴訟中において、遺留分放棄の効果を争うしかない。

即時抗告できるとする裁判例

東京高裁S58.9.5決定

【事例(時系列)】

上記のとおり

【決定要旨】

原裁判所による取消却下の審判に対する抗告自体は適法という前提で・・・

即時抗告を受理したうえ、内容を審理して棄却した。

即時抗告できないとする裁判例

仙台高裁S56.8.10決定

【事例(時系列)】

S49.被相続人の面倒を4人兄弟のうち芳枝が見ることになった。

S50.芳枝以外の兄弟3名が遺留分放棄。被相続人が芳枝に全遺産を相続させる旨の遺言。

S51.芳枝と被相続人の同居生活が破綻したので、申立人が被相続人の面倒を見ることとなった。

S53.被相続人死亡。芳枝は、申立人が遺留分放棄していることを理由に遺産分割に参加させず。

S56.福島家裁相馬支部が、申立人の遺留分放棄許可の取消申立を却下

同年.申立人が即時抗告

 

【決定要旨】

遺留分放棄の許可審判は家庭裁判所の職権発動によつてのみ取り消すことができ、被許可者にその申立権がない。

本件の如き「即時抗告」はもとより、非訟事件手続法20条に基づく抗告もなしえない。

東京高裁S60.8.14決定

【事例(時系列)】

S53.遺留分放棄の許可(理由:被相続人から申立人の負債整理の条件として要望された)

S59.遺留分放棄許可の取消申立(理由:6年経過した。被相続人も64歳と高齢になった。申立人は被相続人の意思を尊重しその指示に従ってきており、現在では遺留分の放棄も不要と考えられるので、被相続人の意思を確認したところ、被相続人も取消手続に協力する旨を約束した)

S60.原審の認定:申立人の行状が相変わらず芳しくなく、被相続人との関係が以前にも増して悪化していること、被相続人は遺留分放棄許可審判を取消すことに強く反対している。

【決定要旨】

遺留分放棄の許可の取消の申立を却下した審判に対しては、即時抗告をすることはできない。

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