法定相続人(配偶者、子、親、兄弟姉妹など)がいない場合において、亡くなられた方との関係性(内縁の夫婦など)によっては、相続財産を受け取ることができる場合があります。
これを特別縁故者といいます(民法958条の3)。
ただし、特別縁故者として財産を受け取るためには次のとおり、大変な手間と費用と時間がかかります。できる限り、遺言などで生前対策をされることをお勧めします。
もくじ | |
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次の方々です(民法958条の2)。
民法958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与) | |
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〇 | 内縁の妻(岡山家裁S46.12.1審判) |
〇 | 事実上の養子(大阪家裁S40.11.27審判) |
職務上介護や看護にあたっただけの看護士、介護士、家政婦は除かれますが、
その程度が、仕事として通常期待される程度を超えていた場合には、認められることがあります。
〇 | 報酬以上に献身的に看護に尽くした付添看護婦(神戸家裁S51.4.24審判) |
〇 | 本条に例示する者(上記1及び2)に準ずる程度に被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物理的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであろうとみられる程度に特別の関係にあった者(大阪高裁S46.5.18決定) |
〇 | 被相続人が長年経営していた学校法人(神戸家裁S51.4.24審判) |
✖ | 死後、特に祭祀を巡って縁故を持つに至った者は特別縁故者に含まれない(東京高裁S53.8.22決定) |
〇 | 死後、特に祭祀を巡って縁故を持つに至った者は特別縁故者に含まれない。ただし、菩提を弔うに至った寺院等特段の関係にある者は別である(東京高裁S53.8.22決定) |
〇 | 単なる自然的血縁関係にあるばかりでなく、未認知の子などのように、形式的には相続権を有しないが、実質的には相続人に該当するような親族(神戸家裁S51.4.24決定) |
✖ | 親類縁者が葬儀万端の世話をしたとしても、親類縁者として通例のことである(大阪高裁S46.5.18決定) |
ご自身が特別縁故者に該当する可能性があるか否かを考えるうえで重要な裁判例をいくつかご紹介します。
大阪高裁昭和44年12月24日決定(判タ255-317) | |
民法958条の3〔現行民法958条の2〕は、特別縁故者の範囲を例示的に掲記したに止まり、その間の順位に優劣はなく、家庭裁判所は、被相続人の意思を尊重し、被相続人との自然的血縁関係の有無、生前における交際の程度、被相続人が精神的物質的に庇護恩恵を受けた程度、死後における実質的供養の程度その他諸般の事情を斟酌して分与の許否およびその程度を決すべき |
東京高裁平成27年2月27日決定(判タ1431-126) | |
特別縁故者と認められるためには,上記の例示にそのまま当てはまるものではないとしても,例えば被相続人と生計を同じくしていた者と同視できるほどに被相続人と密接な生活関係があったとか,その程度はともかく,日常的に被相続人の自宅等を訪れて何くれとなく被相続人の日々の生活等を援助していたとか,被相続人の介護を担っていたなど,被相続人との間で実際に密接な生活上の一体関係や援助関係等が認められることが前提となっているものと解するのが相当である。 (中略) 気が合って親しく交際し,一緒に旅行に出かけるなどの親密な交流が続いたと主張しているが,仮に頻繁に一緒に旅行に出かけたりしていたのであれば,旅行先で一緒に撮影した写真等も多数あるのではないかと思われるが,本件では,そのような一緒の写真は1枚も提出されていない(被相続人の死亡後の葬儀関連の写真は多数提出されているものの,被相続人が成人となった後,その生前に原審申立人らと一緒に撮影された写真は1枚も提出されていないし,4枚提出されている一緒の写真は,全て戦後の幼い時の写真だけである。)。しかも,親密な交際をしていたというのであれば,手紙やはがき等のやりとりも多数あってしかるべきであるが,被相続人から抗告人を含む原審申立人らに対して送られた手紙なども見当たらない。また,抗告人は,近くに住んでいたので被相続人宅に出向いて男でなければできない力仕事などを手伝っていたと主張しているが,その具体的な時期や内容や頻度は不明であり,しかも,抗告人が○○市内に住んでいたのは昭和53年××月までのことで,それ以後は△△市内に住民票を移していることが認められるから,その後約30年以上は必ずしも近くに住んでいたという状況ではない。確かに,抗告人は,被相続人の母であるHの入院に付き添ったりしたことは認められるものの,被相続人の介護をしたとか,被相続人の生活を日常的に援助していた事情は認められない。なお,申立人Bにおいても,抗告人と親密に交際していたと主張しているが,当審における同人の意見書においても,被相続人に家庭料理や家庭菜園で出来たものを持って行くように言ったが断られたことや,平成21年×月の春のお彼岸の際に申立人Bが被相続人宅に出向くことを打診したところ,断られたことなどが記載されているから,同人と被相続人との関係は,直ちには通常の親戚付き合いの範囲を超えるものとまでは認められないというべきである。 結局のところ,本件において,原審申立人らの主張を裏付けるものとして提出されている資料は原審申立人らの陳述書等だけであって,客観的に原審申立人らが被相続人の特別縁故者に該当することを裏付けるに認めるには十分ではなく,これらの資料だけによって直ちに原審申立人らが被相続人の特別縁故者に当たるとまで認めるのは困難である。 |
特別縁故者が分与を受けるためには、まず相続財産清算人の選任申立をする必要があります。
その後、さらに特別縁故者への財産分与の申立を行います。
両手続の流れは次のとおりです。
最寄りの当グループ事務所にご相談ください。
相続財産清算人を選任するよう家庭裁判所に申し立てをします。
家庭裁判所が相続財産清算人を選任します(民952Ⅰ)。
家庭裁判所が官報に「相続財産清算人が選任された旨と相続人は名乗り出るよう」公告をします(民952Ⅱ)
相続財産清算人が官報に「相続債権者及び受遺者に対し、2か月内にその請求の申出すべき」旨公告します。この公告は、左の選任・捜索の公告期間内に満了する必要があります(民957Ⅰ)。
公告方法は民957Ⅱ→民927Ⅱ~Ⅳ。
<相続人が出現>権利義務は相続人へ
<相続人が出現せず>相続人がいないことが確定します(民958の2)
相続財産清算人は、申出のあった相続債権者や受遺者に対して弁済します。弁済方法は民957Ⅱ→民928~935(932ただし書を除く。)
申立権者:特別縁故者(相続財産清算人には、申立権はありません)
特別縁故者が分与申立てをした旨及びこれに対する意見を求める旨、通知がなされます。
相続財産清算人は、申立人(特別縁故者として分与の申立を行った方)に対するヒアリングを行います。
分与の適否について意見書を提出します。
財産目録を添付します。
申立てた特別縁故者が
├内縁の妻の場合:全財産の分与を認めることが多い
└その他の者:一部分与が多い
申告と納税の期限は分与する旨の審判から10か月以内です(相続税法29)
手続 | 時間 |
(戸籍収集) | 2~3か月 |
(相続放棄有無照会) | 1週間 |
(相続財産調査) | 1~2か月 |
(負債調査) | 1か月 |
相続財産清算人選任申立書作成・提出 | 2~3週間 |
相続財産清算人選任・相続人捜索公告 | 6か月 |
相続財産清算人からの意見書提出 家庭裁判所調査官による調査 家庭裁判所による審判 審判の確定 |
数か月 |
合計 | 1年半~2年程度 |
特別縁故者が分与を受けるためには、相続財産清算人の選任が必要となりますので、その費用も掲載しています。
手続き | 司法書士の報酬(税込) | 実費 |
(戸籍収集) | 11,000~33,000円程度 | 1万円程度 |
(相続放棄有無照会) |
11,000円 |
郵送費 |
(相続財産調査) |
調査範囲によります。 照会先1か所につき1,100~2,200円 |
郵送費 |
(負債調査) | 33,000円/回/家裁 | 3千円ほど |
(相続関係説明図作成) | 33,000円~【1】 | |
相続財産清算人選任申立 | 220,000円 |
印紙800円 郵送費 官報費用4千円ほど 予納金20~100万円 【2】 |
特別縁故者への財産分与申立 | 220,000円 |
印紙800円 郵送費 |
合計 |
ざっくり55万円ほど |
予納金に大きく左右されますが30~110万円程度 |
【1】下記いずれか高い方の金額で算出いたします。
【2】予納金は、相続財産清算人の報酬に充てられる費用で、最初に申立人が立て替えます。
最初に収める予納金の額は、相続財産により、裁判所が決めます。現金預金が多いときには20万円程度ですむこともありますが、現金化しにくい財産が多数あるときには100万円などと高額な予納を求められることもあります。相続財産清算が終了して予納金にあまりがあるときには、戻ってくることもあります。