遺言書の存在を知らずに遺産分割協議をした場合、手元にある遺言に基づいて遺言執行したのに、もう一通別の遺言が遭った場合、面倒なことになります。
遺言書の種類は何種類もあり、それぞれ、探し方が違います。
この記事では、①遺言書を探すべき理由、②遺言書の種類ごとの探し方を解説しています。
もくじ | |
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〔凡例〕この記事では、下記のとおり略記します。
遺言が存在しているにも関わらず、遺言に反する遺産分割協議を行っても、遺産分割協議は無効になってしまいます(民法1013条2項など)。したがって、遺産分割協議をする前に遺言書を探す必要があります。
近年では遺言をされる方が、増えています。それに伴い、遺言の書き換えも増えています。
遺言が2通以上あるときは、後に書かれた遺言が優先します。すなわち「前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみな」されます(民法1023条)。したがって、遺言書を持っている相続人の方であっても、遺言が書き換えられていないか遺言書を探す必要があります。
遺言の種類には、普通の方式のものでも4種類あります。
そして、種類ごとに探し方も異なります。
まず、下表で代表的な遺言をご確認ください。なお、普通方式の遺言には「秘密証書遺言」もありますが、ほとんど利用されていませんので、説明を省略しています。
公正証書遺言 |
自筆証書遺言 (法務局保管) |
自筆証書遺言 (法務局保管以外) |
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作 成 時 |
根拠条文 |
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作成方法 |
公証人が作成(遺言者は公証人に口授) |
全文・日付・署名を遺言者が自筆で作成 |
全文・日付・署名を遺言者が自筆で作成 | |
作成時証人 | 証人2人以上必要 |
不要 |
不要 | |
作成費用 |
公証人報酬(遺産額に応じる) (関与専門家報酬) |
法務局実費(1万円以内) (関与専門家報酬) |
ゼロ円 (関与専門家報酬) |
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作成時支援 |
公証人の支援 (関与専門家の支援) |
法務局が形式要件を支援 (関与専門家の支援) |
なし(自己責任) (関与専門家の支援) |
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文字が書けない場合 |
可能(公証人が署名も代筆可能) |
不可(全文直筆) |
不可(全文直筆) |
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緊急時作成 |
不可(予約が必要) |
即日可能(窓口へ出頭可能な場合) |
即日作成可能 |
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複雑な内容 |
可能(公証人以外に専門家に依頼すればベスト) |
不可 |
不可 |
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保 管 中 |
保管場所 | 公証役場(原本) | 法務局(原本+画像データ) | 自宅など |
偽造・紛失等リスク | なし(公証役場保管) | なし(法務局保管) | あり(自宅保管の場合) | |
相 続 開 始 後 |
相続人等への通知 | なし(相続人から公証役場に照会) | (遺言者が)作成時に指定した者に通知がいく。 | なし |
家裁への検認申立 | 不要(民法1004) |
不要(保管法11) |
必要(民法1004) | |
相続開始後の手続 | ①遺言者死亡戸籍のみ取得、②遺言執行者がいれば、即日執行可能 |
①出生から死亡までの戸籍収集、②遺言書情報証明書の交付請求(①を提出)後、執行できる(即日執行不可)。 |
①出生から死亡までの戸籍収集、②家庭裁判所への検認申立(①を提出)、③検認期日が終わらないと執行できない(執行開始に時間がかかる)。 | |
無効になるリスク | 低い |
公正証書遺言より高く、 自筆証書遺言より低い。 |
高い |
結論から申し上げますと、上記3種類いずれの遺言であっても、探すことはできます。
1989(平成元)年以降に作成された公正証書遺言を検索することができます。
全国どこの公証役場で作成されたものであっても、最寄りの公証役場で、検索することが可能です。
いずれも遺言者の死後に限られます。
例えば、相続人から委任を受けた司法書士が行う場合は、次の通りです(公証人法42~45)。
必要書類(相続人の代理人である司法書士【本職】が出頭する場合)
必要書類(相続人の代理人である司法書士【補助者】が出頭する場合)
検索結果
例えば、遺言執行者に指定された司法書士から行う場合は、次の通りです。
必要書類(遺言執行者本人が出頭する場合)
必要書類(遺言執行者の補助者が出頭する場合)
検索結果
法務局保管が自筆証書遺言を保管しているか否かの確認方法は、次の2通りあります。
確認できる人
保管法第10条(遺言書保管事実証明書の交付) | |
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遺言者が死亡している場合に限ります(保管法9Ⅰ柱書の括弧内)。
相続人ご本人、受遺者ご本人など下表に記載したご本人のみ、確認できます(保管法9Ⅰ)。
任意代理人による請求は、認められません(保管法9Ⅳ→保管省令36①)。
結果も、ご本人の手元に届きます。
【遺言書情報の開示を求めることができる方】
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など |
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など |
遺言書保管事実証明書 | 遺言書情報証明書 | |
利用目的 |
遺言書が存在するかどうかを調べたい場合 |
遺言書内容を確認し、相続手続に利用したい場合 |
記載内容 |
遺言書が保管されているか否か (請求者と遺言者の関係によって文言が異なる)【1】 |
遺言者の氏名・出生年月日・住所・本籍等+遺言書画像(目録含む) 【1】 |
証明内容 |
法務局に遺言書が保管されている「事実」の有無のみを証明 |
保管されている遺言書の「内容」(画像情報付き)を証明 |
内容確認の可否 |
遺言書の内容は確認できない
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遺言書の内容を確認できる |
請求できる人 |
誰でも(ただし、身分によって回答結果が異なる。) |
相続人、受遺者【2】など一定の身分のある方のみ |
請求できる時期 |
遺言者の死亡後 |
遺言者の死亡後 |
請求時の 提出書類 |
遺言者について:死亡記載のある戸籍謄本 |
遺言者について:出生から死亡までの全戸籍謄本等【3】
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請求者について:
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請求者について:
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請求時の 手数料 |
1通につき800円 (保管法12Ⅰ③→保管手数料令1④) |
1通につき1400円 (保管法12Ⅰ③→保管手数料令1③) |
相続手続きへの利用 | 利用できない(遺言内容は分からないため) | 検認手続きなく(保管法11)、相続手続きに利用できる。 |
他の相続人への通知 | 通知されない。 | 証明書交付時に他の相続人へ通知される(保管法9Ⅴ)。 |
【1】記載事項の詳細は、次のとおりです。
遺言書保管事実証明書 | 遺言書情報証明書 | |
記載事項 | 関係遺言書の保管の有無(保管法10) | |
× |
遺言書の画像情報 (保管法9→保管法7Ⅱ①) |
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遺言書に記載されている作成の年月日 (保管法10→7Ⅱ②に掲げる事項のうち4Ⅳ①に係る部分) |
遺言書に記載されている作成の年月日 (保管法9→7Ⅱ②→4Ⅳ①) |
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× |
遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍。外国人にあっては、国籍。 (保管法9→7Ⅱ②→4Ⅳ②) |
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× |
イ 受遺者の住所氏名(名称) ロ 遺言執行者の住所氏名(名称) (保管法9→7Ⅱ②→4Ⅳ③) |
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× |
遺言書の保管を開始した年月日(保管法9→7Ⅱ③) | |
遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号(保管法10→7Ⅱ④) |
遺言書が保管されている遺言書保管所の名称及び保管番号(保管法9→7Ⅱ④) |
【2】受遺者とは(相続人でなくても)遺言によって遺産をもらえる人(または法人)のことです。
【3】遺言書情報証明書の提出書類が多い理由
遺言書情報証明書の交付請求を行った場合、法務局は、全相続人に対して「法務局であなたの関係している遺言を保管していますよ」という通知を行ないます(関係遺言書保管通知。保管法9Ⅴ)。
このため、遺言書情報証明書の交付請求を行う方は、法務局に対して「遺言者の相続人が誰と誰であって他に存在しないこと」を証明するため被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本等を提出する必要があるのです。
自筆証書遺言(法務局保管以外)の場合には、確実に見つけ出す方法はありません。
ご本人が「私に何かあったときには、必ず○○さんに連絡するように」とおっしゃっていた場合には、○○さんが預かってくれている可能性があります。
他には、思いつく場所をひたすら探すしかあません。
次のような場所を探してみてください。